ヤマタノオロチの最後
「私は、お前がアマテラス様に謀反を起こしたことが信じられなかった。アマテラス様の力により再び今度は、カムイよりももっと深い『根の国』に封印された。その時私は初めてイオナがこの星のアマテラスになったことを聞いた。オロチ、お前は随分前に知っていたのだな……」
ミコトを冷たく一瞥してオロチは再び八つの首をもたげた。
「ああ、最初の生命体は女神から分離したものだった。しかしその後の生命体はどうだ、あるものは卵、あるものは分裂して増える。歩くのも動くのも、細い毛がやっと進化して可能になった。わしらの様な人型になるまで気の遠くなる間俺は待った。約束が違う、こんなゴミたちを産み、守るのが俺たちの役目だと、断じて違う。俺とイオナはこんな出来損ないのために天と地に別れたと言うのか」
「だから、原始に戻すのか? この星を」
「ああ、そうとも。邪魔をするなっ!」
オロチは溶岩弾を一斉にミコトに浴びせた。
しかし今度はその溶岩弾を避けもせずミコトは進み続けた。そして両手を広げるとヤマタノオロチの両翼をつかんだ。
「兄者だけではない。わしもまたアキナの命を再び……」
ミコトの口から出たのは、マオの声だった。
「マオだけではない、わしもヒメカに再び会えたことをこの上も無く嬉しかった。はははっ、どうやら男神とは、そういうものらしい……」
ミコトの両腕にさらに力が込められる。
「だが、俺たちは気付いたのさ」
大音響とともに、ヤマタノオロチの翼がついにもぎとられた。
「グギュルルルン……」
もぎ取られた翼は煙の様に消えた。そしてその後に残ったのは、黒龍、緑龍、青龍の三頭のカイリュウだった。緑龍のシラトも青龍のキリトも既に力つきていた。それでも立ち上がり黒龍に対峙していた。黒龍は言った。
「何に気付いたのだ、愚かな弟たちよ」
「はかない命だからこそ、次の命に伝えることを考える」
マオがつぶやいた。
「次に伝えるための知恵、それが正しき光となるのだと」
ミコトがそう言った。
「オロチ、この星の生命体は神に比べて何が劣っているの? 憎しみや殺戮ばかりだとでも言うの? 身を捨てて人魚を守った人間、アマゾンを守るために立ち上がった動物たち、禁を侵してでもアキナを再誕させたマンジュリカーナ、アロマリカーナ。自分の命をかけてオロシアーナを残したヒメカ……」
ラナがそう言いながら立ち上がった。
「この星のために、レムリアを離れ、命を縮めた母さん。傷つきながら今も溶岩流を止めている人魚たち。あなたには聞こえないの? 彼らが何といっているか、彼らの希望と言う光とはいったい何を指しているのかを……」
里香が立ち上がった。オロチの目に再び怒りの炎がともった。
「ええい、うるさい!出来損ないのゴミども、カイリュウの力をなめるな、小娘らが!」
黒龍はそれでも双頭から炎を吹き出し二人に向かった。オーロラの鏡を盾にしてリカを守りながらも、ラナはオロチに近づいていった。
「ラナ、跳ぶわよ!」
そういうと、里香はレンボー・スティックをオロチの足元に刺しスティックを伸ばした。
「レン・スティノール!」
曲げたスティックが伸びる反動に会わせ、今度は里香がラナの手を握り、垂直に跳び上がった。そして手頃な長さに一度縮める。
「ミノ・スティノーラ!」
頭上から一直線にオロチの末魔をめがける二人に容赦なく炎と溶岩弾が吹き上げられる、それをオーロラの盾で防ぎ続けるのがラナだった。
「おのれっ、おのれっ」
しかし吐き続けるオロチの炎は、二人の巫女の髪の毛一本も焦がすことは出来なかった。
ラナを握った手をほどき、ゆっくりと舞い降りる天界の巫女はオロチには見覚えのある姿に見えた。オロチはこうつぶやいた。
「……一打で決めろよ、天界の巫女……」
里香はオロチの末魔にスティックを打ち込むと地面にふわりと降りた。マルマを打突され、激痛がオロチを襲った、しかしオロチは満足げにこう言った。
「イオナ、やっと会えたな……」
崩れ落ちる黒龍は、もう何も言わなかった。