アガルタの洞窟
「何、これは?」
その洞窟は、マリンスノーに埋め尽くされていた。そこにはルシナとダルナのものらしい足跡が、真新しく残っているだけだった。
「マオ様が、いらっしゃらない……」
ダルナには信じられなかった。巨大なくさりにつながれたマオも幾本もあったチモニーも跡形も無く消えていた。いや、マリンスノーの滞積した様子では、随分前からそこには何もなかったように見えた。
「なるほどね、ダルナ。どうやらあなたたちは騙されていたのね、この洞窟にはマオ様は、はじめからいなかった。もしかしたら……」
そのとき里香はふと人影に気付いた。
「マンジュリカーナ、お前はどこまで邪魔をするのだ。そうとも、ダルナとルシナは幻覚に踊らされていたのさ、この私にね」
「お前は黒人魚、マオ様をどこへやった!」
ダルナは怒りに満ちた声を上げた。
「アッハッハ、マオなんてとっくに始末したわ、あんな大昔の生き残り。ねえ? メイフ」
黒人魚の後ろからは、表情一つ変えない男が現れた。そしてにやりと笑いこう言った。
「ダルナ、お前の役目は、ここに二人を連れてくる事だった。天界のマンジュリカーナ、そしてラナ。ようこそ」
「なんですって!私たちにマオ様が居た様に幻術を掛けていたと言うの」
ダルナが声を上げた。
「ギバハチが言ったろう、ヒメカ様の復活には七色の宝玉もしくはクシナの力が必要だ。その二つをここに連れてきてくれて、クックック、心から感謝するぞ、ダルナ」
里香が五色のスティックを構えた。
「ナノ・マンジュリカーナ!」
黒人魚は手に持ったドクロをラナに投げつけると、人型に変わった。
「最後のエスメラーダよ、お前の中にあるクシナの力をいただこう!」
「私がエスメラーダですって、何言ってるの」
ラナはオーロラの剣を抜いた。
「ダルナ、ラナとともに戦って!」
そう里香が叫んだ。
「ほう、俺はおまえ一人で十分だとでも言うのかい。マンジュリカーナ?」
「メイフ、あなたは私を待っていたのでしょう? アロマリカーナの代わりに」
メイフは笑った。
「フフフッ、その通り。お前の一族の持つ再誕の力は光の巫女『イオナ』のものだ。全ての命の源となるマナを自在に操れる。その力はどうやら、われらに不可欠なものの様だ」
メイフは、青白く輝く剣を抜いた。
「カイリュウ族に伝わるオロチの牙、この妖剣はオロチそのものだ。切られてみるか?」
ただならぬ気配に、リカはこの男が既にオロチになりつつある事を知った。洞窟の中は地上と同じ空気があり、思う存分戦える。しかし、ここにはどす黒い闇の気ばかりだ。
「リカ、こいつには術が効きそうにないぞ」
テントウが絶望的な分析をした。リカはテントウにこう応えた。
「術はお互い使えない、この中の闇の気はアガルタの光を押さえ込んでいる、均衡が破れればアガルタが私たちを押し潰してしまうわ。メイフそうでしょう?」
「ああ、そうさ、マンジュリカーナ。お前は美しいだけではないな、今からでも遅くない。わしの妃としてこの星を創り直さないか?」
「お断りします、この星はあなたを必要としていない。マオとクシナがアガルタを治めミコトとヒメカが陸を治め、そしてオロチは……」
メイフは剣を構えたままで里香の言葉に聞き入った。