嫐られ、激情の果てに咲くのは、剥き出しの俺。(7/7)PDFで表示縦書き表示RDF


嫐られ、激情の果てに咲くのは、剥き出しの俺。
作:森本エリ



嫐られ、激情の果てに咲くのは、剥き出しの俺。



 虎壱は、一人で劇場の外に出た。
 すっかり日も暮れたが、生暖かい風のお陰で、寒さは感じなかったが身体の震えが止まらなかった。
「いいって、気にしないで」
 ヒミコに追い出されるように、銀獅がベニヤのドアから出て来た。
 押し問答が続いた挙句、銀獅はヒミコにねだられ、携帯番号を教えるはめになっていた。

 虎壱は、低いコンクリートの塀に腰を下ろし、頭を抱えた。
 尻ポケットに入れていた携帯番号が、思い出したように震えた。
 ディスプレイを確認すると、“実世子”と表示され、眺めているうちに切れた。
 携帯電話を開いて見ると不在着信が二十件と、新着メール八件の表示があった。
そして、再び、振動した。
 虎壱は、カッとなって衝動のままにそれをアスファルトに叩きつけた。 精密機械と言われるそれは、無残にひしゃげて一瞬発光すると、諦めたように沈黙した。
 虎壱は再び頭を抱えて俯いた。

「今日は厄日になってしもうたな」
 いつの間にか目の前に影が出来て、銀獅の声が落ちてきた。
 虎壱は、顔を上げて憮然とした表情で、銀獅をみた。

「どっちもどっちやったって、あん娘が言いよった」
 銀獅は、相変わらず煙草をふかしていた。
「……銀獅さん……」
 虎壱は、なにかが切れたように涙腺から込み上げてくるものを感じた。
「……俺……」
虎壱の脳裏に、実世子や年増女の顔が一気に過ぎった。
 銀獅が大きな息を吐くのがわかった。
 気配が近付き、大きな掌が、肩に置かれ、虎壱の涙腺はついに堰を切った。
「……俺のせいかも知れんな。俺がこげなとこ連れて来たけん……」

 銀獅の言葉を遮るように虎壱は首を横に振った。
「……違うんです。……俺……、実世子が……」
 虎壱は、言葉の組み立てかたを忘れたように呟いた。
 実世子が“愛している”と繰り返す度に、心が離れていく事や、束縛されるほど、息苦しくなること、彼女の好意が恐ろしくなることや、便所での出来事を喋り倒した。
 言葉を連ねた後、胸の中が空っぽになったような気がした。
 そして、漠然とした不安だけが残った。

「……銀獅さん……、人を愛するって……どんなことなんですか? 愛ってなんなんですか? 愛や善意は、押しつけるものなんですか? 」

 虎壱は泣きじゃくりながら、銀獅のモスグリーンのシャツの胸元にすがりついた。
 銀獅は、虎壱の肩を強くて掴み、片手で頬を叩いた。

「いいか? 虎壱、無償の愛に辿着ける人間なんか、今の世の中に、ほとんどおらん。この世に、他人を愛することのできる人間は、ほとんどおらん」

 銀獅の言葉に、虎壱は脱力した。
 銀獅は、崩れ落ちそうな虎壱の胸倉を掴み、引っ張りあげた。

「虎壱、器のでかい男になれ。押しつけられる愛情に潰されるようじゃいかん。甘えるな。中途半端に受け止めるな。半端に流すくらいなら、最初から取り入れるようなことすんな」

 銀獅の、強い眼差しが、涙で滲んだ。
 ただ、流されて来た今までの自分を思った。
 なんの意志もなく、用意された場所にいた自分に苛立った。
 虎壱は、生まれて初めて、涙が止まらないかもしれないと、思った。
 しかし、涙と共に、胸の中に滞留していたヘドロがでていくような気がした。
 頭痛がするほど泣く機会は、二度とないだろう。そう思いながら、銀獅にすがりついたまま泣き続けたのだった。


おもいつくまま書きなぐりました。最後までお付き合い下さりありがとうございました。きっかけとなった曲は、ドーベルマンで“ストリッパー”でした。













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