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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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83 五十鈴会議

ぎりぎり、二ヵ月以内に……。
八十三



 内裏の一室。座卓を囲むように、五十鈴連盟の重役が並ぶ。
 連盟のトップであるカグラことウズメは当然として、主力戦闘部隊の隊長と同参謀、マルチカラーズ隊総隊長、統括員代表、そしてヒドゥンが二人。現在、即座に召集できたこのメンバーで、ミラの届けた情報を議題にしての緊急会議が開かれていた。
 当のミラはというと、現在は別室で待機している。カグラにとっては信頼に足り、更にソロモン王の名の下に協力する姿勢があるとはいえ、幹部達にはミラについて幾分の説明時間が必要な為だ。
 ミラは待機中は、和式に近い作りの便器を前に困惑したり、久し振りに味わう和菓子に舌鼓を打ったりしており、その間はずっとアカドリと談笑を交わしていた。そしてこの時にミラは聞かされる。ニャン丸の術士は、短い間ではあるがカグラに指導を受けていた事や、その流れで式神の名前が「ニャン丸」になる事を余儀なくされたのだと。そしてそれはアカドリにしても他人事ではなく、ミラを迎えに来た時の赤い鳥、式神の朱翼大鷲の名前は「ピヨ之進」だという。その時のアカドリは「尊敬できる方なんですけど……」と呟き遠くを見つめていた。
 ミラは、掛ける言葉が見つからず、ただ同情するだけで精一杯だった。

 そうこうして暫くすると男が呼びに来て、ミラは会議室へと赴く。
 そこは最初にカグラと話した部屋と似たような造りで、違いを挙げるならば、中央に置かれている座卓が正方形であるという事くらいだろう。そんな座卓を囲む幹部達は相応の雰囲気を纏っており、その者達の視線が入室と共に一斉にミラへと集中する。ミラが内心で怯んでいる中、カグラが「こっちこっち」と手招きをした。
 ミラの移動に合わせて視線も移動する。そしてミラは促されるままに、カグラこと五十鈴連盟の総帥ウズメの隣に坐る。

「この子が、さっき話した情報を届けてくれたアルカイト王国からの使者。それと皆も知っているわよね、キメラクローゼンの一人を捕らえた時の協力者でもあるわ」

「ミラじゃ」

 ウズメが紹介すると、ミラは簡潔に名乗る。
 同時に感嘆するような声が上がった。特に、キメラクローゼンの一人を捕らえたという情報は、当時瞬く間に五十鈴連盟の関係者に知れ渡る事となり、皆でその偉業を讃えていたからだ。現在行っているキメラクローゼンの各拠点を落す切っ掛けとなった出来事である。その功労者が、目の前に坐る少女であるという。その身体にどれ程の力を秘めているのかと、幹部達は興味津々であった。

「それともう一つ、彼女は九賢者の一人、ダンブルフの弟子でもあるわ」

 ウズメがここぞとばかりにそう続けると、その場からすとんと音が抜け落ちる。だがそれも僅かの間で、ウズメがカグラであるという事を知る幹部の一人は、その言葉を素直に飲み込んでいた。

「偽物の話は、時折耳にしますが……。ウズメ様が言うのでしたら本物という事でしょう。キメラの上を行くのも納得ですな」

 幹部の中でウズメの一番近くに坐している初老の男は、ミラ好みの髭を蓄えた顎を揺らしながら、ウズメの言葉を肯定する。そして、その言葉を受けた他の幹部の者達も、確かにと納得して口々にミラを称賛した。
 そんな称賛のついでとでもいった流れで、それぞれの者達が自己紹介を始める。

「ベレロフォン隊という部隊の隊長を任されているミザールだ。よろしく頼む」

「同じく、ベレロフォン隊の参謀。アリオトでございます」

 ベレロフォン隊という二人の内、隊長と名乗ったミザールは、簡素な革鎧を着ている。歳は四十を過ぎたあたりだろうか、皺が目立ち始めたその厳つい表情を崩さぬまま、ミラへと真っ直ぐ視線を向けていた。
 アリオトと名乗った者は、先程ミラが弟子であると肯定した初老の男だ。飾り気の無いローブを纏い、ロマンスグレーの頭髪をオールバックに決めている。

「話で聞かせてもらった。シルバーの隊が世話になったようだな。俺はマルチカラーズ隊の総隊長を務めているコンゴウ。よろしくな」

 浅黒い肌と、ここに居る全員と比べて一回りも二回りも大きな体躯はガリディア族のものだ。白い髪は短く刈り揃えられ、無精髭が残雪のように顔の半分を埋めていた。コンゴウという男は身体の割には小さな目をミラに向けて快活に笑った。

「僕は、コフィン。各国の統括員のまとめ役、とでもいえばいいかな」

 小さく手を振り名乗るコフィン。この世界では一般的な街着であるズボンにシャツ、そこに法被のようなものを羽織っており、ミラを除けばこの中で一番若く見える。だが、長命種であるエルフの特徴が見られる為、実年齢は定かではない。

「ヒドゥンのヘビ」

「同じく、サソリだよ」

 ヒドゥンと名乗った二人は、街中を歩く冒険者と大差の無い服装で、ヘビは白いローブ、サソリは甲虫素材の胸当てをしていた。どちらも女性であり、長い黒髪で目付きが鋭いのがヘビ、桃色ショートカットでにこやかな笑顔を浮べているメオウ族がサソリだ。

「さて、自己紹介は終わったわね。じゃあ、話を戻しましょう」

 一通り落ち着いたところを見計らって、ウズメが会議を再開する。その一声は可愛らしい少女の登場により思わず緩んだ場を引き締め直し、意識を対キメラクローゼンに統一させる。 

「さっき話した三つのダンジョン。これに、こちらからも精鋭を送り込むわよ」

 ミラの届けた情報はほぼ伝えられており、その件に関しての本格的な話し合いを前にミラは呼ばれたのだ。

「そうだな、これ程に貴重な情報。奴らの幹部を捕らえる事が出来れば、局面は大いに動く。しかしこの情報、もう少し精査した方がいいのではないか? 聞いた限り精霊王を狙っているというのは、まだ憶測の域だろう。我々を誘い出す為の罠ということも考えられる」

 ミザールはそう言って一つの懸念を挙げた。キメラクローゼンの目的が精霊王であるというのは、その動向から推察したに過ぎない。実際は予想が全く外れていたり、周到に仕掛けられた罠という恐れもあるのだ。
 尤もな話だと、誰ともなく思慮に落ちる溜息が漏れ、座卓を囲むようにして座布団の上に座った異国情緒あふれる顔ぶれが一斉に沈黙した。だがそこで参謀のアリオトが、ある推論を口にする。

「確かにその確率もありますが、キメラが精霊王を狙っているというのもまた我らで掴んだ状況から推察できそうですな」

 ベレロフォン隊の参謀アリオト。彼は五十鈴連盟の頭脳であり、ウズメの正体を知っている数少ない一人だ。メンバーからは絶大な信頼を寄せられており、彼がそう言葉を発すると瞬く間に視線を一身に集めた。ミラもまた、興味深げに顔を向ける。

「流石アリオトね。聞かせて」

「では……」

 ウズメが促すとアリオトは懐から折り畳まれた紙を取り出し座卓の上に広げた。両手を左右に伸ばした長さよりも大きなそれは大陸図であり、無数の印が全体的に書き込まれている。

「知っての通り現在キメラの各拠点を奇襲し、数多くの物資や情報を獲得しています。この地図の印はその拠点のあった場所ですな。既に五十は超え、まだまだ増えていく事でしょう。流石、とでもいいますかキメラは逃げ足が速く拠点の数の割に、捕らえた人数は少ない。ですが、確実に戦力を削ぐ事には繋がっています。もはや時間の問題と言っても過言ではないでしょう」

「そうだな。下っ端ばかりだが、それでも精霊達の被害は確実に減っている。その分、寝る暇も無いと隊員から毎日泣き言が届くんだがな」

 アリオトが再確認するように示した情報に、マルチカラーズ隊総隊長のコンゴウが苦笑気味に、だが自信に満ちた笑みを浮かべて相槌を打つ。キメラクローゼンの拠点襲撃は、マルチカラーズ隊が主軸となって動いており、そこに移送員などが合流している形となっている。今までの調査とは違い確実にキメラクローゼンの戦力を削いでいる事が実感できるため、届けられる泣き言は冗談半分がほとんどで、コンゴウは一笑して尚励むようにと発破をかけているそうだ。

「では本題を。この現状から分かるように今、我々には追い風が、あちらには向かい風が吹いている状況でしょう。ですがキメラの事です、このまま終わるとは到底思えません。そこで今回の情報ですな。話によれば、キメラに加担する冒険者の動きが目立ってきたのは最近とのこと。我々が拠点潰しを行い始めたのもまた最近。やつらが精霊王の力を得れば、確実に戦況は反転します。元より戦力はこちらが上でしたから、それを覆す何らかの策を用意していたでしょうし、それを今回を機に実行に移した。そうも考えられますな」

 アリオトが話を終えると、しきりに頷いていたウズメが真っ先に口を開く。

「うん、私達はこれまでにないくらい優勢。でもそうよね、このままあいつらが黙っているなんてあり得ないわ」

 純粋な戦力では劣っていると承知しているキメラクローゼンは、不利と判断すれば即座に逃走を図るよう徹底している。しかし現状のままでは手足を全てもぎ取られるもの確かだ。故に、一気攻勢に出たとも考えられる。

「可能性があれば、多少のリスクも負うべきだろう」

 ミザールが固い表情のままで言う。
 ミラの届けた手紙に書かれていたのは全て上級ダンジョンの名である。その難易度は現在、上級に上がりたて程度の冒険者が攻略できるものではない。つまりは、送り込まれるキメラクローゼンの者や関係者も相当の手練れとなるだろう。そしてキメラクローゼンにとっても重大な仕事であるため、その中に上層部と繋がりのある者が混ざっていても不思議ではない。今回は、それを狙うという作戦だ。成功すれば未だ判明していない敵の本拠地を知ることができる可能性がある。ミザールの言うように、危険性を考慮しても実行する意味はあるだろう。
 アリオトも罠では無いと言いきらず、その危険性を内包したまま、それでも事に当たる価値は十分とした。皆もそれに納得すると、では、様々な蓋然性を含んだ今回の任務を遂行できる者は誰が居るのかという話へと移って行く。

「生半可な実力だと対処しきれなくなる事もあるだろうし、相手の数も不明。場所も散らばってる。僕達が出られればいいけど、ここを留守には出来ないし。精鋭を送るって言うけど、誰を送るのかな?」

 コフィンは、その場に会した顔ぶれを一望してから窺うようにウズメに視線を向けた。確実に捕らえるならば、それこそ相手の倍の戦力は必要となる。そして五十鈴連盟最大の任務ともなれば、必要なのは精鋭中の精鋭だろう。
 コフィンに続き全員が注目する中、ウズメは軽く唇を濡らすように舌先を出し、一呼吸置いてから口を開く。

「全ヒドゥンを集結、チームにしてダンジョンに向かわせようと思うの」

 その言葉と共に、張りつめるようだった五十鈴連盟の幹部の顔つきが緩む。

「適任でしょう」

「そうだな。十分任せられるだろう」

 アリオトとミザールが即ウズメの案を肯定すれば、他の幹部の四人も続いて支持の意思を示す。

「でしょう!」と、まるで百点満点を取った子供のようにウズメは表情を輝かせた。

 幹部達はウズメが自ら出ると言うのではないかと、内心はらはらとしていたのだ。何かにつけて出張ろうとするウズメを、あれやこれやで宥めては方々に手を尽くすのは彼等の仕事の内である。今回もその懸念があったが、どうにか最も無難な人選で落ち着いたと胸を撫で下ろす。

「今ヒドゥンの皆はどこにいるかしら?」

 そうウズメが問えば座卓に広げられた大陸図に、アリオトが迅速に印を刻んでいく。ヒドゥンの動きもまた彼が把握しているようだ。

「昨日までの報告によると、現状の分布はこの辺りかと」

 印は全部で十。それにこの場にいる二人を加えて、ヒドゥンは全十二名となる。ウズメが大陸図を睨んでいると、更に三つの印が追加された。

「天秤の城塞、防人の書庫、幻影回廊はこの位置に。見たところ、書庫と回廊は問題なさそうですな。一日から二日もあれば全員が最寄のダンジョンに到着できるでしょう。あとは、ダンジョンの許可証と……城塞の方ですか」

 新しく加えられた場所の周辺には、確かに先程のヒドゥンを示す印が遠くない距離に書き込まれていた。その三箇所はダンジョンであるが故に、組合の許可証は必要になる。アリオトは大陸図に視線を落としたまま、脳内で何事かを解決させていくと何度か頷き結論を口にする。

「丁度良く、Aランク以上の資格を持つ者が散っていますね。この者達に許可証を発行してもらえば、書庫と回廊は問題なさそうですな。しかし、城塞はどうにもこうにも。現状の配置から考えて、この本部から人員を送った方が早いでしょう」

「そうね、ヘビとサソリと……二人だけだと心配よね」

 他の二箇所には五人ずつでうまく組み分けが出来るが、天秤の城塞だけが二人。実力はあるが相手の編成が不明確な為、それだけでは不安が残る人数だ。
 同席しているヒドゥンの二人も自身の腕に覚えはあるが、今回の任務の重要性は認識しているため、その言葉を甘んじて受け入れている。

「二人は、Cランク止まりだったはず。なれば、Aランクの協力者を最低一人確保しないとですな」

 そうアリオトが続ければ、ヘビとサソリは声も無く頷く。
 Aランク冒険者となると、天上廃都へ向かう途中で出会ったハインリヒのような実力者である。早々に協力を取り付けられるものではないかと思われるが、ここ五十鈴連盟の本部には協力している冒険者も多く滞在していた。ウズメは、その中から一人を選び出せば良いだろうと考え、あとは一人で十分としてミラへ視線を向けた。

「ところで、……ミラちゃん。四季の森には空から来たって聞いたけど、具体的にはどうやって?」

 ウズメの問い掛けに反応してミラは大陸図から視線を外し、質問内容を脳内で反復するとキメ顔で答える。

「ワゴンに乗って、わしが召喚したガルーダに運ばせたのじゃよ」

「やっぱりかー。飛行できる大型の使役系があるとそんな事も出来るのね。羨ましいわ」

 ウズメは、カボチャの馬車のようなメルヘンチックなワゴンを脳裏に浮べると、それに乗って空を飛ぶ自分の姿を想像する。陰陽術にも使役系の術はあるが、ガルーダほど大きな体格のものはいない。なので乗るかしがみ付くのが精一杯であり、快適そうで更にお姫様のようでもあるミラの移動方法に、ウズメは心底羨ましいと感じるのだった。

「ところで、そのワゴンには何人くらい乗れるのかしら?」

「ふーむ、そうじゃな……。三人程度かのぅ」

 ミラは、ワゴン内を思い出しながら言う。自分が坐り、もう一人、更にもう一人と空間に配置した結果から導かれた定員。それ以上は、若干窮屈になってくるだろうと予想しての答えだ。

「三人かぁ。あ、組合の登録はしてるかしら?」

「うむ、しておる。とはいえCランクじゃから、許可証は発行してもらえぬがな」

 質問から意味を考慮して、ミラは先にランクが足りない事を伝えた。ウズメは「おじいちゃんなら簡単なんだから取っておきなさいよ」と誰にも聞えない程度の声量で呟くと、同席しているヒドゥンの二人に視線を向ける。

「なら仕方ないわね。ヘビ、貴女は留守番。ミラちゃんとサソリ、それとAランクの一人に協力してもらって許可証を入手。移動は空飛ぶワゴンで最短距離を。それでいいわね?」

 その言葉は決定事項として告げられ、最後の了承を問う一言は主にミラ、そしてヘビに向けられる。

「構わぬ」

「……分かった」

 ミラは、もはや乗りかかった船だとばかりに答え、ヘビもまた少し遅れて頷く。だが、メンバーから外されたヘビは、口を真一文字に結んだまま不機嫌そうに長い黒髪を指先で弄っていた。何より今後を左右するであろう重要な任務に、ヒドゥンで自分一人だけが関われず、あろう事か、その原因が何かの乗り物の人数制限によるものだというのだ。敬愛するウズメの命令とはいえ、ヘビは即座に納得する事が出来なかった。
 そんな姿を見かねたのか、コンゴウが「あー、なんだ」と不本意ながら声を上げ、着地地点を探るように言葉を選び口にする。

「キメラは相当に強いやつらが来る事を予想しているんだよな。それと、Aランクのダンジョンともなれば魔物も相当だろ。単純な探索だけならまだあれだが、数も分からねぇ相手と戦いに行くってんなら三人は少なくないか?」

 そうコンゴウが言うと、ヘビは即座に顔を上げてしきりに頷いて、その勢いのまま言葉を続ける。

「今回は、最重要の任務。成功させるのは絶対。三人は危険。なので、同行希望」

 見た目よりも幼げな声色で、ヘビが淡々と文を並べる。しかも文の終わり毎に両手で座卓を叩きながら主張していた。
 この時点では、ウズメと幹部達に僅かな相違があった。それは純粋な戦力に関してだ。ウズメの作戦内容は、完全にミラを最大戦力として提案されている。ウズメは九賢者本人と知り、その実力を把握しているが、幹部達は九賢者の弟子として紹介されただけで、話で聞いた程でしか理解していないのだ。認識としては上級術士よりは強い、または自分達と同程度だろう、といったところである。

「そうですな。今回は今までで最重要の任務、なんとしても成功させねばなりません。そもそも使者の方に我々の任務を助力してもらおうという事からしてどうかとも思いますが……ミラ様が同意している以上、何かしらの約定でもあるのでしょう。しかし賢者の弟子とはいえ、実力を知らぬまま任せるのも不安が残るでしょうな」

 五十鈴連盟設立後、最大の任務に今日来たばかりのアルカイト王国の使者を組み込む。ミラは、転機を与えてくれた恩人ではあるものの、まだ信頼関係もあやふやで、幹部達からすると部外者の域を出ない存在だ。だが、組織の頭であるウズメが全面的に信頼を寄せていると態度で分かる。
 ウズメは、九賢者であるカグラと同一人物、そしてアルカイト王国といえば、その九賢者を有する国だ。同国の使者だから信じている、または、かつての同胞であるダンブルフの弟子ということも関係しているのかもしれない。アリオトは、ウズメとミラの信頼関係をそのように捉えていた。
 座卓に置かれたままになっているソロモンからの手紙を一瞥して、そこにもなにか書いてあったのだろうと推察すると、アリオトは当の不明確な少女を窺うように視線だけを向けた。するとどうだろうか、まるで吟味しているかのようにじっと見つめてくるミラと目が合った。
 賢者の弟子は、どれ程の実力なのか。見た目から少しでも推し量ろうとしたアリオトであったが、それは逆だったのではないかと自分の行いを省みる。少女にとっては、自分達が手を貸すに値するかどうかの存在であったのかと。

「その辺りは問題ないわ。彼女の人柄は私が保証するし、その実力もね。たぶん今ここで本気でやりあえば、十分後、わたし以外は立っていないでしょうね」

 ウズメの正体を知るアリオトとミザール、コンゴウが、そんなまさかとほぼ反射的にミラへと目を向ける。他の面々も少し遅れて少女を見た。
 ミラは弟子と名乗ってはいるが、そもそも賢者本人だ。幹部達の力量を知るウズメがそう言えばそれは事実なのだろう。
 対して、なかなか理想的な老い方をしているアリオトから参考に出来ることは無いかと観察していたミラは、自身に集中する視線を受けて、まるで身体が透けているのではないかというような得体の知れない居心地の悪さに苦笑していた。

「うーむ、言い過ぎの気もするがのぅ。まあ、若いもんには早々遅れはとらぬ。それと天秤の城塞じゃったな。あの程度の魔物ならば、心配無用じゃ。問題は、キメラの精鋭とやらがどれ程かというところじゃのぅ」

 ミラの返答は概ね肯定であった。ヘビが少しだけ顔を顰めるも、ウズメは当然だと手柄でも取ったかのように鼻を高くする。他の幹部達は、事も無げに言うその自信に真実味を垣間見た。すると、その言葉に一人が反応を見せる。

「あたしなら分かるよ」

 サソリがミラの疑問に答えるように名乗りをあげた。

「前に一度だけ、キメラの幹部と鉢合わせた事があったんだ。幹部といっても、キメラの中でどの程度の位置かは断定できないけど、下っ端とは明らかに格が違ったよ。だいたいだけど、あたしと同程度、かな。でも逃げられなければ、あたしが勝ってたけど!」

 多少の自尊心をのぞかせながら推測を口にするサソリ。とはいえ、発言者であるサソリの実力が分からなければ比較にはならない。サソリはそれを理解して、且つ、ウズメがそこまで言うミラとはどれ程の実力かと好奇心にも似た感情を隠そうともせず、表情に浮べたまま提案する。

「ウズメさんを信じないわけじゃないけどさ、一度、ミラさんの実力を確かめるのはどうかな。あたしが相手をするから。その方が皆も安心して任せられるし、ヘビも納得できると思う」

「ええ、それが一番ですな」

 任務の重大性から考えて、慎重に慎重を重ねるくらいが丁度良いだろうと、アリオトが即座に同意する。そしてウズメもまた幹部達の気持ちを理解し、それでも尚、ミラの勝利を確信していた。

「分かったわ。少し付き合ってもらってもいいかしら?」

 せめてサソリが自信を粉々に打ち砕かれませんようにと祈りながら、ウズメはミラに問う。

「うむ、構わぬ」

 ミラとしても、キメラの精鋭がどの程度なのかを知る良い機会だとして快諾する。そして、会議は一時中断となり、一行は内裏中央に位置する庭に赴くのだった。
あれなんです。FFは落ち着いてきたんです。
しかし、時間が。


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