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狙われた人魚姫

 シラトがカムイに行ったまま、数日経った。マオがルシナを呼んだ。それは歴代のエスメラーダの中でも一番活発なラミナが十五歳を迎えたからだ。ラミナは北極海に出かけるつもりだった。エスメラーダは両極の海にだけは出かける事が許されていた。マオがルシナにささやいた。

「ルシナ、ラミナとともに北極海に行け。ラミナは狙われておる、わしが油断しておった。もはやアガルタは闇の力に押しつぶされようとしている。カムイに行ったシラト、そしてお前たち人魚以外にラミナを守れるものはいない……」


 その時、ホッキョククジラのリュウグウ、キリトが二人の前に現れた。ルシナはまるで別人と化したキリトを初めて見た。赤く輝く冷たい瞳は、かつての最愛の夫としての面影はすっかり失せていて、暗くぞっとする声が響いた。


「マオ様、マッコウクジラとベルーガだけでいいのか? ラミナのお供は」

「キリトか、ああ、イッカクも迎えにきてくれるだろう。お前は心配しないで良い」

「そうか、用心に越した事はないが。わかったそうしよう」

そう言うとキリトはルシナに声をかけた。

「ラミナはアガルタでいる方が安全だろうに、わざわざ陸になど行こうとする気が知れん。ルシナしっかり守ってやれ、その命をかけてな。ハハハハッ」

そう言うと、冷たい目をして奥に消えた。


「あれが、キリト様」

「ルシナ、気付いたろう、あの瞳。キリトはメイフの洞窟から帰ってから、すっかり別人のようになってしまった」

「カルナが死んでからメイフばかりかキリトまでがおかしくなってしまった」

「メイフ様にはカルナの前世の記憶があるのですか?」

「ああ、お前と同じ伝承の力を持っておる。あいつはカイリュウの伝承者として、このわしが選んだのだ……」

 カルナがメイフの妃だったのは、ラミナが再誕する前のことだ。ルシナもそれを記憶していた。


「シラトが戻れば元通りになるだろうが、思いのほかカムイの状況が芳しくない。それも北極海の異変に関係しておるのだろう、キリトに悟られないように早くアガルタを出て北極の『オロス』と言う村を尋ねるのじゃ、そこがカムイのオサ、ミコトの故郷なのだ、ルシナ頼むぞ」


「なるほど北極の『オロス』に向うつもりか」

 立ち去ったはずのキリトが、二人の会話を洞の影で盗み聞きしていた。そしてにやりと笑ってこうつぶやいた。

「あの方の降臨には寄り代が必要だ。そのためにはラミナを手に入れねばならない。ルシナ、残念だが北極までは行けないぞ」

そう言うと、暗闇に続くメイフの洞窟に、彼は降りていった。数時間もせずにラミナはルシナと北極海に向かった。


挿絵(By みてみん)


「メイフ様、一足違いでエスメラーダはルシナとともに北極海へ向かいました」

キリトはラミナが出発すると、それをメイフに告げた。

「バカめ、それこそ好都合だ。闇のキリト、北極海へ先回りしろ、オルカと挟み撃ちだ。陸からはホッキョクグマを使え。必ず息の根を止めるのだ」


 北極、南極は人魚にとって特別な場所だ。エスメラーダに遠出が許されるのがこの極洋だけだった。減圧スーツを使い深海から次第に光の届く表層に浮かび上がるラミナは、心配そうに見送る魚達とは裏腹に、楽しくて仕方がなかった。護衛の白いマッコウクジラがラミナにこう言って、念を押した。


「フィン(減圧スーツ)は陸上に上げてはいけません。地上の紫外線は強過ぎるので、ヒレがうまく開かなくなります。陸を移動する時は、人間のように二本足になるのですよ。もしフィンが壊れてしまったら、もう海に潜る事はできなくなります。困った時はベルーガ(白イルカ)に助けてもらうのですよ、いいですかエスメラーダ」

(いい加減、うんざりするわ……)

「わかってるって、オーロラを見たらすぐ帰るから、心配しないで」

エスメラーダの護衛はマッコウクジラから、ベルーガに交代した。付き添いの人魚は信頼の置けるルシナだけだった。


挿絵(By みてみん)


「ねえ、ルシナ。アガルタの女王って、退屈ねぇ。ただ『リュウグウ』の子供を産むだけなんて」

「まぁ、なんて事を、それが大切なんですよ」

 ルシナが泳ぎながらエスメラーダを叱った。


 アガルタには『リュウグウ』と呼ばれる、知的生命体の一族がいる。リュウグウはクジラの一群を祖先とする、陸から海に再び戻ったほ乳類だ。リュウグウの女は『人魚』と呼ばれる。人魚は七つの海をそれぞれ受け持つものと、五大陸と天空、時空にある『シャングリラ』のいくつかを任される人魚がある。その人魚をまとめているのが『エスメラーダ』である。人魚には百年の寿命があり、再誕は重ならないように交互に行われる、その時に人魚の記憶は伝承の人魚に蓄積される。人魚はひとつづつ『人魚のかけら』を持っている。それがコアになり、人魚はミドリアコヤガイの中で生まれるのだ。

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