小麦色の娘
「なあに、ラナ姉さん、思い出し笑いしちゃって」
「昔の事を、ちょっとね。ところでテントウ、スザナはそんなに強い人魚なの?」
「僕にはわからないけれど、スザナの持つ橙色の宝玉は強く輝いている。ほら近づく度にくぼみの回りが輝きを増している」
「しっ、何か聞こえる。あっちから」
「まっ赤な川、牙、巨大な生き物がみえるわ」
里香が予知力で感じた通りだった。川はまっ赤に染まり、おびただしい殺戮のあとを物語っていた。何十と言う巨大なワニが海から上ってきた魚を食い荒らしていた。いや、それは逆だとすぐにラナは気付いた。
「あれは何?」
三角の背びれの魚群が川を上っている。それを狙った十メートルを越える大ワニが一頭、水上に放り上げられた。次の瞬間、水面をジャンプした巨大な魚たちが我先にそれを食いちぎった。川の水は新しい血しぶきで真っ赤に染まった。
「サメだ、ホオジロザメの群れだ。ワニの方が食われているんだ、信じられない」
「テントウ、きっとあれがスザナでしょうね」
里香の指差す方向に、血でまっ赤にそまった短剣でサメを次々と突き殺している娘がいた。日に焼けて小麦色の娘が大声で川岸に向かい、こう命令した。
「アナコンダ、かかれっ!」
十メートルは楽に越えた大蛇が幾匹も川に飛び込み、次々と横一文字になり川を塞き止めた。水深の浅くなっった川では、もう自由にサメは泳ぐ事はできない。動けなくなったサメを狙って今度はワニが一尾づつ這い回りその頭を噛み砕いていった。サメが逃げ去ったのを確認すると、絶命したサメから短剣を抜き取り娘はサメを蹴り飛ばして再び命令した。
「戻れっ!」
巨大な蛇は森の中へ消え、一斉に流れた川の水が巨大な死骸の塊を海に流していく。傷を追ったワニ達を一カ所に集めると娘は涙をこぼした。
「ごめんね、痛かったでしょうに」
ワニ達はしかし満足げだった。一部始終を見ていたラナもあの娘がエリナの言ったアマゾンの人魚、スザナだと確信した。気付くと、そばにいた里香が見当たらない。
「エクタノーテ・リムリカーナ!」
里香の回復の呪文が川幅いっぱいに響いた。