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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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181 二十四時間戦士

百八十一


『無事に完了したようだな。どうだ、マーテルよ。繋がりを感じられるか?』

 契約の光は収束し、室内はこれまでの落ち着きを取り戻す。そこに満足そうな表情を浮かべた精霊王の声が響いた。

『……ええと、ああ、ありました。これですわね。シン様の気配が、より近くになったのを感じます』

 契約によるミラとの繋がり。そしてミラに宿る精霊王の加護と、それが結ぶ沢山の絆。ゆっくりと意識を集中したマーテルは、新たに繋がったそれらを実感出来たようで、神妙でありながら、どこか柔らかい微笑を湛えていた。

『あらあら、ワーズ君もいるのね。なんて久しぶりなのでしょう』

 繋がりを確認していたマーテルが、ふと嬉しそうにそんな声を上げた。何の事だろうかと一瞬疑問に感じたミラだが、ああそうだったと直ぐに理解する。
 静寂の精霊ワーズランベール。どうやらマーテルは精霊王の加護が繋いだ絆を通して、彼と出会ったようだ。その口ぶりからして知り合いらしい。

『そうなのよ、私もミラさんと契約したの。それでね、今はシン様が言っていた繋がりを確かめているところよ。これって凄いわね。まさかワーズ君にも逢えるなんて驚いちゃった』

 何やら話に興が乗り始めたのか、これまでの印象を更に超えて、饒舌に話し始めたマーテル。しかも楽しそうに話し込んでいるため、どうにも口を挟めず困った様子の精霊王。ミラは、そんな待たされている精霊王の姿を見つめ、始祖精霊の凄さを実感していた。

『ええ、まだお役目の途中よ。シン様の力で封を抜けて入ってきたみたい。あ、そういえば、ワーズ君はサンちゃんを護っていたわよね。サンちゃん元気?』

『え? あら、サンちゃんもミラさんと契約を? えっと……。ああ、これね。サンちゃんの繋がりもあったわ』

『そうねぇ、ミラさん凄いわねぇ。あ、サンちゃーんお久しぶり。元気そうで安心したわー』

『多分大丈夫じゃないかしらね。ちょっと訊いてみましょうか』

 まるで長電話をするOLのように、ワーズランベール、そして精霊王の娘であるサンクティアと話していたマーテルは、そう言ってからふとミラに顔を向けた。

「サンちゃんがね、お父さんがミラさんに迷惑をかけていませんか? ですって。どう、ミラさん?」

「あーっと、そうじゃな。特に迷惑を感じた事はないかのぅ。とても便利な知恵袋じゃ」

 突然話をふられたミラは、そのままの勢いで本心を口にした。瞬間、精霊王が「知恵袋……」と呟き黄昏るも、ここに気にする者はいなかった。

『大丈夫みたい。シン様もミラさんの役に立っているようよ』

『うんうん、そうね。私もサンちゃんに負けないくらい頑張っちゃうから』

『あ、そういえばワーズ君とサンちゃんがいるって事は、ティーネちゃんもいるのよね』

『そうよねそうよね。懐かしいわぁ。──あれ、おかしいわね。ティーネちゃんとの繋がりが見つからないんだけど』

『え、そうなの? 契約していないの? なんでかしら?』

『あらー、水の精霊はもう。そういう事もあるのねー。残念だわ』

 ティーネちゃん。それはきっと、あの場所にいた水の精霊の事だろう。一方通行に聞こえるマーテルのやりとりを聞きながら、そんな事を考えるミラ。

「いつまで続くのじゃろうか?」

 話が終わる様子のないマーテルを眺めながらミラが訊ねると、精霊王は「おしゃべりに興がのったマーテルを止められる者はいなくてな」と答え、お手上げといった仕草をしてみせた。

「そのようなものに、話し放題の繋がりが出来たというわけか……。これから大変そうじゃな」

「まあ、数千年ぶりだろうからな。暫くすれば、もう少し落ち着く、はずだ」

「だとよいのぅ」

 歯切れの悪い精霊王の言葉。ミラは話が弾んでいる様子のマーテルを遠目にしながら、適当な場所に腰を下ろし、のんびりとその帰りを待つ構えだ。
 しかし、古参の始祖精霊というだけあり、マーテルには精霊達の知り合いがとても多いようだ。ミラが契約している精霊にも数多くいるらしく、気付けば繋がりを通じての挨拶回りが始まっていた。まだ暫くは続きそうである。
 なお、ミラにもマーテルの声が聞こえているのは、まだ繋がりが出来たばかりだからだという。慣れてくれば、その内ミラ方面への声漏れは抑えられるであろうという事だ。



「ごめんなさいね。つい夢中になっちゃったわ。でも、これ凄いわね」

 マーテルが精霊達と話し始めて一時間と少々。ようやく一区切りがついたのか、満足そうに振り向いたマーテルが楽しそうに笑う。

「喜んでもらえたのなら、何よりじゃ」

 長い時間待たされはしたが、この場所は幾らでも時間が潰せるほど、様々な驚きに溢れていた。室内のあちらこちらに見える新種の植物を観察するだけでも、随分と楽しめたのだ。そのため精霊王と一緒に摩訶不思議な草花を見て回っている内に、マーテルの長話も終わっていたという状況である。

「それにしても不思議ね。ミラさんの事も、さっきまでよりずっと近くに感じるわ。それになんだか凄く温かくて優しい気持ちになるの。これが絆が結ばれた感覚なのかしらね」

 召喚契約の繋がりに加え、精霊王の加護による特別な結びつき。それによって気持ちというのも伝わるようで、マーテルは包み隠す事のないミラの優しい想いに触れたようだ。

「これからもよろしくね。ミラさん」

 マーテルは改まるようにそう言うと、そのまま勢い良くミラを抱きしめた。感じられたミラの心に感極まったのか、それとも人恋しさというものがやはりあったのか。一見すると母と子にも見える光景だが、この時のマーテルは母のように優しい容姿でありながら、どこか子供みたいに甘えているようでもあった。

「うむ、こちらこそよろしく頼む」

 鼻先を擽るのは甘い草花の香り。ミラは抱きつかれて戸惑いながらも、気を引き締め直して応える。
 人と精霊の関係。その理想的ともいえる様子に、精霊王はそれこそ父のように笑い、二人を見つめていた。



 気づけばもう時間も遅く、今日はマーテルの住むこの小屋で一泊する事になった。尚、真に護っているものがものだけに、ここに入ってきた時に通った道にあった神霊晶石の壁は、全て精霊王の力で元通りだ。これでここには、精霊王と同じくらいの力がなければ誰も辿り着けないはずである。
 ちなみに夕飯は、張り切ったマーテル特製のサラダ盛りだ。しかもドレッシングとしてかけられたのは新種の果実の汁であり、これもまた驚くほどの絶品だった。しかも栄養面はもちろん、副次効果も充実しており、数日間は身体能力などが底上げされるらしい。
 実際、いつもより身体が軽くなったように感じたミラは、これは素晴らしいと、サラダを山盛り平らげた。そして当然、食い倒れ状態だ。

「満足じゃー」

 ミラは、マーテルが用意してくれた蔓草で編まれたベッドに転がりながら、幸せそうに声を上げる。やはり流石は始祖精霊産の野菜達というべきか、肉好きのミラを野菜ばかりの夕食で満足させるほどに、どれもが特別だったようだ。
 ミラは満腹の腹を落ち着かせながら、マーテルに礼を言い絶賛した。それに気を良くしたのか、マーテルは明日の朝はもっと美味しいものを食べさせてあげると奮起。早速とばかりに、新種の創造と改良を始める。
 時折、精霊王がマーテルの作業に、もっと甘い方が、もっと歯ごたえがあった方が、などと自分の好みで口出しをしては、マーテルに睨まれたりと、どこかのんびりした時間が過ぎていく。
 そんな両者のやり取りを微笑ましく思いながら眺めていたミラだったが、最終的にはあっち行けされた精霊王との雑談に付き合わされる事となっていた。そして話が膨らんでいくと、マーテルもひょっこり加わり、この日の夜はいつもより賑やかに、そしてゆるやかに更けていくのだった。



 マーテルの隠れ家で一夜を過ごしたミラは、支度を整えた後、朝食として用意されていたサラダとフルーツを夜と同じく、これでもかと平らげた。マーテルが全力で作り出した野菜や果実は、もはや神々の食物といっても過言ではないほどで、ミラは体中に気力が漲っている事を実感する。
 とはいえ、またも食べ過ぎという事で暫く動けなくなったミラは、一時間ほど精霊王とマーテルの会話に混ざった。ちなみにミラが寝ている間も、両者はずっと思い出話に花を咲かせていたようだ。

「こんなによいのか!?」

「ええ、試行錯誤でいっぱい作っちゃったから持って行ってくれると嬉しいわ」

 出発の少し前、マーテルから新種の野菜や果実を大量に受け取った。ミラは、これだけの絶品をまだ暫く味わい続けられると喜びつつ、ソロモン達に良い土産が出来たとほくそ笑む。王城住まいで毎日良いものを食べているソロモンに、一泡吹かせられそうだと。
 総重量にして数十キロに及ぶそれらを、ありがたく頂戴したミラは、全てをアイテムボックスに収めていく。本来なら、こんなに大量の野菜や果物を渡されても困るところだが、アイテムボックスがあればなんの問題もない。そしてどうやらこの事を、マーテルは精霊王から聞いていたようだ。そのため、お土産用にとあえて多めに生み出していたらしいというのは、後に精霊王から聞いた話である。

「では、世話になった。何かあったら飛んでくるから、精霊王殿に連絡するのじゃぞ」

 朝の遅い時間、腹も落ち着き隠れ家を後にしたミラは、隠し部屋の出入り口となる通路の前で立ち止まり振り返る。マーテルの護っているものは、恐ろしく重大なものだ。今までは無事であったが、いざという時もありえるだろうと、ミラは心配を表情に浮かべる。

「ええ、わかりました。頼りにさせていただきますわね。それと、是非ミラさんも私の事を頼りにしてくださると嬉しいわ」

 見送りに出てきていたマーテルは優しく微笑みながら、そっと右手を掲げた。するとどうだろう、空間にある全ての植物が毒々しい色に変わり、鋭いトゲを輝かせ、酸のような液体を滴らせ始めたではないか。

「冒険者というのは、戦う事も多いとシン様から聞いたの。私って、結構強いのよ」

 生命の全てを刈り取らんばかりに蠢く密林を背後に、そう言ったマーテルの姿は自信に満ち溢れており、同時にとても……ラスボスのようであった。
 ありとあらゆる植物を司る始祖精霊マーテル。相当な実力があるとは思っていたが、彼女の力は、それを遥かに上回るほどに強大であるようだ。

「う、うむ。いざとなったら頼りにさせてもらおう」

 美味しい野菜や果物をご馳走になっていたため少々失念していたが、植物には命を喰らう種類もある事を思い出させられたミラ。しかし同時に、この様子からして、やろうと思えば国の周辺を全てこれらのような植物で囲み、鉄壁の護りに出来るのではないだろうかとも考える。
 賢者探しに失敗しても、最悪、マーテルの召喚を成し得る事が出来れば、防衛だけはどうにかなるかもしれない。そんな可能性がそこには秘められていた。

(まあ、自分で言うのもなんじゃが、精霊王に加え始祖精霊までとなると、チートといわれてもおかしくはないじゃろうなぁ)

 神に匹敵するという精霊王から加護を授かり、更には気楽に会話までしている。そこに精霊王に次ぐ格を持つ始祖精霊との召喚契約だ。
 思えば随分とんでもない事になったものだと苦笑しながらも、ミラはそれらの出会いに感謝した。護りたいものがある時には、また相応の力が必要になる。
 精霊王と始祖精霊が力を貸してくれるなら、大抵の状況に対応出来るだろう。

「ミラさん、気を付けていってらっしゃいね」

 優しいマーテルの手が、ぽんとミラの頭を撫でる。気づけば、空間は今まで通りの楽園に戻っていた。この自在なあたりもまた、凄まじいところである。

「うむ、いってくる!」

 少し恥ずかしがりながらも、ミラは元気に返事をして秘密の隠し空間を出て行った。ここの場所すらわからず探していた時に感じたマーテルの気配。どこか寂しそうでもあったそれはもう微塵もなく、明るく穏やかなものに変わっていた。
 来た甲斐があった。マーテルとの繋がりを感じつつそう思いながら、ミラは隠し通路を進んでいく。



『これでもう、侵入出来るものはいないだろう』

 スカルドラゴンがいた大広間。そこの奥にあった通路を隠していた神霊晶石を、今まで以上の頑丈さと隠密性を持たせ組み直した精霊王は、その出来栄えに満足そうだ。なお、精霊王はマーテルと別れたあたりで、幻影体を解除していた。そこからは、加護を通しての神霊晶石の操作だ。

「では、攻略再開じゃな」

 大きな白い壁には、まったく違和感がない。見た目だけでは、ここの一部が違う物質で出来ているとは気づけないだろう。見つけるには、それこそ精霊王のような特別な力が必要になる。実際、わかっていても一度目を離すと、どこら辺だったか見失うくらいに完璧な隠蔽率だ。
 マーテルの住む聖域に侵入出来る者はいない。それを確信したミラは、中途半端になっていた古代地下都市六層目の攻略を再開した。既に下層用の鍵文字は入手済みであるため、向かう先は七層目に続く扉を開くために必要な三つの文字の、最後の一つがある球体神殿だ。

(思えば、随分と外れの方に来ていたのじゃな……)

 長い長い階段を上りながら、ふと現在地点を思い出すミラ。マーテルの気配を感じて探し回った末に見つけたのは、正規ルートから大きく逸れた場所。それこそ、六層目の隅の隅とでもいった地点だった。
 しかもそこは、次の目的地である球体神殿の対角線上の先という、最も遠いところとなる。

(しかしまあ、このダンジョンでは単純な距離が当てにならぬからな!)

 直線状の距離というのが、この六層目は目安にすらならないのは有名な事である。壁一つ隔てた向こう側に行くために、遠く一日かけて迂回するなんて事がざらにあるからだ。つまり、場合によっては離れたところからスタートした方が、早く着ける事もあるというわけだ。
 ミラは、マップで正規に戻るためのルートを調べながら適当にダークナイトを召喚して、襲ってくるスケルトンを蹴散らしていく。もちろん、魔動石の回収も忘れずに。



「ふぅ。ようやく正規ルートに戻ってこれたわい」

 手摺などない橋を渡って、回廊から回廊に飛び移り、細道に入り込んで階段を上っていき、デパートのように大きな建造物の中を突っ切る。そうして、歩き回る事三時間弱。ミラは、下層用の鍵文字を入手した大きな建物の前に辿り着いた。遂に、今まで辿っていた攻略ルートに戻る事が出来たのだ。振り出しといえなくもないが、複雑に入り組んだこの六層目では原点に戻る事が最善というのが、元プレイヤー達の共通認識である。

「休憩は……必要なさそうじゃな」

 一先ず安心したミラは、安全地帯となっている建物内で休憩でもしていこうかと考えたが、あれだけ散々歩き回ったにもかかわらず、まったく疲れていない事に気づく。そしてミラには、その理由に心当たりがあった。
 そう、マーテル特製の朝食だ。お高い栄養ドリンクでも相手にならないほどの効果覿面ぶりだ。

(後になって、つけが回って来るなんて事はないじゃろうな……)

 若干の不安を抱えながらも、その時は土産にもらったマーテル特製果実を食べればいいなどと、ブラック企業戦士ばりな事を考えつつ、ミラは正規ルートへと猛進していくのだった。
実は今週だけ、ちょっとした理由から夕飯は米を主食にしていた頃のメニューにしております。
なのでいつもの鍋用食材は買わないつもりで買い物に出かけたのですが……。

何と! 野菜コーナーの一番目立つところに、特売タマネギが置いてあるではないですか!
しかも1個33円(税抜き)! 
いつも買っているのは、大きめ3個入りで200円くらい。なお、重さで全体のバランスをとっているのか、凄く大きいのが入っている袋は、少し小さめのも一緒に入っているような感じです。
しかしこの日は、ばら売り! 特大サイズを選りすぐって買えるのですよ。


いやぁ……買っちゃいましたね。今週鍋はやらないのに……。
タマネギは当日に切り、保存袋に入れて冷凍庫に突っ込みました!
+注意+
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