挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

83/232

82 カグラ

お待たせしましたー!
八十二



「化粧箱使っちゃったのね。イメージが逆方向過ぎて、直ぐには気付かなかったわよ、もう」

 カグラは体裁を気にする必要が無くなったからか、気を抜いたように脚を崩して伸ばし、被っていた笠を鬱陶しそうに脱ぎ捨てる。すると閉じ込められていた黒曜石のように艶やかな長髪が、空気を含んでふわりと舞い広がった。

「お主もそのような布で顔を隠しおって。初めから見えていれば問答など必要なかったのにのぅ」

 カグラの顔に化粧箱で弄ったような形跡は無く、ミラの記憶通りの顔が白い布の下から現れた。
 前髪は瞼の上で横一線に揃えられ、丸っとした黒い瞳の上に筆で刷いたような薄っすらとした眉が乗っている。睫毛は長く、口元は不機嫌そうに結ばれたままだ。一見すれば日本古来の良家のお嬢様で通用するだろう。しかし今の完全に緩みきった姿は、お嬢様の姉に家名を全て任せた妹とでもいった様子だ。

「私もここでは一応有名人だからね。九賢者だってなると変に勘ぐる者が出てくるかもしれない、って言われたから秘密にしてるの。私の正体を知っているのは、さっきの二人と、あと三人。ああ、それと今から、おじいちゃん……も、になるのね」

 カグラは自慢気味に鼻を鳴らしてから、ミラの姿をまじまじと見つめて唸る。

「今は、ミラって名乗ってるのよね。おじいちゃんがミラちゃん。なんか、変な気分になるんだけど、どう呼べばいい?」

「好きに呼べば良いじゃろう」

「おじいちゃん……ミラちゃん……。うーん、ギャップが酷い」

 ダンブルフの頃は、カグラにおじいちゃんと呼ばれていたミラ。当時からの印象の違いに、カグラは新品の箸を使う時のような歯切れの悪い違和感を感じながらも、ミラに迫るように身を寄せて目を細める。

「で、あの子に何の用があるのよ」

「あの子、とな?」

 まるで仇でも見るかのような目付きで、カグラはミラを睨み付けた。ミラはというと、ようやく一人見つかったと安堵しており、カグラの言葉の意味は着地地点を見失って、ミラの脳裏をからからと駆け回る。

「探しているって言ったでしょう。ニャン丸ちゃんの術士」

「おお、そうであったな。しかしもうそれは大丈夫じゃ。ニャン丸などという名を式神につけておったのでな、もしかしたらお主ではないかと思っただけじゃ。わしの探し人は、お主じゃったからのぅ。いやはや、手間が省けたわい」

 そう言って、ミラもまた脚を崩して楽な姿勢をとり、もうその術士の件はどうでもいいと笑う。
 ニャン丸の術士は、カグラが直接面倒を見た事のある陰陽術士の女性である。期間は短いが、本当の賢者の弟子といえなくもない存在だ。そんな彼女が黒猫の式神との契約時、カグラが言った。『この子はニャン丸ね』と。
 カグラ相手に否定できず式神の名はニャン丸に決定し、その結果としてミラの目に入る事となったのである。

「ふーん、そうなの。で、私に何の用?」

 何だかんだといって可愛がっているその術士ではなく、自分に用があったと矛先が変わったからか、不愉快そうだったカグラの気配が和らいだ。

「ソロモンの頼みでのぅ。今は条約とやらで停戦しておるが、来年にはまた戦争が始まるというではないか。その為、防衛の要である帰ってこないお主らを、わしが探しておるという訳じゃ」

 カグラの変化など意に介さず、ミラは用件だけを告げた。

「そういう事ね」

 九賢者は国防の柱として幾度となく国を護り勝利に導いてきた英雄である。カグラにもその認識はあった。

「じゃがのぅ、ようやっとお主を見つけたは良いが、今すぐ戻れというのは無理そうじゃな」

 ミラは言いながら室内を見回して、それから補佐役の二人が出て行った方面へと何気なく顔だけを向ける。

「ええ、あいつらを野放しにはしておけないわ」

 これだけの組織を作り上げ、そしてその要因となったキメラクローゼンの存在を残したまま、そのトップが身を引く事など出来ないし、許されるはずもないだろう。

「しかし、これほどの組織を作っていたという事も驚きじゃな。お主は率先して頭に立つ気性ではなかった気もするが、変わるもんじゃのぅ」

 ブルーやホワイトといった祈り子の森で出会った五十鈴連盟の部隊、ソロモンに見せられたパンフレット、そして四季の森の精霊達と本拠地に詰める大勢。見てきたそれらを思い出しながら、ミラは心の底から感心して正面へと視線を戻す。
 ミラのその言葉は、カグラに初心を思い起こさせた。五十鈴連盟を組織するに至った経緯であり、今の原動力となる感情を。

「だって、絶対に許せないもの」

 カグラの口から発せられた一言は、呟くようでありながら、だが叫ぶかのように震え、強く重くミラへと届いた。
 最初はアルカイト王国に戻ろうとしていたカグラ。しかし彼女には戻れない、いや、戻らない理由が出来たのだ。



 五十鈴連盟。大陸中に散らばり、森の保護などの活動をしている慈善団体として大陸中に認識されている。だがその本質は、精霊を狙うキメラクローゼンに対抗する武装組織だ。その始まりは十年以上も前の事である。

 カグラもまた、ミラや他のプレイヤーと同じように、気がつけばこの現実となった世界に立っていた。
 この世界での生活が始まった場所は、グリムダート北に広がる大森林地帯。周囲に人は無く、ただただ途方も無い自然が溢れる、文明とは隔絶された辺境だ。
 カグラは全身を包む違和感、仮想世界ではありえない五感の全てを刺激するありとあらゆるものに戸惑った。
 状況を把握しきれず、誰かに聞こうとしてカグラは近くの街に移動する事を決める。そしていつも通りに、課金アイテムの浮き島へ移動しようとするが、それが出来ずに首を傾げた。移動する為の選択肢がメニューに無いのだ。そしてこの時にメニュー画面の変化にも気づく。ログアウトまで出来ない事に。
 深い森の中、相談できるような相手は一人も無く、知り合いへの個別チャットも反応しない。
 唐突にカグラは、一人で秘境ともいえる自然のみが支配する場所で孤立したのだと気付かされた。
 唯一の救いは、それまで積み重ねてきたものが無駄にはならなかったという事だ。九賢者とも呼ばれている実力から、大森林の中でも脅威となる魔物は存在せず、他者に害される可能性は極めて低い。
 しかし、時間は止まる事無く進み続け、太陽は傾いていく。空を覆いつくさんとする樹木が光を遮る森の中では、夜の訪れが一足早い。僅かに黄昏が迫れば、それは瞬く間に闇へと変じて森を侵食するのだ。
 圧倒的な宵闇を前にしては無形術の光は蝋燭でも灯しているようなもので、方向感覚すら曖昧になる。
 そして、カグラは途方に暮れた。長い時間歩き回り、状況を整理していた結果、夢のようだがこれは正真正銘の現実であるのではという答えに行き着いたからだ。どこかも分からぬ森の中で、完全に行き場を見失っていた。
 カグラは何度となく、肺の中の全てを吐き出してしまうように溜息を繰り返し、苛立ちとも焦燥とも違う、理不尽な感情に頭を抱えて蹲っていた。
 そんな時、梢の間から人影が顔を覗かせた。気配にも近い、しかし風と虫と鳥の音しかなかったそこに、明らかな意味を伴った声が響く。「どうしたの?」と。
 反射的に顔を上げたカグラは、声のした方へと向いた瞬間、悲鳴を上げた。真っ暗な森の中、無形術の頼りない光に照らされて、ぼうっと人の顔の形が木の脇から自分を覗き込んでいたのだから。
 だが、驚いたのはカグラだけではなかった。その声の主も、悲鳴に驚きひっくり返って草叢を転げたのだ。声の主は慌てて起き上がると、きょろきょろと首を横に振り、また木の裏側へと駆け込んで、再び顔だけを覗かせた。
 ちらりと見えただけであったが、カグラはその者の特徴から正体に気付いた。長い髪を包み込むような無数の光の粒、一枚の布のように簡素でありながら、高貴にも見える衣。そして、人懐っこそうなその表情。
 その者は、森に住む精霊であった。
 だが、カグラは戸惑う。今まで、精霊の方から何かを聞いてくるという事など無かったからだ。唯一あるといえば、特定のクエストか戦闘中に『大丈夫?』と言いながら回復してくれるといった時のみだ。
 不審に思いながらカグラが視線を向ければ、木に隠れたままだが、精霊は微笑んで手を振っている。記憶に無い事をしているが、人に対して友好的なところは相変わらずである。考えていても不安ばかりが募る今の状況だ。カグラは思い切って、返事をしてみる事にした。

 カグラが一言返せば、精霊は木の裏から出てくると「どこか痛いの?」「ここは危ないよ」「一人なの?」と多くの質問を投げかけてきた。
 カグラは、それに答えるようにして、今の自分の状況を語って聞かせる。乗り物が使えなくなって帰れず、もうどうすればいいのか分からないと。弱音を全て吐き出すと、カグラはまた大きな溜息を漏らした。
 そんな焦燥しきった様子のカグラに、精霊は言う。大変だったね、と。
 精霊は、リーシャと名乗り、ここは魔物が出るから安全なところに行こうと告げた。
 名乗り返したカグラは小さく頷くと、言われるがまま立ち上がり、リーシャの後を追って森の中を進む。そして、大きな湖へと到着した。
 森が少しだけ拓けて、湖面で星明かりが揺れている。するとその微細な光が、巨大な影を照らした。一軒家ほどもあるそれは、人よりも大きく太く、数多の返り血を吸ったのか鈍く闇に紛れるような色をした二本の牙を生やした猪であった。魔獣、グレートランスボアだ。
 突然の魔獣との遭遇で、咄嗟に構えるカグラであったが、リーシャは嬉しそうに笑いながら、その猪を友達だと紹介した。
 よく見ればグレートランスボアは、どっしりと寛ぐかのようにその場に身体を横たえている。そして、目を開いてカグラを見ると「おやおや、客人かい?」と低く篭り気味ではあったが言葉を話した。
 この世界には、精霊化という特殊な概念がある。精霊と共に長い時間を過ごした動物は、特殊な力を身に付けたり言葉を話す事ができるようになったりするのだ。ゲーム時では、主にイベントなどで関わる事になる存在である。
 カグラが自己紹介をすると、猪はマルチカラーと呼んでくれと言って笑う。それはリーシャが付けてくれた名前で気に入っているのだと。
 リーシャは、マルチカラーに寄り添うようにして座るとカグラを手招きした。
 カグラが隣に座ると、リーシャは「今日はここで寝るといいよ。明るくなったら、人のいる場所に送ってあげるね」と言ってまた屈託の無い笑顔を浮べる。
 カグラは、ありがとうと礼を言うと、ごわごわとしているが温かく柔らかいマルチカラーのお腹に身体を預け、満天の星空を見上げながら一緒に眠るのだった。

 朝起きると、リーシャは約束通り近くの街までカグラを送った。風の精霊であるその力で、カグラを抱え飛んでいったのだ。森の奥深くという事と休み休みで随分と時間は掛かったが、日暮れ間際には街に到着した。
 街の近くに降り立つと、カグラは何度も礼を述べた。そしてマルチカラーにもありがとうと伝えておいてくれと頼む。
 とても短い時間であったが、返しきれない恩を受けたとカグラは思った。そして必ずいつかお礼をすると約束して別れたのだ。

 カグラが連れてきてもらった街は、グリムダートの北端に位置するグリーンゲートという街であった。三神国に属する為、それなりの規模があり、情報は程よく集める事が可能だ。
 街に到着して一ヶ月。カグラは現在の状況をほぼ把握する。この世界は、アークアースオンラインと同じであり、十年以上も前から現実となっており、多数のプレイヤーが自分と同じように突然この世界に来ているのだと。そして、その年月の間に判明した相違点などもだ。

 理解したカグラは、一度アルカイト王国に戻るべきだと結論する。グリムダートはアース大陸の北に位置している為、浮き島が無いとなると長い旅路にはなるが、その目処も付いたからだ。
 だが、カグラは街を離れる前に森へと視線を向けた。出発前に、世話になったリーシャとマルチカラーにもう一度お礼を言おうと考えたからだ。
 幾つもの手土産を買い込むと、カグラは朱雀のピー助に乗って、あの日一晩を明かした湖へと向かう。

 記憶の場所にあった湖を前に、カグラは絶句した。その様相が、思い出とは全く変わっていたからだ。周囲の木々は台風でも通り過ぎたかのようになぎ倒され枝を散らし、星を映していた湖は幾千の葉や泥で日の光を拒むかのように濁っていた。
 場所を間違えたのかと考えた次の瞬間に、カグラは駆け出す。
 湖の畔、草や泥に塗れた小さな山。そこからへし折られたかのような牙の根元が覗いていた。場所は間違っていなかった。確かにこの荒れた湖が、あの夜、安らいだ一時を与えてくれた場所であったのだ。
 近づけば、山の輪郭が露わになる。同時にカグラは信じたくない、逃避したくなるような恐怖に目を見開き唇を震わせる。
 そこにあった、否、そこに居たのは魔獣グレートランスボアであるマルチカラーだったのだ。
 その全身は鋭利な刃物で切られたような無数の傷で埋め尽くされており、剣山の如く折れた剣先が所々に突き刺さっていた。その余りに変わり果てたマルチカラーの姿にカグラの理解は追いつかず、ただ呆然と立ち竦む。そんな時であった。「お嬢、さん……か」と低く篭り、途切れ途切れの声がカグラの耳に届く。掠れてぼやけて明瞭さの欠片も無い、そんな声であったが、確かに届いた。
 カグラは跳ねるように顔を上げて、大丈夫なのか、いったい何があったのかと聞きながら、手持ちの回復薬をありったけマルチカラーの身体に振り掛けた。
 マルチカラーは、僅かに息があった。そんな息も絶え絶えにマルチカラーは言葉を絞り出すように話す。
 人が突然襲ってきたと。そしてリーシャを連れ去って行ったと。助けようと戦ったが勝てなかったと、悔しそうに、辛そうに言うと、リーシャを頼むという言葉を最後にマルチカラーの瞳から色が消え去った。

 カグラは、一晩中泣き続けた。たった一日どころか、半日にも満たない関係であったが、完全に孤立していたカグラに手を差し伸べてくれたリーシャとマルチカラーは、カグラの心の奥深くまで刻まれた大切な友達であったのだ。
 日が明けて、カグラは泣き腫らした真っ赤な目のまま、湖の畔に大きな大きな穴を掘った。せめてもの気休めにでもと、刺さっている剣を抜き身体を綺麗に拭いてからマルチカラーを埋葬した。

 カグラは街に戻り、情報収集を再開した。そして、精霊を襲う者達の話を集めて行動を開始する。その活動によって次第にカグラへの共感者が集まっていき、それはパーティからギルド、更に規模を大きくし、五十鈴連盟という組織となったのだ。



 絶対の決意を秘めたカグラの視線を、ミラは正面から受け止めた。
 想いの全てが伝わった訳ではない。だが、許せないと言ったカグラの言葉に、まだこの世界に来て一月も経っていない自分では遠く及ばない想いがあるのだろうという事は感じられた。

「なんとも複雑そうな理由がありそうじゃのぅ」

「ええ、ソロモンには悪いけど、終わるまでは帰らないわよ」

 カグラの目には確かな意思が宿っていた。大事な友を攫われ、そして失った悲しみと憎しみから始まった事であるが、今は守りたい、助けたいという意思を持った仲間達が傍に居る。彼女は、憎悪に飲まれず真っ直ぐと強い眼差しで今の心を言葉にした。

「そうじゃな。どの道、このまま放置できる連中ではないからのぅ」

 ミラもそう言って同意する。人々の良き隣人である精霊を害するキメラクローゼンは、このままにしておくべきではない組織だとミラも考えている。この場まで来る途中ですれ違った、五十鈴連盟に保護されている精霊も、カグラの作ったこの組織がなければキメラクローゼンの糧とされていただろう。それだけ考えても五十鈴連盟は重要な組織であるだろう。

「でもまあ、そうね。長かったけど、もうじきよ。もうじき決着がつくわ」

 決意を秘めた火のような瞳に、水のように澄みながら激流のような想いを込めてカグラがその言葉を口にすると「貴女のおかげとも言えるわね」と続ける。そして、その意味、ミラが捕獲に助力したキメラクローゼンの男の処遇が語られる。

 ミラがブルー達と別れて数日後、移送部隊がブルー達の拠点に到着し、そのままキメラクローゼンの男は本拠地へと移送されたのだという。そして、カグラの手により、あらゆる情報を吐かされ、断罪されたという事だ。
 その男は末端だったようで、得られた情報の内容は、幾つかの活動拠点の位置や合言葉といったもの。キメラクローゼンの幹部メンバーや、攫った精霊をどうしているのかに関しては全く知らされてはいなかったようで、そのあたりは不明のままだ。

「全てとはいえないけれど、いくつかの拠点を押さえたわ。流石に警戒が早くて、もぬけの殻もいくつかあったけど、一人か二人でも捕まえられれば、そこからまた別の拠点を聞き出せばいい事よね。今はそうやって、やつらの拠点を虱潰しにしているところ。出来る限り力を削いでから、一気に叩くわ」

 高揚しそうになる声を抑制しながらカグラが言う。拠点を潰し少しずつ力を削いでいく。元より勢力としては上であった五十鈴連盟だからこそできる力技である。だからこそ、キメラクローゼンは密かに動き回っている。撤退が早いのもその為だ。

「ふむ、という事はやつらの本拠地も、もう掴んでおるのか?」

 熱が篭り始め、徐々に血色が漲ってきたカグラにミラがそう訊くと、ゼンマイが切れた玩具のように急激に勢いを失くしてカグラは項垂れ座卓に突っ伏す。

「かなり徹底しているみたいなのよね。キメラの端役程度だと、小さな拠点を回る程度しか役割が与えられていないみたい。でも、数回れば一つくらい当たるわよ。たとえ分からないままでも、拠点を潰せば精霊達への被害を抑えることはできるしね」

「ふむ、まあそうじゃな」

 下っ端が知る拠点は、同じ下っ端の集まる小さなものでしかない。それらを幾つ回っても、大物には届かないという事だ。その話を聞いたミラは、そういえばとソロモンに渡された封書を思い出す。思いがけずカグラと会えて忘れかけていたが、五十鈴連盟宛ての手紙だ。

「そういう事ならば、これが役に立つかもしれんのぅ」

 ミラはそう言って立ち上がり、カグラへと歩み寄っていく。対してカグラは、項垂れたまま「なーにー?」と顔だけを向ける。座卓に突っ伏したままの姿勢は視点の位置もまた低く、脚と共に揺れるスカートの裾を正面に捉える。そして、アレ(ダンブルフ)コレ(ミラ)かと、思わず吹き出して笑うのだった。

「なんじゃ一体。まあそれよりもこれじゃ」

 ミラはカグラの隣にどかりと坐り、預った封書をカグラの頬に突きつけるようにして差し出す。カグラは、鬱陶しそうにして受け取ると差出人の名前を確認する。

「あら、ソロモンから私に?」

「正確には、五十鈴連盟の頭宛じゃよ」

「ふーん、そう」

 そう短く答えながら、カグラは封を切り書面を確認し始めた。
 手紙に書かれている内容は、この手紙を渡される前に話していた精霊王に関する事柄だ。
 キメラクローゼンが精霊王を狙っている。そう予想するに至った、組合関係から得られた情報。そして三つのダンジョンの名である。
 最初は静かに読んでいたカグラであったが、徐々にその表情が険しくなり、だが同時に血色が漲ってきていた。食い入るように、穴でも開いてしまうのではというほど紙面を凝視している。
 そして読み終わると、叩きつけるようにして手紙を座卓に置いた。

「精霊王……なるほど、そういう事ね」

 五十鈴連盟側から見てきたキメラクローゼンの動向とつき合わせて確信を得たカグラは、不敵に口端を上げて微笑む。そこに光明が見えたからだ。

「役に立ったようじゃのぅ」

「ええ、存分にね」

 上機嫌なその様子にミラが言うと、カグラは高揚する気持ちを抑える事無く答える。 

「それとこれには、必要ならおじいちゃんの事も使っていいって書いてあったわ」

 そう続けて言い放ち「期待してるわよ」と捕食者のような目付きでにやりと笑う。

「なん……じゃと」

 その一言で、また休みなしかと悟り、カグラと代わるようにミラは座卓に突っ伏しながらも手を振って了解の意を示した。優先すべきは、一刻も早くキメラクローゼンを駆逐する事だ。
 状況が済んだら移動時間だけでも存分に休息できるよう、ワゴンに持ち込む色々をリストアップしておこうとミラは心に決めた。

「動くのは早い方がいいわね。今居る幹部だけでも集めて緊急会議よ。それでおじいちゃんの事も協力者として紹介するけど……、そういえばなんでダンブルフじゃなくてミラなの?」

 ゲームでは化粧箱で姿を変えても名前は変わらないし変えられない。ならばなぜ、今はミラと名乗っているのか今更ながらカグラは気になった。

「実はかくかくしかじかでのぅ」

「そうなの、大変だったのね」

「ほぅ、通じたか。便利な言葉じゃな!」

「もちろん、さっぱり分からないわ」

「じゃよねー」

 余りにも無駄な言葉を交わした後、ミラは保身に関する全てを隠したまま、ソロモンに言われた、ダンブルフのままでは動きづらい九賢者探しの為に丁度良いから、と答える。カグラは「そこまでするなんて、随分と気合入ってるのね」と半信半疑ながらも納得した。

「今度のは重要なミッションになりそうだし、同行するにしても、今のおじいちゃんは見た目からいうと頼りないわよね。なんか肩書きとかないのかしら。うちの者を黙らせられるような。アルカイト王国の特使とか、ソロモン王の側近とかだと、どうにもアバウトでインパクトに欠けるのよね」

 ダンブルフであるミラの実力はカグラも十分に把握し信頼できるものである。しかし、同行する事になるメンバーにとっては命を共有する相手となるのだ。ダンブルフが助力してくれるともなれば、誰もが諸手を上げて喜ぶところだろう。しかし、大陸中を巡る事になるであろう任務があるのでそうは言えない。
 だがミラには、便利な肩書きがあった。

「ふーむ、肩書きのぅ。一応、ダンブルフの弟子という事でまかり通っておるが」

 ミラがそう言うと、カグラは呆けたようにミラの全身を一瞥してから、口の中で火薬が破裂したかのように吹き出してから笑う。

「自分で、自分の弟子とか言っちゃうなんてなにそれ! その発想は無かったわね! でもまあ、悪くはないわ。それでいきましょう」

 幹部に紹介する為のミラの立ち位置も決まり、五十鈴連盟の今後を決する事になる緊急会議が召集された。
FF14とか……やって、ましたー!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ