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アッチョンと星の姫

作者:seia
 お部屋でスヤスヤ眠るのは、星の国でたった一人のお姫様、キララ。天井には夜空にあがることができなかった未熟な星々が、弱々しく光を放っています。
 キララは白い羽をたくさん重ねた柔らかなベッドで、抱きしめられるように眠っています。
 スゥ、スゥと規則的に寝息を立てているキララ。キララの枕元には膝を抱えてちょこんと座っているのは小人のアッチョンです。

「今日もぐっすり眠っているなぁ」

 アッチョンがフフ、と小さく笑い声をあげても、キララは起きません。

「ぐっすり眠ってるのに悪いなって思うんだけど、キララさま、お守り役のおばちゃんに起こされると機嫌が悪くなっちゃうから起してあげよっと」

 にこにこしてキララを見ていたのをやめたアッチョンは、枕元からコロコロ転がって降りました。

「キララさま、ちょっとごめんよ」

 ペコリとキララに頭を下げると足元に急ぎました。途中何度か、たくさんの羽に足をとられながらも。そしてアッチョンはキララの足の裏を小さな手でコチョコチョくすぐりました。

「ん、んー」

 丸まって眠っていたキララが少し動きだしました。でも本当に少しだけで、あまり変わりがありません。

「もうちょっとかな?」

 アッチョンはさらにくすぐりました。

「んー、ムズムズするっ」

 両足をばたつかせて、キララはゆっくり起き上がりました。アッチョンはキララに見つからないように急いで重なっている羽を両手でかき分けながら、下へ下へと潜っていきました。

「なにか足の裏を這っていたのかしら?」

 キララはお行儀が悪いとわかりつつ、足首を掴んでぐぐっと顔に近づけました。

「なにもないわね」

 首をかしげながら、そっと足首を離してゆっくりとベッドから降りました。腰まである闇のように深い色の髪を手で束ねると、キラキラと細やかな音が鳴ります。キララの髪の表は、たくさんの星粒で彩られているのです。まるで満天の星空のようです。
 動くたびに鳴る音色をベッドの中で聞いているアッチョンの心が、ポカポカと温かくなりました。体もホカホカしてきて、アッチョンはいつの間にか眠ってしまいました。

 次に目を覚ますと、部屋がひっそりと静まっています。アッチョンは慌てて両手、両足で羽をかき分けてベッドの中から出ました。

「やっちまたぁ。キララさまどこだよー」

 ピョンとベッドから飛び降りて、部屋の扉に向かって駆け出しました。誰も廊下を歩っていないか右見て、左見て確認したアッチョンは、扉の影から頭だけだして耳を澄ませました。
 キララと誰かの声がアッチョンには聞こえました。アッチョンはもう一度、廊下に人がいないことを確認して声のするほうへ急ぎました。走るたびに赤いとんがり帽子の先っぽについている、小さな星が右へ左へ揺れています。
 そして声を辿って着いたところは王座の間でした。
 大事な人を迎えるためや、お城のパーティーを開くなど、大切な行事に使う場所です。
 アッチョンがゆっくりと王座の間の扉の影からのぞくと、キララが玉座に向かってひざまずいていました。
 かしこまった様子で、見ているアッチョンはドキドキしてきました。いまの場所ではどんな会話をしているかハッキリ聞こえないので、アッチョンは見つからないように移動しました。キララがひざまずいている後ろに大きな柱があるのが目に入ったからです。

「キララ、あと数日でお前は十五になる。ようやく大人の仲間入りができるな。そこで、だ」

 王座に深く腰かけていた王様が身を乗り出してきました。

「いやです」

「キ、キララ。まだわしはなにも言うておらんぞ」

「お父様のおっしゃりたいこと、キララ、わかりますもの」

 キララはプイっとそっぽを向きました。

「わかっているなら話が早いではないか。お前の婿さまが予定より早く、一緒になりたいと言っておるんだよ」

「知りません」

 ピシャリと王様の言葉をキララは、はねつけました。はねつければ王様もあの手この手で許嫁である婿さまの良い点を教えますが、キララは首を縦に振ることはありません。
 そんなキララと王様のやり取りをジッと見守っていたアッチョンは、どんどんどんどん顔が青くなっていました。しっかり立っていた足元は、あっちへフラフラ、こっちへフラフラとおぼつきません。

「お父様、いい加減にしてくださいませ。キララはまだ結婚などしたくありません。もっと色んな見聞を広めて、自分で結婚相手を見つけたいのです」

 王様の顔を見上げてはっきりと言いました。キララはかしずいていた姿勢を正し、颯爽と王座の間から立ち去りました。
 しばらく動けなかったのは王様とアッチョンでした。
 王様はキララに冷たく言い放たれたことにショックを受けて。
 アッチョンは”婿さま””許嫁””結婚”という言葉にショックを受けていたからです。

 そんな二人のことなどキララは露ほども知らず、プリプリ怒りながら小さな庭にあるベンチに腰かけました。

「もう、いやになっちゃう。十五になったら結婚しなさい、だなんて古くさいわ。お母様がいらっしゃったら、キララのこのモヤモヤした気持ち、わかってくださったんじゃないかしら?」

 肘掛けにペタンと頬をつけてため息まじりに呟きました。

「なんといっても許嫁の太陽の国の王子様の態度がいやよ。キララのこと、獣のように目をギラギラさせて見てくるんですもの。爪なんて全て尖ってそうで、隙があったらキララのこと、ううん。星の国を焼き尽くしそうで怖いわ。あの方、私に好意なんてもってないんじゃないかしら? 私の気持ちを聞かないで許嫁が決まるなんてちょっと酷いわ」

 キララははぁぁ、と深いため息をつきました。

「キララはちゃんと自分で決めたいの。たくさんお話して、自分の考えで決めたいのに。どうやったらお父様にも相手にも伝わるかしら? 十五になったらすぐ結婚式を挙げるわけじゃないでしょうけど、どうしましょう」

 自分の考えを初めて王様に伝えたキララですが、国同士で決めたことが簡単になくなるとは思っていません。
 わかっているからこそ悩んでいるのです。

「キララさま……」

 王座の間でしばらく動けなかったアッチョンは、ヨタヨタ、フラフラしながらキララのいる場所へやってきました。

「そうだわ、お城の外に出たらキララのこと想ってくれる人がいるかもしれないわ」

 ぽん、と手を合せながらキララは体を起こしました。目がランランと輝いています。

「太陽の国の王子様にキララは渡せませんって宣言してくれる人がこの国にいるかもしれないわ。そうしたらお父様だって考え直してくれそうじゃないかしら? みすみす他の国の王子様と結ばれること、お父様も望んでいませんでしょうし」

 良い考えが浮かんび、キララは頬を桃色に染めて嬉しそうな顔をしています。

「キララさま……。そんなに太陽の国の王子様と結婚するのイヤなんだ。お城を出て探すってこと、できないってわかっていそうなのに、幸せそうな顔でお話しているなぁ」

 散っている木の葉に隠れながら、アッチョンは話す相手がいないまま、一生懸命語るキララを温かく見守りました。

「キララ、お前が好きだぁぁっ、て抱きしめてくれたらさらに嬉しいわ。うふふふ」

 キララは自分の体を抱きしめながら、クルクルクルクル回りだしました。まるで、いま思ったことを全て空の彼方に飛ばしてしまうかのように激しく。黒髪に彩られた星粒たちが、つられてキラキラキラキラ舞っています。
 たくさんたくさん回ったキララは足元から崩れるように、木の葉の絨毯に倒れ込みました。

「うぎゃ」

「え?」

 背中にフニョとした感触を感じたキララは急いで起き上がろうと思いましたが、目の前の景色が渦巻いていてできません。

「え、キャ、ちょっとく、くすぐったいわっ」

 背中でモゾモゾなにかが動いていて、キララはたまらず体を右、左にくねらせながら笑いだしました。

「ぎゃ。ちょ、わぁ、やめてくださいキララさまぁ。潰れちゃうよぉ」

 悲し気な声がキララに届き、ピタリと動きを止めました。

「だ、誰?」

 キララはこわごわと周りを見ながら問いかけますが、シンと静まっています。
 なんとかもう一度木の葉の下に隠れることができたアッチョンですが、口を両手で塞いで動かないようにと必死です。心の中で見つからないように、見つからないように、と祈っています。

「き、気のせい……よね?」

 答えがないことを確認して、キララは手をついて立ち上がろうとしました。

「ふぎゃ」

「え?」

 木の葉の絨毯に手をついたはずが、葉っぱではない柔らかいなにかを押したことにキララは気付きました。

「声がしたのはこの下かしら」

 ゆっくり手の平を離しながら、木の葉をそっとめくりました。
 そこには白いシャツに赤いベスト、緑色の長ズボンに赤い帽子を被った人間に似た子が、口を隠してうつ伏せになって隠れていたのです。キララはビックリして声が出ません。

「見つかりませんように。見つかりませんように」

 心で祈っていた言葉が、アッチョンの口からもれだしています。

「見つかりませんようにって、あなた、私に見つかってますわよ?」

 トントンとアッチョンの小さな肩を叩きながらキララは教えました。

「ひぇ? え? あ、え、あ、うわぁぁっぁぁぁ」

 アッチョンが叩かれた方を向くと、キララの顔が目の前に迫っていて、驚いて飛び上がりました。見つかったことに震えあがり、アッチョンは走って逃げだそうとしました、けれども、ヒョイっと体が持ち上がり、逃げることができませんでした。

「こんにちは。小さな……えーと、えーと、あなたのことなんて呼べばいいかしら?」

 親指と人差し指でアッチョンの襟首をつまみ、自分と目線が合うように向きを変えながら尋ねました。

「え、あ、え、お、おいらアッチョンっていいます」

 いつも寝ている顔しか間近で見たことがなかったアッチョンは、キララの水色の瞳から目を逸らすことができません。水面(みなも)のように透き通っていて美しいのです。

「アッチョンさ……ん?」

「お、おいらのことはアッチョンと呼んでください」

 敬意を払ってお辞儀をしようとしたアッチョンでしたが、頭がカクン、と下に向いただけだったので恥ずかしくなってしまいました。

「アッチョン? 聞いたことのない名前ね。おうちはどこかしら?」

 首を傾げながらキララは尋ねました。キララはアッチョンがどこからか迷いこんできたのだと思ったのです。

「あ、え、っと」

 どう答えたらいいか、アッチョンは口ごもってしまいました。

「せっかくの出会いですもの。少し話しましょう? お時間大丈夫?」

「は、はい」

 キララの申し出にアッチョンはすぐに頷きました。

「私、このお城でいつも決まった人としか話したことがないから、嬉しいわ」

 キララは瞳を輝かせながら、ゆっくりとアッチョンを自分の肩に座らせました。

「お、おいらみたいな小人がキララさまの肩に乗っちゃってもいいのかい?」

 もじもじしながらキララに聞くと、キララは瞳を大きくさせて驚きました。

「アッチョン、私とあなた、今日初めて会ったのにどうして私の名前を知っているの?」

 すっと自分の名前を言われたので、キララは不思議に思ったのです。

「え、あ、キ、キララさま星の国でたった一人のお姫さまで、誰でも知ってるじゃないですか。だ、誰でも知ってることだから」

「そう? そうかしら?」

「そ、そうですよ」

 アッチョンは、額にうっすら浮かび上がってきた汗を手で拭いながらこたえました。

「……。まぁいいことにしましょ、ね?」

 にっこり微笑んで、キララはいま困っていることをアッチョンに全部話しました。もちろんアッチョンはそのことを知っていましたが、そのことはそっと胸にしまって、初めて聞いたように驚いたり相槌を打ちました。

「アッチョンはどう思うかしら? このまま太陽の国の王子と結婚したほうがいいのかしら?」

「うーん」

 アッチョンは腕を組んで真剣に悩んでいます。

「キララさまは結婚をしたくないのかい?」

「結婚は……したいわ。お父様とお母様のように仲睦まじい家族になりたいの。でもあの王子様とは無理な気がするの。さっきも言ったけれど燃えるような赤い瞳が怖いんですの。物心ついてから一度しか会ったことがないのだけれど、そう思えて仕方がないの。それとやっぱり自分の想った人と添い遂げたいわ。決められた相手とだなんて嫌なの。自分で見つけたいの」

 凛とした表情できっぱり言うキララの姿が眩しくて、アッチョンは目を細めました。

「いつの間にかキララさまは強くなったんだね」

 ぽそりと小さくアッチョンは呟きましたが、キララには聞き取ることができませんでした。
 アッチョンはキララの成長を感じて頼もしいな、と思ました。そしてなんだか少し寂しい気持ちにもなりました。

「私、どうしてもお城の外の世界を知りたいの。知ってる人たちとだけとお話しても、本の世界を知っても、心に風が吹いているの。もっと外を知りたいわ。ワクワクドキドキすることが待ってそうじゃない? 未来の結婚相手もいそうだもの。私が、そして相手もお互いを想える運命の人に。 それにお父様みたいにお母様を亡くしてから塞ぎこみすぎるのもよくないと思うの。そんなときこそもっと外にでるべきだわ」

「お城の外に夢がつまってるんだね」

「そう! そうよ夢! お城の外にはいっぱい夢が待ってる気がするの。でも……小さいときおばば様から絶対にお城の外に出てはいけないっ、て教えられていたから少し怖いの。へんね。勇気さえ振り絞ればなんとかなりそうなのに」

「キララさま……」

 嬉しそうにアッチョンに語りかけていたキララが急に元気を失くしてしまいました。
 悲しそうな顔を浮かべるキララをまた笑顔にしたいとアッチョンは一生懸命言葉を選ぶなか、ずっと忘れていた記憶を思い出しました。それはキララが言うおばば様のことでした。

「お、おいらだったらキララさまを外に出すことができるかもしれないよ」

 声を震わせながら伝えました。
 ずっとずっと忘れていたこと。キララが生まれる前、キララのおばば様が不思議な力で自分をつくってくれたこと。そしておばば様と約束したことを思い出したのです。

「アッチョン本当なの?」

「う、あ、た、多分だよ? もし失敗しちゃったらごめんよ」

「やってみないとわからないじゃない?」

 弱気になるアッチョンの頬を、キララが勇気づけるように人差し指のお腹で撫でました。

「そうだね。キララさまの言う通りだね」

 優しくさわってもらえて、アッチョンは嬉しくて涙ぐみながら頷きました。
 そしてアッチョンはキララのおばば様から教えてもらった大切なところを伝えました。

 次の闇夜の日にお城と、お城の外を繋ぐ大扉の前に立つと外に出ることができることを。

「え? それは明日じゃない? それにそんなに簡単に出れてしまうの?」

 急なことでキララは驚きが隠せません。

「簡単かはおいらにもわからないけれど……」

 一度も試したことがないのでアッチョンは弱気になってきました。

「失敗してもそれはそれでいいのよ。やってみるのが大事だと思うの」

 アッチョンの小さな手を指先で握りしめて、キララはにっこり笑いました。

 その夜、アッチョンは初めてキララと一緒に眠りにつくことができました。こんなにもキララのそばにいることができてアッチョンは幸せでなりません。今日のひとときを忘れないようにしようとアッチョンは思いました。

 次の日。

 星の国が年に一度きり、闇夜に覆われるこの日。
 闇にまぎれながらアッチョンとキララはお城とお城を繋ぐ扉の前に辿り着きました。

「闇夜、ということもあってお城の皆は静かだったわね」

「そうだね」

 キララの手の平に乗っているアッチョンは、返事をしたあとゴクリと息をのみました。

「いいかい? キララさま、失敗しても成功してもおいらが力を出せるのは一回きりだよ。それは覚えておいてほしいんだ。そ、それと……」

 アッチョンが頬を染めながら言いにくそうにしています。

「それと?」

 アッチョンの顔を覗き込みキララは首を傾げました。

「そ、それと、お、おいらキララさまと出会えて、こんな風にお話したり一緒に過ごせたこと幸せに思ってます」

「どうしたの? アッチョン」

 改まった言い方にキララの心がざわめきました。

「いつも物陰から見守るだけだったからおいら嬉しくって。へへへ」

 照れた笑い方をアッチョンがしたので、キララの心のざわめきもおさまりました。

「これからは堂々と私と一緒にいられるわよ。まだ知らないこの先で。ね?」

 大扉の向こう側に期待を込めて、キララは指さしました。希望に満ち溢れたキラキラした表情にアッチョンはうっとりしました。

「キララさま、たくさんの人に出会って、運命の人を探し出してくださいよ!」

 小さな手でパンパンと頬を叩いて気合いを入れ直したアッチョンは、ストンとキララの手の平の上であぐらをかきました。

「ヨケテッモヲチノイノライオ、ヨケアヲラビトニメタノマサララキ、ギカノマサララキハライオ!」

 目をゆっくり閉じたアッチョンは、その体から出るとは思えないほど大きな声で、大扉を開ける呪文を唱えました。
 ギギィと何年も、いいえ、何百年も閉じられていた大扉が音を立ててゆっくりと(ひら)いていきます。その隙間から見え始める景色に、新しい世界が待っていると心躍らせるキララでしたが、手元が急に明るいことに驚きました。
 なんとアッチョンの体が金色に光っていたのです。

「アッチョン? どうして体が光っているのです? そ、それになんだか体が透き通っているような……」

「キララさまのおばば様の言っていたことは本当だったんですね。おいら、キララさまの夢のために役に立てたかな?」

「な、なにを言ってるの? アッチョンは私と一緒にこの先に行くのでしょう?」

 手の平に感じていたアッチョンの重さが軽くなっていきキララはどうしていいかわかりません。ただただオロオロするばかりです。

「ごめんよキララさま。おいらは一緒に行けないんだ」

「アッチョン、ど、どうしてなの? どうして?」

 寂しそうに笑うアッチョンにキララは涙が出てきました。

「泣かないでおくれよキララさま。おいらはね、キララさまがこのお城を出たいって思ったときに出れるようにって、おばば様につくられたんだ」

 トコトコトコ、とキララの腕を伝ってアッチョンは肩に立ちました。

「そ、そんな。じゃぁ、私がお城の外に出なかったらアッチョン、あなたの命はその……終わらなかったということじゃないの?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ。おいらの命がいつ尽きるなんて誰にもわからないんだから」

「で、でも、あぁぁ、私の浅はかな考えでアッチョンの命を消えさせてしまうなんて」

「キララさま、キララさまは浅はかじゃないよ」

「なにを言ってるのアッチョン。だって知らないものを知りたいっていう気持ちより、運命の人に出会えるかしら? なんて思っているのよ」

「その気持ち大事だよ。お城にいれば、なに不自由しないで暮らせるのに、飛び出してまで手に入れようとしてるんだから。泣かないで胸張ってください」

「でも……」

「でも、じゃぁありません。キララさまが知りたいこと、この大扉の先にいっぱい待ってますから。おいらはね、こんな風にキララさまと過ごせて嬉しいんですから」

 とん、と自分の胸を叩いてアッチョンは胸を反らしました。

「アッチョン……。で、でも不安なのよ? 初めて知るこの外の世界のこと。アッチョン、あなたと一緒なら乗り越えられそうなのよ?」

 刻々と金色の光が薄れていくなか、キララは思いの丈を伝えますが、薄れていく速さは止まりません。

「大丈夫だよ。おいらがいなくてもキララさまは大丈夫。おいら星空でキララさまのことずっと見守り続けるから」

「アッチョン……」

 ポロポロポロポロ涙が止まりません。

「ほら、もう泣かないでおくれよ。笑っておいらを見送ってほしいんだ」

 アッチョンの声が段々とかすれてきました。

 キララは、アッチョンとのお別れのときが近づいていることがわかりました。溢れる涙を手で拭い、アッチョンが星になっても忘れないくらいとびっきりの笑顔を浮かべました。

「へへ。キララさまの笑顔やっぱり素敵だなぁ。心がほっこりするよ。とってもあったかくて……気持ちがいい」

 光がどんどん失われていくなか、しっかりとキララの耳にアッチョンの声が届きました。悲しい気持ちでいっぱいになりながら、キララは消えそうな光をかき集めて両手で包み込みました。

「あったかいわね、アッチョン。私のわがままのために……。あなたが開いてくれたこの道。大切にするわ。大切にしてなかったら怒っていいのよ?」

 微笑みながら頬に涙が伝っていきます。キララが包み込んだ手の平の間に、優しく息を吹き込みそっと手を離すと、小さな光の玉がゆるゆると天に昇っていきました。それと同時に大扉が閉じようとしていました。
 キュと口元を引き締め、キララは真っ直ぐ前を見つめました。

「アッチョンの命、無駄にしません。運命の人と、この星の国をさらに知るために私、行きますね」
 一旦後ろを向きお城にお辞儀をすると、また前に向き直りました。そして閉じかける大扉にむかって走り出しました。

 夢広がる新しい世界に。



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