ヒメカ降臨
一方黒い霧とともにオーロラの鏡はその色を失い、くすんだ銅色に変わった。鏡に刺さった剣もくすんだ剣になりその柄からは黒い影が現れた。
「ようやく我の封印が解けたのじゃな。ここはどこじゃ? カムイではないのか?」
ヒメカの声が洞窟に響いた。
「お前は、イオナかそれともクシナか?」
マンジュリカーナを見てヒメカが尋ねた。
「私はマンジュリカーナ、この星を闇から救いにやってきた。ヒメカそれが創五神の一人だとしても」
「私に勝てるものか、身の程知らずが」
ヒメカの言う通り、里香の術はまったく役に立たなかった。七宝玉はこの星の力を取り込める事は出来た。しかしそれ以上にヒメカは強大な力を持っている。マオの洞窟を水圧から守りつつ、里香はレインボー・スティックでヒメカを打突する。しかし、ヒメカは長い杖を使い、それを簡単に受け流していた。不思議な事に里香はその戦いの中、ヒメカに何故か高貴ささえ感じていた。
(何を考えているの、リカ。ヒメカは倒すべき相手なのに)
里香は次第に追い詰められていった。
一方、シラトはオロチを追い詰める。緑のたてがみを持つ緑龍のシラトは、さすがに鱗一枚すら剥がれていなかった。
「それでこそ、オロチの中のオロチ。しかしもはや俺の手札は全て揃ったのさ」
六つの首を持つオロチはヒメカを呼んだ。
「ヒメカ、さあ兄の下へ来い!」
ヒメカは里香を念波ではじき飛ばすとオロチのそばに寄り添った。次の瞬間、オロチはヒメカをひとのみにした。
「ゲフフフッ、これでもうお前たちに勝てる見込みは無くなったな、見ろ!」
オロチに七つめの頭がもたげ、身体が輝き始めた。両肩の翼がさらに巨大になった。
「ヒメカの復活は俺のためにしたまでの事、元々わしはヒメカをくらい、聖三神を越える神になるつもりだったのさ、それなのにミコトはわしからヒメカを連れて行った」
「ミコトだと……」
オロチの言葉にシラトはマオが話した創五神の時代の出来事を思い出した。
それは赤い月の夜の事だったという。
ーヒメカは創五神のひとりとして、光と闇を併せもって産まれた。アマオロスの産んだ四神は光と闇を制御し、闇を制御することで生命体としての力を発揮出来る。光と闇、生と死はひとつのもの、決して切り離せない、優劣はないのだ。それを制御し正しく使えたのがミコト、マオ、まだ不安定なのがヒメカであった。ヒメカの闇を利用しようとしたのが、邪神として闇の力に目覚めてしまったオロチである。オロチはミコトとアマテラスの力により『根の国』に封印された。ミコトはヒメカの二分の一の光に惹かれ、二分の一の闇を恐れていたのだ。ミコトはその後、ヒメカの闇を封じることをアマテラスに誓い、ヒメカを妃に迎えたのだったー
「アマテラス様、わたしは必ずヒメカの闇を封じます。オロチとともに『根の国』に落とすのはお許しください」
アマテラスはミコトをなだめる様に言った。
「ヒメカの闇の力をお前も知っておろう。その闇の力は、もし邪神となればオロチさえしのぐ、その時はどうするつもりだミコト?」
「その時はこの私も、ヒメカとともに消え去りましょう」