二人の人魚
ーエスメラーダの再誕とは、ベニクラゲに見られる『若返り』に似ている。人魚は五十年間成長し、ふたたび若返る(再誕)特徴がある。再誕プログムは、北極に巨大なオーロラが出現して開始される。太陽フレアが出現し、大規模な磁場障害がエスメラーダの再誕プログラムを作動させる。まずエスメラーダはアガルタを離れ、一年をかけて七つの海を泳ぎ、最後に南極に入る。エスメラーダはいったん七色の真珠となり、ミドリアコヤガイの中で溶ける、人魚のかけらをコアにして三年かけて緑色の真珠となる。それが次のエスメラーダの寄り代、『アクア・エスメラルダ(人魚の卵)』である。エスメラーダが再誕するまでは、他の人魚達が守り、その間のエスメラーダはマオが人魚の中から任命する。前回、1976年の再誕まで五年の間、ダルナはエスメラーダを勤めた。次の再誕は2026年の予定だ。人魚たちはその時まで、それぞれのシャングリラに戻るー
「さすがは、マンジュリカーナ。そう、それがブローチを通じてトレニア様に聞くという事さ」
「そうねテントウ。でもレムリア歴とシンクロさせないと私ピンとこないし……」
エスメラーダの再誕、1976年以降の里香に関系するレムリア歴がシンクロされた。
1978年-トレニア-誕生
1981年-里香レムリアにて誕生
1998年-マンジュリカーナ、里香(シンクロ年齢15歳)人間界へ
「じゃあ、エスメラーダは今20歳ってこと?」
「まあそう言う事さ、しかし見かけは里香とほとんど変わらない、人魚は十五歳で大人になり、見た目はそのままで歳をとるだけさ」
すかさずラナがうらやましそうに言った。
「えーっ、それっていいなぁ……」
その間も二人の戦いは続いていた。
ダルナがムチを投げ捨てた、鞘から抜いた短剣が輝き、すらりと長く伸びた。
「あなたは、この十束の剣で仕留めてあげるわ、ねっ、光栄でしょう?」
ルシナの額を狙ったダルナの一撃を、剣で受け止めるとルシナはこう言った。
「私は、マンジュリカーナ様に伝える事がある。たとえ、エスメラーダ人魚のダルナであろうと、あなたに負けるわけにはいかない」
ルシナの身体のどこにそんな力があるのか、ダルナの剣を押し戻し、横一文字に剣が舞った。切っ先を寸前でかわしたダルナはもう一度長い剣を振り下ろした。ルシナの髪が解けた。ダルナはそれを見て、低く笑った。
「クククッ、それが精一杯でしょう。あなたはアガルタの『伝承の巫女』、戦いは似合わない。いい、エスメラーダは私たちを見捨てたのよ、誰のために戦うというの? ルシナ、さあ言いなさい。あのお方をどこへ連れ去ったの」
「さあ、何の事かしら?」
ルシナは剣を握りしめると、ダルナに突きつけた。光り輝く剣に、ルシナの服は紅に染められた様に見えた。その剣はダルナと同じく十束の剣に変わった。
「お前、その姿は?」
「伝承の巫女は、姉の力さえ引き継げる。スザナの力を借りて相手をするわ!」
それからのルシナが強いはずだ、彼女はスザナと二人でダルナと戦っているのだ。だが、それを受け流しながらも、ダルナはもう一本の短剣を出した。ルシナの渾身の一撃を両手の剣を交差させて防ぐと、ダルナはルシナの腹を思い切り蹴り飛ばした。
「グッ……」
ルシナが床に転がり、手から剣がこぼれた。
「似合わない事をするからよ、さあ私の質問に答えてちょうだい。それとも、このまま黙ったままで死んでいくつもり?」
「あなたに教えるくらいなら……」
目の前にあった剣で、ルシナが自分の胸を突き倒れた。ダルナがそれを見て初めてうろたえた。
「なんて馬鹿なルシナ。エスメラーダは私たち人魚を裏切り、アガルタを見捨てたというのに」