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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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207/232

206 黄色い噂

なんと、コミックス版が早くも重版に!
ありがとうございますー!
二百六


 ソウルハウルと別れた後、ミラは街に向けて歩き出す。そして教会の正面扉に差し掛かった時であった。突如その扉が開いたかと思えば、そこからキングスブレイド司祭が、ぬっと現れたではないか。
 身長が二メートルを超えるキングスブレイド司祭は、近くで見るとそれ以上に大きく見えるほどで、その迫力もまた相当だ。
 扉が開くと同時、そんな司祭が唐突に目の前に現れたものだから、ミラはびくりと僅かに肩を震わせ、その姿を見上げた。

「貴女は先ほど礼拝堂で……」

 そこにいたミラの姿を目にした司祭は、つい数分前の礼拝堂での事を思い出したような表情で、ミラを見つめる。古代地下都市の出口から出てきて、そのまま礼拝堂の隅でこそこそしていたミラとソウルハウル。どうやら司祭はその姿を、しっかりと記憶していた様子だ。

「ところで、つい今しがた、ここで怪しい死霊術を使っていた男がいたと報告を受けたのですが、貴女、知りませんか?」

 静かな動きでミラの正面に立った司祭は、子供を相手にするように屈みながら、優しい声でそう訊いてきた。しかしその目は穏やかな司祭から、現役だった頃の眼光に戻っている。

「いや、わしは知らぬのぅ」

 教会という場所。そして死者と密接な関係のある死霊術。この世界の宗教の細かいところは知らないが、もしかしたら教会の敷地内で死霊術を使ってはいけないという決まり事でもあったのだろうか。そうならば面倒だと、ミラは白を切る事にした。
 すると、司祭の眼光が更に強くなる。

「その怪しい者の傍に、貴女のような可愛らしい少女がいたという報告もあったのですが。本当に知りませんか?」

 司祭はミラを真っ直ぐ見据えた後、そう質問を続けた。どうやら、結構詳細に報告されていたらしい。もう大体の状況は掴んでいる様子だ。この分では、既に怪しい死霊術士の男の容姿なども把握しているだろう。はぐらかす事は出来そうになかった。

「……あー、その者が何か粗相でもしたのかのぅ?」

 一体、どんな罪状が。とりあえずミラは量刑の軽重を確認するために探りを入れる。すると、どうやら事情は少々違った。
 キングスブレイド司祭が受けた報告は、その怪しい死霊術士が可愛い少女をかどわかそうとしている、というものだったそうだ。そして、男と少女の特徴を聞いて、いざ外を確認してみると男の方の姿はなく、特徴に一致する少女だけが目の前にいた、という事だ。

「それで、本当に心当たりは?」

「ああ、そうじゃそうじゃ。あ奴の事じゃな。知っておる知っておる。わしの知り合いじゃ。いやはや、あ奴の死霊術は見慣れておったからな、怪しい死霊術というから何事かと思うたが、確かに初めて見たなら怪しいかもしれぬな」

 余計な面倒ごとに巻き込まれる心配はなさそうだ。それがわかったミラは、そう正直に話す。

「そうですか、お知り合いの方でしたか。それならば良いのです。お時間をとらせてしまいましたね」

 司祭は、その怪しい者とミラが知り合いであった事を、より強調してみせた。そしてふと振り返ると、教会の扉脇でそっとこちらを窺っていた女性に、「問題はなさそうですよ」と声をかける。どうやら彼女が報告者のようだ。
 司祭は古代地下都市の出口付近でミラとソウルハウルが一緒にいるところを目撃している。そのため二人の関係性は大体予想出来ていたはずだが、なぜここまで追求したのかというと、彼女を納得させて、尚且つ万が一をなくすためだった。

「そうですか、良かったわ」

 その女性は、安堵の表情を浮かべると、司祭に礼を述べてから、どこへともなく去っていった。
 疑われた方はたまったものではないのだろうが、今は守られる側であるミラは、女性の姿をみつめながら、こういうのは難しい案件だなと強く思う。
 だがソウルハウルが他者の目から、可愛い少女を狙う怪しい人物に見られていたというのを知ったミラは、次の瞬間これは一つからかえそうな面白いネタが出来たぞと、ほくそ笑んでいた。

「それと一つ、教会前での術の行使は、場合によって罪に問われる事があると、そのお知り合いに会った時に伝えておいてください」

 そんなミラに向かい振り返った司祭は、朗らかな表情のままそう告げた。場合によってではあるものの、どうやら死霊術云々ではなく術の全般に制限があったようだ。
 ミラは、司祭の朗らかな表情の奥に潜む迫力を前に、「うむ、わかった」と素直に答えるのだった。



「では、失礼します。ご協力、ありがとうございました」

 そう言って一礼し、教会に戻っていくキングスブレイド司祭。言いたい事を言い終わったからだろうか、その背中からは完全に先ほどまでの威圧感がなくなっている。

「ところで、一つだけ訊いても良いじゃろうか?」

 ミラは、そんなキングスブレイド司祭の背に向かって声をかけた。

「はい、何でしょうか?」

 振り向いた司祭は、裏表のない穏やかな表情のままミラに応える。

「先ほど聞いたのじゃがな、地下闘技場のチャンピオンじゃったお主を、この道に進ませたという武者修行中の少女がいたそうではないか。その者の名を聞いてはおらぬか? それと今、どこにおるかなどに心当たりはないじゃろうか?」

 それは状況的に、九賢者のメイリンである可能性が高いと、ソウルハウルとの会話で一致した。そして七年も前の事なので、メイリンの手がかりを司祭が把握してはいないだろうと結論付けた件だ。だが、もしかしたらという事もある。ミラは、司祭側から来た今、折角なのでというような心持だ。

「……なるほど。礼拝堂の隅でひそひそしていたのは、その関係でしたか。しかしまた、なぜ彼女の事を?」

 消えたと思った猛者の気配が、司祭の内側に再び現れ始める。かつての気性の荒さは、ちょっとやそっとでは治せないという事だろうか。

「ああ、いや、何、話を伺うに、どうにもわしの知り合いに似ておってな」

 鋭い眼光から逃げるように視線を逸らせつつ、ミラはそう口にした。すると直後、司祭のまとう気配が一変する。

「なんと、貴女はあのお方のお知り合いなのですか!?」

 まるで、神にでも会ったとばかりの表情で、司祭はミラに迫る。その勢いは相当なもので、ミラは思わず後ろに仰け反りながら、似たような事をしていた者が知人にいるだけで、知り合いだとは限らないと答えた。

「そうですか……。ご質問の方ですが、名前は聞いておりません。ただ、試合では『タイヤキクリヨーカン』と名乗っておりました。後から知りましたが、どうやらそういう食べ物があるのだとか」

 司祭は残念そうに落ち込みながら、少しでも手掛かりになればと、その名を告げる。そしてその名を聞いた時、ミラの中の可能性が確信に変わった。

「あー……ほぼ間違いなくわしの知り合いじゃ。それは、あ奴の大好物じゃよ」

 たい焼きと栗羊羹。それはどちらもメイリンの大好物だった。一時期食べ過ぎで体形がぽっちゃりになり、現実世界でカグラがダイエットに付き合わされていた事もあったという曰く付きの代物だ。
 と、ミラはそんな事を思い出しながら、少しだけ懐かしむように思いを馳せる。
 だが、司祭がそれを許さなかった。

「なんと、素晴らしい! あのお方のお知り合いに会えるなんて……。これほど素晴らしい日はいつ以来でしょうか」

 司祭という立場でありながら、神ではなくミラを崇めるように手を合わせるキングスブレイド司祭。どうやら彼にとってメイリンは、神にも等しい存在なのだろう。知り合いだというミラの向こう側に、メイリンを見ているような様子だ。

「して、少々野暮用で、その者を探しておるのじゃが、居場所に心当たりはないじゃろうか?」

 そんな司祭にミラは、今一度問う。だが、今の司祭の反応からして、答えはやはりわからないという事だった。

「いえ、残念ながら……。ただあの頃は、私のいた地下闘技場だけでなく、大きな闘技大会などを渡り歩いていたという話は聞いた事があります。あのお方は、私をこの道に導いてくださった大恩のあるお人。出来るなら私も、もう一度会いたいものです。そして、この感謝をお伝えしたい」

 そう祈るように言葉を続ける司祭。もしも居場所がわかったら、そのまま飛び出していきそうな面持ちだ。
 という事で、結果、七年前にかつての地下闘技場のチャンピオン、ザッツバルド・ブラッディクリムゾン・キングスブレイドを司祭に転職させたのは、ほぼ間違いなくメイリンであるという事がわかった。ただわかったのは、七年前も相変わらずであるという事だけだが。

(大きな闘技大会か……。今もまだ武者修行を続けているとしたら、その辺りを調べてみるのが良いかもしれぬな)

 とりあえず、メイリン探しに一つだけ目処をつけたミラは、「いつかあ奴に会えたら、お主が感謝していたと伝えておこう」と司祭に告げて、その場を後にする。そんなミラの背には、司祭の熱い礼の言葉が繰り返し投げかけられた。
 その際、周囲に集まっていた野次馬が、好奇の目でミラの姿を追っていた。あの、『鉄拳』などと呼ばれるキングスブレイド司祭が、あそこまで礼を言う少女は何者なのかと。
 後日、教会周辺に天使降臨などという噂が出回るが、それはミラだけでなく、司祭もまた与り知らぬ話であった。



 夜の八時の少し前。ミラは、グランリングスで一番の宿場街にやってきていた。そして今日の宿を探して歩き回る事暫く、小さな城といっても過言ではない建物の前で立ち止まる。

「ふむ、ここじゃな」

 宿場街の奥にある、高級な宿が軒を連ねる区画。その中でも特にお高い雰囲気をまき散らしているのが、この宿だ。
 先日宿泊した少しお高い宿、フォークスピーク。そこでの一泊は、その値段相応に快適なものだった。ならば、それ以上にお高い宿はどうだろうか。
 一度覚えた贅沢というのは、中々忘れられないものである。ミラは今まで以上の快適さを期待して、目の前の宿を見上げた。
 全体がライトアップされた宿は、夜の闇にも負けず、城の如き姿で堂々と聳えている。王族が住む本物の城ほどではないが、周辺のどの宿よりも大きく、明らかに別格な雰囲気を漂わせていた。

(数多くの魔動石と、徘徊者にマキナガーディアンの戦利品。余裕で億は超えるお宝じゃからな。もう、懐具合を気にする必要もなくなるというわけじゃ。となれば、折角の宿は奮発せねばのぅ!)

 高級な宿というのは、その部屋などの絢爛さや食事の豪華さもあるが、何よりそこに勤める客室係の質が違うものだ。至れり尽くせりなサービスが揃っており、各分野のスペシャリストが在籍していたりもする。
 ただ実はその点において、ミラは既に最上級のサービスを経験済みであった。どこの高級宿よりも上質な一泊。それはアルカイト城での一泊だ。王城であるがゆえ絢爛さは当然、ミラのために用意された部屋も文句の付けどころがなく、食事は国王であるソロモンと同じものを食べており、王城に勤める侍女は全員が選りすぐりのエリート達。中でもミラ専属のリリィの技術は群を抜いている。
 だが、あれは少々勝手が違う。なのでミラは、新鮮な気持ちで進んでいく。この世界の一流冒険者が堪能するサービスは、どれほどのものなのかと。
 なお、実は今回ミラが入手した戦利品はお宝過ぎて、買い手が易々と見つけられる代物ではなかったりするのだが、ミラはかつての頃と同じような感覚で皮算用しながら入り口を抜けていった。


 宿の顔となるロビーは外見通り、眩しいくらいに豪華絢爛だった。天井には輝くシャンデリア、床にはふかふかの絨毯、そして所々に品の良い調度品がそっと並んでいる。言ってみれば絵に描いたような高級だが、だからこそわかり易く、目に飛び込んできた時の印象は確固たるものだった。

(ふむ、結構人がおるのじゃな。身なりからしても、そこらの冒険者とは違うのぅ)

 厳かな雰囲気さえ漂うロビーであるが、中に入ると思いの他、騒がしかった。その様子は、他の宿とそう変わらない。
 見回してみたところ、客層は冒険者だけではなく、大店の商人風や、観光客らしき者の姿まであった。防犯面、そして思い出作りにも、確かに良さそうな宿である。
 受付についたミラは、その繁盛ぶりを前に、もしや空き部屋がないのではないかと心配になった。だが、そこはこの大きさである、まだ空きはあるとの事だった。
 しかし、一泊五万リフの一番安い部屋は既に満室であり、空きがあるのは七万が少々、あとは十万から十五万の部屋だけだという。

「では、十五万の部屋を頼もう」

 一番高い部屋で即決してみせたミラは、どうだといわんばかりの表情で、金色に輝く鍵を受け取った。
 どうやら十五万の部屋の鍵だけ金色らしい。ミラはまるでその鍵を見せびらかすように指でくるくる回しながら、ロビー中央の大階段に歩いていく。
 と、その途中での事だ。ふとミラの耳に、聞き覚えのある名が飛び込んできたのだ。

「ねえねえ、聞いた聞いた? ファジーダイス様がハクストハウゼンに現れたらしいわよ!」

「聞いた聞いた! ドーレス商会に予告状が届いたって話よね」

「そう、ドーレス商会! 急に大きくなったけど、余り良い噂はないわよね」

「うんうん、何でも今話題のキメラクローゼンに関係していたとかで調査が入ったらしいよ。でも、証拠は何も見つからずお手上げだって」

「みたいね。でももう大丈夫! 何てったってファジーダイス様が来たんだから。きっと証拠も、それで得たお金も何もかも、全部ファジーダイス様が見つけてくれるわ!」

 見るとロビーの待合所で寛ぐ女性冒険者の姿が目に入った。仲間が手続きでもしているのだろう、その間の雑談とばかりに盛り上がる彼女達は、「ステキー」と声を揃え悶えていた。
一人重版記念という事で、昨日の買い物にて、カレーとシチューのルーを一段上にしてみました。
心なしか、これまでより濃く味わい深くなった、気がします。
更に、スライスチーズとハムを買ってきました!
ハムチーズトーストにするのです。
今週はもう無敵ですよ。

それとコツコツためた春のパン祭り。
遂にポイントがマックスに!
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