挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
目指す地位は縁の下。 作者:ビス
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

17/120

02



「…………サラサ?」


何時もと違う私に、皇帝は戸惑った様にもう一度名前を呼んだ。


「………………。」


ゆっくりと近付いてきた皇帝は、私の近くに腰をおろす。
間近で覗き込まれ、ゴツゴツとした大きな手が、私の頬をゆるりと撫でた。


「……………っ、」

「…………?」


息を飲む私に、皇帝は益々訝しむ様な顔になった。
でも私は、自分の事に精一杯。陛下を気遣う心の余裕がありません。


何かを感じ取ったのか、彼は、私の頬から手を離した。


「………………。」


沈黙が、落ちる。


何時もの穏やかな静けさでは無く、限りなく気まずいソレを、気に掛ける事も、今の私には出来ません。


ああ、どうしよう。

どう、しましょう。


「………サラ、サ」


陛下の声が、低く擦れる。

胸につかえた何かを無理矢理飲み込んだかの様な、途切れがちの声に陛下を見れば、彼の顔は強張っていた。


初めて見る、怖い顔。
初めて聞く、怖い声。


今まで意識しておりませんでしたが、夜着の間から覗く肌には、沢山の傷があります。

大きいもの、小さいもの。古いものに、新しいもの。


多分、着物を脱いだら、もっと沢山…身体中にあるのでしょう。


この方の、戦いの歴史が。


「…………………。」


書物の中の出来事だった、美人さんのお話が、急に現実味を帯びる。


壁に立て掛けられた、陛下の剣が赤く染められた事は、たぶん一度や二度では無いのだ、と、

漸く私の頭が、理解した。





………嗚呼、それなのに。

「……陛下。」

「…………、」


呼ぶと、身構える様にビクリ、と体が跳ねた皇帝を見つめながら、私は

ゆっくりと、頭を下げた。


「……おかえりなさいませ。」

「…っ!」


息を詰める音がして、顔をあげた私の目に、驚き顔の彼がうつった。


何時もの様にヘラリと笑うと、彼の強張りが、だんだんと解けていく。


「………ただいま。」


陛下の整った顔が、泣き笑う様に歪む。
長い長い息をついて、噛み締める様に呟くこの方が、私は愛しい。


――そう。愛しい。――――愛しいの。


この方を想う気持ちは、1ミリだって減らなかった。


私は、私が思う程、高潔な精神をしていないようです。寧ろ非道です。



見た事の無い幼子の未来を憂うよりも、この方の、痛みを取り除いてあげたいのです。


会った事のない少女の命を悼むよりも、この方の心を癒したいのです。


安堵した様に私の肩口に凭れる陛下を見つめながら、私は笑む。


「……陛下。」

「…ん?」


胸に走る痛みは、今は飲み込んでしまいましょう。

正義感も罪悪感も、今はいりません。
ちっぽけな私の手では、救えるものなんて、ほんの少しなのです。あれもこれもと手を伸ばして、全て溢してしまうよりは、


今は、無防備に笑ってくれるこの方を、護りましょう。


「お疲れでしょう…膝枕、如何ですか?旦那様。」

「………………は?」


ポンポン、と正座したままの膝を叩くと、皇帝は目を丸くする。
呆気にとられた顔は、いつもより幼く見えた。


「…………………。」


戸惑ったように視線を彷徨わせた彼は、口元を手で覆いながら、横を向いてしまった。


「…陛下?」

「……………、」

「…お嫌でしたか?」

「……いや。」


暫く間をあけて、漸く此方を向いてくれた陛下の顔は、少し赤かった。


「…嬉しいよ。………だが、その…照れる。」

「膝枕がですか?」


横になり、私の膝に頭をのせた陛下は、照れながら苦笑を浮かべた。


「膝枕もだが………旦那様、というのが。」

「……………、」


15?人も奥様がいながら、何ですかそれは。

唖然とした私を、下から見つめていた陛下は、口元を緩め、苦笑を穏やかな微笑へと変える。


伸びた武骨な手が、スルリ、と私の頬を撫でた。


「…照れる…が、……嬉しいものだな。」

「……そうですか。」


瞳を細める陛下と同じ様に、私も自然笑顔になったのでした。


.
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ