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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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60 宿泊

六十


 ルナティックレイクから飛び立ち約二時間ほど、ミラは小川の流れる草原で空を見上げていた。小川で用も足し、出した分をアップルオレで補給する。青空は遠く、緩やかに流れる雲は子供がこねる粘土細工のように見る時々に形を変える。頬を撫でる風が母の手のように心地良い昼過ぎだった。
 ミラはペガサスに身を任せたまま、ささめくように吹き抜ける風を目で楽しみ、いつの間にか集まった小鳥や小動物達にそっと触れては、その心を癒していく。

「平和じゃのぅ……」

 つい言いたくなる言葉をミラが呟くと、それに答える様にペガサスが嘶き、同意するかの如く周りが合唱する。その様子は正に平和そのもので、雑多に集まっている動物達も争わず大人しいものだ。
 ミラは、その一時を十分に満喫すると、ペガサスの背に乗り空へと再び舞い上がっていった。


 黄昏を越え地平線に光が沈むと、幕が引かれるように闇が空を覆う。夜を照らす支配者が天高く輝き始めれば、遠くに次々と灯る光が浮かび上がった。飛び抜けて目立つ大きなビルに似た建物が、その灯りで薄っすらと影を伸ばす。

「ようやっと見えてきおったぞ」

 ミラはペガサスに語り掛けながら、その首にしっかりと掴まり夜の闇の中、目を凝らして前方を睨む。まだ少し遠く暗い為、線路は確認できないが、届く光から随分と賑わいのある街である事は想像できた。
 シルバーサイドはアルカイト王国の首都であるルナティックレイクほどではないが、それでも十分に広い都市で、鉄道が通った事で出来た駅街と呼ばれるところだ。
 ペガサスはシルバーサイドに到着すると、そのまま前方に聳える建物へ向かう。街へ降りて見学でもしようかと考えたミラだったが、予想よりも到着が遅れた為、代わりに今日泊まる宿を吟味する事にしたのだ。
 横に長く、木と鉄と石で作られた立派な建造物には、大きく『シルバーサイド駅』と書かれている。その駅の脇に着陸すると、ミラはペガサスの背から飛び降り顔を摺り寄せる天馬に「ご苦労じゃったな」と声を掛けてから送還する。
 表に出ると、純白のペガサスが舞い降りて来たと騒ぐ人々が空を見上げ、周囲を睨むように警戒態勢をとっていた。ミラは仙術技能の"縮地"によって、その群れに紛れ込むとそ知らぬ顔で駅の正面へ回った。受付に似たカウンターには『本日の便は終了しました』と看板が並んでいるが、シルバーサイド駅の入り口は未だに賑わいをみせている。それは鉄道の運行は明日まで無いが、駅構内の店舗がまだ営業中だからだ。
 ミラは、入り口から少しだけ顔を覗かせて内部を見渡す。視界に映ったのは活気ある人々と、大きな商店街だ。

「ここはいつの時代じゃ……」

 造りは全て石鉄木のありきたりなもの。だがその構造は先進的で二層に吹き抜けた構造をしており、行き交う人々の服装も相まって、突然テーマパークのアトラクションにでも紛れ込んだような、ミラはそんな錯覚を覚えた。
 奥の方まで店舗が並び、夜であるのに駅内は昼の様に明るい。だがミラは、そんな商店街に背を向けると、そそくさと駅を後にした。

(駅の探索は明日でもいいじゃろう。それよりも、疲れたわい。早いところ宿を見つけて落ち着きたいものじゃ)

 構内の商店街は、確かにミラの興味を惹くものであったが、それよりも身体の疲労が勝ったのだ。
 駅前の広場は街灯に照らされ、様々な種族、様々な職業の者達が行き交っていた。その日の仕事を終えて家路を急ぐ者や、夜はこれからだとばかりに盛り上がる集団、そして一泊の宿を探す旅人。駅街には、また独特の時間が流れている。
 旅人達に混ざり周囲を一望すれば、宿を表す看板が直ぐミラの目に入った。それも一つではない、駅前の広場を囲むように一帯全てが宿の看板を掲げていたのだ。そしてそれは、広場を離れてもまだ続いている。

「これ程とは……」

 ソロモンに宿は豊富だと聞いていたミラだったが、まさかここまで乱立しているとはと、呆気に取られ思わず声を漏らす。しかも、その外観までもが多種多様なのだ。アパートに似た素朴な見た目で安心感を前面に押し出している宿もあれば、宮殿の如き高級感を売りにしている宿もある。特色豊かな宿が軒を連ね、そこはまるで博覧会のような空間だった。
 これもまた面白いと、ミラは目に入った順に宿を一軒一軒、覗いていく。
 一軒目は素朴な宿。それ故か、ロビーに人が多く、表には満室の札が掛けられていた。
 二軒目は無数の酒樽が並べられた宿。ミラの知るファンタジーでは典型的な宿であり一階は酒場となっている。それ故か、血気盛んな男達が酒樽を空けて大いに騒いでいた。覗いただけでもアルコールが匂い男臭いのでミラは早々に退散する。
 三軒目は宮殿の宿。従業員だけでなく、ロビーの客もどことなく上品で、堅苦しさを感じたミラは次へと向かう。
 四軒目はレストランのような料理自慢の宿。表には本日のシェフいう文字と共に、美形揃いの写真が並んでいる。ミラはその見覚えのある料理種よりも、鮮明な写真の方に注目した。スクリーンショットではない、実体のある写真だ。この世界の技術は多方面に進化しているのだなと感心しながら、ミラは隣の宿へと移動する。大きな窓から見て取れた店内は、シェフ目当てでないだろうかと思えるほどに女性客で埋め尽くされていたからだ。
 五軒目の宿は、ある意味で四軒目の逆であった。メイド服に身を包んだ従業員と、熱狂する男性客が見えた時点で、ミラは早々に踵を返す。
 六軒目の宿は音楽をテーマとした宿だ。専属の楽団が曲を奏でており、思わずリズムを取ってしまう軽快な音が漏れ出てくる。表には、吟遊詩人飛び入り歓迎、と書かれていた。ミラは外で一曲聞き終わると、また別の宿へと向かった。
 そして七軒目、ミラは古き良き日本情緒溢れる旅館と出合った。整えられた生垣が敷地を囲み、建物の造りは純和風。軒先には、旅館名であろう星月荘と書かれた提灯が吊るされている。ミラはその外観に一目惚れすると、誘われるように引き戸の玄関を開いた。
 からからと、それだけの音ですら心地良く響く。
 旅館に入ると黒い石床の玄関だったが、そこから先は和風らしく上がりかまちの後、畳張りのロビーが広がっていた。ミラはイグサとほぼ寸分違わぬその懐かしい香りに、思わず溜息を漏らす。

(ここで決まりじゃな!)

 橙の柔らかな光が、正面に活けられた真珠のような花や、奥まで続く畳の廊下を温かく照らしている。
 外観だけでなく内装にもまた惚れ込んだミラは、靴を脱ぐと用意されていた内履きに履き替えて、カウンターへと向かった。

「いらっしゃいませ。ようこそ星月荘へ」

 受付担当の女性は丁寧に一礼すると、上げた顔で優しく微笑みかける。黒髪黒目で和服が似合い、正に大和撫子と呼ぶに相応しい美人だ。ミラはその奥ゆかしい佇まいに見蕩れると、身なりを正し表情を引き締める。

「一泊、頼む」

 美人相手に舞い上がったのか、少しだけポーズをとるミラ。受付の女性は「かしこまりました」と答え、宿泊書と羽ペンを差し出す。格好つけたかったミラだったが今の容姿では、少し背伸びしたがる少女そのものにしか見えないという事には気付かない。

「こちらに、お名前とご職業をお願いします」

「うむ」

 ポーズを続けるミラは羽ペンを受け取ると、名前、そして職業には少し考えたが冒険者と記入した。受付の女性は記入済みの宿泊書を受け取り一瞥すると、

「冒険者の方には登録証の提示をお願いしておりますが、よろしいでしょうか」

 そう言って小さなトレーを置く。ミラは頷くと、ウエストポーチから登録証を取り出し、そのまま硬直した。登録証は、鎮魂都市カラナックの術士組合受付ユーリカから貰った、可愛らしい皮製のカードケースに入れてあったからだ。格好つけたい今のミラにとって、少女趣味全開のそれは致命的ともいえる。
 慌てて取り出そうとすると「そのままで結構ですよ」と優しく声を掛けられ、ミラはケースの表が見えないよう開いてから、渋々トレーに置いた。

 受付の女性は、登録証を確認し宿泊書に何かを追記すると、カードケースを丁寧に閉じてからミラに返した。

「確かに拝見させていただきました。朝食と夕食が付く寛ぎコースが二万リフ、宿泊だけの素泊まりコースが一万二千リフとなっておりますが、どちらになさいますか?」

「寛ぎコースで」

 明らかにファンシーなカードケースを見られたミラは、俯きながらコースを決める。受付の女性はそんなミラに笑顔を向けたまま、宿泊書に書き込んでいく。

「料金は先払いとなりますが、よろしいですか」

「うむ」

 短く頷いたミラはカードケースをウエストポーチに戻すと、今度は貨幣を詰め込んだ皮袋を取り出して、ミスリル貨二枚をトレーに置いた。ミラが財布代わりにしている皮袋は、最初にソロモンからお金を受け取った時のものだ。印象だけでみるとカードケースに比べ随分と落差がある事にミラは気付いていない。

「ご利用ありがとうございます。ではそちらの者が案内いたします。本日は、ごゆっくりとお寛ぎ下さい」

 受付の女性がそう言い深く一礼すると、その艶やかな黒髪が揺れてふわりと舞い落ちる。そして顔を上げた後、さりげなく髪を整える。その間にも笑顔は崩さず、洗練された姿勢は最初に受けた印象をより一層強固にした。

「ではお客様、お部屋へご案内させていただきます」

 ミラの隣にそっと姿を現し声を掛けたのはメオウ族の女性で、想像以上に和装の似合う仲居だった。

「よろしく頼む」

 ミラが答えると、仲居は玄関に脱いだままのミラの靴を揃えて手に取り「こちらへ」と、隣の部屋へ案内する。
 その部屋には靴箱が並んでいた。鍵が付いており、それぞれに文字が書かれている。仲居は、その内の『空』と書かれた所にミラの靴を入れて鍵を閉める。

「こちらが履物の間となってます。対応する鍵は部屋と同じですので、お帰りの際は靴を取り出してから鍵を受付に返してくださいね」

「うむ」

 靴箱が一部屋に纏められているのは、景観を損なわない為という星月荘の配慮であった。どことなく学校の下駄箱を髣髴とさせる光景だ。
 客室へと向かう畳の廊下は宿の入り口とはうって変わって、光の届かぬ深海の如くひっそりと続いており、等間隔に並ぶ提灯の火が淡く鼓動し静寂に波紋を映していた。
 程よい畳の反発は足裏に心地良く、漆の塗られた柱は淡白な闇の中で良く栄える。飾られた障子や襖は、より一層和の気配を盛り上げるのに一役かっていた。元の世界でも、これほど日本風情が詰まった場所は易々と見つけられないだろう。それだけに、ミラの胸は期待で一杯に膨らんだ。
 ちりんちりんと小さな鈴とリボンが付いた仲居の尻尾を右へ左へと目で追いかけながら、幾つかの部屋を通り過ぎていく事暫く。一晩の寝床となる『空の間』と書かれた部屋の前に到着した。仲居が襖を開けると、そこには木製の引き戸がある。

「襖の奥にまた扉とは。面白い造りじゃな」

「襖の並んだ廊下は煌びやかで美しいのですが、防犯の面では笊なんです。それを補うのがこの内戸なのですよ」

「なるほどのぅ」

 仲居はそう答えながら、鍵をその引き戸に差し込み捻る。ミラは廊下に今一度顔を出すと、彩が見事な襖の続くその煌びやかな景観に、確かにその通りだなと納得する。

「内履きはこちらで脱いでからお上がり下さい」

 仲居がそう言って示した場所は、部屋に入って直ぐの石床だ。ミラは言われた通りにして、室内へと足を踏み入れた。
 ミラの泊まる部屋は、正真正銘の和室だった。部屋の広さは十畳ほどで、木目の鮮やかなテーブル、その上には小分けにされた和菓子が載っている。若草色の座椅子と、その正面には生け花に滝が描かれた掛け軸。こだわりが随所に見て取れる。そして、窓から見えるのは異国情緒溢れる景色。和室から眺める街並みは、スクリーンに映った映画の一幕のようだ。

「お夕飯は直ぐにお持ちいたしますか?」

「うーむ、先にさっぱりとしたいところじゃな。ここに風呂はあるかのぅ?」

 ミラは、折角の旅館の料理なのだから、身も心も清清しくしてから堪能したいと考えた。すると、仲居は弾む声で、

「各部屋に浴室はありますが、私としては大浴場をオススメします。当宿、一番の自慢なんですよ」

 そう言い部屋の箪笥から籠を取り出す。その中にはタオルや石鹸など、入浴に必要なものが一揃えにされていた。

「ほう、大浴場か」

「ご入浴には、どうぞこの籠の物をお使い下さい。もし直ぐに行かれるのでしたらご案内しますよ」

「では、頼むとしよう」

 旅館に来ておいて大浴場に入らないという選択肢はミラには無かった。
 再び廊下に出て部屋に鍵を掛けると、そのまま「こちらが部屋と靴箱の鍵となりますので、失くさないようお気をつけ下さい」と、その鍵を渡される。ミラは頷き、鍵をウエストポーチに入れると、また仲居の尻尾を追いかける。

 大浴場の前の広間には、寛ぐ宿泊客の姿が幾つも見えた。そこでは全員が浴衣を着ており、カチコチと小気味良くピンポン玉を弾き合う音が響く。隣接した売店には土産物が並び、壁には旅館内の案内図が張られている。どこか郷愁を思わせる暖かな光の中、全てが安らいだ空気を纏っている。
 だが、そこに呆然と佇む少女が一人。ミラである。彼女は今『女湯』と、当たり前の事を主張している赤い暖簾の前で、自分の至らなさに苦笑していた。大浴場となれば男女で分けてあるのは常識だ。そして少女になった自分は、当然女として分類される。だがまだ、ミラは裸の女性達の中へ飛び込む程の覚悟は出来ていなかった。
 確実に平静を保ってはいられないだろう。欲望のままに、視線を全方位へと走らせる自信がミラにはあった。
 ここでまた葛藤を始めようかというところで、仲居に籠を手渡される。

「では、ごゆっくりお寛ぎ下さい。夕飯は、頃合をみてお運びします」

「うむ、分かった……」

 そう言って一礼すると、仲居はミラを見送るように微笑む。退路を完全に断たれ、いよいよ意を決したミラは、態度だけは堂々と女湯の暖簾を越えていった。

 畳張りの脱衣所は広く、木製のロッカーが壁側を埋め尽くしていた。灯りとして『湯』と書かれた提灯が等間隔で吊り下げられており、その光の下、女性達の肌が淡く彩られる。未熟な肢体から始まり、張りのある瑞々しい肢体、そして旬の過ぎた肢体と、老若女がそこには揃っている。
 入り口で完全に停止していたミラは、ほんの少しだけ拝見してから、そそくさと隅のロッカーに陣取った。
 ロッカーには一つずつ番号がふられ、空いているロッカーには鍵が差してある。銭湯などで良く見る形式だ。ミラはロッカーの一つを開いて籠を押し込むと、即座に服を脱ぎ始める。

(うーむ……落ち着かん)

 周囲からは、家族の声や、仲良し同士がじゃれ合う嬌声、フリッカを髣髴とさせる方面の奇声に、無邪気な少女の笑い声などが聞こえてくる。女性に支配された空間で、ミラは最後にパンツをロッカーに突っ込むと、籠からタオルや石鹸を取り出して鍵を閉めた。伸縮性のある紐の輪が付いた鍵を腕に巻いてから、大浴場へとミラは逃げるように飛び込んだ。

「なんと……」

 仲居が一番の自慢と言っていただけの事はあると、大浴場を一望しながら感嘆の声を漏らす。
 驚いたのは、浴場の洗い場も全て畳張りだったという事だ。畳風呂やお座敷風呂と呼ばれている類のもので、それこそ旅館などでしかお目にかかる機会は無いだろう。これはミラも初体験であった。
 ミラの心を擽ったのは、それだけでは無い。湯船の更に奥に隣接し、大パノラマで眺める事が出来る日本庭園を模した趣のある空間が広がっているのだ。
 提灯の穏やかな灯りは、その庭の彩を邪魔する事無く、夜の庭園は凛とした涼やかさで見る者に一時の平穏を与えている。
 ミラは、余りの別世界感と共に、郷愁にも似た感情を孕ませ立ち尽くす。
 浴室を満たす湿りは肌に潤いを与え、程よい温もりが包み込む。この様な環境下でも僅かに漂うイグサの香りは、石鹸と混じりあい独特の清涼感を生み出していた。
 澄んだ耳奥には流水の音と、楽しそうな少女の声が響く。一歩二歩と歩き出したミラは、窺うように周囲を確認しながら洗い場の一つを確保した。そこには技術の進歩具合を如実に表す、銀細工の蛇口とシャワーが揃っている。実用性豊かな今に感謝しながらシャワーで身体を軽く流すと、ミラは跳ねる様な気持ちで奥へ向かった。
 大浴場の大きな湯船には、中央に大人ほどの高さがある大岩が聳えており、その頭頂部から湯が湧き出している。小さな子供達が、その岩の周りではしゃぐ。岩に抱きついたり、流れ落ちる湯を手で掬ったりと、楽しそうに笑う。
 そんな光景に和みつつ、ミラが湯船に足を浸けると、

「ちょっと待った、そのまま入ったら髪まで浸かっちゃう!」

 その声と共に肩を掴まれた。ミラが振り返ると、とても引き締まった身体の背の高い女性が、優しそうに微笑んでいた。髪は薄紫のショートで歳は二十前半、気の強そうな印象の顔立ちをしたお姉さんだ。

「そういえば、そうじゃな」

 そのお姉さんの言葉で、共同浴場などでは髪を湯に浸けないのがマナーだと思い出したミラ。マリアナに結ってもらったツインテールを解きながらその女性を見上げると、ミラは即座に視線を逸らした。それは相手が美人である以上に、胸部が主張しすぎていたからだ。他の入浴客も羨望と嫉妬の入り混じった視線を送り続けている事から、平均を遥かに超えているという事は明らかだ。
 ミラは、どうすれば上手く髪を結い上げる事が出来るのか分からず、少し考えた後、適当に束ねて首に巻いた。肩まで浸からなければ問題ないだろうという結論だ。

「忠告、感謝する」

 そう言って再び湯船に踏み入るミラの肩を、お姉さんの手がまた掴む。

「待って待って待って。そんなんじゃあ、ゆっくり出来ないっしょ。あたしがやったげるから」

 お姉さんはミラを半ば強引に抱き寄せると首に巻いた髪を解き、手際良く結い上げていく。

「あたしね、妹がいるんだ。君みたいに髪が長くてさ、良くこうやってあげてたもんだよ。あ、そのリボン借りていい?」

 その妹を思い出したのか、お姉さんの声色が少しだけ甘くなる。ミラは「うむ」と頷いてツインテールと一緒に解いたリボンを頭越しに手渡す。

「後は、ここをこうして……と。はい、もう大丈夫」

 綺麗に整えられた髪はリボンで丁寧に留められ、ミラは両手で髪の状態を確認すると、その出来栄えに満足する。

「これなら、ゆっくりと寛げそうじゃな。ありがとう」

 振り返り礼を言ったミラの目の前には、見事に実った母性の象徴。

「どういたしまして……って、どうしたの?」

 慌てて目を逸らしながらも、僅かに気にしているミラの様子にお姉さんは首を傾げると、その落ち着きの無い視線を辿る。

「あ、そっかそっか。君もおませさんだ」

「いや!? そのじゃな!?」

 態度で察したお姉さんは、言いながら前屈みにミラの胸に顔を近づける。対してミラは、隠し見ていた事実を悟られ狼狽気味に視線を迷走させ始めた。

「確かに君くらいの年頃なら気になる時期かもしれないか。うん、でも大丈夫! 今でこれだけあれば、きっと将来はもっと大きくなってると思うから」

 お姉さんはすくりと背を伸ばしてミラの両肩に手を置いて、そう未来を保証する。

「ああ、うむ、それは安心じゃ……」

 良く考えれば、こんな可愛い自分が下心を持って胸を見ていたなんて思われる訳が無い。そう今更ながら気付いたミラは、その言葉に安堵すると同時に言いようの無い感情を押し込めて、自身の胸を見下ろした。

(まあ、今のままが一番完璧じゃがな!)

 改めて確認したミラは、自信満々に胸を張るのだった。
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