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銭湯  作者: 聖魔光闇
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其の十五

 家の風呂の修理は終わった。修理というのか改築というのか。絶対にこれは修繕ではない。


 僕の目に飛び込んできた家の風呂。

 壁や床、天井に至るまでパイプが張り巡らされており、お湯を出すと、そのパイプの無数の穴からミストのような湯が噴き出すという代物だった。


『だ、誰が、ミストサウナ風呂にしろって言ったよ!』


 僕の怒りは当然なのだが、もう修理代金も払ってしまったし、クーリング・オフといっても、この状態をどうクーリング・オフすれば良いのかわからず途方に暮れてしまった。


『こ、こんな風呂に、……どうやって雫さんを招待しろって言うんだよぉぉ!!』











「うわぁ! 男の子の部屋って、もっと乱雑で汚いってイメージあったけど、片付いているんだねぇ」


 玄関を入ってすぐに雫さんが発したその言葉。


『とかなんとか思いつつも招待してしまう俺……。下心見え見えじゃねぇか……』


 考えてたよりも片付いていると言われ、『そう? 特に片付けてもいないんだけど……』とは思ったが、少し照れ臭い。


 部屋へと招待したのではなく、銭湯に行かず家の風呂を使うのが目的。そして僕は、雫さんを脱衣所へと案内した。脱衣所の場所へ来ると、「一緒に入る?」と意地悪そうに言う雫さんに、首を横に大きく振って、「もう一度言うけど、変な風呂だからね」と言って、脱衣所の扉を閉めた。


 浴室の中から、「何の為に浴槽ついてるの〜」なんて声や「家庭でミストサウナなんて珍っしいねぇ!」なんて声が聞こえてくる。


『くそ! 俺だって、こんな風呂にした覚えはねぇよ』


 しばらくしてから、「本当、変わったお風呂だよね」と雫さんが、Tシャツに短パンという格好で出てきた。


 思わず目を反らしてしまったが、細身の身体に良い肉付きをしている。


「このまま帰る? それとも、何か飲む?」


 このまま帰って欲しくもないくせに、決まり文句のように聞いてみる。


「じゃあ、お茶貰える?」


 その言葉を聞いて、待ってましたとの如く、食器棚からグラスを二つ取り出すと、冷蔵庫の中のお茶をグラスに注ぎ込んだ。


「睡眠薬なんて入ってないわよね?」


 意地悪そうに聞いてくる雫さんに、首を大きく横に振って、グラスをテーブルに置いてから、雫さんに椅子を差し出し、僕も席についた。


「…………」


「…………」


 このような場合、何を話せば良いのかと短い自分の人生に尋ねてみる。けれども答えは皆無で、わかっているならば、既に話を持ち出しているだろう。


「ねぇ……」


 とりあえず、このまま無言で過ごす訳にはいかないと、言葉を発してみるもその後が続かない。


「ん? 何?」


「べ、別に……」


「そう? 変な板君」


 そう言ってクスクス笑う雫さんが可愛い。


「じゃあ、今日はもう帰ろうかな」


「え! もう!?」


「まだ、何かあった?」


「ん!? べ、別に……」


 しどろもどろになっていると、雫さんは帰り支度を始めている。


「明日もまた来る?」


「来てもいいの?」


 真顔で聞いてくる雫さんに、「勿論ですとも!!」と叫んでいた。




 その日から暫く、雫さんは僕の家に来て、お風呂に入る日々が続いていた。


 しかし、話は一向に盛り上がりをみせる事なく、雫さんは入浴後、お茶を飲んで帰るのみだった。


 そして、あの初めて雫さんが僕の家のお風呂を使った日から一週間後、雫さんから思いもよらない言葉を聞かされた。


 確かに日増しにやつれていくな。とは思っていたのだが、「「お父さんがね、一日に二回も風呂に入っていたら楽しくないだろう」って言うのよ」と言われたのだ。


『一日に二回?』


 ふと疑問に思ってしまったが、よくよく考えればわかる事だ。


 雫さんの苗字は《天戸》。そして、あの《お風呂で楽園》如く、《天戸風呂店》のオヤジも《天戸》。雫さんは、僕の家でお風呂に入った後、《お風呂で楽園》にて入浴をしていたのだ。


「あのね、明日、お父さんが「風呂に来い」って板君に言っておくように言ってたよ」


「明日?」


「うん。明日」


 「う〜ん」と悩んでみたものの、今の僕に選択権など無かった。そして明日、僕は《お風呂で楽園》に出向く事になった。






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