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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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4 共同戦




「ミラ殿か、覚えておこう。しかし召喚術士というのはすごいんだな」

「この程度ならば問題はないのぅ」

「そいつはとんでもないな。ホブゴブリンに劣らぬ召喚術をその歳で習得しているとなると、余程良い師が居たのだろう」

「ふむ、まぁそういった所じゃのぅ」

 師などは居ないがそういうことにしておこう。言い訳を考えるのが面倒になったミラは肯定を表すと、出しっぱなしにしていたダークナイトを帰還させる。

 グライアは少し残念そうにダークナイトが立っていた場所から目を放すと、森の中から更に二組の小隊が偵察から戻る。

「報告します。付近にはホブゴブリン以外の気配はありません。そのお嬢さんの仲間が居たとなると、すでに遠くへ逃げおおせているか、もしくは……」

 少し言い辛そうに偵察内容を報告する小隊長の一人。だがそれは杞憂だ。余計な気を使わせて少し申し訳ないような気持ちでその小隊長を見つめるミラ。しかしその視線を勘違いした小隊長は、明るく振舞い、

「いや、大丈夫だお嬢さん。きっとすでに遠くまで逃げ切ったのだろう。ホブゴブリンは敏捷性に欠けるところがあるからな。きっと大丈夫だ」

 そう何度も大丈夫と言い、勇気付けようとしてくる小隊長の人間性はとても良心的で、演技なんかではないと思わせる。今となってはこれはゲームであるという認識と、ゲームではないという認識は半々でせめぎあっている状態の中、自己縛りプレイのプレイヤーかNPCであるという可能性も捨てきれないミラだが、このように人間味溢れる対応をされるとかなり揺らいでしまう。

 それともう一つ、まだゲームであるという認識を支える腕輪型端末の存在だが、冒険者は同じ者を持っているというグライアの言葉もあり、曖昧な証拠になってしまっているのが頭を悩ませている。つまり、これがゲームであるという証拠はミラ自身の理性しか残っていないのだ。

「報告します。ホブゴブリンの砦で、上位種のアーチゴブリンを数体視認しました。ホブゴブリンは確認できるだけでも百五十体。砦の規模から奥にも同数ほど存在すると思われます」

「最低でも三百、そして上位種までもか……。援軍を待った方がいいかもしれないな」

「いえ、それが……」

「む、どうした」

 言い淀んだ小隊長が、重々しく口を開く。その内容は騎士団達に大きな動揺をもたらすものだった。

「ホブゴブリンは隊列を組み始め戦闘準備中でした。侵攻が近いと思われます」

 グライアは一瞬顔を顰めると、腕を組み神妙な面持ちで決断を下さねばいけないことに溜息を漏らしす。

「そうか……援軍を待つ時間は無いな。我々だけでどうにかしなければ」


 少し考え込んだグライアの脳内にはミラの召喚したダークナイトの姿が思い浮かんだ。あの圧倒的な威圧感はホブゴブリンを怯ませるのに十分威力を発揮するだろう。そして、この場の壮絶な戦闘の痕跡からして、一対一ならばダークナイトの実力があれば劣る事も無い。グライアはそう目算した。

 しかしこれはグライアの、というよりは一般的な常識により出した答えであるため、実際には大きくずれている。グライアは最初、ダークナイトが全て倒したと聞いた時から、苛烈極める激戦を想像した。一体、または二体と次々に相手をして、結果このような壮絶な光景となったのだろうと。

 ミラが百体を同時に相手して、しかも二、三分の出来事だったとは想像どころか頭の片隅にも浮かばない事だった。むしろ浮かぶわけが無い。それが常識であり、精鋭であるアルカイト魔法騎士団が派遣されるほどの戦地で、いくら召喚術士であろうと一人で戦える方法などその程度しか思い浮かばないからだ。

「では、ミラ殿。ここで一つ、冒険者として我々の手助けをしてはくれぬか。騎士団に恩を売っておくというのも後々役に立つかもしれないぞ」

 にっと口元を吊り上げて、騎士団らしくない物言いをするグライア。

 グライアはミラの召喚に目をつけたのだ。この騎士団の面々ならば一対一、1対三でも負ける事はまずないだろう。それが精鋭たる実力。しかし、今回は相手の数が多い。六倍以上ともなると危険がつきまとう。そこでミラの出番というわけだ。

 敵の矢面に立つのは、召喚されたダークナイト。倒されたところで死ぬわけではなく帰還するだけのため、危険はない。むしろその恐ろしい外見から陽動役にはこれ以上ないくらい適任だ。

 そして、気を取られたホブゴブリンを騎士達が挟撃し一気に数を減らす。そうすれば勝機が跳ね上がるだろう。
 これがグライアの立てた算段だった。

「ふむ、まあいいじゃろう。付き合おうではないか」

「おお、引き受けてくれるか。ありがとう。報酬ははずむぞ」

 ミラは依頼を引き受ける。そこにはグライアの言う恩を売るという打算もあるが、こうして知り合いになった者に何かあったら寝覚めが悪そうだという理由も混在している。

 そう思った根拠とは、先ほど名前を見るために『調べた』時にチラリと見えたステータスだった。


 名前 グライア・アストル

 クラス 聖騎士

 所属 アルカイト王国

 拠点 アルカイト王国 首都ルナティックレイク

 HP 1440 / 1440

 MP 143 / 143

 力  8 + 2

 体力 10+ 1

 魔力 5

 技力 7

 敏捷 7 + 2



 このように、何とも心許無い数値だったからだ。
 少し見回したところ、グライアは隊長だけあって一番ステータス値は高かった。ミラから見ても力と体力は中々のものだ。

 何が心許無いかというと装備品による修正値だ。余りにも低すぎる。見た目は素晴らしいが、身に着けた武具にはほとんど基礎性能しかなく、ステータス強化の精錬品はほぼ無さそうだった。

 隊長ならばそれなりの一品を持っていてもいいとは思うが、というのがミラの初見の感想だ。



 ◇──────◇


 近くを流れる小川のせせらぎに小気味良く揃った足音が混ざる。
 アルカイト王国南東の国境に位置するミレーテの森。
 アルカイト騎士団に周囲を守られるように共に進むこと暫く、ミラ達は森が開けた場所に出る。そこには小高い崖を刳りぬいた様な洞窟に木の柵や物見台が並び、青い顔のホブゴブリンが所狭しと整列していた。先頭には赤い顔をしたアーチゴブリンがギーギーと声を上げている。その様子からは誰から見ても行軍はもうじきそうだ。

 グライアは小隊に分けた各分隊からの合図を待ちながら木陰に身を潜め、固唾を呑み相手集団を観察する。

 ホブゴブリンだけで三百は超える。報告通りだ。アーチゴブリンは視認できるだけで十五体。厳しい戦いになりそうだと予感させる。騎士団だけで戦っていた場合は、だが。

 ミラ達の潜む所は、砦の正面にある雑木林の隅だ。人数はグライアを含め騎士十人。

 作戦は、まずミラが潜んだままの状態でダークナイトを敵前に召喚。五十までとは言わないが、三十は陽動できればいい方だ。そして他のゴブリン部隊にも少々の隙が生まれれば大成功となる。

 騎士団の部隊は、崖上に二、砦の左右に一ずつ配置されている。上と左右からの奇襲により数を減らせば、ダークナイトに陽動されたゴブリンが砦へと援護に向かうはずだ。後ろを見せたところで、グライア率いる十人が背後から強襲する。

 これがグライアの立案した作戦だ。直接的には全て騎士団が戦闘を行う。ミラへの要望は、ダークナイトで目立つように暴れてくれというものだ。

 盾を握る手にじわりと汗が滲むのを感じながらグライアは腰に帯びた剣の柄に手を掛け、別働隊の合図を息を潜め逸る気持ちで待つ。他の騎士達も同じようで、身を低く屈めたまま別働隊が向かった辺りへと視線を向け、ゆっくりと深く呼吸を繰り返す。殺気を押し殺したまま闘争心のみを高めていく騎士団は、精鋭の名に違わぬ雰囲気を纏っている。

 しかし、ミラはそんな中で少しだけ浮いていた。研ぎ澄まされた緊張感に居心地の悪さを感じつつも、胡坐をかき右手で顎を撫でながら前方の落ちた木の実を突付く小鳥を見つめた。

 器用に食べるもんだなと観察する。小鳥は硬そうな木の実に穴を開けて穿る様に実を食べる。ミラはそんなリアルすぎる小鳥の行動に考えを巡らせていると、ふとちらつく何かを目端に感じた。

「来た、合図だ。四班と五班配置完了」

「二班、合図きました」

「こちらもです。三班配置完了」

 全別働隊の配置完了の合図が届く。グライアは一瞬だけ目を細めると深く息を吐き、感触を確かめるように剣の柄を握る。

「よし、ミラ殿。召喚してくれ」

 思考の波に漂っていたミラは少し慌てて声に振り返り、小鳥から視線を外す。

「よしよし、それではいくぞい」

 出現地点を砦より少し離れた高台に定めて召喚術を発動させる。

 【召喚術:ダークナイト】

 漆黒の炎を纏い姿を現した黒騎士は、その圧倒的な存在感からすぐにゴブリンたちの目に留まる。
 突如現れた正体不明の相手に困惑を見せるゴブリン部隊。キーキーギーギーと声を上げるが隊列を乱さず武器を構えたまま様子を探っている。
 またこんな反応をしたかと、ゴブリンを観察するミラ。すると、少しずつゴブリン達は隊列を換えていき二十体程のホブゴブリンが一体のアーチゴブリンの指揮の元、黒騎士へと走り出した。

 一見すると、リーダーであるアーチゴブリンの指揮に従っているようにも見えるが、突撃命令と同時にバラバラに走り出す様から見ても、連携は取れそうに無い。

「二十程か、少ないが仕方がないな」

 グライアは静かに呟く。数が少ないならばすぐさま片付けて合流するだけだ。

 だが、ここでグライアの想像を超える事態が起こる。剣を脇に構えた黒騎士は一瞬身体を沈めると飛び上がる、というよりも地面すれすれを勢い良く跳躍していったのだ。
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