アフリカの人魚
その人魚は捕らえられたまま、オアシス間を旅していた。魚人はずっと同じ方法で付近の猛者を集めては殺していた。そして聖水をこうやって搾り取っていたらしい。人魚は薄い青衣装の人型に変わった。
「あなたはアフリカ大陸の人魚じゃないの?」
「私は南極のシャングリアを守る人魚『イリヤ』です。アフリカの人魚からの連絡が途絶えたので、様子を見に来たところをあの魚人に捕らえられたのです。アフリカの人魚は、もう既にメイフに連れ去られたのではないかと思います」
「なんだ、虹色テントウの探知力って、そうたいしたこと無いわね、アフリカの『人魚のかけら』ってもうとっくにないんだって」
「そんな事はないはずなのに……」
テントウはアフリカの人魚が持つ藍色の宝玉の納まる場所を確認した。そのふちは光り輝いている。
「ところであなたの持っているのは、何色の宝玉かしら?」
里香は首を傾げてイリヤに聞いた。
「それは見てのお楽しみ、さあテントウを出して私を納めてちょうだい、里香」
頷いた里香はテントウを手のひらに載せ、『イリヤ』の前に差し出した。その時、突如エリナの声がした。
「えいっ!」
土煙が上がりハンマーが振り下ろされた。ハンマーは『イリヤ』の立っていた地面を深く凹ませた。
「何をするの!」
とっさによけた彼女が叫んだ。しかし、里香もラナも微動だにしなかった。
「手の込んだ芝居をするわね、どこの人魚かしらね?」
里香が少し笑った。
「どうしてこの子の事あなたが知ってる訳?」
ラナがそう尋ねると、その人魚は落ち着いて答えた。
「マオ様から聞いたからに決まってるでしょう。早くテントウに私を納めなさい」
「私が言ったのは、ペットネームの事よ。テントウって彼を呼んでるのは私たちだけですけど」
「……」
「馬鹿ねえ、アフリカの人魚は一番の力持ち、魚人なんかにつかまるものですか」
エリナがなぎ払ったハンマーを後人魚は方宙返りをしてかろうじてかわした。
「イリヤ? そんな名前の人魚はシャングリラにはいない。メイフの手先め!」
ラナのチェーンをかわし、その人魚が高らかに笑った。
「さすがオロスの巫女ラナ、よく見破った。私はイラーレス。新しく産まれ変わる、アガルタの女王さ」
そう言い残し、人魚は何処かへ消え去った。
「私が狙っていたのは、あの人魚だったの、シャングリラの人魚に成り済まし、罠を仕掛けていると南米の人魚に連絡をもらったから、あなた達が危ないと思って狙っていたのに、逆に助けられたわね」
エリナは人魚のかけらになる前に、こう言い残した。
「アマゾンのシャングリラにお行きなさい。人魚には私のように武器を取り、メイフから宝玉を守っているものもいます、アマゾンの『スザナ』はメイフなど恐れていません。私の宝玉は藍色のかけら。マンジュリカーナ、これで回復の呪術が再び使える事でしょう。それからラナ、キリトは生きています。アガルタに人魚が連れ去ったというのはメイフの嘘、あのイラーレスが広めたのです。『スザナ』はあなたの探している『ルシナ』の事もよく知っています。アマゾンの『スザナ』に会いなさい。私たちがまたこの世に産まれてくるまで、しばらくのお別れです……」
テントウに三個目の人魚のかけらが納められた。藍色の宝玉は、しっかりと収まると、里香のマンジュリカーナのシナプスが活動を開始した。
エリナの言う通り、復活の呪文がやがてマナの力で満たされた。