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黒人魚 イラーレス

 幾本もの氷のヤリがルシナを貫いた。ほんの一瞬だった。

「ぐふっ……」

振り返るとそこには、逃げ去ったはずのダルナが立っていた。

「なるほどね、そう言う事か。オロスの村を焼き払った時にラミナがいなかったはずだ、それにキリトがいなくなったのは、ルシナ、おまえがマナトに連れだしたのか。まったく知恵の回る人魚だこと。ダルナを取り込むのに時間がかったがようやくメイフとともに闇に落ちた、このイラーレスの手に」


挿絵(By みてみん)


イラーレスに完全に取り込まれたダルナがぞっとする目をしてそう言った。

「ずっと私たちをつけていたの、なんて人魚なの」

ラナはたまらずそういい、十束の剣を抜いた。

「かじった程度のオロスの術が私に通じるとでも思っているのかっ!」

イラーレスに乗っ取られたダルナは両腕を突き出し黒く光る玉を手のひらから放った。

 ラナはそれを飛び上がり避けた、しかし通り過ぎたその玉は、周囲の岩を食いちぎり軌道を変えて襲って来た。ラナはとっさに氷結の呪文を唱えた。

「オローシャ・カムイリカ!」

しかしその氷は内側から溢れた黒い稲妻が、こなごなに砕き吹き飛ばした。


「このガス体は意志を持つ生き物だ、そんなもの効くものか」

イラーレスは勝ち誇って笑った。だがラナは続いて吹雪の呪文を唱えた。

「オローシャ・カクラーナ!」

一瞬凍りついたガス体を踏み台にして、ラナは高く跳び上がり、オーロラの剣を握り直し切り掛かる。その剣はイラーレスの十束の剣を叩き折った。オーロラの光の中、黒人魚は役立たずの剣を投げ捨てた。

「ふん、認めてやろう、お前はあの巫女より少しは手強いとな」


「あの巫女?」

「そうさ、お前の育ての親、オロスの巫女。メシナの事さ」

「お前が母さんを……」

「ああ、なかなか手強かったぞ。カイリュウを『オロチ』にしなければ殺せなかったろう、だがそれにしてもお前の呪術は戦う度に鋭くなる、マンジュリカーナと同じだ」


 里香は五つ目の宝玉を手にし、マンジュリカーナに変わった。そして青い光を加えたスティックを回転させながら上空に放り上げた。そこから結界が張り巡らされた。中のイラーレスは叫び声を上げた。

「マンジュリカーナ、何をした? 身体が重い、これは結界か、くっ、おのれっ」

イラーレスはスティックから放出される五色の光に閉じ込められ、苦しそうに膝をついた。見る間に黒人魚はダルナから分離し、顔以外はガス体になってしまった。


「ラナ、オーロラの鏡に封印するのです」

里香がマンジュリカーナの口調でそう言った。オーロラの剣がオーロラの輝きとともに神器の一つ、オーロラの鏡に変わった。

「封印するって、どうすればいいの?」

里香はゆっくりと言った。

「あなたは、その呪文を知っているでしょう」

「でも、残りの半分は知らない……」

「さあ、急ぎなさい、ラナ」

黒人魚は、再び身体を震わせ始めた。結界の力をはね返すのも、もう時間の問題に見えた。

ラナは祈りを込め、オロスの巫女メシナの伝えた呪文を唱えた。

「オロル・クシナ・エスメラーダ!」

「アマノ・テラス・マンジュリカーナ!」

信じられない事に、間髪も入れず里香が残りを唱えたのだった。ラナが里香と目が合った。

「ぐっ、身体が吸い込まれていく。おのれっ!アマテラス。ヒメカ様申し訳ございません……」

それが黒人魚の最後だった。


 黒人魚がオーロラの鏡に吸い込まれたのを確認すると、里香はスティクを収めた。張られた結界が解け、美しい緑の髪の人魚が立ち上がった。それがダルナの本当の姿だ。緑の瞳の人魚は口を開いた。

「ああ、ラミナ様お会いしたかった。メイフがおかしくなったのです。アガルタに決して戻ってはなりませんよ……」

そのダルナの言葉を聞き、ラミナとラナとを勘違いしていることに二人は思わず吹き出した。


「エクタノーテ・リムリカーナ!」

里香の回復呪文で串刺しにされたルシナの氷のヤリは抜き取られ、次第に顔色が戻った。しかし彼女は二人にこう告げた。

「私はダルナが正気に戻った今、この役目をダルナに託します。エスメラーダ人魚は他のシャングリラの人魚より、少し長く動けるだけです。そうでも言わなければダルナの心を闇から取り戻すために、一緒に戦ってはいただけないと思い、お二人に嘘をついていた事をお許しください。ダルナが『エスメラーダ人魚』として目覚めた以上、伝承の巫女は二人はいりません。あなたの役目はわかっているわね、ダルナ」

「はい、ルシナ。この星に再びヒメカを降臨させてはならない事」

それを聞くと、微笑みながらルシナは里香の五色に輝くブローチに吸い込まれていった。


「本当に、ラミナ様かと思った。でもこんなお転婆になるなんて、あの可愛い赤ちゃんがね」

ダルナはラナに初めてあったときの事を話しはじめた。オーストラリアまで呼び寄せたベルーガの上で二人はダルナの話を聞いていた。それはこんな話だった。


黒人魚とメイフの様子を覗き見たダルナは、洞窟から戻ると、その企みをマオに告げた。

「そうか、その黒人魚こそヒメカの配下に違いない、ヒメカの封印を解き再び降臨させるつもりなのかも知れぬ……」

「ヒメカ、それではカムイの戦も」

「おそらくヒメカの配下に違いない、シラトが行ったので心配はないが。アガルタの要、メイフが黒人魚に操られてキリトを追い払ってしまうとは、これでアガルタを守るものが誰もいなくなってしまった」


 しばらく思案をし、マオはダルナに命じた。

「ダルナ、エスメラーダ人魚として命じる、七海の人魚を招集するのだ。一刻も早くマナトに集め結界を張るのだ、よいな!」

七海の人魚は戦闘の人魚だ。マオに流れるキョウリュウの血、オロチの力を集めたアガルタの最後の切り札だった。その集結を終え結界がマナトに張られた。そこにはすでにミドリアコヤガイの中で再誕を待つ人魚の卵が数個あった。結界が張られて数日後、ルシナが一人北極から傷ついた身体で戻ってきた。

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