アギルの最後
「やはり、あなたはマオ様がおっしゃった通りのお方、エスメラーダ様をお願いいたします……」
そう叫ぶとオンサはスザナを頭からひとのみにした。何が起こったのか里香も魚人も呆然とした。オンサは岩の上に立ち時の声を上げると横になると、その目を閉じた。
「オンサこそ、私の本体。人魚のかけらを守るため、分離の術を使っておりました。マンジュリカーナ様、今こそアマゾンの橙色の宝玉をお納めください」
その言葉を残し、黒ジャガーの体のスザナは橙色のひときわ鮮やかな宝玉となり、マンジュリカーナのブローチに吸い込まれていった。風が巻き起こった。里香が立ち上がり、手に持ったスティックをアギルに構えた。それには新しく橙色が加わり、里香はまた一歩、完全なマンジュリカーナに近づいた。
「ゲハハハッ、お前の回復の呪文は無駄になったな」
「無駄になんてならない、スザナはここにいる。私と一緒にね。いつまでもヒヨッ子のままじゃなくてよ」
「ほう、少しは成長したのか、マンジュリカーナ、異界の巫女よ」
一度にアギルは十本のフィンガーピックを放った。それを瞬時に叩き折り、返すスティックで彼の腹部を打突した。その動きは流れるように滑らかだった。
「ウグッ、やるな、これならどうだ」
アギルのヤリがまとめて里香に打ち込まれた。里香は空中に飛び上がり、魚人の頭上に四色のスティックが振り下ろされた。鈍い音がして、その頭が変形した。しかし魚人は倒れない、サメの骨は軟骨でできている。硬い部分は次々と生える歯くらいのものだった。
「効かないなぁ、その細い腕を噛み切ってくれるわっ!」
里香の右腕にアギルの鋭いアゴが噛み付いた。
「アガッ、何だ、アガガッ……」
彼のアゴに縮めたスティックがつっかえ棒のようにはまった。懸命にそれを外そうとする魚人に里香は笑って言った。
「無駄よ、そのスティックはそんなことで外れはしないわ」
そして、里香は続けて非情な呪文をとなえる。
「レン・スティノール」
その呪文で伸びたスティックが彼の喉を突き破る。その赤い目には光が消えていた。
「レム・アガルタ!」
炭化の呪文により、アギルは砕け散りアマゾンの川に散らばった。それを見て、イラーレスは戦いの不利を悟りハガネのムチを丸めた。
「どうやら、アギルはやられてしまった様ね。まあ、オーロラの剣もあんたが持っていても役には立たないから今日は引き上げましょう、ギバハチ様の前だし」
そう言うとイラーレスは川に飛び込んだ。広いひれを数度振り、オルカに向かって泳いでいった。そしてオルカとともにどこかへ去って行った。見ると毒エイは魚人が消えたため、元の姿になっていた。その場にいたマンジュリカーナだけには彼の心からの言葉が響いてきた。
「ありがとう、マンジュリカーナ。アマゾンを救ってくれて」
「ううん、アマゾンはね、あなた達とスザナが救ったのよ」