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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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188 聖痕と聖杯

百八十八


『さて、神器が原因でないとすると、何が原因だったのじゃろうか』

 再び話は、なぜその聖痕が目覚めてしまったのかに戻る。
 実は彼女は、三神国の神器に近づく事を許された凄い地位にいた。という事を思い付いたミラだったが、新興宗教の信者を国宝に近づけさせるはずはないだろうと一蹴された。
 実はティリエルのような天使が傍にいて、という案も、聖痕が覚醒しそうな気配を天使が見逃すはずもなく、兆候が見えたら発現前に距離をおいていたはずだと切り捨てられる。

『となると……あの場所に原因があったのじゃろうか』

 騒がしかった女性が、徐々に騒がしくなくなっていった。色々と考えた末、この症状の見方を変えたミラは、女性はソウルハウルのいる場所に通い始めてから、不調になっていったようにも考えられると気付く。
 場所は古代神殿だ。神殿というからには、それ相応の何かがあってもおかしくはない。
 古代神殿ネブラポリスの最下層にある白亜の城、その地下に見つかった大きな空間、そこで何かをしていたらしい悪魔の事などなど、あの場所は謎が満載だ。なのでミラは精霊王とマーテルにその事を話し、教えを乞うた。
 するとまさかの、今日二度目となる『聞いた事がない』という言葉をミラは頂戴した。

『古代神殿ネブラポリス……。どうにも覚えがないな』

『ごめんなさいね、ミラさん。私も知らないわ。三神様の国にある神殿なら、幾つかわかるのですけど』

『なんと……』

 博識の生き字引ともいえる精霊王とマーテルだが、人造物については、深く知らないそうだ。だが、人は色々なものを色々な場所に造るため、その全てを把握するのは至難の業だと、精霊王は愉快そうに笑った。

(ならば、もう一人の詳しそうな奴に訊いてみるとしようかのぅ)

 そう思い立ったミラは、早速とばかりにシャワー室の扉前に歩み寄った。詳しそうな奴、それはあの場所を根城にしていたソウルハウルの事だ。長く住んでいたなら、もしかすると神聖な力を持った何かに心当たりがあるかもしれない。そう考えミラは声をかける。

「ソウルハウルよ。ちと訊きたいのじゃがよいかー?」

 しかし、返事はなかった。ただただ雨にも似たシャワーの音が小さく響いてくるだけだ。なのでミラは更に声を張り上げ、同時に扉も叩いた。するとようやく届いたのか、シャワーの音が止んだ。

「なんだ訊きたい事って?」

 そんな声と共に開いた扉から顔を覗かせたソウルハウルは、惜しげもなく裸体を晒しながら、ミラを見据える。ローブに隠れて見えなかったが、その肉体は程よく引き締まり筋肉質で、所々に傷痕も刻まれ、正に戦う男の身体であった。そして長身であるため自然と、ソウルハウルはミラを見下ろす姿勢になる。
 一般的な女性ならば、多少なりとも赤面してしまうだろう構図だ。しかし当然、ミラは例外だった。

「ちと気になってのぅ。お主が住んでおったあの古代神殿に、神聖な感じのするものはなかったじゃろうか?」

 ソウルハウルを見上げながら、ミラは実に堂々とした態度でそう問うた。男の裸には一切の興味もない。それどころか、ミラにはそこに関する意識すら微塵もなかった。一つ屋根の下に若い男女が二人。だが、かたやエロ爺、もう片方は不死っ娘愛好家。互いに正体を知る二人に、間違いが介入する隙は毛ほどもないのだ。

「神聖な感じのするもの? 随分とアバウトだな。けど、神聖な感じねぇ……」

 そう呟きながらも、なにやら考え始めたソウルハウル。しかし暫くした後、「それらしいものはなかったな」と答えた。

「あえて言うなら、あの城自体は、真っ白で神々しいっちゃあ神々しいがな。で、なんでそんな事訊くんだ?」

「いやなに、色々と情報を整理しているところでのぅ。纏まったら話す。では、邪魔したな」

 ミラはシャワー室前から寝袋の上に戻り再び寝転がると、今一度得られた情報を思い返す。

 もはや当たり前のように堂々と立ち聳えていた白亜の城だが、神々しい感じがするといえば、確かにその通りだった。ミラはそこを訪れた時の事を思い出す。あの城の色、繋ぎ目のない純白の巨城。思えばあれは先日目にした、神霊晶石に似ているのではないかと。

『城が全て神霊晶石で出来ていたとしたら、どうじゃろうか』

 神が干渉し生み出された物質である神霊晶石ならば、神器と比べても遜色ないと思える。もしも白亜の城が神霊晶石製ならば、神聖な力を秘めるものとしては十分過ぎる来歴だろう。そう考えたミラだったが、答えは相当に難解のようだ。

『秘めた力でいえば、充分覚醒は促せるだろう。だが神霊晶石の用途は、その大半が封印だ。そのため、内側に固定する力が強く、力の波動を一切発しない。ゆえに、城ほどに巨大な神霊晶石があろうとも、魂の内側で眠る神聖な力に届く事はないだろう』

「ぬぅ……」

 発案を悉く否定されたミラは、そう唸り声をあげて寝袋に突っ伏した。と、そんな時、今度はマーテルの声が響いてきた。

『私は、悪魔さんが何かしていたという空間が気になるわね』

 マーテルが言うには、地下の空間にあった大きな円筒形の穴が怪しいそうだ。悪魔はそこにあった神聖な何かを持ち出した、または破壊したのではないかと。
 すると精霊王も、悪魔が関与しているならば、そこには必ず何かがあったはずだとマーテルの言葉に同意する。

『そうじゃな。表になければ、もう裏しか残っておらんか』

 あの凍り付いた女性の聖痕の原因は、あの地下空間にあった可能性が高い。色々と考えを巡らせた結果、三者の意見はそこに行き着く。だが今現在、あの場所についての詳細な情報はない。

『ところで結局のところ、その聖痕は、聖杯の力でどうにかなるのじゃろうか?』

 これ以上の進展は望めないと判断したミラは、ここで思い出したように話を一番初めに戻した。悪魔だ、聖痕だ、発現のきっかけだという話は全て、その質問から始まった事である。

『おお、そうだったな』

『あら、随分と話が逸れてしまいましたね』

 話し考えるという事が楽しかったのだろう、そう応えた二人の声は、どこか明るい。だが直ぐに精霊王の落ち着いた声が、続けて聞こえてきた。可能か否かといえば、可能であると。

『先ほど話していた通り、聖痕とは神聖な力が目覚めた状態だ。そして一度目覚めれば、もう二度と眠らせる事は出来ない。あとは、身体が限界を迎えるか、気付いた悪魔に狩られるのを待つだけだろう』

 精霊王は一度これまでの情報を、そうまとめると、それを踏まえて神命光輝の聖杯は、確かに可能性を秘めていると続けた。
 発現しただけの力というのは、いわば暴走状態に近いという。ならば、その暴走をどうにか抑える事が出来れば、どうだろうか。
 では、暴走を抑えるにはどうすればいいか。
 その答えが、神命光輝の聖杯だそうだ。ソウルハウルが行き着いた答えは、そう間違いではないという。ただ一つ違う事は、治すのではなく、正すという点だった。
 途方もない手順を経て、ようやく作り出す事の叶う最高の回復アイテム、神命光輝の聖杯。完成したそれは、その名の通り、神に近い力を発揮するという。とはいえ、その力に汎用性はなく、ひたすら治癒に特化したものらしい。だが、この場合はそれが最も重要だという事だ。
 その理由の一つが、皮膚を裂き現れる聖痕である。この傷は神聖な力によって刻まれているため霊薬や聖術なども含め、あらゆる癒しの力を以ってしても治癒する事は不可能だ。けれど唯一、同質の力である聖杯ならば癒す事が出来た。
 そして傷を癒した時、同時に神聖な力は形を失う事となる。当然、二度と眠る事のない力は再び形を成そうと働く。その時、似た力を持つ聖杯の力を注ぐ事で、その方向性を人為的に調整し、次に成す形を聖杯と同じ治癒に固定する事が出来るそうだ。

『神聖な力が上手く魂や体内のマナに馴染めば、人は様々な恩恵や力を授かる事が出来るだろう。しかし聖杯を使ったこの方法は、それらの可能性を全て治癒の奇跡という形に収束させてしまうというのが欠点だな』

 人の器には過ぎた神聖な力だが、人とは中々に柔軟性の高い可能性を秘めている。上手く制御出来るようになれば、様々な分野の頂点に立てる事だろう。だが聖杯を使って調整した場合、これを回復一つに絞ってしまう。他の可能性を摘み取るという事だ。

『まあ、些末な欠点じゃな。命がけで曖昧な可能性を目指すなど、酔狂な英雄志望者くらいなものじゃ』

 可能性があるとはいえ、それは絶対ではない。むしろ力の強さに負けてしまう事の方が多い。神聖な力とは、人の意思でどうにか出来るようなものではないのだから。
 それならば、確実に安定させられる手段をとった方が賢明だ。

『ミラ殿も、なかなか辛辣な事を言う。だが、その通りだな』

 人は時折、身の丈に合わない事をする。賢明を悪として、無謀に挑むのだ。成功すればいいが、失敗すれば悲惨である。そして世の中には、成功した話しか残らないものだから、無謀な野心を胸に抱き後を追う者が絶えない。幾度となくそういう話を聞いていた精霊王は、ため息交じりにそう笑った。


 悪魔の刻印とは、聖痕だった。とはいえ正体がわかったところで、聖痕が人を死に追いやる危険性を持っている事は変わらない。けれど、その治療法も確かにあるという事も判明したのは僥倖である。

(とにもかくにも、聖杯作りは無駄ではないどころか、確実な治療法だったという事じゃな。それが聞けて一安心じゃ)

 ソウルハウルの努力は無駄ではなかった。その事をミラは喜ぶと同時、ふとある事を思い出した。

(そういえば、あの空間については気付いていたのじゃろうか)

 白亜の城の地下にあった謎の空間。ソウルハウルは、それを知っていたのかと。正式な入口は城の地下にあった。相当巧妙に隠されてはいたが、長く住んでいたのなら気付く機会もあっただろう。
 もしもあの空間まで辿り着いていたなら、そこに何があったか知っているかもしれない。もしかしたら聖痕が発現した原因に繋がる何かが。
 解決策が判明した今、最早、原因はそこまで重要ではないだろう。けれど、気になるものは仕方がない。
 もう一度、訊いてみよう。そう思い立ち上がったミラが、シャワー室の扉を叩こうとした、その時であった。

「何かおかしいぞ!」

 そんな言葉と共に、ソウルハウルがシャワー室から飛び出してきたのだ。

「ぬぉ!」

 どうにかこうにか身を翻したミラだったが、余りにも急だったため衝突を避けるのが限界であり、あとは勢いそのまま足が絡まり、すてんと床に転がった。受け身は間に合ったものの、スカートが完全にめくれ上がるという散々な格好となってしまったが、ミラはまず「いきなり何事じゃ!」と文句を口にする。

「ああ、悪いな。だがそんな事より、緊急事態だ」

 さほど悪びれた様子もなく直ぐに服を着だしたソウルハウルは、どこか慌てたようにミラを見やる。

「なんか長老も緊急事態だが、それよりこっちの方が優先だな」

 ミラの丸出しパンツを見つめた後、ソウルハウルは薄らと笑うも、即座にその表情に緊張感を漂わせ始めた。

「して、何事じゃ」

 ソウルハウルの様子から余程の緊急事態である事を察したミラは、文句を引っ込めると手早く立ち上がり、軽く運動して身体を解していく。するとソウルハウルはアイテムボックスからマナ回復薬を取り出し、それを一口で飲み干してから、「ゴーレムが全て、一瞬で消滅した」と、事態を説明した。

「なんじゃと……」

 時間差で突撃するようにセットされていた五十体のゴーレム。経過時間的には、まだ四十以上は残っているそれが一瞬で消える。それは確かに緊急事態といえる状況だった。
 ソウルハウルが配置したのは死霊術の中で最下級のゴーレムであり、Aランク相当になるこの階層ならば破壊される事は大いにあるだろう。しかし、最下級とはいえ、ミラと同等の力を持つ、九賢者の一角、巨壁のソウルハウルが作り出したゴーレムだ。それを一瞬で四十体など、容易い事ではない。
 しかし、それは現実に起きている。では、一体なぜ。

「徘徊者が通ったのじゃろうか」

「かもしれないが、それにしては、な」

「一瞬というのが腑に落ちぬのぅ」

 それが可能かもしれない存在が、二人の脳内には浮かんでいた。その名は『機械仕掛けの徘徊者』。古代地下都市七層目の全域を徘徊し、魔物以外を敵として容赦なく破壊する存在。マキナガーディアンという規格外の怪物を除外すれば古代地下都市最強であり、プレイヤーの間では、全ダンジョン中、一番出会いたくない徘徊型ボス殿堂入りを果たした化け物。それが『機械仕掛けの徘徊者』だ。
 しかし、それでも違和感が残る。ミラ達であろうと油断は出来ない相手だが、油断しなければ後れを取るような事もない相手だ。そして、機械仕掛けの徘徊者に、四十体以上のゴーレムを一瞬で破壊するような攻撃手段はないはずだった。

「このままでは回復阻害が出来ぬから、どのみち確認は必要じゃな」

「そうだな。回復が始まる前に解決出来ればいいが」

 どうにも様子がおかしいものの、このままでは折角削ったマキナガーディアンが回復してしまう。なので二人は状況を確認するため、慎重に現場へと向かうのだった。
いよいよ今年も1ヶ月を切りましたね。早いものです。
コミカライズなど、今年も嬉しい事が幾つかありました。ありがたい限りです。
さて、後はクリスマスですね……!
去年に思い描いた願いを、
今年はケンタッキーだけでなく、ケーキも狙いたいところです。
なのでケーキが半額になるタイミング。それが問題だ。
勝負の時は近い。
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