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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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40 軍勢の片鱗

四十


 鳴り止まない拍手の中、一人だけが腹立たしげに、会場の中心に立つ少女を睨みつけていた。カイロスだ。万年最下位の召喚術が、自分よりも目立っている事が許せなかったのだ。

「ちょっとお待ちください、皆さん」

 業を煮やしたカイロスは会場の中央へ躍り出ると、大袈裟に手を広げて声を上げる。その行動に、一同は何事かと手を止め顔を向ける。カイロスは自分以外を賞賛する雑音が、ようやく止んだとほくそ笑みながら客席を一瞥した。

「少しおかしいとは思いませんか。審査会当日に突然の代表者変更、しかも学園には似つかわしくないこの様な子供が、ヒナタ先生も使えない様な術を操れると思いますか?」

(……こ奴は、何を言っておるんじゃ?)

 ミラからしてみれば、カイロスの言う事は支離滅裂だが、審査員達は違った。今まで見てきた召喚術とは明らかに違う光景、そして現象を目の当たりにして興奮していたが、カイロスの一言が一石となり波紋を広げていく。

「確かに……あれは本当に召喚術なのか? 召喚術というのは、黒い騎士や白い騎士が代わりに戦うものではなかったか?」

 審査員の一人が疑問を口にする。それは、ヒナタの召喚術しか見た事のない貴族の一人。本来の召喚術を知らずに育った若い世代だ。事実、カイロスの言葉に唆された審査員は、全て二十代中頃より若い者ばかりだ。しかし現状は、その世代の者達が審査員の大半を占めているので、採点への影響はかなりのものになるだろう。

「この大陸最高のアルカイト学園の教師以上の召喚術士なんて、居るとしたら塔くらいだと思いませんか。それをこの様な子供が扱えるなど、何か仕掛けがあるはずです。きっと、毎回最下位なのが嫌になったヒナタ先生辺りが、その見た目の良い子供で注意を惹き付けている内に、裏から何かしたのでしょう。今までの召喚術の審査結果を皆さんも覚えていますよね」

 カイロスのその言葉により、疑問を浮かべ視線をミラへと向ける審査員達。この程度で扇動されてしまうほど、現状の召喚術の立場は弱いのかと、ミラは頭を悩ませ内心で地団駄を踏む。
 ミラの実力が疑われる中、ミラと同じ様に頭を悩ませた初老の男が大きく手を打ち鳴らして、会場内の注意を集めた。

「そこまで言うのならば、審査ではなく試合で決着としては如何かな」

 そう提案を口にしたのは学園長だ。一瞬だけ、どよめきが起こるが、すぐに「それは名案だ」と声が上がる。
 その提案はすぐに満場一致で受け入れられ、抗議を言い出したカイロスとミラの審査試合が特別に開催される事となった。


 準備の為に、十五分間の休憩を挟む。しかしその間に席を立つものは無く、皆が異例の試合を前に興奮気味に談話に興じている。

「面倒じゃのぅ……」

「なんだかごめんねっ。どんどん迷惑掛けちゃって」

 ミラは一先ず壁際に戻り呟くと、ヒナタが申し訳無さそうに項垂れる。すると、そんな二人の元にある人物が訪れた。

「いやはや、済まない。こうでも言わないと収拾がつきそうに無かったものでな」

 そう声を掛けてきたのは試合の切っ掛けを作った張本人、学園長だ。灰色のローブを纏った長身で、眉根に皺を寄せて、こちらもまた申し訳なさそうな表情を浮かべている。
 その姿を見るや否や、ヒナタ共々代表者達が背筋を伸ばして一礼する。学園長は、それに軽く礼を返すとミラへと視線を向けた。

「申し訳ないが、暫し付き合ってほしい」

 そう言い苦笑する学園長。ミラは大きく溜息を吐きながらも「まあ、いいじゃろう」と答えると「助かる」と一言口にして、学園長は客席へと戻っていく。

 学園長は今の審査会の現状を嘆いていた。最近の審査会の低迷具合も、術を知らない貴族の傾向も。しかし、学園に出資する有力貴族は数が多く、三十年前の激動の時代(・・・・・)を知らない者達が社会に出てきている。そこに術士の質の低下が重なり、今の学園があるのだ。
 学園長だけでなく、長い歳を重ねている数名は、目の前で魅せられた光景に心を震わした。それはまるで九賢者の揃っていた時代に立ち戻ったかのように。
 学園長は、それを見ただけでミラの実力を把握した。目の前の少女に、自分では敵わないと。そして、小耳に挟んだ、ダンブルフの弟子が現れたという噂が脳裏を過ぎる。

(外見は噂と一致している。そしてこの実力……)

 もしやと思った。彼は、今回の件を良い機会として、その力を見極めるつもりだ。
 真実であればこの学園の状況を打破できるかもしれない。そう思い至り学園長は一計を案じたのだ。現代術士の象徴でもあるカイロスを打ち破り、かつてのアルカイト王国の術士の様な、全てにおいて最適化された本物の術士。そして、そんな中から生まれる遊び心を思い出して欲しいと。そう願い、審査試合を提案したのだ。


「一発ぶちかましてやってくれ」

「君だけが頼りだ」

「私からも、お願い致します」

 学園長が居なくなった後、代表者の一人がミラにそう声を掛ける。それを皮切りに、他の代表者達も溜まっていた鬱憤を晴らす様に、ミラを囲い激励を飛ばした。ここに居る者達は、一ヶ月の術士の立場を左右する重責を担う実力者だ。信じられないほどの出来事ではあったが、見ただけでミラが只者ではない事は分かる。本来ならばカイロスもそれは判断できるはずだが、学園最強という矜持が瞳を曇らせていた。目にしたものをそのまま受け取ってしまえば、その実力は天と地ほども開いているという事実から目を背けたのだ。

「まあ、任せるが良い」

 ミラはそう答えると、広場に向けて歩き出す。


 休憩時間が終わり、両者が広場の中央で向かい合う。審判役として白衣の男が二人の間に立ち、試合のルールを説く。
 曰く、正々堂々と戦う事。勝敗は、戦闘不能や戦意喪失、降参の意志を審判が確認して確定。命を奪う様な行為は禁止。などといったものだ。本来、審査試合というものは無い為、大会試合のルールが適用されている。

「どなたか、ヒナタ先生を見張っておいてください。また裏工作されては堪りませんので」

 カイロスは、わざと大きな声でヒナタの動向を注意するよう、誰にともなく促した。少しでも動きがあれば、すぐにそれを指摘して糾弾するつもりだ。そしてその言葉に、事前に示し合わせていたカイロスの付き人が名乗りを上げて、ヒナタの隣へ移動する。

(これでもう終わったも同然だな。後は頃合を計って、こいつで俺自身を縛ればそれで終わりだ。どういう仕掛けかは知らないが、召喚術士が調子に乗りやがって)

 カイロスが、ちらりと視線を送ると、付き人が小さく頷く。この布石にはもう一つの思惑があった。カイロスはミラを倒すだけでなく、不正をでっち上げて召喚術士の地位を完全に貶めるつもりなのだ。カイロスの手には<呪縛の鉄鎖>という術具が握られている。勝利の直前にそれを自分に放ち、同時に付き人がヒナタの不正を訴えるという作戦だ。ミラが敗北しそうになった時、ヒナタが堪らず試合を妨害する。そう見せる事で完全に叩き潰せると、カイロスは瞳を黒く濁らせる。

「では、特別審査試合を開始します。両者、礼」

 カイロスが優雅な礼を姿勢をとると、咄嗟にミラもレティシャを思い出し、スカートの両端を抓んで一礼した。するとその可愛らしい仕草に、客席が若干ざわつく。戦闘好きなミラは、試合や一騎打ちの名乗りなどといった格式を重んじる傾向にある。男性と女性に違いがあるのかを知らないミラは、とりあえず直前に見ていたレティシャを真似たのだ。

 白衣の男は、両者を一瞥してから後ろへ下がり一定の距離を空けると、右手を高く掲げる。

「構え。……始め!」

 試合開始の合図と同時に、カイロスが動いた。大きく後ろへ跳ねると、両手に魔力を漲らせていく。

「空を舞う炎の軍勢よ、王に従い…………っ!?」

 それはカイロスが悠々と口上を口にしている途中だった。それこそ、瞬きの瞬間にカイロスは六体の黒い騎士に囲まれ、首を包囲する様に六枚の漆黒の刃を突きつけられていた。

「これはっ!」

 目の前で起きた光景に、客席に戦慄が走る。それは、全体を見渡せる客席からでも事の起こりを把握できないものだった。
 事の起こりというのは即ち、詠唱や魔力の収束といった術発動前の予備動作の事だ。
 カイロスは、両手に魔力を収束させながら後ろに跳び着地した。しかし次の瞬間には、その周囲に魔法陣が現れ、そこから圧倒的な禍々しさ纏う黒い騎士が、その剣を振るったのだ。思わず目を瞑った者達が次に目を開いた時、漆黒の大剣は円を形作る様にカイロスの首元で静止していた。そして誰も、ミラの予備動作を確認できた者は居ない。

(なんだ……なんなんだこれは。何が起こっている!? こいつらはどこから出てきたんだ! さては、あいつだな。あの教師が!)

 首元を完全に制されたカイロスは、限界まで首を回すと睨む様に視線をヒナタの方へ向ける。その目に映ったのは皆と同じ様に驚愕するヒナタと代表者達、そして目を見開き首を必死に横に振るわせるカイロスの付き人だ。

(くそっ! どういう事だ。何をしやがったんだ、このガキは!)

 苛立たしげに目の前の少女を睨むカイロス。対してミラはカイロスを見る事もせず、硬直したままの審判役に判定を促そうと、つんつん突付く。

「これの判定はどうなんじゃー?」

 そう言い頬を突付いてくるミラに、ようやく我に返った白衣の男は右手を振り上げる。

「勝者、召喚術士代表!」

 そう声が響くと、疎らに拍手が上がる。客席には、未だに理解が追いつかず呆然としたままの若者達。対して、歳を重ねた中高年層は心からの賞賛をミラに送っていた。

「ふざけるな!」

 勝敗が決まり、ミラはダークナイト六体を帰還させると、開放されたカイロスが憤怒の形相で怒声を上げる。

「どうしたのだ、カイロス・ベルラン。何か不服でもあるというのか」

 一斉に静まり返った会場内に、落ち着いた学園長の声が響く。しかし飾る事を忘れ感情のまま叫んだカイロスは止まらない。

「今のはどう見ても有り得ないだろう! 予備動作も無しに六体も召喚できるはずが無い! 一体今まで何を見てきたんだ、たかが一人の召喚術士にこんな事が出来る訳無い! 見て分かるだろう、こんな事協力者がいなければ不可能だ! そう、協力者だ、協力者がいるんだろう! どこに隠れている! 姿を現せ!」

 広場の中心で喚き散らすカイロスに、その場に居る全員が冷めた視線を向ける。出現したダークナイトは、見ただけで総毛立つほど尋常ではない威圧感があった。もしも協力者が居たとしても、それだけの召喚術を扱える者を集めるなど、学園の教師程度では不可能だ。そして、今の時代にそれほどの召喚術士も居ない。少し考えれば、誇大妄想だと気付くだろう。

「卑怯者が! この俺を誰だと思っている! 俺は……っ!!」

 それでもカイロスは、己の非を認めず訴え続ける。しかし、次の瞬間に再び会場内全てが、目の前の光景に飲み込まれる。またも一瞬のうちに、ダークナイトがその幽鬼の如き姿を現したのだ。

「う……うわぁぁぁーー!!」

 カイロスは恐怖に引き攣り思わず後ずさると、足を縺れさせて尻餅をつく様に倒れる。その正面で、大剣を構えた二十体のダークナイトが、四十の赤い瞳を輝かせて、カイロスを見据えていたからだ。

「これ程とは……」

 感嘆する様に、学園長が呟く。召喚速度の早さに複数の同時召喚という高難度の技術、更には召喚と同時に行動に移るダークナイトの反応。そのどれもが規格外だった。

「ここまですれば、流石に理解できるじゃろう?」

 急激にマナを消費したミラは、若干の疲労を感じながら顎先を指で撫でる。

 召喚術を行使するには、幾つかの手順が必要となる。
 まずは出現位置の指定。これは自分を中心とした半径で、実力と共に広がっていく。ミラの場合は二十メートル以内ならばどこにでも召喚可能だ。
 次に召喚体選択。何を指定位置に召喚するのかをこのタイミングで決める。
 召喚体を決めたら、召喚に必要なマナを注ぎ込む。これでいつでも召喚可能な状態になる。
 そして最後に指示だ。召喚後、召喚体の行動を制御する。
 この流れが基本だ。しかしこれは飽くまで一般的な召喚術士の流れ、ミラはこれを一工程にして行使するのだ。時間を掛けて構築した術理論によりダークナイトは、既に行動を開始しながら召喚される。
 発動手順の簡略化は、どの術においても術士最上位への登竜門ともいえる技術だ。故に使い手も極めて限られており、知らぬ者はその現象を理解するのに、まず常識から壊す必要があるだろう。
 そしてこれはほんの入り口で、この技術を極めた者が九賢者という存在だ。
 ミラはそこに一工夫して、出現位置を複数指定してから一息に同じ武具精霊を召喚するという、同時召喚を得意としている。突然、剣を振り下ろすダークナイトに囲まれると言えば、その脅威が分かるだろう。

「素晴らしい」

 学園長が立ち上がり賞賛の声を上げると、やがて他の者達も我に返ったかの様に、溢れんばかりの拍手を一人の少女に送る。


 その後、審査員達はそれぞれの集計を始め、カイロスは待ち時間の内に付き人共々、姿を消していた。
 ミラは、代表者達からも盛大な歓迎を受けると、当たり前の様に実力について追求される。それはそうだろうなと、いつもの言い訳を口にしようとした時、ある人物が審査会場を訪れた。

「おや、もう審査会は終わってしまったのかな」

「そのようね」

 現れたのは男と女一人ずつ。男は輝く金髪を肩まで伸ばし、青と黒のローブを身に纏ったエルフの美青年。女は赤い頭巾が印象的な魔法少女風で、こちらも金髪な少女だ。
 二人とも整った顔立ちをしているが、それ以上に会場の空気が一変した。学園長と教師陣は慌てて広場に降りると、他の面々も緊張した面持ちで直立の姿勢を取る。その中でもヒナタと死霊術代表者の変わり様は激しかった。

「む。なんじゃ、クレオスではないか」

 ミラはそのエルフの男の方に目に留め、久し振りだと声を掛ける。男は声の方へ顔を向けミラの姿を目にすると、驚きと共に嬉しそうな笑顔を浮かべて歩み寄る。

「ミラちゃん。戻ってるとは聞いたけど、こんな所で会えるとは思わなかったよ」

 そう言って代表者勢に混ざっているミラへ一礼する。ダンブルフ不在により、現在召喚術の塔のエルダー代行を務めているクレオスだ。

「あら、お知り合いなの?」

 クレオスに続いて顔を覗かせる赤頭巾の少女。ジト目でミラを見詰めると「あら、可愛い子」と少しだけ微笑んだが、すぐに表情は消える。ミラは、赤頭巾の少女をどこかで見た気はするが思い出せず、ちらりとクレオスへと視線を向け答えを求める。

「そういえば、あの時、まともに話したのは僕だけだったね。こちらは、僕と同じエルダー代行の一人。死霊術の塔を管理している、アマラッテさん。それで、この子が前に話したミラちゃん」

 クレオスは、赤頭巾の少女をエルダー代行のアマラッテだと紹介すると、そのアマラッテにもミラの事を紹介する。そしてそのやり取りを、ヒナタと代表者達は茫然と眺めていた。その心中は、なんで普通に話してるの? といったものだ。

「あら、貴女が。初めまして、アマラッテよ」

「ミラじゃ」

 紹介を受けてアマラッテは一歩前に出ると軽く会釈をした。更にそこからミラの正面まで寄ると、纏っている服に注目する。

「ところで、こちらとても良い出来ね。どちらで誂えたのか、教えてもらってもいいかしら?」

 アマラッテの背は、ミラより少し高い程度。前屈みになり無表情のままミラの魔導ローブセットを食い入る様に見ている。彼女もまた、魔法少女フリークの一人だった。そしてミラの、魔法少女風だがスマートに洗練された優美な衣装に興味深々だ。

「ぬ、これか? これはリリィ達……っと、城の侍女達の作じゃよ」

「城の侍女、リリィ。この様な服も作れたのね。私もお願いしてみようかしら。ありがとう、ミラさん。とても良い情報でした」

 アマラッテは顔を上げて小さく微笑むと、隅で声を掛けるタイミングを計っていた学園長達の方へと歩き出す。

「それじゃあミラちゃん、また後で。ちょっと挨拶してくるよ。あ、それと話したい事が、色々あるから少し付き合ってもらえると助かるな」

「そうじゃな。わしも色々と聞きたい事があるし、いいじゃろう」

「ありがとう。じゃ、いってくるね」

「うむ」

 幾つか言葉を交わし、クレオスはアマラッテを追いかける様に学園長の方へ向かう。アマラッテは駆け寄ってきた学園長と既に合流しており、何かを話していた。
 クレオスが向こうへ合流した後、ようやく今日何度目になるか分からない硬直から解けたヒナタが、ミラに食い付く。

「何で! ミラちゃん何であんなにクレオス様と親しそうなのっ!? というか、どういう関係なの!?」

 取り乱した様にまくし立てるヒナタ。しかし傍に居る代表者達は誰も止めず宥めもしない。それは、自分の問いたい事でもあったからだ。

「前に会った事があるからじゃよ。そう興奮するでない。それよりも、お主等は挨拶しなくても良いのか?」

 ミラがそう言うとヒナタの猫耳がピンと逆立ち、代表者達も「あっ」と声を上げる。驚いていて完全にその事を失念していたのだ。
 慌しく、学園長方面に駆け出していくヒナタ達。ミラは、その後姿を見つめながらアップルオレを取り出し、一息ついた。


 二人は、折角だからと審査会の様子を見に来たという事だった。クレオスは、召喚術の習得希望者を引率した帰り。アマラッテは、城での用事を片付けた後、学園での用事を済ませる前という事だ。
 突然の重役登場に一時騒然となったが、それでも恙無く集計は終わり、結果召喚術は歴代最高点で一位に輝いたのだった。
 その後、審査会は解散となり、それぞれがそれぞれの仕事に戻っていく。

 ミラは現在、代行二人と共に学園の客室のソファーにゆったりと腰掛けていた。正面には楽しげなクレオス、そして無表情なアマラッテ。ミラの隣には、何故この場に自分が同席しているのか理解に苦しんでいる、追い詰められた表情のヒナタが居る。

(何でーっ、何でミラちゃんそんなに堂々としてるのーっ)

 教師であるが術士でもあるヒナタにとって、目の前の二人は遥か高みに居る存在だ。同じ目線で向かい合うなど畏れ多いと、今すぐ地面に平伏したい気分であった。
 ヒナタは緊張で震える手で、ティーカップを取り口元へ運んで傾ける。

「あちゅぃっ」

 淹れたばかりのハーブティはまだ熱く、ヒナタは思わず声を上げる。ぴょこんと立った猫耳と尻尾にミラは和みながら、水の入ったグラスを差し出す。

「ありがとっ」

 グラスを受け取り、ちびちびと水を啜り舌を冷やすヒナタ。しかし次の瞬間、現在の自分の置かれている状況を思い出して、慌てて視線を巡らせる。
 クレオスはにこやかな笑顔でヒナタを見ている。アマラッテは口元に手を当てて、にやりと瞳を輝かせた。

「大丈夫かい、ヒナタ先生」

「だっ……大丈夫れふっ」

 クレオスが声を掛けると、ヒナタは猫耳を大きく広げながら噛み噛みで答える。ミラは、ヒナタの様子を見て苦笑すると、テーブルに置かれた茶菓子のクッキーを手に取り、それをヒナタの口に突っ込んだ。

「ほれヒナタ。何を緊張しておるんじゃ」

「ふぐぅっ」

 ヒナタは慌ててクッキーを咀嚼し水で流す。

「もーっ、それよりなんでミラちゃんはそんなに平然としてるのーっ」

 少しだけ緊張の解けたヒナタが、ミラに向かって言う。賢者代行二人を相手に、どうして平然としていられるのかと。

「なんでと言われてものぅ」

 言いながら首を傾げるミラ。正直なところ、未だ身分云々については疎いため、聞かれても答えられぬ問いだ。最低限の事は知っているが、まず国の王は親友、賢者代行のクレオスは元従者。何となく違和感を感じるところでもあった。

(今後、考えねばいかんかのぅ)

 円満な人間関係の為、折り合いはつけた方がいいかと考え始めるミラだった。

「ヒナタ先生、そんなに気にしないで。何度も言ってるけど僕達は只の代行だから、そんなに気構えなくてもいいからね」

「で……ですがっ」

「なんじゃヒナタ。何度も言わせておるのか?」

 クレオスの本心からの言葉だが、子供の頃から尊敬し続けてきた相手なので、急に態度は変えられないとヒナタは言い淀む。そこにミラが追撃を掛けると、ヒナタは目を見開いたまま思考を停止させた。
 頭の上がらない相手に、何度言われても改めなかった自分。その何と罪深い事か。

「申し訳ありませーーんっ」

 堪らず平伏したヒナタ。クレオスが苦笑すると、ミラはヒナタの襟元を掴みソファーへ引き戻す。

「困ったねぇ。僕としては、もっと普通に話したいんだけど。召喚術の授業や、今後の予定について色々あるし。ミラちゃんとは、普通に話しているのに、なんで僕はダメなんだろうね」

 若干、寂しそうな表情を浮かべてクレオスが言うと、ヒナタは申し訳無さそうに猫耳をぺたんと伏せながらも、その言葉の一部に反応する。

「え? あの、ミラちゃんがどうかしたんですか?」

 何故、そこでミラが引き合いに出されたのか。小首を傾げながら、ヒナタはミラへと視線を送る。その視界に映る少女は、とても可愛らしく、とてつもない実力を秘めた召喚術士。強さでみれば、確かに平伏してもおかしくない。しかし相手は冒険者だ。冒険者は自由を重んじ、そういったものとは無縁の存在である。上位陣になれば相応の権力を持つ者も居るが、それもまた極々少数だ。

「ミラちゃんは、ダンブルフ様のお弟子さんだからね。多分、実力も僕より上だと思うよ」

 クレオスは少しだけ羨望の眼差しをミラに向けながら言うと、それを聞いたヒナタは今度こそ完全に思考停止に陥るのだった。
最近、ホットケーキに嵌りました。
手軽で安くて美味しくて、便利ですね。
+注意+
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