初めての友達
「やめて、離してよ!!」
少女の声が階段に響く。3人組の男子がその少女を取り囲む。
「なんだよ化け物!前みたいに暴れてみろよ、炎を出せよ!」
一番背の高いリーダー的存在の彼は言う。
「だから、炎って何のこと!?」
「とぼけんじゃねえよ!お前のせいで一回、施設が火事になっただろ!」
「痛いっ」
少女を掴む手に力が入る。
「本当に僕、なにも…なにも知らないんだ…。」
その火事の事ははっきりと覚えている。僕の前にいる三人も同じ施設で育ったのだ。火事が起こった日、その日も僕はいじめられていた。髪を引っ張られたり殴られたりした。そして突然、意識がフッと途絶えた。再び目を覚ますと目の前には、炎に包まれる施設があった。
「何度も言っているでしょ!?君たちに殴られて意識が飛んで、目が覚めたら火事になっていた。」
「俺は見たんだよ!お前の手から炎が出るのを!」バシッ!
バランスを崩し、少女は階段から転げ落ちた。
「…っ!!」
肩と足に激痛が走る。意識がどんどん遠のいていく。少女は意識を失う瞬間、無意識にこう呟いた。
「タクト…。」
目を覚ますと見慣れない天井が目に入る。
「あ、目覚ました?」
聞きなれない少女の声。
「あの…ここは…?」
「病院だよ。今、先生呼んでくるからちょっと待っててね。」
そう言い残してタタタと去って行った。病院?自分の体を確かめる。白い包帯が体中あちこちに巻かれている。そっか、階段から突き落とされたんだっけ。おとなしく待っていると、さきほどの女の子が帰ってきた。後ろには医師らしい白衣を着た若い女の人。その女性は僕に
「ヒア=ドルディアさんですね?事情は学校の先生から聞きました。治るまで入院しててください」とだけ言い、そそくさと部屋を出て行った。そのときヒアは聞き逃さなかった。医師が「呪われた子…」と呟いたのを…。医師の背中を睨んでいると明るい声が聞こえてきた。
「さっき先生がヒア=ドルディアさんって言っていたけど貴方、外国の人なの?」
僕は驚くしかなかった。そしてゆっくりと口を開いた。
「外国人かは…わからない。両親いないから。…それより僕の見た目、気味が悪くないのか?」
「ごめんなさい、不謹慎で…。でも貴方は素敵だわ!私、天川桜。ヒアって英語で聴くって意味よね。ねぇ、ヒアちゃんの事、菊ちゃんって呼んでもいいかしら?」
「そんな風に呼んでもらえるなんて嬉しい…。でも…僕は化け物扱いされてる。そんな僕と一緒に居たら、友達が会いに来れないよ。」
明るかったはずの桜の顔が急に曇る。
「私に友達なんていないわ…。ずっと入退院の繰り返し。そんな人と友達になろうと思う人なんかいるわけ…ゴホッゴホッ。」
「桜、大丈夫!?」
急にせき込み始めた桜を心配して僕はナースコールを押した。一分もたたないうちに道具を持った医師が現れ、治療を始め発作はおさまった。
「いつもはこんなことないのに…そこの化け物のせいよ!桜ちゃん。やっぱり個室に戻しましょう?」
「菊ちゃんを化け物なんて呼ばないで!私に初めてできた友達なんだから!!」
「桜…僕のせいで具合が悪くなるんだったら個室にしよう?」
「そうよ。ば…ヒアちゃんの言うとおりだわ。」
「いやなの!それに菊ちゃんのせいじゃない!私は菊ちゃんと同じ部屋がいいの!」
桜の顔は真剣だった。その真剣さに医師は負け
「そんなに言うなら、このままでいいわ。ただし、これ以上具合が悪くなるようなら個室にしますからね。」と言いヒアをキッと睨んで部屋を出て行った。部屋に沈黙が走る。
「…ごめん。」
なんとか声を振り絞って言った。
「ううん。」
桜は首を横に振る。
「菊ちゃんは何も悪くない。ただこの世界の空気が悪いだけ。」
世界?ずいぶん大それた言い方をするものだ。
「疲れちゃったから私、今日は寝るね。お休み。」
気がつけば夜になっていた。
「…お休み。」とだけ言い、僕もベッドに横になった。
怪我をした体は無理をしていたのか疲れがどっと押し寄せる。そのままヒアは眠りについた。