僕が傷付く事よりも、君が傷付く事の方が怖いから。
休み時間の、騒がしい教室の中。
うるさいのを気にも止めず、白石功は一人で本を読んでいた。茶色い肩より少し短い髪。世間的に言えば、カッコイイともいえるかもしれない。
そんな功はクラスで確実に浮いている。友達付き合いが苦手な為である。
しかし、功は独りでいる方が好きなので気にはしていない。
遠くから、おそらく自分を侮辱するであろう声が聞こえても、怒ったら負けだ。
「こーう」
聞き慣れた声が自分を呼んだと思った。
でも、あいつには教室には絶対来るなと言ってある。いるはずがない。
とも、言い切れなかった。
「どうしてお前がいるんだ祥!!」
功は思わず立ち上がる。 椅子が勢いを止められず、後ろの机に激突する。
「いいじゃん、別に。功と僕の仲じゃんか♪」
「勝手に変な仲にするな」
「ケチー」
功の双子の弟、白石祥。
外見は功とかなり似ているが、性格は功とは真逆で独りでいる事が大嫌い。
「で、何の用だ?」
「別に何も?」
嘘つけ、と功は小さく呟いて、椅子を引きながら座る。目の前に立っている祥は、相変わらず笑っている。
「俺があれほど来るなって言ってるのに、何もなしにお前が来るとは思えない。何の教科だ?」
「えと……英語」
机の中から迷わず英語の教科書を取り出して祥に渡す。
「ありがとう、功 」
「ああ。今日は英語ないから持ってかえっていい」
「ん……わかった」
功は祥の微かな異変を感じとった。多分、雰囲気のせいだろう。いつもより元気がない気がした。素直じゃない祥に聞いても教えないだろうから、何かのキッカケを見て詮索するしかないだろう。
「……何があったんだか」
* * *
言える訳なかった。
大切な功が傷付く事かもしれない事なんか。
「まったく……先輩に何したんだか」
今朝、見ず知らずの生徒から受け取った手紙。今学校にいる恐い不良グループの人達からだという。その生徒も先輩が恐くて、何も言えずに渡しに来たみたいだ。
「まさか功と僕を間違えるなんてね」
そう。それは、紛れもなく功を呼び出すものだった。その生徒は、功と祥を間違えて手紙を渡した。だけど祥は敢えて受け取った。
功を危険な目にあわせないように。
「体育館裏に呼び出しなんて、殴らせろって言ってるようなもんじゃんか」
不安はあった。だけど、功の為だから。
* * *
放課後。
最近ずっと功と帰っていない祥は、ホームルームが終わってすぐ体育館裏に向かった。
「せーんぱい」
功ではないとバレないように。そもそも、先輩達が功が双子だということを知っていたらの話だが。
先輩達が、一斉に此方を睨んだ。きっと功なら、これくらいじゃ動じない。
「よく来たじゃねーか、白石。この間はよくも俺に水ぶっかけてくれて、逃げやがったな」
功の適当かつクールな性格が、先輩の怒りのツボを刺激してしまったらしい。理由はとても功らしいのだが。
「……すいません」
明らかに平謝りだった。普通の祥ならちゃんと謝るのだけど、今は一応功の代わり。
「そんな謝り方で済むと思ってんのか? まさか思ってねーよな!」
先輩の腕が、急激に顔に近付いてくる。
祥は初めから予測していたはずが、いざとなると体は動かない。
――殴られる。
直前に襲ってきた恐怖に勝つ事が出来ず、祥は目を瞑った。
だがその直後、祥が殴られる事はなかった。
何が起きたのか分からない状態で、祥の目は開いた。
そこには、目を疑わずにはいられない人物。
「ったく、こんくらい避けろよ」
先輩の手を止め、祥を守った功が居た。
「なっ……んで」
「教科書借りに来た時、様子おかしかったからな。後つけてきた」
相変わらず功には敵わない。どんなに微かな祥の異変でも、功には分かってしまうんだから。
「えっ、あれ白石が…二人?」
「俺が功です。こっちは祥。俺の双子の弟ですから、関係ありません」
先輩の手をパッと離し、功が先輩を睨みつける。
「…双子…」
別に、特別珍しいものでもないと思う。だが、先輩はそちらで祥を意識した訳ではないようで。
「白石、お前覚悟は出来てるよな?」
「……何のですか?」
「この間、俺達に水ぶっかけただろうか!」
「あれは先輩が突っ込んで来たんじゃないですか?」
「減らず口叩いていられるのも今のうちだ」
そう言って先輩の拳が向いたのは、祥だった。
「!」
「祥!!」
祥の盾になる為に、功は殴られた。
「功!? 何してんの!?」
「お前は関係ないじゃんか。傷付く事ないし」
赤くなり始めた頬を押さえ、祥を自分の後ろに下げさせて、功の瞳は真っ直ぐ先輩を見つめた。
「祥は関係ありません。先輩の相手は俺ですよ?」
「そうだったなぁー! 白石功!!」
飛びかかってきた先輩をいとも簡単に避けて、功は先輩の頬を力一杯殴りつけた。衝動で先輩は後方へ飛んでいく。
「祥に手を出したら、これくらいじゃ済みませんから」
さっきとはうってかわって違う、冷たく鋭い功の瞳。怒りが満ちて、これ以上立ち入ってはいけない。そう思わせるかのよう。
「こいつ、何かやべぇよ」先輩達は、直ぐ様逃げていった。
「大丈夫か? 祥」
「ん…大丈夫」
「良かった」
「良くないよ。功を守るつもりが、功に守られて…」悔しそうに座り込んで、地面をつくった拳でバンバン叩く祥。
「俺は自分が傷付くより、お前が傷付く事の方が怖いよ」
「僕だって自分が傷付くより、功が傷付く方が怖いよ」
どうやら考えてる事が同じだったらしい。功もいつも通りに戻って。
どうしてだか二人の声は重なった。
「やっぱ双子だ」
君が居れば、僕は強くいられる気がする。
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