オロチの使命
「わしは、わしの役目は違うのか?マンジュリカーナ、この星に居場所はないのか?」
マンジュリカーナは、五色のスティックを大上段に構えるとこうつぶやいた。
「あなたの役目は、この星に試練を与えそしてそれを乗り越えさせる事なのよ、オロチ……」
言葉を切り裂く様に、妖剣がリカの首を狙った。それをスティックで受け止め、リカがメイフの胸を打突する。一方ラナとダルナは黒人魚に翻弄されていた。黒人魚はヒメカの術の闇の部分を受け継いでいた。光の部分はオロスの巫女メシナがラナとダルナに授けていた。
ラナはエスメラーダだったのだ。メシナに育てられたラナは、メシナが産んだ娘『マリナ』と姉妹の様に育った。ある日、二人の娘は魚人に襲われた。ダルナが魚人を倒した時、既に娘たちは虫の息だった。メシナはオロスの術で二人を融合した。そうするしかなかった。再び鼓動が戻ったのはラナの方だった。マリナはラナの中でオロスの巫女として生き続ける事になる。ラナはクシナとヒメカの良き心を持つ初めてのエスメラーダとなった。これはメシナ以外は知らない事だった。
「マリナ、ラナを守ってあげてね……」
メシナはラナを産んだもう一人の母でもあった。
「オローシャ・カクラーナ!」
黒人魚の左右から吹雪の呪文が唱えられた。凄まじい吹雪に囲まれた黒人魚は、二人が初めて聞く呪文を唱えた。
「ダルーシャ・ナム・ホノ(炎よあれ)」
その吹雪は一瞬で蒸発した、劫火の術だ。
「オローシャ・ピリリカ!」
今度は雷針が黒人魚を一斉に襲った。
「ダルーシャ・ナム・トツ(岩よあれ)」
黒人魚は岩を呼び寄せそれを装着して全ての雷針をはじき返した。
「無駄よ、術はお互い役に立たないわ。遠慮はいらない、まとめて串刺しにしてあげるわ」
黒人魚は長い剣を静かに抜いた。それはヤリの様に長い剣だった。それを後ろ手に構えて左右に分かれた二人に言った。
「ダルーシャ・ナム・ヒメカ(ヒメカよあれ)」
黒人魚の主、ヒメカの姿が霧の様に現れた。
「我を呼び寄せるのはお前か?」
ヒメカはそう黒人魚に言った。
「はい、ヒメカ様。このものどもを片付けましてお迎えに上がるところでございます」
「このいまいましい封印を解いてくれると言うのか? 黒い人魚よ」
「ひと舞いいたしましょう」
黒人魚はその美しい裸体を皆の前に晒し、巫女舞いを始めようとした。不思議な事に敵であるはずの黒人魚の身体がその場の皆には眩しく映った。
「舞いにはこれが必要だろう」
メイフが細長い紅珊瑚を投げた。それを拾い上げ、黒人魚は一心に舞った。それはオロスの巫女のタマヨセではなかった。ラナさえ見た事もない美しい舞いだ。手にした細い珊瑚が一舞いごとに太くなり赤い光を放っていく。それは『アキツ』の巫女「ヒメカ」の奥義『アマオロス』だった。舞いが終わった時には、黒人魚の手の紅珊瑚は細い腕に変わっていた。
「聖三神、アマオロスの御霊よ祓いたまえ、戻りたまえ!」
声を上げる暇も無く、黒人魚は黒い闇からぬっと出てきた腕に掴まれて消えてしまった。一体何が起こったのかラナたちはわからなかった。黒人魚が目前から忽然と消えてしまった。洞窟に笑い声が響いた。