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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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36 報告

三十六


 鎮魂都市カラナックを出立し三日。昼の中頃にアルカイト王国首都ルナティックレイクに到着したミラは、郷愁染みた気分でソロモンの執務室へと侍女に案内されていた。
 初めはこのまま侍女達に囲まれて、また着せ替え人形にされるかもと内心びくついていたが、問題無く執務室前に到着し心を落ち着かせる。
 扉を叩き返事が返ると侍女が「失礼します」と開く。ミラが執務室に入ると背後で静かに扉が閉まる音がした。

「おかえり。一週間振りくらいだね。それで、彼は見つかったかい?」

 室内にはミラとソロモンの二人だけ。ソロモンは友人と話す時の口調で、手元の書類を投げ出しながら問い掛ける。

「残念ながら、居らんかった。じゃが痕跡はあったぞ。それと手掛かりになりそうなのものぅ」

 言いながらミラはアイテム欄を開き、古代神殿の城にあった資料のいくつかを選び取り出していく。ソロモンは、机の上の書類を大雑把に隅へ寄せると、次々に積み上がっていく資料のいくつかを手に取った。

「不死鳥の転生法則? こっちは不滅王の火葬方法、四季精霊の居場所……。一体、彼は何をしていたんだい?」

「それは、こっちを見れば分かるじゃろう」

 飛び飛びの情報では答えに至れるはずも無い。ソロモンは眉間に皺を寄せながら、ミラに手渡された資料に目を通した。
 それは死の刻印に対して、薬等の様々な回復アイテムを使った場合の効果度合いを記したものだ。一般的アイテムから高級なアイテムまで並び、そのほとんどに効果無しと書かれている。そして唯一まだ効果について何も書かれていないアイテム名が、聖杯だ。
 この世界に来て三十年。更にゲームとして楽しんでいたソロモンは、この記述だけで答えに至る。

「もしかして彼は、神命光輝の聖杯を探しに?」

「うむ、多分そうじゃろうな」

 頷き答えたミラは、古代神殿ネブラポリスの六層目の城内で見た事をソロモンに話して聞かせた。


「大切な人なのかな」

「かもしれんのぅ」

 話し終えると二人は、あのソウルハウルがと思いながらも、親友を案じて一時沈黙する。どの様な心境の変化があったにせよ今、ソウルハウルは聖杯を求めて各地を回っている事は確かだろう。

「あの場に居ないという事は、何かしら手掛かりを得て旅立ったとみていいじゃろう。あ奴を見つけるならば、その資料から聖杯の秘密を解き明かし、足跡を辿るのが一番と思うが、どうじゃ?」

「そうだね、それが確実かな」

 まずは、資料からソウルハウルが目指す場所を突き止め、順に当たっていく。現在出来る事はそのくらいだろう。二人はそう結論に至ると、うんざりした表情で資料の山を睨む。

「それにしても流石にこの量を調べるのは骨が折れそうだね。ここは一つ適任者を呼ぶとしようか」

 ソロモンが、机の上にあるベルを指先で二回弾く。だが、それからは音が出ない。しかし問題ないとばかりにソロモンは資料に視線を戻す。

「のぅ、それは呼び鈴か? 何も聞こえんかったが」

 机の上のベルは、一見すると教会の鐘をミニチュアサイズにしたものが、小さな枠組みの柱に紐で吊るされた様な形をしている。ソロモンは誰かを呼ぶと言い、このベルを鳴らす仕草をした。しかしその行動に反して、ミラには金属の弾かれる音どころか一切の物理的な音が微塵も聞こえなかったのだ。

「ん? ああ、コールベルだよ。一応魔法具でね、この音は指定した相手だけにしか聞こえないんだ。範囲は一キロくらい、今指定しているのは……」

「ソロモン様、如何されましたか」

 ソロモンの説明の途中、扉の向こう側から落ち着きのある男の声が届く。その声は、ミラにも聞き覚えのある声だった。

「少し頼みたい事があってな、入れ」

 王様モードに移行したソロモンは、声色を変えてその者を招く。

「失礼します」

 扉を開き一礼した男は、執事服に黒のシックなジュストコールを羽織った金髪のエルフ、ソロモン付きの補佐官スレイマンだった。その姿を目にしたミラは、ふとスレイマンの特徴を思い出す。
 それは、古代知識と精霊知識だ。技能とは違い知識として分別されているそれらは、無形の財産でありレアアイテムにも匹敵する貴重なものである。ただ知識というだけに、脳が許せば覚えられる。知識の出発点は誰かから聞くか本を読むだけ。しかしその情報量は膨大な為、余程の物好きでもなければ、全てを把握している者は居ないだろう。
 しかしそんな膨大な情報を一定のレベル以上に修めている一部の者達が居る。その一人がスレイマンなのだ。

「おかえりなさいませ、ミラ様。何か進展がございましたか」

「うむ、手掛かりは掴んだんじゃがな」

 執務室へ入ると同時に、ミラの姿を目に留めたスレイマンは、姿勢良く一礼する。ミラはその言葉を受けると、テーブルへと視線を向けた。スレイマンが、その視線の先を確認すると、そこには大量の書類が山と積まれている。

「なるほど、これが手掛かりという事ですか。かなりの量でございますね」

「見たところ、この資料には精霊や古代の知識が必要そうでな。お前を呼んだのだ。これから読み解ける場所、行き方等についての情報が知りたい。必要ならば、王立図書館Aランクまでの閲覧を許可しよう」

 この三十年間、スレイマンはその知識もさる事ながら、情報整理や解読についても多大な才能を発揮していた。戦闘については、凡人が少し訓練した程度でしかないが、デスクワークについてはアルカイト王国でも右に出る者は居ない。

「かしこまりました。この私の知識が役立つのならば、全身全霊を持って事に当たらせていただきます」

 ソロモンの補佐官としてだけではなく、忠義に篤いスレイマン。知識を必要とされた事に奮い立った彼は、ソロモンに手渡された無数の資料を運搬用の術具に乗せると「では、図書館を使わせていただきます」と言い、意気揚々と執務室を後にする。その様子を見送りながらソロモンは満足そうに、にやりと微笑んだ。

「これでもう、後は時間の問題だね」

「見事に全部押し付けおったな」

「適材適所と言ってほしいね。ほら、僕の仕事って人を使う事だから」

 ミラは相も変わらずなソロモンに、やれやれと肩を竦めると、もはや定位置となったソファーに身体を投げ出した。座り心地を確かめる様に身体を捻り落ち着く場所を探りつつ、アップルオレを取り出そうとアイテム欄を開く。そしてその時、一覧の中にある悪魔の角が目に入った。

「ああ、そういえばのぅ、もう一つあるんじゃが良いか?」

「ん、構わないよ。何かあったのかい」

 ミラは横になりながら顔だけを向けて言うと、ソロモンは隅に寄せてあった書類を適当に揃えながら答える。

「それがのぅ。地下墓地の最下層に悪魔が出たんじゃが、原因を何か知らぬか?」

「……悪魔だって?」

 ミラが、その言葉を口にした瞬間、ソロモンの表情が一瞬だけ険しくなる。

「うむ、急に現れてのぅ。伯爵三位じゃった。襲い掛かって来たので屠ったんじゃが、なぜあの場に悪魔が居ったのか」

「そっか、まあ流石だね」

 そして少しの間を置いて、ソロモンは手にした書類を再び机の隅に寄せると、引き出しから厳重に封のされたファイルを取り出した。ミラは何事かと立ち上がり、ソロモンの開いたファイルへ視線を落とす。

「君がどこまで、この世界の知識を得ているかは知らないけど、悪魔は十年前の戦争で全滅したとされているんだ」

「うむ、そう聞いておる」

「適応早いね。でも真実は君の見た通り、残党が各地に潜んでいて何かを企んでいるらしい。これはその報告書。目撃地点や痕跡を纏めたものだよ」

 そう言い、ソロモンはファイルの中から数枚の書類を取り出し並べる。その全てには極秘と印されていた。

「ふむ、極秘なんじゃな」

「一般的には全滅したで通っているからね。まだ悪魔が生きているなんて、国や組合の上層クラスしか知らない事だよ」

「そうじゃったのか……、口止めしておいた方が良かったかのぅ……」

 ソロモンの言葉から予想以上に重大な事だと分かったミラの脳裏に、エメラ達の事が過ぎる。そんな思わず呟いたミラの言葉に、ソロモンは表情を一変させる。

「ちょっ……! 誰かに言っちゃったの!?」

 ソロモンは反射的に顔を上げると、テーブルの傍らで資料を見つめるミラへ慌てた様に視線を送る。焦りを浮かべたソロモンの様子を珍しいと感じながら、ミラは口を開く。

「そう急くでない。それと、わしは誰にも言っておらん。その悪魔と出会った時に同行者が居ったんじゃよ」

 そう前置きしてから、ミラはタクトから始まったエメラ達との出会いを簡潔に話す。暗丞の鏡まで護衛して、六層目でソウルハウル探し。手掛かりだけ見つけて帰る途中で、突如現れた悪魔。
 ミラが一通りの流れを話すと、ソロモンは納得した様に頷いてから立ち上がる。

「なるほどね。大体の事情は分かったよ。ただ釘は刺しておかないといけないかな。ギルド、エカルラートカリヨンとタクト君でいいんだよね?」

「うむ、そうじゃな。エメラとアスバル、フリッカ、ゼフじゃ。後、団長のセロじゃな」

「了解したよ。ちょっと向こうの組合と連絡を取って情報操作してくるから、ここで待ってて」

 そう言い、ソロモンは執務室を出て通信室へと向かう。長距離間で双方向通信が可能な装置が置いてある施設だ。これもまた、システムで制御されていた各種チャットモード(プレイヤー同士の通信)が機能しなくなった事により、それを補う為に魔導工学から生まれた技術の一つである。

 ソロモンが居なくなり一人残されたミラは、机の上の資料を手に取ると椅子に腰掛けて、適当に目を走らせた。
 最初の目撃報告は大陸の西、山間の森で崖上から角のある黒い人の姿が、演習中の騎士団を伺う様に見下ろしていたというものだった。騎士団の一人に見つかった直後に姿を消したとあり、遠目だったので悪魔かどうかまでは判明していないと書かれている。
 ミラは他の報告にも目を通したが、大半がそういった眉唾なものばかり。時折、信憑性の高そうなものが混ざっている程度だ。
 資料を簡単に一瞥し終えたミラは、ふらりと立ち上がると暇潰しにと窓へ近づき、王城から眺められる景色を瞳に映す。

(なかなか贅沢な景観じゃな)

 大きなガラス窓の眼下に広がるのは、首都ルナティックレイクの由来ともなる三日月型の湖だ。街はこの湖を中心として発展しており、ミラの場所からは、人の気配に満ちる生き生きとした街並みが一望できる。しかし王城は街の中心にあるので、それでもまだ半分だ。ミラは、感嘆する様に溜息を漏らしながら一際目立つ施設に注目する。それは、御者のガレットに教えてもらった五行機構の一つである、アルカイト学園だ。

(わしが通った大学よりも豪華じゃな)

 ミラは、宮殿の如く佇むその学園校舎に、出会いと別れのキャンパスライフを思い出し僅かに苦笑する。

 アルカイト学園。王城ほどではないが大きな施設であり、三棟の校舎を中心とした修学施設だ。白に黄色く縁取られた校舎が初等部、赤い縁取りが高等部、そして黒い縁取りが専門学部となっている。アルカイト王国の特色からか術に関する学部が非常に多く、その方面では大陸一との呼び声も高い。その為、他国からの留学生も多く、近場の宿には貴族の子が年単位で宿泊していたりもする。術士を目指す者ならば誰もが憧れる最高の教育機関。それがアルカイト学園だった。

(そういえば、タクトは学校に通っておるのか?)

 ふと、ミラの脳裏にタクトの屈託の無い笑顔が浮かぶ。自分の事を慕ってくれた弟の様な存在。きっと今後は術士として励んでいくのだろうと思いながら暫く経った頃、ソロモンが執務室へ戻ってくる。

「どうじゃった?」

「大丈夫そうだったよ」

 ミラは窓に張り付いたまま顔だけを向けて問うと、ソロモンは安堵した様に表情を崩し椅子に腰掛けながら答える。

「組合長と話したところ、向こうの街では悪魔についての話は噂ほども流れてないってさ」

「ふむ、そうか。まあ、あ奴らが妄りに口外するとは思えんしのぅ」

 上級冒険者であるエメラ達ならば情報が与える影響を把握しているはずであり、団長のセロも話をした限り態々混乱させる様な事をする印象は無い。言った後にそう思ったミラは、当然だとばかりに笑み胸を張る。

「まあそういう訳で、この件については他言無用でお願いするよ。曖昧な情報も多い中、まともに相対して生きて帰った情報は、かなり決定的だしね」

「承知じゃ。して、その様子では六層目に悪魔が出た理由は、分からんという事じゃな」

「うん。基本的に情報が不透明だからね。悪魔の目的も理由も今は、はっきりしていないんだ。でもまあ、地下墓地の六層目には調査団を送ってみるべきかな。あんな場所で何やってたのか気になるしね」

「それが良いかもしれんのぅ」

 古代神殿で調べたのは、九賢者ソウルハウルの事についてのみ。悪魔に関しての情報には目を向けていなかった。なので正式に調査すれば、何か発見があるかもしれない。ミラは同意し窓枠から離れるとソファーに腰掛け、もたれながら伸びをする。

「そういえば、その服って君の賢者のローブに似てるけど違うよね。レプリカでも買った?」

「うむ、カラナックの街でな」

 ソロモンは気持ち良さそうに身体を解すミラの姿を見て、その服装に注目する。対してミラは、どうだとでも言いたげな顔で立ち上がると、仁王立ちで答えた。レプリカのローブは材質もだが意匠も簡素で、本物と比べると遥かに見劣りするものだ。しかし色合いや形状はソックリに作られている為、ミラが最も重視している見た目の格好良さの条件を満たしている。

「そっかそっか。うん、すっごく似合ってるよ」

 まるで、憧れの九賢者ごっこ遊びに興じる少女の様に。という意味を言葉に含ませてソロモンは、にやりと微笑んだ。

「そうじゃろう。やはり、着慣れたデザインが一番じゃからな」

 ソロモンの意など気付く事も無く、得意げな表情で当然だとばかりに、ミラはふんぞり返る。それと同時に、本物を塔に置きっぱなしにしていた事を思い出した。今の身体になってから初トイレの後、テンションが上がってお風呂に突撃。そして賢者のローブはゴブリンの返り血などで汚れていた為、脱衣所に放置したままだったのだ。

(まずは、塔に帰って回収するかのぅ)

 そう思いながら、今後の予定を立てる。ソウルハウルを追うにも、資料から行き先を割り出すまでは動けない。今のところ手掛かりは、それだけだからだ。
 ならば、必要になりそうな物資を塔の倉庫から引っ張り出すべきか。ミラはそう考えたところで、ふと古代神殿からの帰り道での出来事を思い出す。もう一つだけ、九賢者の手掛かりになりそうな事があったと。

「そうじゃったそうじゃった、もう一つ聞きたい事があるんじゃが良いか?」

「いいよ、なんだい?」

 そう口にしたミラに、すぐに了承したソロモンは、椅子に座ったまま机を軽く蹴ると、キャスター任せに窓際へ移動する。ソロモンにしてみれば、ここのところずっと書類仕事だったので、三十年来の友人との会話は望むところだ。

「聞いた話によると近頃、精霊が襲われるという事件が起こっている様じゃが、何か知っておるか?」

 一度、カラナックの術士組合長レオニールにも聞いた事だが、国王であるソロモンならばより詳しい事を知っているかもしれない。そう思い口にしたミラの言葉に、ソロモンは驚きながらも感心した様に声を漏らす。

「へぇ、もうその事まで……。もちろん知ってるよ。判明している限りで、まずグリムダートの北の樹海。今から九年くらい前、そこに棲む精霊がほとんど居なくなったって話から始まるんだ」

「ほとんど……じゃと?」

 大陸の北に位置する正義の神を祀るグリムダート帝国。三神国の一つで騎士の国とも呼ばれているその国から、更に北には大陸端まで樹海が広がっており、その面積はアルカイト王国が丸ごと三つは入ってしまうほどだ。それだけ広大な樹海ならば珍しい存在とはいえ、精霊もかなりの数が居るだろう。

「流石に広すぎて探索しきった訳じゃないみたいだけど、精霊の棲み処と思われる場所には一人も残ってなかったって話。当時その原因はまったく不明で、グリムダートが主体で捜査してたんだ。けど、徐々に似た様な報告が周辺各国から挙がり出した。最初はエレメンタルイーターの大量発生や、その亜種の存在が指摘されていたんだけど……、ある日残存している精霊を調べる為に派遣された調査隊が、精霊を捕まえている集団を発見したんだよ。騎士団の様に武装した集団で、多くの精霊を檻の様なものに閉じ込めて運んでいたらしい」

「ふむ……、やはり被害は大きそうじゃな」

 風の精霊の話から、結構な数の精霊が襲われている事は分かっていた。そしてソロモンの話から、その規模はかなり大きく酷いものであると判明する。尚、話に出ていた調査隊は戦闘員が少なく、武装集団との戦闘は無謀であると判断し情報を持ち帰るに至ったという事だ。

「現在は各国で独自に調査しているけど精霊を攫う理由なんかは、まだ判明していないってのが現状かな。人身売買のルートも調べたけど、精霊はリストに無かった。判ったのは一つ、武装集団はキメラクローゼンと名乗っているって事だけ。
 それにしても、もうこの話を知っているなんてね。誰に聞いたんだい?」

 これもまた、それなりに深刻な案件な為、一般には公開されていない情報だ。だが、完全に遮断している訳でなく、組合のランクA以上の冒険者には情報公開されており、有益な情報提供には賞金も懸けられていた。ソロモンにしてみれば、話に出ていたギルドのメンバーあたりだろうと思いながら聞いた事だったが、ミラの返事は全く違う相手だった。

「帰り道で風の精霊と会ってな。そ奴からじゃ」

「へぇ……風の……精霊さんかぁ……」

 何の気無しに口にするミラの言葉に、ソロモンは呆気に取られた様な表情で返す。戦士クラスのソロモンは、精霊を見たり話したりする事は出来ない。可能性は有るとはいえ、この答えは予想していなかった。

「しかも、黒猫の式神と遊んでおった」

 ミラは、冗談めいた表情でそう付け加えると、帰り道での出来事をソロモンに話す。風の精霊が精霊仲間から襲撃者について聞いていた事。実際に襲われたが、黒猫の式神ニャン丸に助けられた事。今でも、護衛しているかの様にニャン丸は風の精霊の傍にいる事。それらを粗方、話終えるとソロモンはミラと同じ点に注目する。

「ニャン丸か……。カグラを思い出すんだけど、関係あったりするのかな」

「どうじゃろうな。風の精霊も術士には会ってないらしいからのぅ。まあ、どの道手掛かりなど無いんじゃから、調べてみるのも一興ではないか? 一応、カラナックの術士組合長にも話をして、向こうでも調べてもらっておるがな」

「確かに。キメラクローゼンに対抗する陰陽術士。これは気になるね。レオニールに話してあるなら事は早いか。後で連絡して、間者を数人当てる事にしようかな」

 窓から差し込む光に照らされながら、ソロモンはイタズラでも思いついたかの様な笑みを浮かべ、楽しそうに椅子の背もたれを鳴らす。

 ミラは一通り聞きたい事を聞き終え、それからはソロモンと雑談を交わした。他愛の無い話だ。しかし、旧来の友人との久し振りの無駄話は、仕事に追われるソロモンにとって、とても有意義な一時となるものだった。
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