挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
目指す地位は縁の下。 作者:ビス
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

33/120

03


「……あら。」


ご機嫌なシャロン様に、猫の子のように撫でて貰っていると、アヤネ様が低い声で呟いた。


「…?」


アヤネ様の変化を感じ取った私は、顔を上げて、険しい顔をするアヤネ様の視線を辿った。


「……………あ、」


向けた視線が、かち合う。

東屋よりも低い位置にある通路から、此方を見上げていたのはキツい眼差しの美少女…ルリカ様でした。


ルリカ様は立ち止まったまま此方を見上げている。動こうとしない彼女に、お付きの侍女や武官は戸惑っている様ですが、ルリカ様は微動だにせず此方を………いいえ、私を、睨み付けています。


傍にいるアヤネ様やシャロン様には、チラとも視線を移さず、刺さりそうな鋭い視線を私だけに寄越す。

強すぎる視線には、憎悪や殺意さえ感じました。


「………………、」


…何故でしょう。

嫌がらせの数々を受けている身としては、嫌われている事位は理解していましたが…それでも、此処まででは無かったように思います。


現に嫌がらせも、私が大怪我を負うようなものでは無く、陰口もちょっとした厭味程度でした。


こんな殺意のこもった視線を向けられる程には、嫌われてはいなかった筈です。

…ここ数日会わなかった間に、一体何があったのでしょう。


それとも、最後に会った日に、私、何かしてしまいましたか…?


ズキン、と胸が痛んだ。

私はルリカ様の事が嫌いでは無いので、一方的にここまで嫌われるというのは…結構堪えます。


「………、」


キュ、と胸の辺りを押さえる様に掴むと、ルリカ様の姿が何かに遮られた。


「…………?」


遮ったものの正体は、誰かの背中。細身なのに不思議と頼もしさを感じさせる鎧姿…それから、サラサラと揺れる白金の髪。


「…イオリ。」


私付きの護衛武官であるイオリは、私を背中に庇う様に立ち、ルリカ様の視線を真っ向から受け止めていた。


「…イ、」

「…サラサ様。」

立ち上がろうとした私の肩を、イオリはやんわりと押さえた。お手本の様な綺麗な微笑みは、何故か有無を言わさぬ迫力がある。
私は『イオリ、大丈夫だから止めて。』と諫めようとした言葉を思わず飲み込んでしまった。


「…私の役目は、貴方様をお守りする事。それは何も暴漢だけに限定したものでは無いのですよ。」

「…ですが、」

「貴方様が心配なさる様な事はございません。どうか心穏やかにお過ごし下さい。」

「……………。」


甘やかす様な綺羅綺羅しい笑みで、イオリは言外に『貴方はただ守られていればいい。』と言う。


「………………。」


言いたい事は分かる…………けれど納得が、いきません。


何ですか、それ。

私はお姫様でもお人形さんでもありませんよ。


私より余程人生経験豊富であろうイオリの笑顔は、反論を許さない。自分が聞き分けの無い幼子になったような、羞恥と後ろめたさを感じる。
お母さんの言い付けを破ってしまった時のような。


「……………イオリ。」


でも、それで引き下がる程私は、素直な性格ではありません…!


真っ直ぐに向けられる翠の瞳を真っ正面から見つめ返し、私は口を開く。


「…其処を、退いて。」

「…サラサ様。」


困ったような、声。諫める響きを持つイオリの声音に、私の負けん気は益々刺激されました。


守って下さるのは有難いです。役目を全うしようとする姿勢も、好ましいと思います。


…ですが、女の戦いに首を突っ込むのは違うと思うのですよ…!


全力で嫌われて憎まれるのは正直キツいですが…私が隠れてしまえば、逃げた事になります。不戦敗確定です。


まだ何をしたかも分かっていないのに…尻尾巻いて逃げるなんて女が廃りますとも!!


「…退きなさい。命令です。」


静かな声でそう告げると、イオリだけでなく、事の成り行きを見守っていたアヤネ様とシャロン様も目を瞠った。


イオリは、それ以上何も言わない私を、暫く見つめていた。何かを読み取ろうとする瞳から目を逸らさずにいると、やがて一つため息をついたイオリは、数歩横に移動する。


「……………。」


ルリカ様は、まだ其処にいた。

立ち上がり、彼女に対峙する様に向き直る。鋭い視線を受け止め、真っ向から見つめ返せばルリカ様の瞳が瞠られた。


さぁ、逃げも隠れも致しませんから。

やるんなら、真っ向勝負といきましょう。…何の勝負かは分かってませんけどね。


「………………。」


ルリカ様は、数秒私の顔を見つめていたが、やがてツンと顔を反らし、その場から立ち去って行った。


慌ててその後に続く侍女や武官の背を見送り、
脱力した私は息を吐き出しながら、腰を下ろす。


「もう。……何をやっているのよ、貴方は。」

「だ、大丈夫ですか?」


ふぅヤレヤレ、と遣り遂げた気分になっている私に、呆れた声と、心配げな声がかけられた。


「大丈夫なのですよ!」


ニッコリ笑む私に、イオリは困った顔に苦笑を浮かべ

『負けず嫌いな困ったお姫様だ。』と呟いた。


.
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ