イラーレスの正体
「どうやらあの洞窟らしいわ、さあ入りましょう」
「里香、不思議な事に宝玉の反応がない。ルシナは本当にここにいるのだろうか?」
テントウが不安そうに言った。
「洞窟は滝の裏側だからきっとその影響よ」
ラナは鍛え直したプラチナチェーンを数度しごいた。
「やっと反応がでた、しかしかなり弱い……」
ラナの言う通り、洞窟の入り口には何者も寄せ付けない結界があるのかも知れない。里香は立ち止まった。
「誰か、いる……」
奥の岩壁に話しかけている女戦士の姿があった。
「さあ、ルシナ。出てきなさい、そんなところに隠れていても無駄よ、このフウキンチョウを捕まえたから、あなたの居場所なんてすぐ見つけられたわ、出てこないのなら、引きずり出そうかしら?」
岩陰の二人は、そう言う、イラーレスの言葉を聞いた。
「オローシャ・ピリリカ!」
ラナと同じ雷針の術で、洞窟の奥の岩盤が砕け散った。洞窟に光が漏れた。
「ウフフッ、その岩盤相当頑丈ね、一撃では足りないのね」
イラーレスの鋼鉄のムチがひびの入った岩盤に数度打ちこまれ、ことごとく砕け落ち、まばゆい光が射した。自ら進み出てきた人魚、ルシナは今までのどの人魚より、細く美しかった。ルシナはイラーレスを見て驚きの声を上げた。
「あなたは、まさか? いえ、そんな訳がない、似ているだけ」
ルシナの驚いた顔を見るとイラーレスは、再び勝ち誇ったように笑った。
「ウフフフッ、さすがは伝承の人魚とも呼ばれるルシナ。そうよ、私はただの人魚ではないわ、あなたが消え去る前に見せて上げるわ、あなたも会いたいでしょう? 昔の私に」
イラーレスは両手を静かに上げ、細い指を開き交差させた。そしてそれをチョウの羽ばたきのように腰に降ろした。それは妖艶な動きだった。
「レプ・アクタリス・ダルーナ!」
紫のベール、オーロラのカーテンが彼女をおおい、そして紫の幕が上がった。
「南極のダルナ、やはりあなただったのね、連絡が取れなくなったのは、そう言う事だったの」
「そう、ルシナ。私はダルナ、一度はアガルタの女王だったエスメラーダ人魚さ」
ルシナはダルナを知っていた、彼女はかつてこのアガルタのエスメラーダだったことがある。
「エスメラーダの再誕まで、あの五年間、私はアガルタのすべてを手にした。たった一つを除いてね」
ダルナはムチを丸め、再びルシナに言った。
「エスメラーダの再誕がこんな私に変えたのさっ!」
そう言い放ちダルナは腹立たしさから、ムチを振った。洞窟の壁が深くえぐられた。
「エスメラーダの再誕とは何のことなの?」
その様子を見ていたラナは里香に小声で尋ねた。里香は、ブローチの宝玉を通じ、収められた「シャングリラ人魚」たちの記憶を呼び起こした。それは念波で、ラナにも同時に伝わった。