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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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198 マキナガーディアン戦 弐

百九十八


「やっぱり囲めると楽だな」

「そうじゃろうそうじゃろう。わしのお手柄じゃな」

 守護者登場から、ものの五分程度。五体いた守護者は、既に残り一体を残すのみだった。
 守護者の一番の強みは連携と合体。しかしそれは、各個を包囲する灰騎士によって分断され不可能となっていた。守護者がどれだけ素早くとも、ホーリーナイトの堅牢さを兼ね備えた灰騎士を突破するのは難しく、相対する姉妹がそれを許すはずもない。
 結果守護者はそれぞれが、隔離された戦場で姉妹の一人と戦い、そして敗れていったのだ。


「弾幕が激しすぎるー!」

 対処を終えた姉妹達が、主戦場に戻っていく中、未だどんぱちやっているのは、やはりというべきか、末っ子のクリスティナだった。彼女は守護者の手から無尽蔵に撃ち出される礫を盾で防ぎながら、一進一退を繰り返していた。
 礫を放つ両手が守護者の武器だ。そしてその礫は盾で防げる。けれど近づけば近づくほど、礫の軌道を読むのが難しくなり、尚且つ微妙に差をつけた両手から上下を同時に狙われると被弾は免れない。そのためクリスティナは、ぎりぎり反応出来る距離で、ずっと様子を窺っていた。

「ああ、姉様達もう終わってるし。どうしよう、絶対後で怒られるー!」

 ここで苦戦していたら、確実にアルフィナからお叱りを受けると直感するクリスティナ。
 周囲に控える灰騎士を動かせば、直ぐに決着する事だろう。しかし彼女がそうしないのは、姉達がそうしていなかったからである。
 もしも自分だけ灰騎士の……ミラの力を借りたと知られれば、確実に訓練メニューが増える。クリスティナは、そんな懸念を抱いていたのだ。

「仕方ないけど、ここで使うしかないかな……」

 しかし、これ以上時間がかかっても同じ事。特別訓練を何が何でも避けたいクリスティナは、意を決した表情でそう呟くと、盾を構えたまま剣を大きく後ろに振りかざす。
 するとその瞬間、クリスティナの盾が光となって、その全身を包み込んだ。

「特練はやだー!」

 心からの願いを叫ぶと同時に、クリスティナは地を駆ける。その姿は正しく一筋の閃光だった。向かう礫は光に弾かれていき、そしてクリスティナが振るった刃は光の軌跡を残しながら、たったの一太刀で守護者を両断していた。

「……よし、大丈夫、きっと間に合った! 間に合ったはず!」

 クリスティナは完全に停止した守護者から、マキナガーディアンに視線を向ける。そして特に大きな動きがない事を確認すると、そうであってほしいとばかりに、間に合ったを繰り返し、灰騎士隊を引き連れて最前線に戻っていった。


「おお、今のは新技じゃな」

 一瞬だけ膨れ上がった輝き。それを目にしたミラは、感心したように声を上げる。

「守護者を一撃か。なかなかだな」

「そうじゃろう、そうじゃろう」

 何となく放っておけないクリスティナの戦いを見守っていたミラは、ソウルハウルの言葉に気を良くする。その様子はまるで、孫を褒められたお爺さんのようだ。

『良いぞ良いぞ、素晴らしい技じゃったな』

 悦に入ったミラは、堪らずといった様子でクリスティナを褒めた。

『あ、ありがとうございますっ!』

 突然褒められて驚いたのか、それとも単に予想外だったのか、どこか緊張したようなクリスティナの声が返ってきた。


 それから更に戦いは続き、じわりじわりと損害も増えていた。二人で交互に壁の裏に身を隠し《転界心法》でマナを回復しつつ、出し惜しみせずに術を行使し続けていたものの、いよいよ『軍勢』の数は残り四割を下回った。それを補うべく、戦場にはキャノンフォートレスゴーレムが数十と建てられており、より多角からヴァルキリー姉妹と軍勢を援護する。その指示のために、ソウルハウルは随分と忙しそうだ。
 そしてそれは、守護者の登場から二時間は経過しようかという時の事だった。

「お、残り三割まできおったぞ」

「次は確か、脚のギミックか」

 マキナガーディアンの目が、緑から黄色に変化した直後、『大暴れ』を実行。周辺が吹き飛ばされた。それを確認した二人は、次に備えて準備を始める。
 まずミラは、全軍に後退の指示を出した。『大暴れ』後の約五秒は総攻撃で一気にダメージを稼ぐ絶好の好機である。けれどミラはそれを放棄して、下がる事を命じたのだ。
 そして、その反応は迅速だった。アルフィナ先導の下、隊列を乱す事無く、それでいて素早く軍勢がマキナガーディアンとの距離を空けていく。
 アイゼンファルドもまた然り。注意深くマキナガーディアンの様子を窺ったまま、大きく退いた。
 その動きに一切の躊躇いはなかった。絶好の好機を前にしながら、どちらも決して逸る事無くミラの指示に従ったのだ。これもまた絶対の信頼の表れであろう。大きな隙を晒しているマキナガーディアンを注意深く睨んだまま、五十メートルほどの距離を置いて警戒を続けている。
 マキナガーディアンが『大暴れ』の反動から立ち直った。するとその時、後ろから二番目に当たる両側の脚が本体から外れ、どすりと落ちた。その長さは二十メートル、そして太さは直径にして三メートルはあろうかという巨大な脚だ。

「出てきおった、出てきおった」

「これはほんと、酷いよな」

 ミラとソウルハウルが見つめるその先、落ちた二本の脚から、その装甲を突き破って、またも守護者がぞろぞろと現れた。その数、脚一本につき十。計、二十体の守護者がマキナガーディアンの足元に集結したのである。その個々の距離が最初から近いため、即座に連携や合体を仕掛けてくるという厄介な守護者集団。攻略情報が少なかった時期は、これに全滅させられたプレイヤーも多くいた。
 しかし今は、まだ予定通り。何度となく繰り返されてきた、ミラとソウルハウルが知る状況である。

「今じゃ!」

 ミラの合図と共に、アイゼンファルドが守護者達に向けてドラゴンブレスを放つ。更に次女エレツィナが待ってましたとばかりに同所をめがけ、特大な光の矢を撃ち込んだ。しかしそれだけでは終わらない。城壁の全砲門、そしてキャノンフォートレスゴーレムの砲塔が一斉に火を噴いたのだ。
 それら全てはマキナガーディアンも巻き込み、大きな爆炎となって大気を震わせた。瞬間に広がる閃光、僅かに遅れて届く轟音、そして爆風。近くにいては、諸共に吹き飛んでいたであろう圧倒的破壊の奔流だ。
 だがそんな中にあっても、レティシャは未だノリノリで歌い続けていた。しかも周囲が、これだけの騒音で溢れながらも、その歌ははっきりと耳に届くのだから、音の精霊の力とは凄まじいものだ。

「なあ、長老。もう少しどうにかならないのか」

「……自由人じゃからのぅ」

 前方には、まるで終末戦争とでもいったような光景が広がる中、相当にアレンジが加えられ、どこかとぼけたようなレティシャの歌が響く。実に締まりのない、不思議な瞬間であった。
 とはいえ、雰囲気はともかく戦況は順調であり、閃光と爆炎が晴れたそこには、大打撃を受けた守護者達の姿が見えた。

「残り三体か。しぶといのぅ」

「そりゃまあ、仕方がないだろな。幾ら火力を集中させたところで、ルミ兄……姉さんのあれには及ばないわけだし」

「それもそうじゃな。十七体を始末出来た事を良しとみるべきか」

 マキナガーディアンの損耗率が七割を超えた時に現れる二十体の守護者。試行錯誤を重ねたプレイヤー達の間で編み出されたその攻略法は、まとまっている初期の内に大火力で範囲ごと仕留めるというものだった。
 その方法は色々とあったが、一番安定していたのは、魔術士による一斉範囲攻撃だ。そして九賢者総出で攻略した時は、この役目をルミナリアが担っていた。その際に使用された術は、最上級の中でも特に長い準備時間が必要な爆裂系であり、その結果は二十体の守護者を一撃である。
 今回の集中攻撃も相当なものだが、それでもあの時の魔術には及ばないようだ。その事に改めて呆れながらも、ミラは素早く現状を把握し、次の指示を飛ばした。

「待ちに待った出番ですにゃー!」

 瞬間、僅かに漂う爆炎の残滓の中、マキナガーディアンの背後より一つの影が舞い踊る。それは、ペガサスの背に颯爽とまたがるケット・シーであった。
 アルカナの制約陣を設置するという任務を終えて、早四時間と少し。ペガサスと暇つぶしでもしていたのだろう、何かの勝敗数が書き込まれたプラカードを背にしての登場だ。尚そこには、ケット・シーの惨敗の記録が延々と刻まれていた。

「喰らいやがれ、ですにゃー!」

 新たな指示の下、ケット・シーは何かのうっ憤を晴らすかのように、ミラから預かったもう一つの石、魔封爆石を全力で投げつけた。
 ペガサスの速度で一気に近づき、アルフィナ等主戦力の並ぶ正面とは反対から迫ったケット・シーのそれには、流石のマキナガーディアンも即座に対応する事は出来なかったようだ。
 ケット・シーの投擲した石が、マキナガーディアンの脇をすり抜け、その下、一斉攻撃によって怯んだ守護者三体の中央部にぶつかった。
 その途端、そこに秘められた力が解放される。それは風であった。恐ろしいまでの暴風が着弾点より吹き荒れ、近くにいた守護者の三体を、あっという間に吹き飛ばす。

「よし、上手くいったようじゃ」

 それを確認するや否や、ミラが指示を出すと、姉妹の内の三、四、五女が迅速に動く。
 ケット・シーが投じた一石によって、守護者は連携も合体も出来ない距離まで吹き飛ばされていた。そして合流を防ぐため、即座に命を受けた姉妹達の隊が取り囲む。

「ここまでは、順調だな」

 勝利がいよいよ見えてきた。ソウルハウルは各個撃破の形になった戦況を見つめながら、そう呟く。

「そうじゃな。後は、レーザービームに──」

 注意すればいい。ミラがそう言いかけた時、マキナガーディアンが大きく動いた。それはまるで、地団駄を踏むような動き。そう、『大暴れ』だ。
けれど良く見れば、『大暴れ』の圏内には誰もいなかった。ケット・シーを乗せたペガサスは既に城壁の近くまで戻ってきており、姉妹達もまだ五十メートルは距離を置いたまま。守護者の対応をしている姉妹にいたっては、八十メートル以上は離れている。
 どういうつもりだろうか。予想外の動きに警戒するよう、ミラが各隊に指示した時、その意図が判明した。
 その遥か前方、脚を大きく踏み鳴らしたマキナガーディアンは、腹部にあたる部分がこちらに向くようにその身を大きく起こし、そして先ほど外れた二本の脚の残骸を、その前にぶらさげていたのだ。

「嘘だろ!?」

 それを理解した瞬間、ソウルハウルは櫓の部分から城壁の後ろに身を隠す。

「そうきおったか!」

 ミラもまた、姉妹達に緊急防御の指示を出すと、急いでレティシャの前にホーリーナイトを召喚する。そして即座にホーリーロードへ変異させ、最大防御の構えをとらせ、自身も壁の後ろに逃げ込む。
 その数瞬後、マキナガーディアンの腹部で強烈な爆発が起こった。『大暴れ』で覆いかぶさった後に発生し、どれだけ強固な盾役ですら一撃で葬る致命の爆発。
 それが今、ぶら下げられていた脚の残骸を砕いて吹き飛ばした。するとどうなるか。その残骸は強烈な爆発を起点として、散弾のように飛び散ったのである。
 大小様々な破片が弾雨となり、戦場を襲う。
 あの『大暴れ』を起爆剤としているために、その威力はやはり凄まじく、離れていたとはいえ射程圏内にいたアイゼンファルドと姉妹達、そして『軍勢』は、護りの体勢に入っていたにもかかわらず相当な被害を受けた。
 特に、巨体のアイゼンファルドは著しく、既に防護障壁の強度が残り一割を切るほどだ。
 姉妹達は、その身のこなしによって、幾らかをやり過ごしてはいたが、破片の量が量だけに、皆総じて三割近くを削られている。だが意外というべきだろうか、巧みに盾を利用したクリスティナの防護障壁は一割程度の損傷で済んでいた。なので彼女は、姉達の様子を見回しながら、清々しいまでのドヤ顔を決めている。
 しかし、問題は『軍勢』の方だった。今の一撃で、その半数を撃破されてしまっていたのだ。特に大きな被害は、クリスティナが率いる隊だった。既に残りは十体を下回っている。

「うそん……」

 自信満々な様子で振り返ったクリスティナは、その惨状に絶句した。
 そして、守護者対応のため三ヶ所に分かれた三、四、五女の隊だが、それなりの被害が出ていたものの、巻き添えを受けて破壊されていた守護者の姿に少しばかり呆然とした様子だ。個別戦闘は、ある意味、主であるミラにアピール出来る好機だったからである。

「クリスティナばかり、新技を披露して。私だって色々あるんだから」

 三人とも概ねそのような事を呟きながら、不甲斐ない守護者を念入りに斬り捨てて、主戦場に戻っていった。


 マキナガーディアンの一撃は、かなり離れた場所にある堅牢な城壁にも届き、幾つもの弾痕が穿たれていた。そして最大防御の構えをとるホーリーロードの巨盾にも、大きな傷を残している。
 そんなホーリーロードの後ろでは、何事もなかったかのように歌い続けるレティシャの姿。実に暢気に見えるが、彼女の歌による防御強化がなければ、被害は今よりずっと酷いものだっただろう。
 どのような状況下でも歌い続けられる図太さ。流石は音の精霊であると、ミラを介して状況を見守っていた精霊王は誇らしげに笑った。


「少し早くなったが、作戦開始じゃな」

 城壁の櫓部分に戻ったミラ。ところどころが砕けたそこから戦場を睨み、今の戦況を把握すると、素早く指示を下す。それと同時にミラは、召喚術士の技能である《博愛の癒し手》を発動。大量のマナと引き換えに、アイゼンファルドの防護障壁を修復した。

『大変じゃろうが、頼むぞ』

『お任せください、母上!』

 長時間に及ぶ戦闘。直接マキナガーディアンと取っ組み合うアイゼンファルドの立ち位置は重要であり、相当に大変だろう。なのでミラが労うように語り掛けたところ、アイゼンファルドは実にはつらつと答えた。更に、あれやこれを試してもいいですかと訊いてくる。どうやら、相当楽しんでいる様子だ。なのでミラは、存分にやってよしと返した。
 竜魔法。最近、竜の都で大長老に習っているというそれを、ここぞとばかりに使い始めたアイゼンファルドを眺めながら、ミラは一番灰騎士の数が少なくなったクリスティナ隊を呼び戻した。
さて、今年も春のパン祭りが始まりましたね。
今年のお皿は、ボウルだそうです。
ホワイトデニッシュショコラ祭りの始まりだ。

先週の反動で、今回は短めに……!
+注意+
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