赤いオーロラ
それは、ダルナがエスメラーダの役目を無事終えた、二十年前の事だ。
「ダルナ、ご苦労様でした。お陰でエスメラーダ様は無事再誕されました。今日よりまた南極をお任せします」
ルシナがそう言って、ダルナの労をねぎらった。五年の間は長いようでしかし終わってみればあっけなかった。ダルナは思いを寄せているキリトに逢いたくてしょうがなかった。マオ様の側に控えている、カイリュウ、ホッキョククジラの王子だ。彼女は早速海底の神殿に向かった。
「おや、美しい人魚姫が挨拶にこられたぞ」
「まあ、メイフ様ったら」
「ダルナ、そなたのお陰でエスメラーダ様は再誕された。これからの二十五年、今度は南極をまかせたぞ」
「かしこまりました。マオ様」
ダルナは辺りを見回したが、意中の人、キリトの姿がなかった。その様子に気付きメイフが少し意地悪く笑った。
「ハハハッ、残念だがキリトは北極へ行ったよ。間もなく戻ってくるだろう。それまでは在位中の出来事をルシナに伝承して時間をつぶせ、ダルナ」
「わ、私は別に……」
ダルナは、照れながらルシナの元へ急いだ。
『カルナ』の誕生のときまで、アガルタは平和だった。その異変に最初に気付いたのが北極海へ行ったキリトだった。巨大なオーロラが北極海に出現し、それは数日消えなかった。しかも不思議な事に、赤一色の燃え上がるカーテンとなって空を染めていたのだった。
「極点から離れれば、赤や黄色など単色のオーロラも見えるが、こんなところに現れるとは聞いた事がない。エスメラーダ様は無事再誕されたのだろうか。とにかく帰ってマオ様にオーロラの異変を報告しよう」
それをキリトから聞くと、マオはこう言った。
「時空のシャングリラがネジ曲がっている。強大な磁場の歪みが起こっている」
その赤いオーロラは、レムリア王『ビートラ』が巨大な闇を宇宙へ葬ったときの爆発の影響だった。十数年遅れで太陽フレアの爆発に影響があったのだった。レムリア王国の伝承によると全宇宙を支配しようとしていた悪魔の身体は全宇宙に散らばった。のちに『ナツメの石』と呼ばれたものだ。そのころ異界のレムリア王国には、マンジュリカーナとカブトの間にイオ、アギトと名付けられた、双子の兄弟が誕生していたのである。その兄弟をやがて狂わせた『ナツメの石』の一つが時空のシャングリラをねじ曲げていたのだった。
「これはわしが行かねばなるまいて……」
マオは時空のシャングリラに向かった。そこには『ムシビト』が移住していた。女王は『リカーナ』という巫女だ。彼女には『マンジュリカーナ』と『アロマリカーナ』の二人の娘がいた。マオは歪みの原因となった『ナツメの石』を探し出しそれを封印し、アガルタに持ち帰った。
「これで時空のひずみは元に戻る……」
再び空には七色のオーロラがゆっくりと現れた。しかし闇のカーテンはその時、わずかに開いてしまったのである。