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側室(仮)の外出。(3)


 曲がり角を曲がった先に飛び込んで来た光景に、私は圧倒された。
見渡す限りの人、人、人。決して狭くは無い道幅一杯、人で溢れかえっている。


「……」

「逸れるなよ」


 口を半開きにしたまま固まる私の手を、陛下は引いた。人と人の間を擦り抜ける様に、器用に進む。
流されそうになりながらも私は、周りを忙しなく見渡した。


 朝市、というものなんでしょうか。
路上に敷いた布の上には、店ごとに様々な商品が置かれている。野菜や魚などの食品に、衣料品や装飾品。乾燥させた葉や虫など、一見しただけでは、どんな用途に使うのか分からない物もあった。


 軒を連ねる食事処では、仕事前に朝食を取る人達で賑わっている。
 オープンテラスの様に、外にも席があるお店もあり、行儀悪くも覗いて見れば、美味しそうな料理がテーブルに並べられていた。


 蒸し焼きにされた白身魚や、具沢山のスープと粥。麺類はラーメンの類は見当たらず、野菜などと一緒に炒められている焼きそばみたいなものがあった。
 良い匂いが此処まで届く。


「…………」


 今更だけど、お腹減ったなぁ。
無意識に自分の腹部をさすっていると、どうやら見られてしまったらしい。立ち止まった陛下は、破顔して私を覗き込む。


「腹減ったな」

「…………はい」


 ……恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。
好きな人と一緒で、その人と手を繋いで街を歩いているというのに、乙女心よりも食欲が勝る自分が情けなさ過ぎて泣けてきます。


 でも取り繕っても意味がないので、私は正直に頷いた。
 耳まで赤くなった私を見て陛下は、気にするなと言う様に頭を撫でる。


「何処か、店に入るか」


 ふむ、と陛下は、考える素振りを見せた後、ぐるりと辺りを見渡した。そして一軒の店を指差す。


「あそこにしよう」


 馬を繋ぎ、私達は店へと入る。混みあってはいるけれど、ピークは越したのか、すぐに座る事が出来た。
 何が食べたいかと聞かれても正直、料理の名前がよく分からないので、陛下にお任せする事にしました。


「……どうした?」


 注文を終えた陛下は、私を見る。
 今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきた私は、赤い顔を隠すように俯いた。


「予定を変えてしまって申し訳ありません。本当に私、無作法で恥ずかしいです……」


 初デートで食事優先、食べ物屋直行とか……詰んだ。詰みましたよ私。
 女の子としてどうなのそれ。しかもさっきは、人様のテーブルの料理を興味津々に見てました。うん、終わった私。


「?」


 どんよりと暗雲漂う私に、陛下は不思議そうに首を傾げた。


「生きていれば腹が減るのは、当たり前だろう。何が無作法だ」


 陛下は私の自己嫌悪を一蹴するように、言い切る。真っ直ぐな視線に嘘は見つけられず、慰めではなく本当にそう思っているようだ。
黒曜石の瞳が、緩く細められる。頬杖をついた陛下は、雄々しい美貌に柔らかな微笑を浮かべた。


「簡単に折れてしまいそうな、細くて大人しい女よりも、お前の様に朗らかで健康的な方が魅力的だと思うぞ」

「っ!」


 褒められた、と喜ぶのは単純すぎるかもしれません。健康的とか、女性の褒め言葉としては微妙な気がします。
 けれど私は、嬉しかった。陛下に、魅力的と言ってもらえた事が。


「……っ?」


 再び熱を持ちだした頬を、伸びてきた大きな手が包む様に撫でる。


「現に何人か、お前を見ている男共もいるしな」

「え?え?」


 一瞬不機嫌そうに視線を外した陛下は、小さく何事かを呟く。それを問い返す間も与えてはくれず、彼は私の頬を人差し指の背で緩く辿る。


「……お前はそのままでいいって事だ」


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