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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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78 これから……。

七十八


「鉄道旅行は楽しめたかい?」

 ミラが執務室に着くなり、早々にソファーに身を沈めると、ソロモンは、ゆっくりと椅子に腰掛けながら明るい調子でそう語り掛けた。

「うむ。一見変わらぬようでいて、時の移ろいと共に表情を変える景色は絶景じゃった。その時々で出会う者達もまた、その一瞬を生きているという活力に溢れておったのぅ。旅とはいいものじゃな」

 ミラは、その瞬間瞬間を思い出しては、思いのままを口にする。移動時間を考えれば、直線距離をペガサスなどで飛んで行った方が早いが、鉄道にはそれを超え得る大きな魅力があるとミラは感じた。浮き島を使い最速で移動していた頃と今は大きく違うのだと気付かされた要因でもある。

「そっかそっか。満喫できたのならよかったよ」

 三十年前の当時、突然の世界の変化に戸惑っていた事を思い出しながら、ソロモンは自分が三十年生きてきた世界を心から楽しんでいる様子のミラを見て、少し寂しそうに、だがそれ以上に嬉しそうに言う。

「それはそうと、例のものは確保できたかい?」

 なればこそ居場所を守る。それが今のソロモンが最も重要視する事柄だ。その為ならば親友であろうとこき使う。代わりに必要な事は全て引き受ける心構えでいた。

「うむ、見つけてきたぞ。しかしのぅ、思っていたのと随分違うんじゃ」

 そしてミラも承知の上で東奔西走しているのだ。
 ソファーから腰を上げると、ミラは今回の任務である年代特定用の木屑を入れた皮袋を、書類の散らばった執務机の僅かな空き場にどさりと置いた。
 その中を検めたソロモンは、苔にまみれながらも木目鮮やかで瑞々しい木屑を一抓み取り出す。

「なるほどね。確かに思っていた状態とはかなり違う。さっき削ったと言われても疑わないだろうねぇ。流石は御神木って事なのかな」

「どうにかなりそうかのぅ?」

「多分ね。うちの学者は優秀だよ」

 ソロモンは木屑を戻すと皮袋の口を締め直し、人材の有能さと、それを見出した自分の目を誇るように自信満々といった様子で答える。
 どの道、任せるしかないミラは義務は果たしたとして、その後は完全に丸投げする事に決めるのだった。

「おお、そういえばじゃな。折角アリスまで行ってきたのでのぅ。土産を買うて来たんじゃ」

「あ、本当に買ってきてくれたんだ。どんなのどんなの?」

 早々に任務の報告が完了したので、そのまま雑談に突入する二人。書類の散らばる執務机には置ききれないので、ミラは購入してきた土産物をソファー前のテーブルに並べていく。ソロモンは誘われるように立ち上がり、興味深げにテーブルを覗き込んだ。

「純白桃かぁ、そういえば特産品だったね。それにしても随分と買い込んだんだねぇ」

 純白桃のクッキーにジャム、キャンディ、ジュース、饅頭、タルト、砂糖漬けといった多種多様な加工品が並ぶ。
 買ってきたのは食べ物だけでない。ミラはその内の一つを手に取りソロモンに差し出す。

「これはお主用の土産じゃ」

「へぇー。こんなのまで土産物になってるんだ。ありがとう、大切にするね」

 それはアリスファリウス聖国の聖木、グリムワードの盆栽であった。ソロモンは、鉢植えを受け取るとそのままテーブルに置いて多方面からじっくりと纏わりつくようにして枝ぶりを確かめる。

「数は多かったんじゃがな、個性的で尚且つわしの目に適うものは、二つだけじゃった」

 そう言ったミラの手元には、もう一つの盆栽がある。テーブルに鎮座するそれをソロモンと同じように眺めながら、二人は暫し盆栽の話に花を咲かせて盛り上がった。
 小さな鉢の中に独自の世界を構築するという、その奥深さに嵌った二人は、共通の趣味として時折こうして親睦を深めていたのだ。ソロモンは、懐かしくも月日を感じないその一時に、またかつての時代を思い出していた。

 半年後の出来栄えで勝負するという事になり盆栽談義は一旦幕を閉じると、ミラは大量の土産物を適当に積み上げる。

「こっちの菓子の方は、この服の製作に関わった者に礼代わりに渡しておいてくれぬか」

「なるほどね。こんなに一杯どうするかと思ったらそういう事か。別に構わないけど、君が直接渡した方が喜ぶんじゃないかな」

「うーむ、そうかのぅ……」

「侍女区画に行けば製作関係者は、たぶん芋蔓式だろうから」

「……言い方に少し引っ掛かるが、まあ、そうじゃな。自分で渡さねばのぅ」

 侍女区画、女だけしか入る事の出来ない禁断の花園。最近、随分と身体の扱い(・・・・・)に慣れてきたミラは、その単語を聞いて俄然やる気を出し始める。

「あ、僕も関係者だからいいよね」

 ソロモンは、堂々と言いながら箱の一つを手に取り包装を破ると、純白桃饅頭を頬張る。実際、ミラの服の素材に掛かった代金はほとんど、ソロモンとルミナリア持ちだ。


「土産といえば、もう一つ。土産話があったのぅ」

「土産話って、任務以外のかい?」

「うむ、そうじゃ」

 土産という事で、ソロモンに話すのに丁度良い出会いがあった事を思い出すと、ミラは饅頭を一つ手に取ってからソファーに腰を下ろす。

「道中に立ち寄った宿で、お主のファンという者に会ったんじゃよ」

「僕のファン? それは光栄だね。で、女の子?」

「うむ、ばいんばいんな女じゃったな」

「ばいんばいんかー。もてる男は辛いね!」

 ミラは直視した時の圧倒されそうになった魅惑の肉鞠を思い出し、ソロモンは言葉から浮かび上がる虚像を脳内で結び、男ならば決して抗えぬ母性の象徴に思いを馳せる。
 大きいも小さいも二人にとっては些細な事で、どちらにも意味はある。男の夢は、大きさに関わらず詰まっているのだというのが、二人の持論だ。余談であるが、この件に関してはルミナリアと対立している。

「確かアセリアとかいう名じゃったかのぅ。そやつは、お主への憧れを拗らせて聖騎士になったという話じゃ」

「へぇー。それは光栄だね」

 ソロモンは、嬉しそうに言葉を弾ませながら、ミラと同じようにソファーに腰掛け、饅頭の箱に手を伸ばす。

「しかし問題があってのぅ。今のお主のスタイルを真似ておってな。どうにも聖騎士らしからぬ事になっておるようじゃ」

「今の僕……かぁ。確かに問題だねぇ。自分で言うのもなんだけど、聖騎士の見本とは程遠いからなぁ」

「うむ、わしもそう思ってのぅ。お主の駆け出しの頃の話をしてみたんじゃが、どうやら余程お主が好きらしいようじゃ。盾の扱いからやり直すと、それはもう元気に言いおったわい」

「そっかそっかー。いやー、ありがとう。女性の人生を決めてしまうなんて、僕もまだまだ捨てたもんじゃないよね」

 言い終わっては、饅頭を口に放り込む二人。
 一口で頬張れる手頃な大きさ、もちもちの饅頭皮、とろけるように甘い純白桃の実、それらが風味と舌触りの良い餡と調和する。三つ四つと思わず手が止まらなくなる程だ。
 そんな饅頭を抓みながら会話を続ける二人の耳に、執務室の扉を控え目にノックする音が響いた。

「入れ」

 純白桃ジュースで饅頭を流し込み、声を作ってからソロモンが言う。
 扉を開けて顔を見せたのは、尋問を終えたスレイマンとルミナリアであった。

「早かったな。して、どうであった?」

「随分と手応えの無い相手でございました。従者の二人は大した義理立てはなかったようで、ミラ様の襲撃に関しては、洗いざらい語ってくれました」

 執務室へ入るとスレイマンは小さく一礼してから、聞き出したミラ襲撃事件の一部始終を語る。
 動機はカイロス本人の言った通り審査会での私怨で間違いはないが、問題はここまで事態が膨らんだ要因であった。
 カイロスの父でありベルラン家の当主、アルフォンス・ベルラン侯爵は現在遠方の視察に赴いている最中。その為に家の方は夫人が仕切っている状態だ。そしてこの夫人はカイロスの事を溺愛しており、息子の言う事には何でも頷く傾向にある。
 父であるアルフォンス侯爵は相応の良識を持っているが、現在はその歯止め役が不在。結果、実行にまで至ってしまったという事だった。

「それと封印結界の方ですが、どうやら術士兵団の倉庫に保管されていた試作品を持ち出したようです。設置されたままという事ですので、回収班を向かわせました」

 襲撃事件の話の後、付け足すように言ったスレイマン。ソロモンは「ご苦労」と一言だけ発すると、饅頭を見つめて喉を鳴らす。スレイマンが居る前では、王としての態度を見られているので、下手に動けないのだ。

「試作品という事は、あれはここで作ったのじゃな。術を封じるような結界なぞ作るとは、また愉快な事をするものじゃのぅ」

 ソロモンの事などお構いなしに、ミラの手は饅頭を口に放り込む。もっちもっちと咀嚼して、純白桃ジュースをくいっと傾ける。口いっぱいに広がる桃の風味と甘みに、頬を緩めるミラ。横目でそんなミラを睨めば、その視界に、背に鉄柱でも入っているのではないかという程に整った姿勢で佇んでいるスレイマンの姿が入る。ソロモンにとっては、正に試験官とでもいったような存在感だ。

「正確には、その先を見据えての事だ。ここは術士の国であるからな。術が封じられてしまえば致命的だ。ならば、その仕組みを理解し、封印を無効化する方法を模索する。そういった研究の段階で作り出されたものが、今回使われた試作品だ」

 ソロモンは言いながらソファーから立ち上がると、饅頭の誘惑を断ち切るようにその場を離れ、執務机の椅子に座り直す。テーブルに積み上げられた土産はかなりの量がある。だから後で少しだけ間引いてやろうと目論む。

「なるほどのぅ。色々とやっておるのじゃな」

 ミラはそう呟きながら、更にもう一つ饅頭を口に入れた。

「こう見えても王だからな」とソロモンが答えると、スレイマンの目付きが鋭くなる。こう見えても、などと王が自分を卑下するものではないと叱責する目だ。

「うむ、では、精霊武具に関してはどうであった?」

 誤魔化すように、ソロモンは次の話題を挙げる。ミラが思うに今回の件で最も重要であろう事柄だ。

「そちらは、どうやら完全に奥方様の管理のようでして、三人とも全く把握しておりませんでした」

「ふむ、確かか?」

「ルミナリア様が手を加えたので偽りは無いかと」

 得られた情報だけを淡々と述べるスレイマン。ならば確かだろうと納得するソロモン。一体何をしたんだと気にするミラ。
 ルミナリアは、いつの間にかミラの隣で当たり前のように饅頭を手に取り口に運んでいる。ソロモンもルミナリアも、対外用に言葉を使い分けているが、スレイマンのチェックはルミナリアに対してはそれほど厳しくはないようだ。

「ならば侯爵夫人に直接問うしかないな。スレイマンよ、召喚状を出しておいてくれ。時間は明日の正午だ」

「畏まりました」

「ああ、それともう一つ。これが例の木屑だ。研究班に渡しておいてくれ」

 ソロモンは執務机に置かれたままの皮袋を手にとって差し出すと、スレイマンは即座に歩み寄り両手で受け取り中身を確認する。

「これはまた、随分と難解そうですね。直ぐに解析させましょう」

 年季を感じさせる一枚の厚皮のような苔にまみれた瑞々しい木屑を見て、言葉とは裏腹にスレイマンのやる気は満ちていた。

「では、失礼いたします」

 尋問の報告も済ませたスレイマンは、次なる用事の処理の為に退室していった。


「しっかし災難だったな」

 純白桃ジュースのビンを片手にルミナリアが言う。

「まったく面倒な事じゃ。学園で会った時点でも随分と傲慢な態度であったが、お主、しかと状況を見ておるのか?」

 ミラも学園という人が集まる場所で生じる軋轢が避けられない事であるのは把握している。しかし召喚術の講師ヒナタの態度をみれば、カイロスのそれは貴族という立場まで利用しての横暴と映った。そして、ルミナリアがそれを見れば黙っているはずがないと思っての言葉だ。

「学園に関しては、元代行の奴に任せたままだったなぁ」

 ルミナリアは、饅頭を抓んだままそう言い「あいつ研究しか頭にないからな……」と、どこか遠くを見るように目を細め、気まずそうに続けた。
 学園では召喚術の塔代行クレオスのように、現在の各塔最高位である代行達が学園の各科の査察や方針などを取り決めている。しかし魔術に関しては九賢者が健在なのでルミナリアがその任に当たるはずだが、一人だけ突出していると各科のバランスが崩れる。ルミナリアはそう懸念したように言って、元代行に学園を押し付けた。
 しかし、その元代行は根っからの研究者であった。魔術科の事はそれなりに考慮しているが、代行という任が解かれた事による反動から篭る事が多くなり、生徒に関しては考慮が行き届いていないのが現状。
 結果、研究成果により魔術科の地力は飛躍を遂げているが、眼も眩むほどの高みにいる術士の力を魔術科は目の当たりにした事がなく、カイロスのように増長する者が出てしまう事となったのだ。

「クレオスは頻繁に顔を出しておったぞ。一緒にも歩いたが、その時は随分と校内が引き締まって見えたものじゃ。今回の件で、カイロスという小僧は失脚するのじゃろう? となれば頭を抑えられていた別の小僧どもが台頭してくるやもしれぬ。お主も任せきりではなく、たまには顔を出したらどうじゃ」

 ミラは、ヒナタ、クレオス、アマラッテと共に校内を歩いていた時の事を例に出し、代行二人に敬意を払う生徒達の態度と、子供の真っ直ぐな羨望の瞳を思い浮かべる。尊敬できる者、目標となる人物が傍に居る、目に入る、それだけでも十分活力になるものだ。学生の頃、似たような経験のあったミラは、その頃の感情を思い出し、口にした言葉とはまた違った、諭すような、どこか子の背中を見守る親のような表情を浮べる。

「まあ、こんな事があった後だしな。お前がそう言うなら今度行ってみるか」

「定期的に、じゃからな」

 ルミナリアは饅頭を飲み込むと、これから起こるであろう学園の変化を想定して視察しようかと何気なく口にする。だが、こういった事は継続する事が重要だ。ミラが最後に一言その事を付け加えると「分かった分かった」と、ルミナリアはソロモン王の前で約束させられるのだった。

「学園の状況かぁ。僕も書類上でしか把握していないからなぁ。今度一緒に行こうか」

 饅頭に手を伸ばしながら、ソロモンがルミナリアに便乗するように言う。

「それは良い。直接、目で見る事で分かるものもあるしのぅ」

 再び見学時の事を思い出しながら、それも良い事だと頷くミラ。だが国王と九賢者が一緒に訪れれば、どんな騒ぎになるかまでは気付いていなかった。とはいえ、それはまた別の話だ。

「そういえば、そもそもこうなった原因じゃが、あの審査会はどうなんじゃ。実戦で役に立ちそうなのは、数える程度しか見られんかったが」

 襲撃事件のそもそもの原因、審査会のパフォーマンス合戦を回想する。魔物との戦いで実用性のある術は少なかったと記憶しているミラ。それが今の流行なのかと勘ぐったが、ソロモンとルミナリアは顔を見合わせ肩を竦める。

「あの審査会は、そもそも国は関与してないんだよね。術に触れる事の少ない一部の有力者達の声に教師達が応えたのが始まりなんだ」

「まあ、それから幾度か形を変えて、今の学生達の発表の場になったって事だな。目的は、それこそ有力者連中に術というものを分かりやすく見せる。学生達の発想や柔軟性、教師の教育力を示す場。とまあ、そんな風潮になって、独自の方向性が定まっている代行どもは口出ししないって暗黙のルールが出来たわけだ」

 ソロモンに続き、ルミナリアが現状を語る。最初はそれ程、学園に関しては気にしていない素振りであったが、やはりそれなりには気に掛けていたのであろう、審査会の実情は把握していた。

「そういう事じゃったか」

 いくら代行が学園の方針などを取り決めているといっても、裁量は教師に一任されている。学園は、教師もまた学ぶ立場であるのだ。通常の審査会は、そういった成長も見られるものであり、術の発想力を試す場でもあった。

「まあ、流石に最近はやりすぎな気もするがな。それを加速させていたのも今回の事件の首謀者だ。暫くすれば、落ち着いてくるだろう」

 そう言いながらルミナリアは、新しい純白桃饅頭の箱を開け始める。ソロモンも開封の待機中だ。これほど気に入ってもらえたなら買ってきた甲斐はあったなとミラもどこか微笑ましく見つめるも、開封一番に饅頭を掻っ攫うのだった。


「そういえば、これはお主用の土産じゃ」

 ソファーに仲良く並び饅頭を堪能した三人。ミラは、テーブルに積み上がった土産の中から、慈愛の女神をかたどった神像を手に取りルミナリアに渡す。

「おお、サンキュー。こんなのもあるとは、前とは随分と変わったよな。しかし、精巧に作られてんなぁ。……白か」

 神像をぐるぐると回して職人の拘りが窺える細部までの作り込みに感心するルミナリア。そして二人は視線を交わすと、互いに頷きあった。

「ああ、そういえばレオニールから情報が届いたんだ。やっぱり君に先を越されたのが悔しかったみたいだね。随分と興味深い内容だったよ」

「ほほぅ。それは気になるのぅ」

 純白桃ジュースを飲み干して満足そうにしていたソロモンは、ソファーから腰を上げて執務机の雑多な書類の中から、一部を摘み上げる。それは、レオニールから届いた報告書だ。

「なんでも、冒険者の中でキメラクローゼンと関係のある者の一部が特定できたんだって。でね、その動向を調査したらしいんだけど、気になる共通点が見つかったって話だよ」

 ソロモンは報告書を一枚一枚と捲ると、情報を再確認しながら伝えていく。
 冒険者とキメラクローゼンの関係。それは、術士組合長であるレオニールだからこそ得られた情報であるともいえるだろう。いうなれば職権乱用の賜物である。

「共通点とな?」

「うん、どうやら特定できた冒険者達は全員ここ最近になって、あるダンジョンの許可証を何度も繰り返し申請していたようなんだ。でね、そのダンジョンは、天秤の城塞、防人の書庫、幻影回廊の三つ」

「ふむ、何度か行った事のある場所じゃな。しかし、その三ヶ所にどのような用事があるというんじゃ。覚えておる限り、繋がる点はなさそうじゃが」

 ソロモンの提示した三つのダンジョン。どれもが上級に分類される難易度であり、ミラもかつては様々な理由で訪れた場所だ。故に、どういった場所かは把握していたものの、その三つの共通点には心当たりが無い。キメラクローゼンとの関係が、それぞれ個別にあるのかとも考えられるが、そのダンジョンに精霊の住処は無い。

「君は余り歴史とか文献は読まない性質(たち)だったね。実はこの三つ、過去で繋がるんだよ。まあ、レオニールの受け売りだけど。彼はその辺りも詳しく調べてくれたよ。先を越した君に随分と触発されてくれたみたいだね」

 そう言うとソロモンは外見通りの子供らしい、しかしどこか達観した大人の含みのある表情を浮かべては、資料に目を落してにっと笑う。期待以上の働きをしてくれて、喜んでいるようだ。

「して、その繋がりは何なのじゃ?」

 相変わらずだと、ソロモンの様子に苦笑しながらミラは続きを促す。ルミナリアは既に知っているのか、ミラの購入してきた土産物の山を漁っていた。

「まず天秤の城塞だけど、古代人が魔物達の王と戦った決戦の地っていうのは知ってるよね?」

「何時じゃったか忘れたが、何かのクエストでそんな話を聞いたのぅ」

「どうやらこの決戦の時、文献によると精霊達が古代人に力を貸していたようなんだ」

「ほほぅ。そこで、精霊が現れるか」

 歴史にまつわる文献。世界各地に散逸するそれらを、ミラは世界を彩る一つとして見ていた。設定された過去の出来事、そんな情報という認識でしかない。しかし今、そういった背景は確かな輪郭を得て世界を形作っている。ミラの知る現実というものに、また一つ彩色が施された瞬間だ。

「それでね、決戦の時その精霊達を統率していたのが、かの精霊王シンビオサンクティウス。なんと、天秤の城塞に顕現して指揮を振るってたんだってさ」

「これはまた精霊王とは、大物が出てきたのぅ」

 歴史では、その決戦は古代人側の勝利で幕を閉じる。しかし、精霊王に関しての詳細はほとんど語られてはいないという事だった。

「次は、防人の書庫。ここは、その古代に関する文献や資料が沢山残っている場所だね。で、もちろんさっき言った決戦に関しても」

「うむ、そうじゃのぅ。探せば見つかるじゃろうな」

 防人の書庫。地下深くまで続く巨大なダンジョンで、収められた文献を守るための守護者が徘徊する場所である。そしてそこには、今までの歴史の全てが保管されているとされる。もちろん、歴史だけではなく、様々な知識も一緒にだ。だが、肝心の書庫とダンジョンの部分は隔てられており、書庫に入るにはある特別な許可が必要となってくる。

「で、最後に幻影回廊。こっちは、ダンジョン自体じゃなくてその先が目的なんだろうね」

「幻影回廊の先か。なんじゃったかのぅ。ストーンサークルみたいな場所じゃった気がするが」

 ミラは最後に訪れた、かなり前の記憶を辿ってみるも浮かんだ風景はおぼろげで、最も特徴的だった円を描くように並べられた石の塔だけを思い出す。

「古代環門だね。そして精霊宮殿へと通じていると云われる場所」

「あれには、そんな意味があったのか」

 ミラがその場所を訪れた目的は、そこに巣食うエレメンタルイーターの変異種を討伐するというものであった。しかし、話を聞いてから良く考えてみれば、何故あのような何も無い場所に精霊を獲物とするエレメンタルイーターが居たのかが分かるというものだ。

「この情報にキメラクローゼンの動向、それらを踏まえてレオニールは興味深い答えを導き出してくれたよ」

 ソロモンは、手にした資料を閉じて執務机の上に戻すと、これまでとは幾分表情を固くして次の句を続けた。

「キメラクローゼンの次の標的は、精霊王だとね」
前話まででは少し中途半端だったので、今後の展開のキーワードを出しておきました!

では、またいつか。
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