2月14日。 バレンタインデーと称される…女の子がチョコレートを作って意中の人にプレゼントしたり、友達にチョコレート配り合ったり、義理チョコを男の子に恩着せがましく、「ホワイトデー楽しみにしてるから」的なこと言ってコンビニチョコを配ってまわったり、とにもかくにも男女が1日中ソワソワしている日のこと。いや、他は知らないよ? うちらの地域ではそんな感じです、てなだけよ。
●その日の前日の夜。
私は今、チョコを作っておりますのだ。我ながらガラにも無い事してるな。普段は皿洗いすらしない親不孝な娘でして、ハイ。
うん? 何でチョコを作ってるかって? そりゃ聞く方が野暮でしょうよ。でも教えるね。
誰にあげるかというと、それを言うにはあの日の事を語るほか無いですぜダンナ。あれは…
あ、回想入ります。
●あれは夏休みが終わってすぐの事。私は腑抜け学生によくあり得る遊びに遊びまくって溜まりまくった夏休み宿題を新学期前日に終わらせるという荒技を使い、セミの抜け殻になってたんよ。そんな時さ、
「どした?」
彼に話しかけられたのは。学校にいるときは普通に話しかけたりされてたが、夏休み明けの為に懐かしく感じる。焼けたね、アンタ。
「随分疲れてんな、お前。暑さにやられたか?」
彼は額から汗を垂らしながら右手に赤下敷きを、左手に青下敷きを持ち、両手のソレで扇ぎ、暑さを紛らわしていたよ(今でも鮮明に覚えてる)。
だっらーんとしてた理由は違うが、まぁ暑いことも否めないため私は、「一つで充分だろ、だから一つ寄越しなさい」と、目を狼の瞳並みにギランっとさせてた。ら、
「安心しろぃ。お前にくれてやるために持ってきたのさ」
おお、有り難い。仏だよアンタ。…うお、ブーメランみたいに投げてきよった。危ないな、おい。目に入ったらどうするつもりだったんだ、おい。
彼は、「わりーわりー」という。思ってもないくせに。
キーンコーン、カーンコーン
チャイムが鳴り、「じゃーな」と席に戻ろうとする彼。といっても目の前の席だが。しかし私の横を横切る瞬間、
「徹夜、ごくろーさん」と私に頭ポンポンしながら言ってきた。不意打ちだ。不覚にも顔が熱くなったね。たぶんさ、この時だろうね。
彼を気になり始めたのは。
あれ? ちょい待ち。何で徹夜したの知ってんのさ、あんた。
「君の目の下に、可愛いクマさんがいたからさ」と彼。この、キザやろー。
それで完全にヤられた私も私だけどね。
でもそれから大変だったよ。毎晩の夢に彼が出てきてさ、いつのまにかクマさんはパンダさんになってたね。
私が少し考えたらすぐに答えはでた、「もう告白するしかない」ってね。だってこれ以上夢に出てこられたらパンダさんはジャイアントパンダさんになっちゃうからさ、でも…いかんせん彼はモテるのよ。周りにはファンクラブまでいるくらいさ。そんな中、告白してみ? 命尽きるね。
で、時間だけがだらだら過ぎちゃってもう二月さ。春休みまであとわずか…そして私は決意したよ。「もう逃げない」って。バレンタインデーに賭けてやろうって。そのとき告白もいっしょにしてやる。
●で、現在に至る。私さ、家庭科5なんだよ。チョコなんてお茶の子さいさいさ(古いな私)。ジャイアントパンダ対策も大丈夫。今日学校休んで一日中休んだらどっか行ってくれた。今までありがとうパンダさん。という戯れ言を言ってる間に例のモノは完成した。残るは最後に仕上げをするのみよ。手でハートマークを作って…
ラブパワー、注入!
痛い! 痛いね私!!
●翌日、彼は学校に来なかった。
運良く連続して彼の後ろの席を獲得していた私は愕然としたよ。なんでよりにもよって今日休むのさ。ヤバいわ、涙出そう。…出さないけどね。そんなのかっこ悪いじゃん。
授業中コソコソとメールを打つ私。相手はもちろん彼だ(昔からそこそこ仲が良いからメルアドは知ってた)。{なんで今日学校休んでんのさ}送信。
一分もたたぬ間に彼からメールが来た。
{だりーから}だとさ。お湯を掛けられたネコのように俊敏な手つきで返信メールを打つ私。{学校来てよ}送信。
新着メールが三件届いた。
一つ目、{やだ}
二つ目、{今日10時に、入りの絵公園に}
三件目、{渡したいモノがあるんだろ?}
嫌なヤツ…。
●そして言うことを訊く私はまるで忠犬ハチ公だな。案の定彼はメールの指定場所の中で、一番初めに目に付くブランコ乗り場の手すりに腰を掛けて待っていた。いつものブレザーに黒のマフラーを掛けている。私に気づいて手をふりふりする。
「なんで来なかったの? 学校」「だりーからって言ったじゃん」
「嘘だ」「ウソだよ」…この。
「はい」例のモノを投げた「ん? 何コレ」「分かってるくせに聞くな」
「ははっ…開けていい?」口を動かす度に白い煙を吐きながら、彼は私に聞く。どうぞ。
パカッ 「おおっ! 可愛いな」
君、チョコ見て可愛いとか言えたんだね。ちょっと意外だな。「失礼だな、お前」「あんたに言われたくない」
「じゃ、さっそく…」
パキン
「おお、ウマいじゃん!」なんだその意外そうなカオは。
「俺チョコ好きなんだよねー」
「…じゃあ何で今日来なかったのよ? あんたなら…いっぱい貰えるじゃん」
「お前の以外は欲しくなかったんだよ」
「………………え……?」
不意に彼が、チョコを片手に私を抱きしめた。綿菓子のように柔らかく甘い匂いのする髪の毛が私の耳にかかり、少しこそばゆい。彼は「はぁ〜っ」と息を吐き出してチョコを食べている。パキンと良い音をたてた。私はしばらく頭が真空状態だったが、いつのまにか彼に公園の草花の中に押し倒されてたので意識を取り戻した。うわー。
「…私が来なかったら、どうしてた?」冷静を装って聞いてみるが、胸のところが凄く熱くなってて内心はバクバクだ。ぁあ、暑い。本当に冬なのか、今は。
「ずっと待ってたんじゃない? 俺、お前が全てだからさ」
「……………………………」
私、顔良くないよ?「過小しすぎだって」
私、成績悪いよ?「あはは、なんだソレ」
私、性格悪いよ?「俺は好きだけどなー」
不覚にも…「……私も、君が好き」
「ああ、知ってる」
彼がそう言ったから「嫌な奴」と言おうとしたが、
彼の唇に塞がれて、飲み込んだ。
私は、温室に置かれたチョコのように、とろけてしまった。冷凍庫に入れられても、もう二度と形が戻ることは無いだろうな…。
「入れさせねえよ。 俺が残さず全部食べるから」 |