林道をぬけると、川が流れていた。
川端の山桜は、もう葉桜だがきっと春には見事な桜並木。
そしてここから湧き出ている、清々しい流れ。
手を浸してみる。
(冷たくて心地よい。)
昼を大分過ぎたとはいえ、夏の日差しは容赦ない。
「はぁ〜、疲れた。結構距離あったね。
子供の頃の記憶だし、しょうがないかぁ。」
「老けたんだな。」
「そんな事言うやつは〜、こうだ!」
バシャ
水をすくって、あいつに向かって投げかける。
「やーい、やーい。」
「ガキ。」
バシャ
立ちっぱなしのあいつに、更に水を掛ける。
(もうすぐ・・・。)
バシャバシャバシャ
「・・・このぉ、倍返しだ。」
バシャーン
二人の、水の掛け合いが始まった。
(やっと笑ったか。)
そう私とこいつは、付き合っている。
大恋愛・・・なんてことは無いが、無愛想なこの人に告白するのは勇気が要った。
だって脈ありかどうか全然わかんないんだもん!
大学の入学式で知り合って、学籍番号が近かったため以来つるんでいる。
・・・もとい、私が連れまわした。
そして告白。
緊張した私と、あっけにとられた貴方。
すぐに貰えた、OKの返事。
でもね・・・。
難しい顔で、優等生しているあんたはつまらない。
夏休みを理由に、私の実家の田舎に連れ出した。
貴方の笑顔を見るのは、いつだって一苦労。
「はぁ〜、服どうすんだよ。」
「何言ってんの、夏なんだし自然乾燥で問題無し!」
「・・・そうですか。」
それから、河原に並んで腰掛けた。
今なら、この無言の時間も心地よい。
ねえ貴方は、好きになったらそれ以上距離は変わらないの?
いつだって、近くにあった疑問。
本当に好きなのかな、なんとなくとか、遊びじゃ無いよね?
見ないようにしていた、自分の心の内の引っかかり。
「そろそろ、戻るか?」
気が付けば、夕暮れ。
蜩が寂しげに鳴いていた。
「もう少し・・・。」
「そうか。」
そして夜の帳が下り、空には星が輝きだす。
「よいせっと。」
私は貴方の膝の上に乗る。
「おいおい。」
「いいのこの位、彼氏でしょ。」
『彼氏でしょ』に意外と力が入ってしまった。
「そうだな。」
貴方は、驚きながらも背中を腕で支えてくれる。
不意に光が横切った。
「蛍・・・か?」
「そうみたい、ほらあちこちに。」
辺りには、ほのかな光に満ち。
乱舞する蛍が、夜を彩る。
頬を伝う雫。
「なぜ泣く?」
「・・・ねえ、私を見てよ。」
「見つめているよ。」
(違う。)
「何でもっと近くに来てくれないの?
私は、何時だって側に・・・。
凄く好きなのに。」
「・・・。」
「不安なんだよ、何時までもこの距離が変わらないことが。」
「・・・自信が無かったんだ。」
「え?」
「明るくて、皆に好かれる君が眩し過ぎて。
何で僕の事が好きなのか、その理由が・・・。」
それは意外な告白。
案外デリケートなんだね、そして自分の風評に無頓着。
結構人気あるんだよ、あんたは。
「バカ、好きなのに・・・理由なんて聞かないでよ。」
「そうだな。」
軽く口付ける。
「私あんたに聞いて欲しい事が、まだたくさんあるの。」
「焦る事なんて無いさ。
これからもずっと好きなんだから。
嬉しい事だけじゃない、不安な事も、何もかも伝え合える。」
彼は、僅かに笑った。
ツイ
おでこを、人差し指で突く。
「間違い、これからはもっと好きになっていくんだから。」
「・・・そうだな。
来年の春には、またここに来よう。
きっと桜が綺麗だ。」
この葉桜は、秋に色付き、冬に枯れそして春が来るのだろう。
流れてゆく季節、この想いはずっと二人で育んでいこう。
「ね、大好きだよ。」
答えを待たずに、私は貴方に深くキスをした。
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