青龍と緑龍
「おのれ、黒人魚、もう許さぬ!」
キリトは怒りに我を忘れ、オロチの力を解放した。キリトは青いオロチに化身した。
「ぐるるるん、俺が相手をしよう」
それを見ると里香に対峙していた四つの頭のオロチが青いオロチに向かった。その隙に里香はラナに近づいた。シラトも黒人魚の前に立ちはだかった。そして里香にこう言った。
「ラナに渡すべきものを持ってきた。ラミナの宝玉だ、最後のアクア・エメラルド」
「母様の、アクア・エメラルド……」
その緑の宝玉はアガルタの女王、エスメラーダが持つ最高の宝玉だった。ラナはその中に深い海底のミドリアコヤガイの中で再誕を待つラミナの姿が見えた気がした。
「黒人魚、エスメラーダの力、受けるがいい」
ラナの顔つきが変わった。オーロラに包まれた全身は緑色に光り輝いた。オロスの巫女メシナの娘マリナの持つヒメカの良き心もシンクロしそれがオーロラの鏡を盾と剣に分離させた。その姿を見た黒人魚はしかし身じろぎもしない、それさえ想定していたのだ。
「やっと、メインディッシュね、フフフフッ特別あなたは歯ごたえがありそうね」
黒人魚はそういうと再び劫火の術を唱えた。
「ダルーシャ・ナム・ホノ」
三人は劫火に包まれた、しかしそれをオーロラの盾は、はじき返した。劫火をなぎ払う様にオーロラの剣が舞った。
「オローシャ、ピリリカ!」
数倍の太さの雷針が黒人魚に向かい間髪を与えずに次の攻撃が後を追った。
「オローシャ・カムイリカ!」
氷結の呪文は劫火の術を防ぐためのものだ。そして一直線にラナは黒人魚に向けて飛び出した。黒人魚に動揺が見られた。
「こしゃくな、小娘が。ダルーシャ・ナム・ルツ(嵐よあれ)」
雷雲とともに起こった竜巻で雷針ははじかれ、さらに強力な劫火が放たれた。
「ダルーシャ・ナム・ホノ!」
吹雪はほとんど蒸発し、飛ばされた。しかしその時は既に黒人魚とラナの間合いは一太刀分しか残っていない、ラナは叫んだ。
「エスメラーダの無念、ここに晴らす!」
黒人魚はオーロラの剣に貫かれた。
「ギャーツ…」
黒人魚はそう叫ぶ、しかしその叫び声は黒人魚のものではなかったのだ……。
「やれやれ、学習能力のない馬鹿なエスメラーダね、さっき教えてあげたでしょう」
盾と矛を握った、ラナが笑った。
「黒人魚、お前まさかまたラナと入れ替わったのか?」
シラトが身構えた。
「当たり前さ、さすがにエスメラーダとオロスの術を同時に防げるものか。さてと」
盾と剣は再びオーロラの鏡に戻り、黒人魚に乗り移られたラナは右手で倒れた黒人魚の持つカムイの嵐をもぎ取った。そしてそれを逆手にすると自分の心臓に深く突き刺した。
「なんという事、カムイの嵐がラナの血を吸っている」
里香は信じられない光景を見た。その剣はやがてオーロラの鏡に突き刺さった。
「リカ……」
ラナは正気に戻ったが、既に虫の息だった。その時二人は続いて一頭の青龍が倒れる音を聞いた。
「グオオーン」
キリトが叫び声をあげた。遂にオロチに倒されたのだ、その身体をおぞましい四つのオロチが交互に噛みちぎり食らっていた。
「さすがはキリト、青のオロチの力はなかなか手強い。メイフの力がなければわしの力ではやられていたかも知れぬ。だがこれでお前にも勝てるぞ、シラト。いや緑のオロチよ」
六つめの頭をもたげると、オロチは里香とシラトにずんずんと近づいてきた。胸を刺され、その場に倒れたラナはそれでも絞り出した声で里香に頼んだ。
「これを、最後の宝玉よ……」
それはシラトから受け取った、母のアクア・エメラルド、最後の緑の宝玉だった。ラナはそういい残すと気を失った。
「エクタノーテ・リムリカーナ!」
だが、ラナにかかった黒人魚の呪力と深い傷は回復呪文でも、ラナの命を取り留めるのがやっとだった。里香は最後の宝玉を虹色テントウに収めた。テントウは七色の光を放ち、彼女を包んだ。ようやく彼女はこの星の力のすべてを身体に取り込めた。
「シラト、お前はわれらと同じオロチだ。ともにこの星を再び原始に戻そうぞ」
横目でマンジュリカーナを見て、不敵にもオロチはシラトを誘った。
「ヤ・マ・ターイ!」
緑のオロチがついに立ち上がった。
「ほほう、それが答えか? シラト」