「ねぇ知ってる? お金さえ払ったら誰でも始末してくれる始末屋っていうのがあるんだって」
「本当に?…今の世の中ですもの恨み言の一つや二つはねぇ」
時は明治 時代は変わっても裏では犯罪が無くなることはなかった。
「また殺しか…此処の所毎日だな」
有名作家の近藤烈は今朝起きた事件を友人であり警官の小笠原有親から聞いていた
「…しかも調べれば調べる程全く見えないんだ。こんな事件聞いたことがない」
有親の話を聞くと事の起こりは先月 1人の女性が惨殺死体となって発見されたことだった。
その女性は身よりもなく何かに巻き込まれた程度で捜査は終了したのだが、それだけでは
終わらず此処の所毎日女性の惨殺事件が起こっていて警察も手を焼いていた。
「此処の所寝て無くてね…早く終わってほしいよ」
「有親も無理はするなよ?…今のところ解っているのは若い女性が狙われるって事なんだろ?」
「ああ…薙ちゃんにも注意するようにって云っといてくれよ。」
「ああ。伝えておくよ」
有親はフラフラになりながら帰っていった。
その様子を窓から見ていた烈は背後に向かって独り言のように
「実際はどうなんだ?」
と聞いた。すると襖が開いて年頃の娘が入ってきた
「どうやら…外人も関係しているようですよ。先生」
「外人も?…薬物か?」
「人買い目的で来日してる外人さんに見目美しい娘や里から働きに出た娘達を渡しているとか…えげつない奴らだわ」
「そうか…弥吉はどうした?」
「弥吉さんは犯人達のアジトの割り出しに…どうやら尻尾は掴んだようですけどね」
烈は有親に見せた友好的な笑みではなく好戦的な笑みを浮かべた
「証拠が揃い次第…始末するか」
「依頼ないのに…ですか?」
「依頼なら受けたよ。昨日惨殺死体で見つかった娘の両親から」
懐から手紙を取りだした。
「金はいつも通り後で分けるとして…薙。お前にやってほしい役がある」
烈は薙に耳打ちすると薙は驚くでもなく冷静に
「承知しました。」
と了承した。
「そうと決まれば、弥吉に連絡をしてくれ…なるべく急げとな」
「はい。…では失礼します。御頭様」
薙が音を立てずに消えると烈は書きかけだった小説を完成させようと文机に向かった。
それから程なくして弥吉からアジトの情報と誰がどう関係しているか等の情報がもたらされた
「今回はいかがなさいます?」
「薙に身代わりを頼んだ。…弥吉は薙を見張っていろ。」
「はい。…しかし我々だけでは荷が重すぎませんか?」
弥吉は初老の男性で顎髭が特徴の好々爺だった。
「…何分急な故、皆と連絡が付かんのだ。あれらも忙しいからな」
「では…御頭も自ら?」
「何か可笑しいか?」
「いえ。…まさか貴方が自ら行うとは思いませんでしたので」
弥吉は緊張していた。作家としての烈と自分たちの頭である烈とでは雰囲気が全然違うからだ。
今の烈からは殺気と威圧感がにじみ出ていた。
「それだけ大がかりな仕事になるというワケだ。心してかかるように」
「はっ」
烈の傍らに控えていた薙もこの威圧感には耐えられなかったのか話は聞いていても烈の顔を見れなかった。
「薙。…無理だと思ったら深追いはするな」
「はっ…はい!」
薙が震えている原因が自分にあると見抜いた烈は威圧感を弱めてやりよしよしと薙の頭を撫でた。
薙が去ると弥吉に
「弥吉。…俺はどうしようもないバカだな」
と漏らした。弥吉は何を言っているのか解らずに目を丸くした
「は?」
「薙を巻き込む事は反対だっただろ?…なのに巻き込んでしまった」
「何をおっしゃいます。親兄弟を亡くした薙を引き取ったのは貴方、ならば薙をどうするかも貴方が決めてよいのですよ?」
「付いてくるか否かは自分ででも判別できる。それを半場強引に引き入れたのは俺だ」
時代は変革を求めている。いつまでも自分達を必要とはしない…しかし闇に生きる者が光を浴びるなど許されない。だから始末屋を作って金儲けの為に人を殺し続けている。この先もずっと
「伊賀忍の頭領である貴方らしからぬお言葉ですね」
「やめてくれ。…そういう肩書きは嫌いだ」
烈は一瞬だけ殺気を放ち弥吉を黙らせた。
夜
「お嬢ちゃん可愛いねぇ…どうだい?働き口紹介するけど来ないかい?」
人の良さそうな男に云われて薙はにこっと微笑みながら
「ええ。丁度故郷の父が倒れたと聞いて働き口を探していたの。」
「それはよかった。金になる仕事だからお父さんきっとよくなるよ?」
そう云って連れてこられたのはとある子爵の屋敷だった。
「今回は失敗しないようにするんだぞ!…この事がバレたら私は終わりなんだ」
「解っておりますよ。有栖川様はいつも通りになさってくだされば結構お客様を喜ばせるのはおなご次第ですからねぇ」
「今回のがしたら私が変わりに殺されてしまう。…絶対逃すな!!」
「はい。」
有栖川はヒステリックになりかけていたが薙を連れてこさせると
「今回の娘か…金は希望する金額を払う。だが、払う代わりにお前は一生出らんぞ?」
「構いません。…だってそれは貴方だって同じだもの」
「何?」
薙は演技を止めて懐から小刀を出した。
「有栖川子爵殿。お命頂戴します!」
斬りつけようとしたが多勢に無勢だったのですぐに捕まるだろうと有栖川は踏んでいた。
だが…
「有栖川様大変です!!」
「どうした!?」
見張りの連中が蒼白になっていたので何事かと聞こうとしたがその前に倒れてしまった。
「有栖川子爵…並びに蛇柳組の辰五郎殿とお見受けする」
そこには忍装束を着た烈と弥吉がいた。
「貴様等…何者!」
「名乗る必要はない。我等は貴殿等を始末しに来た」
冷酷に言い放つと雑魚はどうでもいいと云うような目でその部屋にいた下っ端を睨み付けてから一足飛びで辰五郎の所まで飛んで一太刀浴びせた。
「御頭様!」
駆け寄ってくる薙を背後に庇ってやりながら
「有栖川殿ご覚悟を」
と言い放ち毒を塗っている手裏剣でとどめを刺した。
その後すぐに警察が駆けつけて一連の事件の犯人が分かったが仲間割れでもしたのだろう…と片づけられてしまった。
「いやぁ。やっとゆっくり寝られるよ。ほんと良かった良かった」
「よくないだろう?…顧客とやらの割り出しも残っているようだし」
有親はそうだった…と言いたげな表情だったが
「そう言えば烈。薙ちゃんは?」
「薙なら弥吉爺の手伝いをしてるだろうから今一階にいるぞ?」
弥吉も普段は団子屋を営んでいて薙はその手伝いをしているのだ。
「そっか。薙ちゃんがもしあんな目にあったらと思うと…恐いよなぁ」
「その時は…俺が相手を殺すだけだ」
小声でそう呟くと
「何か云ったか?」
と聞かれたので
「いや…何でも」
かりそめの平和ではあるけれど平和が一番だと烈は思った。
END
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