ナナイロフウキンチョウ
「あなたがマオ様のおっしゃっていたマンジュリカーナ? ワニ達を治してくれて本当にありがとう。そう私はアマゾンのスザナ。あいつらしつこいったらないわ、ねえオンサ?」
黒いジャガーは彼女の側で喉を鳴らせた。二メートルは越える獰猛なジャガーも、彼女には信頼の置けるな仲間だ。エリナの言った通り、スザナは一滴の聖水さえメイフ達に渡していなかった。アマゾンの動物達とともにホオジロザメを何度も追い払っていたのだ。
「あなたに教えてあげられるのは、オーストラリアの人魚『ルシナ』が真実を知っているという事だわ。あなたが北の海で見た人魚はきっとルシナだと思う……」
「ルシナ……」
ラナはその人魚の顔を忘れた事はなかった。
「あの人魚がオーストラリアにいる…」
怒りで握っていた小枝が潰れた。
「だけどあの子は、私と違って臆病だからきっとどこかにじっと隠れている、ヤツらには捕まってはいないと思うけれど簡単には、みつからないわよ」
「チチチチッ」
上空で鳥の声がして、スザナの肩にとまった。それはアマゾンではもちろん、地上でもっとも美しい鳥の一つ『ナナイロフウキンチョウ』だった。彼女は鳥の言葉がわかるのだろう、頷くとナナイロフウキンチョウを上空に飛ばした。
「ルシナに届けばいいのだけれど」
オーストラリアに向けてナナイロフウキンチョウがはばたいていった。
テントウは青いモルフォ蝶に囲まれていた。
「ここはなんて素晴らしいんだ。獣も魚も鳥も昆虫もマナに満ちあふれている。フローラの花園にも負けない美しい花、それに枯れる事のない川。僕にはまるでレムリアをもう一度見ているようだよ」
里香は微笑んで遠い眼をして青空を見上げた。その先にレムリアがある……
「そうねぇ、でも私は小さかったからトレニアの花畑くらいしか覚えてないの」
「この美しいアマゾンを海中に沈める事は、絶対に許さない。すぐにでも人魚のかけらを渡したいけれど、まだやつらとの決着がついていない。もう少し待ってくれないか?」
その頃、ホオジロザメの魚人はイラーレスにマンジュリカーナがアマゾンに来た事を知らされていた。
「イラーレス、人魚のかけらは集まっているのか? ヤツらは既に三個も手にしていると言うぞ」
「そうね、あんたにかかっているわね。ルシナを引きずり出すにはスザナを上手く使わないとだめだから。でもうまくいけば一度に二つも手に入る、行方不明の緑と紫は後回しにして、まずはスザナから片づけましょう、私も手伝う。ラナは私が片付けてやるわ」
「人魚の嫉妬という訳か、怖い怖い……」
(キリトはあなたなんかに渡すものか、人間のくせに……)