アギルの策略
「あの人魚がオーストラリアにいる、それが本当だとしたら私にはすぐにわかる。でも私はそのときどうするだろう? 村を焼き払い、キリトを奪い去った憎い人魚を殺さずにいられはしない、でも……」
里香はさっきからスザナに、動物の言葉を教えてもらっていた。黒いジャガーはその頭を撫でられながら眠っていた。
「まあ、なんて事、オンサは私でも馴らすまで半年はかかったのに。さすがね、マンジュリカーナ」
里香は得意そうだった。
「私の予知力によると、もっと凄いことが起こりそうよ」
突然、オンサが飛び起き、森の奥へ向けてうなり声を上げた。ワニたちは一斉に川下に向き直った。
「やっと、ボスの登場ね、アギル」
森から現れた魚人を見据え、スザナは身構えた。
「俺の名前を覚えていたか、光栄だな。まあ、もう二度とその口で呼ぶ事もなかろうが」
「小生意気な人魚のお陰で騒々しい。早く片付けて、静かなアマゾンにしてくれよ」
敵はそれだけではなかった。黒地に白の星をちりばめた魚人が現れた。
「お前は、アマゾンの淡水に済む毒エイか!」
「森の中を歩くのは大変だったぞ、人型の不自由な事と言ったらないな」
スザナはもう一度川を塞き止めようとした。
「アナコンダ、かかれっ!」
しかし森は静まり返っていた。オンサがうなり声を再び森の中に向けた。イラーレスが現れた。
「無駄、無駄。アナコンダは一足先に片付けたわ、よーく寝ているわこの薬でね、アハハハッ」
「今度はワニどもを皆殺しにしてやる」
アギルはホオジロザメの一軍を使いワニを包囲し、次第にその輪を縮め始めた。一頭また一頭と血まみれになったワニが川下に流れていった。血の匂いに引き寄せられたピラニアが我先にと、まだ息のあるワニに噛み付いていた。毒エイは得意げに言った。
「川の魚どもは、私の意のまま。アギル様、アマゾンを残すと言うお約束はどうぞお忘れなき様に」
「わかっておる、ワニどもを蹴散らせっ!」
「ハッハッハッ。ワニも、もうそろそろ、動かなくなりますよ」
ワニ達が一斉にけいれんを起こし、水面に浮かんだ。
「電気ウナギか? おのれっ!」
スザナが剣を抜いた。
「五百ボルトにかかればひとたまりもあるまい、さあどいつが俺の相手だ?」
毒エイに向かって進んだのは里香だった、立ち上がってブローチをかざした。
「ナノ・マンジュリカーナ」
「ラナ、この私と戦いたいのでしょう? いいわよ、おいで、片付けてあげるわ」
イラーレスがラナに向かって手招きをした。
「オローシャ・ピリリカ!」
ラナは雷針の呪文を唱えた。行く筋もの雷が一斉にイラーレスを襲った。しかしそれを全て無効にする彼女の呪文が響く。
「オローシャ・カムイリカ!」
全ての雷針が氷の柱となり、砕け散った。
「それは、氷結の呪文。何故、あなたがオロスの術を使えるの?」
「なかなかお前がこの呪文をおぼえなかったからねえ、私はお前の母親にオロスの術を伝授されていたのさ、お前が産まれなかったら、そのまま私がオロスの巫女になるはずだったのさっ!」
「それなら、プラチナチェーンだ」
チェーンが飛び上がったイラーレスの右足首を捕らえた。
「くっ、やるわね。実はそれを待っていたんだけれど」
「オローシャ・ピリリカ!」
二人から同時に同じ呪文が唱えられた。チェーンの両端から雷が走りまん中で激突した。その衝撃で二人は数メートル飛ばされた。二人とも身体がしびれて動けなかった。それを見たアギルはスザナに不敵にも手招きしこう言った。
「ふん、相打ちか。スザナ、やはりお前を倒すのは俺だな」