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題名のない短編小説 その1
作:彩月空


「なぁ…」

「ん?」

「お前さぁ、もし自分がこの世からいなくなっちゃうとしたら、何したい?」

「何よ、いきなり」

「いや、最近読んだ小説でさ、そんな話があったんだよ」

「どういうこと?」

「その小説の主人公は、3ヶ月の余命を言い渡されててさ。それで、その残された3ヶ月をどうやって過ごすかについて苦悩する話なんだけど…」

「つまり、あと○○日後に死ぬとしたら、何をしたいか、ってこと?」

「まっ、そーゆーことだね」

「んー…とにかく好きなことをするんじゃないの?」

「例えば?」

「ケーキをこれでもかっ!! ってくらい食べるとか」

「今みたいに?」

「悪い?」

「体重気にしなくてもいいもんね」

「…」

「あっ、失敬…」

「まぁいいけどね。あなたは、どうしたいの?」

「俺? 俺は…そうだなぁ……ふらりと旅に出るのもいいかもなって思うな」

「旅…ねぇ」

「どうせ死ぬなら、これまでためた貯金使って、世界を飛び回るってのもいいかなって」

「へぇ〜。大きな夢だね」

「ただ、そういうのって今だから言えることかもしれねぇよな」

「ん?」

「だから、本当に自分がそういう状況になったらさ、旅に出たいとか、知らない世界を見てみたいとか、お前だったらケーキ食いたいとかって言っていられるのかな?」

「どうだろうね」

「やっぱ、なんていうのかな。ありきたりだけど小さな喜びみたいなのが、案外と大きな幸せになったりするんじゃないの?」

「要するに、日常をいつもどおりに過ごすことが真の意味での幸せなんじゃないってこと?」

「ん〜…いつもどおり……? というか、(いつもどおり)=(小さな喜び)なら、それであってるかな」

「…それも一理あるかな?」

「だろ? 例えば、お前の手料理を食うとか―――」

「はぁ?」

「あからさまに嫌そうな顔するなよ」

「それ、いつもどおりの日常じゃないじゃん」

「だから、俺が言ってるのは、小さな喜びの話だろ?」

「…この私に料理を作れと?」

「いや、俺としてはね、好きな女が作った料理を最後の晩餐にしたいな、っていう思いもあるわけだ」

「ふ〜ん。最後の晩餐……ね」

「特にお前みたいに料理を毛嫌いしてるやつの手料理だぜ? 最後に食いたいって思ってもいいだろ?」

「失礼ね」

「…ごめん」

「―――例えばさ、逆の発想ってないの?」

「逆?」

「そう。もう自分はいなくなっちゃうわけだから、最後に悪戯じゃないけど、そーゆー馬鹿みたいなことしたいな、っていうの」

「なるほど」

「嫌いな人に、死んだら毎晩枕元に出てあげます、っていう手紙送るとか」

「リアルに怖ぇよ…」

「じゃあ、会社のムカつく上司に面と向かって、ハーゲって言うとか」

「小せぇな」

「じゃあ、何度言っても脱いだシャツを裏返しのまま洗濯機に入れちゃうような恋人に、バーカって言うとか」

「悪かったな」

「洗濯する人の身になって欲しいよね」

「洗濯は洗濯機がするわけだが…」

「…」

「あっ、失敬…」

「空気の読めない恋人に、バーカって言うとか?」

「…悪かったって」

「…」

「…」

「こうやって、いろいろとアイデアを出したけどさ」

「うん」

「さっきあなたが言ったみたいに、今みたいな何気ない時間を過ごすのが、やっぱり一番なのかもね」

「やっぱ、そんなもんかな」

「うん。だって、今すごく楽しいもん」

「そうか」

「うん」

「…なるほど。分かったよ」

「ん?」

「なんていうか…お前が笑っていると嬉しいもんな」

「…何、柄にもないこと言ってんの?」

「たまには格好つけさせろや」

「バーカ」

「うるせぇよ」

「…バーカ」

「はいはい、分かった分かった。あー、それにしても何か腹減らないか?」

「本当だ。もうこんな時間だね」

「今日はどうする? 外食でもするか?」

「…」

「どうした?」

「……」

「何食いたいか考えてるのか?」

「………今日は」

「うん」

「今日は私が作るよ」

「え?」














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