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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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39 術技審査会

三十九


 白衣の男から術技審査会の概要が説明される。これは主に、観客席に並ぶゲストに向けてのものだ。
 代表者一人に与えられた時間は五分で、その間に術を披露する。
 攻撃系の術は、術系防御に特化した鎧を着せた人形をターゲットとする。
 審査員は、国の教育委員会とアルカイト学園に出資している貴族、博士に学園長。他には、生徒会や学園保護者の会、卒業生などが顔を揃えている。
 審査基準は、術の難易度、効果、発動速度が主となるが、これについては最近、見た目も判定されている傾向にあった。その理由は、術について理解の浅い者が多く、どれだけ高度で難解な術でも、見た目が冴えないと判定が渋いというものだ。

 審査は今後の術士育成の見本となると同時に、経費振り分けの指標にもなる。ヒナタは最初、利用できる設備も決まると言っていたが、実際は強弱関係により優先度が暗黙の内に決まってしまうというものだ。
 この審査には、有力な貴族や商人、冒険者などがゲストとして訪れている。確かな力を示せれば、それだけ力のあるパトロンが付いたり、強力なの後ろ盾を得るチャンスでもあった。
 代表者は推薦で選出され、候補が複数居た場合は選定試験が行われる。そして該当者が居ない時は教師が代役を勤める事となっている。つまりは、ヒナタが毎月出ているというのは、召喚術士の該当者がそれだけ居ないという事でもある。今回ミラは、代表者の推薦で出場するという形だ。
 ちなみに無形術は、どの術士でも扱える系統という事で常に一定の経費が割かれている為、審査は無い。

「それでは、前回最も評価点の高かった魔術科より、審査を始めさせていただきます。代表者、前へお願いします」

 白衣の男が審査会の進行役として、カイロスを招く。一拍子遅れて客席に愛想を振りまきながら、中央へと歩み出るカイロス。同時に会場内に拍手の音が鳴り響く。知っている者は、今日は何を見せてくれるのか、人に聞き興味を持ち足を運んだ者は何が起こるのかを期待しながら、赤いローブの男に注目する。

「前回は、素晴らしい水の魔術により他を圧倒する高得点を見せてくれた魔術科です。今回の審査では、どの様な術を見せてくださるのか、私も楽しみです」

 客席に向けて簡単な説明をすると、白衣の男は会場の脇へと移動する。しかし、その途中にカイロスが呼び止めた。

「おいお前、前回は、じゃなく、前回も、だろ」

「は……はい。そうでした。申し訳ありません」

「気をつけろよ」

 その小声で交わされたやり取りは、客席はおろか他の代表者にも届かない。しかし、白衣の男の表情から、碌でも無い事だろうと察したミラは、白衣の男に同情する。

 カイロスは「これだから庶民は」と呟きながら、設置された鎧人形に相対する。魔術は、ほぼ全てが攻撃系の火力特化な術系統だ。総合火力でいうならば、術士系最強といっても過言ではないだろう。必然的に、魔術は鎧人形に向けて行使する事になる。

「魔術科代表として審査の一番手を努めさせていただきます、カイロス・ベルランと申します。この度は忙しい中お集まりくださり、ありがとうございます」

 客席に向かい、優雅に礼をするカイロス。何故、全員の代表の様な口上を述べるのかと、指摘する者は誰もいない。他の代表者は、もういつもの事と諦めており、ミラもそれどころじゃなかった。

(アルフィナでも呼ぶか? いやしかし、見世物にされるとなると不貞腐れそうじゃのぅ。いっその事、天井をぶち壊し……)

「むむぅ……」

 ミラは上級召喚の中で、見栄えも良く審査に適した性格の持ち主を考え続けていた。

「ではご覧に入れましょう。魔術本来の輝きを!」

 カイロスは声高らかに宣言し、左足を半歩下げ右手を鎧人形に突き出し構える。その手に練り上げられた魔力が収束すると、正面に魔法陣が浮かび上がった。

「触れし者全てを焼き尽くす、天上の業火よ!」

 その声と共に魔法陣が赤く輝くと、掌に小さな紅い炎が集まり、大きく膨らんでいく。頭ほどに膨張すると、揺らめく尾を引きながら鎧人形目掛けて突き進む。すると突然、火球が無数に拡散して鎧人形に襲い掛かる。着弾と同時に轟音が響くと、若干焦げ後の残る鎧人形を飾る様に火の粉が舞い散る。その光景に、客席から感嘆の声が上がった。ミラは耳に残る残響に顔を顰めながら、会場の中心に視線を向ける。
 カイロスは客席に向けて手を振ると、ほんの序の口だとばかりに次の魔術の準備に入る。
 今度は、カイロスの両手に魔力が集まっていく。

「デモンストレーションはお楽しみいただけたようですね。では、皆様を炎の饗宴にご招待しましょう!」

 客席の反応に気分を良くしたのか意気揚々と声を弾ませ、大袈裟に両手を振り上げるカイロス。

「空を舞う炎の軍勢よ、王に従い敵を討ち滅ぼせ!」

 再び声と共に魔法陣が浮かび上がると、カイロスを基点に上空扇状に炎の球が出現し、一定の大きさまで膨らむと順次前方へと撃ち出されていく。轟々と地面に壁に鎧人形に叩きつけられていく炎の塊は、絶え間無く爆音を打ち鳴らし、会場を火の粉と爆煙で包む。

(無粋な術じゃな……。着弾箇所もタイミングも出鱈目じゃ。範囲攻撃ならば【魔術:灼熱】の方が効率がいいじゃろう)

 ミラが指摘した通り、カイロスの魔術は効率の面で言えばかなり悪い。低レベルな魔物にならば有効かもしれないが、見切られ易く実戦にも向いてはいないものだ。
 しかし、流星群の様に煌めく無数の炎弾に、客席の審査員は言葉も無くただ見入っていた。肉体だけでは実現できない、術士ならではの現象。目の前で繰り広げられる、光景は、正に炎の饗宴の様相を呈している。それはミラにしてみれば、金に飽かした貴族のパーティの様なものだ。贅の限りを尽くし、一時に狂喜する金に肥えた風船といったところだろう。
 カイロスの魔術は、効率と実戦は度外視し、目に栄える事に特化している。不戦条約が締結されてから十年弱、これが今の審査会の現状だった。
 カイロスの披露が終わり、審査員がそれぞれ点を付けていく。これは代表者全員の披露が終了してから集計され発表となるが、一部以外は、誰もが最高に近い点を付けていた。

 カイロスは自信に満ちた表情で戻る途中、ヒナタとミラへ視線を向けて、にやりと口元を歪める。ヒナタは完全に意気消沈気味で、猫耳をぱたりと閉じ俯く。その姿に一層気を良くしたカイロスは、満足そうに反対の壁に寄り掛かる。

 それから、前回の順位通りに代表者が中央に出て術を披露していった。

 二番手は聖術士。デモンストレーションとして、一定の属性ダメージを無効化できる【聖術:シールドスキン】を自身に掛けて、付き人に術攻撃をしてもらい無傷をアピールする。それから【聖術:アークゲート】による強烈な光の照射で、鎧人形を攻撃した。単純ながら、眩い光の奔流は、審査員にも好印象を与える。

 三番手は陰陽術士。最初に披露したのが【星符術:木之一式・樹木林】だ。あっという間に広場が林になると、続いて行使したのは【星符術:火之一式・狐々茜】。術によって生み出された炎の子狐が林を走り回ると、多角に軌道を描いて飛び回り鎧人形に突撃して爆散する。

 四番手は仙術士。序盤は【仙術・地:焔纏】により両手に炎を宿し武術の型を披露。本来より圧縮を緩められた炎が、拳の動きに合わせて紅蓮の帯を描き空間を彩る。最後に、鎧人形へと拳を突き立て炎を開放すると同時に【仙術・天:衝波】を至近距離で炸裂させ、炎を豪快に撒き散らした。

 五番手は退魔術士。聖水の瓶を一つ取り出すと蓋を開けて、真上に放り投げる。【結界術:退魔陣】の発動と同時に瓶が砕け、中の聖水と共に瓶の欠片が周囲に拡散して降り注ぐ。そして聖なる力が降り注いだ地面が輝き始めると、薄っすらと光の膜が現れた。続けて数本の聖水の瓶を手にすると、それを鎧人形に投げつけ【退魔神法:贖罪の蒼炎】を発動する。青い炎が地面ごと鎧人形を覆い尽くし、静かに揺らめいた。

 六番手は降魔術士。【降魔術・蟲:蜘蛛】により、その身に蜘蛛の能力を宿す。そして鎧人形目掛けて無数の糸を放って縛り、即座に【降魔術・魔:炎猟犬(ヘルハウンド)】に切り替え両手に炎爪を生じさせる。その爪で糸を燃やすと、導火線を伝う様に炎が鎧人形に襲い掛かり、紅蓮の炎で包み込んだ。

 七番手は死霊術士。【死霊術:岩人形】により等身大のゴーレムを作り出すと、鎧人形に突進させる。激しい激突音が響くと同時に【追葬術:融解輪廻】により火柱と共に一帯を焼き尽くした。

 七人の代表者の披露が終わり、多少の焦げ付きを残す鎧人形が広場で次の代表者を待つ。遂に最後、召喚術代表者ミラの番となった。

「続きまして召喚術代表、前へお願いします」

 ミラを呼ぶ白衣の男の声が会場に響く。その声に顔を上げると、ミラは何を呼び出すかを決定した。

(よし、あ奴にするか。少し心配じゃが……、まあ今では最善じゃろう。多分……)

「ミラちゃん……」

 一歩踏み出すミラを、ヒナタが心配そうに見つめる。ミラは振り返り、不安そうなヒナタを見上げると、

「心配せずともよい。この程度児戯にも等しい」

 そう言って、ヒナタの不安を払拭させる為にと一笑する。ミラの自信に満ちた笑顔に息を呑み、教師なのに気落ちしてるなんて情けないと、改まってヒナタは自分に喝を入れ直す。

「うんっ、お願いミラちゃん!」

 ヒナタの声援を背に受けて、ミラは広場の中央に立つ。
 白衣の男は隅へと移動し、会場内全ての視線が一人の少女に集中する。注目される事が苦手な為、ミラは若干苦笑しつつも、右手を無造作に横に突き出し【召喚スキル:アルカナの制約陣】を空中に出現させる。
 同時に客席がどよめいた。アルカナの制約陣は上級召喚術士が扱う、召喚体強化の高等技術。そして召喚術士であるヒナタまでも、その光景に目を丸く見開いている。ヒナタにしてみれば、存在は知っているが手の届かない御技の一つという認識。つまり現在、学園には使い手の居ない技術なのだ。この場に居るほぼ全ての者が、一部を除き見た事もないスキル。それをミラはいとも容易く行使した。
 学園長と教師に博士、卒業生の数人だけが感心した様に次の一手を期待し始める。

 ミラはそのまま右手を返すと制約陣を召喚陣へと昇華させる。その瞬間に、悲鳴染みた声が幾つか上がった。召喚陣からは途方も無い量の魔力が噴き出し、脈動する様に蠢いているからだ。

「なんと……ロザリオの召喚陣か!?」

 その想定外の光景に学園長は思わず席を立ち、驚愕の色を瞳に浮かべて、事も無げに構える少女に畏敬の視線を向ける。

「おい……あれはなんだ? 召喚術士じゃなかったのか?」

「そのはずです。定かではありませんが、あれは上級の召喚陣かと思われます」

 貴族の一人が思わず隣に控える執事に尋ねると、執事は動揺しながらもそう答える。かつて戦場を駆けた事のある執事の男は、当時ダンブルフが行使していた上級召喚術を、目にした事がある。虚ろだった記憶が今、目の前の光景から鮮明に蘇ったのだ。準備段階で浮かび上がる魔法陣が、目の前の魔法陣と酷似していると。
 方々から、その状況に理解が追いつかず声が上がる。対してミラは、まったく意に介さず召喚陣へと向かい合い、その小さな唇から言葉を紡ぎ始める。

『この声が聞こえたら、この想いが届いたら、君は目覚めてくれるだろうか。その声を聞かせて欲しい、その声で歌って欲しい。鈴の様に響く音色をもう一度、今此処に願う』

 【召喚術:ディーヴァ】

 ミラの詠唱が完了すると同時に、召喚陣が太陽の如く輝き、次の瞬間ガラスの様に砕けて飛散する。眩い欠片が星となり降り注ぐ中、その存在は既にそこに居た。白い肌に空色の薄い衣を纏い、上質なシルクに似た艶やかなライトブロンドの髪を靡かせる、どことなく儚げな女性。しかし強い意志を秘めた瞳は、可愛らしい顔立ちに凛とした鋭さを宿らせている。

「ああ、やっとお会いできましたよぅ、奏主様」

 召喚陣から現れた女性は甘く緩い声でそう言うと、目の前の少女を見るや否や即座に召喚主と認識し、淑女の礼を取りながらも潤んだ瞳でミラを見つめる。

「うむ、久しい、な。レティシャ」

 レティシャというのが目の前の女性の名前だった。そしてディーヴァという名の通り、歌やそれに連なる旋律を司っている上級精霊でもある。

「長い間、寂しかったですよぅ。……奏主様……縮みました?」

「いや、縮んだというよりは、大分変わっておると思うんじゃが……」

「ですかぁ…………? あ、そうです。奏主様の歌を作ったんですよぅ」

 レティシャは軽く小首を傾げるが、すぐに興味を失ったのか、無垢な子供の様に微笑むと鼻歌を奏で始める。

「♪ ♪ ♪」

(やはり……これが素じゃったか)

 悩んだ末に選んだディーヴァだったが、ミラはここが心配だった。このレティシャは、かなりふわふわした性格の持ち主なのだ。脈絡も無ければ、前後も関係ない。まだゲームだった頃に召喚した時も、状況状態お構い無しにぽわぽわと喋ったり小歌を口ずさんでいた。
 ミラは、当時の契約イベントを思い出しながら苦笑する。
 だがそんなミラをよそに、周囲は完全に飲み込まれていた。レティシャが内包する魔力の高さもだが、それよりも軽く奏でているだけの鼻歌が、今までの一生を通しても耳にした事の無い、心に深く響く旋律だったからだ。

「あー、それはまた今度でよい。それよりも【森緑のメロディア】を聞かせてくれぬか」

「奏主様のリクエスト、承りましたよぅ」

 レティシャは、身体を左右に揺らしながら奏でていた鼻歌をぴたりと止め、ミラの望みに即頷く。客席の者達だけでなく、代表者達も夢から急に起こされた時の様な感覚を感じながら、もの惜しそうにミラへと視線を向ける。なぜ、止めたのだと。
 だが次の瞬間、そんな事を思った者達は、自らの早計過ぎた感情を愚かと一蹴する事となる。
 ミラのリクエストを受けたレティシャは、魔力で作り出した虹の様に揺らめく羽を広げて、そこから無数の音色を奏で始める。その旋律の波は鼻歌と違い、幾重にも幾重にも重なり合い、深く調和して一つの曲となる。そして、曲に合わせてレティシャが歌う。その歌声は優しく、しかし力強く大気を震わし、女神の如き調べを響かせる。

 レティシャの能力は、ダークナイトやアルフィナと違い、主に後方支援に特化している。歌により癒したり鼓舞したりと効果は様々だ。
 今回、レティシャの歌う森緑のメロディアとは、マナの回復、つまり精神を癒すという効果を持っている。そして、現実となった世界では、特に聞く者に安らぎを与えるという付加効果を発揮した。


 レティシャが歌い始めてから約五分ほどで曲はフィナーレを向かえると、自然に客席全員が立ち上がり盛大に手を打ち鳴らして、心から湧き上がる様な賞賛を会場の中心に居る二人に送る。

(これは、中々高評価のようじゃな。っと、そういえば……)

 ミラは周囲から響く拍手の雨の中、今までの代表者の演技を思い出す。まず、最初に何かを披露した後、鎧人形への攻撃で締めくくっていた事を。審査会はそういう流れなのかと見ながら思っていたミラは、客席に手を振り「ありがとうですよぅ」と賞賛に答えているレティシャに次の指示を出す。

「レティシャ、鎧人形に【激情のレクイエム】じゃ」

 ミラが、そう声を掛けるとレティシャは即座に、

「リクエスト、承りましたよぅ」

 と答え、鎧人形へと顔を向けると、その口から非常に短い単音を発した。
 今度は何だと打ち鳴らす手を止めた者達は、次の瞬間、破裂音と共に粉々に砕け舞い落ちる鎧人形の残骸を、沈黙のまま目で追った。

「なんだ……今のは」

 誰かがどうにか搾り出した声に、ようやく平静を、とまではいかないものの最低限の思考を取り戻した者達が、答えを求める様に学園長へと呼びかける。七人の術士達の攻撃に耐えていた鎧人形が跡形も無く吹き飛んだのだ。それ程に威力のある術など見た事が無い。
 それに対して学園長は、戦慄を覚えながらも込み上げてくる感情を抑えきれず「素晴らしい!」と、ここに居る誰もが心に感じていた言葉を口にした。
 そして再び拍手喝采が巻き起こると、ミラはこれで終わりかと察して「ご苦労じゃったな」と声を掛けレティシャを送還する。レティシャは帰り際に「奏主様の歌がまだですよぅ」と駄々をこねたが「今度、落ち着いたところでな」とのミラの言葉に笑顔で頷き帰っていった。
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