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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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159 調査報告

百五十九


「じゃあ次は、君が見てきた話を聞かせてほしいな」

 封書を大切そうに文箱へ収めたソロモンは、改めるように机の傍にあった銀製のカートを転がしてきた。ティーセットやクッキー、ケーキなどがふんだんに盛られた、豪華なカートである。
 そんなカートから、いそいそとティーセットを取り出し、お茶会の準備を始めるソロモン。そうして山盛りな準備が整ったところで、ソロモンはミラの正面のソファーに腰掛け直す。

「報告書だけじゃ、味気ないんだよね」

 セントポリーやローズラインでの出来事について、ソロモンは報告書などで、何があってどうなったかという大体の事情は把握していた。それでも話を聞きたがるのは、当事者の知る事実と情報をすり合わせるためか。それとも、ただの趣味か。どちらにせよソロモンの目には、冒険譚を心待ちにする少年そのものの色が浮かんでいる。

「仕方がないのぅ……」

 そう呟きながら、ミラは早速とばかりにチョコケーキに手を伸ばす。そして、ソロモンが用意したミルクティーを一口啜ってから、隠居老人の如くほうっと息を漏らす。

「さて、どこから話したものか。確か通信で途中まで話したような気もするのじゃが」

「折角だし、最初からよろしく」

 五十鈴連盟本部からセントポリーに向かう途中、ミラはパトロンガーSと名乗るソロモンに、その時の状況を説明していた。当然、その事を覚えているソロモンだが、期待に満ちた表情で、そうリクエストする。

「ふむ。いいじゃろう」

 これから語る冒険譚は、中々の長丁場になりそうだ。ミラはそんな事を思いながらも、揚々と話し始めるのだった。



「とまあ、以上が向こうでの出来事じゃ」

 探し人の一人、カグラの発見。彼女が率いる組織、五十鈴連盟。そこに所属する高名な冒険者に、サソリとヘビを含む精鋭。道中で得た新召喚術や精霊王との邂逅。偶然に向こうで出会った、エカルラートカリヨンの面々。錬金術師のヨハンと、その家族に弟子のミレーヌ。
 そして、キメラクローゼンの暗躍。センキの埋葬地。鬼という存在と、その呪い。セントポリーの真実。満を持しての決戦。最高幹部達との戦いと、キメラクローゼンの首領の正体。鬼達の怨霊。依り代となった少女に、人柱となった天使。遥か昔の悪魔と、今の悪魔の違い。
 五十鈴連盟の本拠地に向けて、アルカイト王国から飛び立ったところから戻ってくるまで。その全てを語り尽くしたミラは、「思い返せば長かったのぅ」としみじみ呟き、シュークリームを頬張った。

「こうやって聞くと、やっぱり濃いね。お疲れ様。カグラさんが直ぐに帰って来てくれないっていうのは残念だけど、聞く限り仕方がなさそうだね。けど居場所が分かって、約束をとりつけられたなら充分か」

 話を聞き終えたソロモンは、満足げな表情でそう言った後、机から一枚の紙を取り出す。そして眉間に皺を寄せて難しそうに考え込みながら、そこにミラの話から得た情報を書き込んでいく。

「にしても、今回の話は驚きの連続だよ。悪魔と天使についてなんか特にね」

「うむ。それにはわしも同意じゃ」

 今回の一件は、様々な事柄が無数に絡み合っていた。キメラクローゼン誕生の根幹に悪魔が関わっていたかもしれないという事もそうだが、何よりも最後の最後で、その悪魔についての認識が反転するような情報が湧き出てきたのである。しかも、天使の口からだ。

「とはいえ、これは調べる事自体が難しそうな案件だよね。それよりも今はやっぱり、悪魔が事の発端かもしれないって点が重要か」

「そうじゃのぅ。昔は昔、今は今じゃからな。今回と同じく、知らず知らずに悪魔がかかわっている事件が、他に無いとは言い切れぬ。奴等は水面下で動くのが得意じゃからのぅ」

「キメラクローゼンみたいな大きな組織が、いつまた出てくるとも限らない。厄介な前例が出来ちゃったよ……」

 心底疲れきった顔でうな垂れるソロモン。センキの埋葬地と呼ばれる封鬼の棺が暴かれたのは、十何年も前の事。調査隊の隊長に成り代わっていた悪魔が、その時から姿を消したなら、次の棺を暴くのにも充分な時間があっただろう。
 カグラと天使のティリエルが、封鬼の棺を調べて回る予定だと聞いたソロモンは、一縷の望みに懸けて無事を祈った。



「ああ、そうだ。悪魔といえばね──」

 天使と悪魔について一通りまとめた紙を、机ではなくアイテムボックスにしまったソロモンは、思い出したように棚から書類を取り出して、ミラの前に広げてみせた。

「ほぅ、あの場所じゃな」

 資料を一目見て、ミラはそれが何か直ぐに気付いた。というより、悪魔悪魔と話していたために、ミラも少し気になっていたところだったのだ。

「君が向こうにいっている間に報告書があがってきてね。一先ず、現状の調査で分かった事がこれ」

 無数の書類の中から一つの束を取り出したソロモンは、そこに描かれた図を指し示しながら、報告について語った。
 その報告書は、かつてミラが悪魔と出会い戦った場所、古代神殿ネブラポリスの最下層を詳細に調べたものであった。
 そこには様々な情報が書かれていたが、ソロモンはまず初めに、あのような場所で悪魔が何をしていたのかという点について口にした。一言、分からなかった、と。

「調査の結果、あの大きな湖の底から、人為的に掘られたであろうトンネルが見つかったんだ。で、そのトンネルっていうのが凄く深くてね」

 ミラ達があの場所を訪れた時、悪魔は湖から出てきた。そのため湖を重点的に調べたところ、不自然な穴が開いており、ずっと深くまで続いていたという事だ。
 最下層にある湖の水深は約二十メートルほどだが、そこの端の方に直径二メートル程度の穴が穿たれていたという。
 その穴を調べたところ、ここ最近に掘られたものだと分かった。
 調査班は、これを悪魔の仕業とみて慎重に調査を進めていき、遂にその穴が行き着く先まで辿り着く。
 調べたところ、穴は水深百メートルにまで達しており、しかもある方向に向かって斜に掘られていたそうだ。

「悪魔が開けたと思われるその穴は、あの白い城の地下深くに続いていたんだ」

 そこまで話したソロモンは、白い城と湖を縦に切ったように描かれた断面図を書類から抜き出し、ミラの前に置いた。その図によると湖の底から続く穴は、水深百メートルほどまでいったあと、V字状に今度は上へ向けて進んでいた。そして、その行き着いた先、城のずっと地下深くにある、不自然な空間をソロモンは指差した。

「ここにある大きな空間は、どうやら昔からあったみたい」

 悪魔が掘ったと思われる穴の先。そこに広がる空間は、悪魔が造ったものではなく、ずっとそこにあったもの。つまり、悪魔はこの空間を目指して穴を掘ったのだろうと、全員の意見が一致したという。
 では、悪魔はなぜ、この空間を目指したのか。結論からして、ここで話が戻る。分からなかった、と。
 白い城の地下深くにあった空間は、最下層と同じように幾つかの輝く結晶があって、明かりが必要ない程度の光で満たされていたらしい。
 しかし、その空間の床は、枯れ果てた植物で埋め尽くされていたという。調べたところ、ここ数ヶ月の内に枯れたようだが、悪魔のものであろう強力なマナに汚染されていたようで、種類の特定には、もう暫く時間がかかるそうだ。
 更にもう一つ、大きな謎が書類には記載されていた。空間の中央には、直径五メートルはあろうかという綺麗な円柱状の穴が開いていたと。形跡からして新しいものだと判断されたが、その下まで調べたものの、何も見つからずに終わったという事だった。

「なんでこんな所に、ってのは置いておいて、汚染された植物って点から、君が倒した悪魔が、ここで何かしらの力を行使していたのは間違いないはずなんだけどね」

 そう話を締め括ったソロモンは、「ほんと、厄介だよねぇ」と呟きながら書類をまとめていく。

「あの城の地下に、そんな空間があったというのも驚きじゃが、そのような場所で育っていた植物も気になるところじゃな」

 チーズケーキをミルクティーで流し込んだミラは、一呼吸置いてからテーブルに残っていた一枚の書類を手にとる。それは、謎の空間の縦割り図であり、その中央にあった穴が、どれほどの深さか、良く分かる資料だった。

(随分と深いのぅ。しかも綺麗に真っ直ぐじゃな)

 その穴は、百メートルを超えるであろう深さがあった。この穴を下りていくのは、中々勇気がいるだろう。ミラはそんな事を考えながら、ふと図に記載されていた空間の上にある、幾つかの小部屋らしきものに目を留める。
 見たところ、謎の空間の脇から斜め上に伸びた小道は、四角い大きな部屋に繋がっていた。そして、その大きな部屋から、また小道が伸びて上の部屋、上の部屋と続き、最終的には白い城の地下室にまで到達しているのが分かる。

「のぅ、ソロモンよ。この部屋はなんじゃ?」

 古代神殿ネブラポリスの最下層にある白い城には、地下一階までしかない。そう記憶していたミラは興味をひかれるまま、資料をソロモンに突き出してみせた。

「おっと、その部屋に気付いちゃった? 気付いちゃったかー。じゃあ、話すしかないねー」

 むしろ聞いてくださいといわんばかりに待ち構えていたソロモンは、含み笑いを浮かべながら、また語り始めた。調査班は謎の空間で、悪魔が開けた穴以外の通れる道を見つけたのだと。
 緩やかな階段になっていたその道を上っていったところ、レバーで開く石扉があり、最初の大部屋に出た。
 そして、その大部屋を目の当たりにした調査班は、あまりの光景に言葉を失ったという。

「その部屋がまさかの、宝物庫だったんだよね!」

 それはもう笑顔満面に、ソロモンは『古代神殿地下目録』と書かれた資料を、ミラに見せ付けるように広げる。

「ほぅ……なんとも……! これはとんでもないのぅ!」

 目録には、その宝物庫にあった全ての品が記載されていた。金銀珠玉などのストレートな財宝の他にも、竜の光冠、妖精姫の赤い聖剣、エリクシル、女神の涙、ヘルメスの羽靴、魔槍ブリューナクなど。ちらりと表面に目を通しただけでも、相当な品々が並んでおり、ミラは素直に驚きの声をあげる。

「とんでもないでしょ! ざっと計算しただけでも、千億リフは超えるからね。あの日は興奮して眠れなかったよ」

「これだけのものが見つかったのなら、それも仕方がないのぅ」

 悪魔云々といった空気はどこへやら。目を輝かせながら目録を眺めるミラに、ソロモンはまたも語り出す。
 貴重で強力な武具が多くあったため、それらは国庫の肥やしにはせず、軍部に回したと。
 結果、各団の団長や副団長、そして隊長達に相当な武具が支給されたようで、アルカイト王国軍の戦力が随分と底上げ出来たという事だ。
 他にも、名品クラスの武具を警邏庁などの治安維持組織に配給したらしい。

「最近は、魔物の活動が活発になってきているからね。思わぬタイミングで戦力を補強出来て、嬉しい限りだよ」

 悪魔の暗躍もあるが、魔物の群れの出現といい、この頃魔物達の様子もまた騒がしいようだ。なんだかんだで悩みの種だったそれを見事に解決してくれた宝物庫は、ソロモンにとって余程嬉しいものだったのだろう、ミラが古代神殿に行ってくれたお陰だと、そこに送り込んだ張本人はご機嫌に笑った。

「まあ、そういう事で、大当たりだった一つ目の部屋だけどさ。調査班は、そこから更に上に続く階段を見つけたんだって。図で見た通り、上にはまだ十の部屋があるんだ」

 白い城の地下に広がる複数の部屋と、それらを結ぶ通路。ソロモンは改めるように、図を指し示してみせる。

「もしや、残りも……」

 実は、目録は一つだけではなかった。そんな期待を抱いたミラは、身を乗り出し注目する。

「残りも、宝がざっくざく……だったら良かったんだけど。あいにくと、残りの部屋は全部空っぽだったんだよね」

 そう言ってソロモンは、ひらりと図を手放して、おどけたように肩をすくませた。

「ふん、そんな事じゃろうと思ったわい」

 ミラは、ソファーの背もたれに身を深く預けると、チョコ味のシュークリームを齧りながら、テーブルに舞い落ちた図へ、ちらりと目を向ける。
 図にある通路は、謎の空間から、白い城の地下室にまで続いていた。
 簡単な事だ。その地下室から進入して、複数の部屋を抜け、宝物庫にまで辿り着くというのが本来のルートだったのであろう。

「まあ、そりゃそうだって感じだよねー」

 その後、ソロモンは残りの部屋についても簡潔に説明した。
 いってみれば、逆走状態だった調査班は、苦労せずに一番上の部屋まで到達したそうだが、調べてみれば部屋に繋がる扉は全て、巧妙に隠されていたという。白い城の地下室からの入り口も、床板一枚が最初の部屋の天井の片隅に繋がっているだけであったようだ。
 しかも最初の部屋のその箇所には石柱が立てられており、床板を外しただけでは分からないように隠蔽されていたらしい。
 そんな隠された入り口を見つけ、進んでみれば空っぽの部屋。そんな部屋を調べ回り、次に続く隠し扉を発見し下りていくと、また空っぽの部屋。これを繰り返し繰り返し辿り着いた先に宝物庫があるという構造だ。

「正規のルートを通ってきたら、きっとそこで満足しちゃうだろうね」

「どう見ても、ゴールとしか思えぬじゃろうな」

 かつての冒険、手強いダンジョンの数々を思い出しながら、二人は呟いた。最深部に財宝は眠っているものだと。
 古代神殿の最下層。そこに隠された通路の先で、金銀財宝を見つけた。たいていは、ここで満足してしまう事だろう。
 そう、つまり真に隠されていたのは、その更に奥にある謎の空間だったのだ。
 千億リフは下らない財宝を目くらましに使って隠蔽された空間。そこに到達して、何かをしていた悪魔。その件については引き続き調査中だと、ソロモンはいう。

「厄介じゃのぅ……」

 悪魔自体は既に討伐しているため、これ以上どうにかなる事はないだろう。しかしミラは、言い知れぬ不安を募らせるのだった。



「まあ、この件については僕に任せてよ。君には君の任務があるんだしね。という事で、今度はあの城を根城にしていた彼の話をしようじゃないか」

 調査班関係の資料を棚に戻しながら、ソロモンはにこやかな笑みをミラに向ける。

「任務、のぅ……」

 また新たな資料を手に戻ってきたソロモンを見据えながら、苦笑交じりにぼやいたミラは、それでも素直に書類の束を受け取った。

「ほぅ……。ここまで分かったか」

 ちらりと資料に目を通してから、ミラは感心したように呟く。そこには、これまでの任務によって得られた情報がまとめられており、そこから導き出された結果も記載されていたのだ。

「君が向こうで頑張っている間に、皆も頑張ってくれてね。見ての通り、彼は遅くても五年前には神命光輝の聖杯作製に取り掛かっていたみたい」

 ミラの対面に腰を下ろしたソロモンは、二つのカップにミルクティーを注ぎながら、資料にあった結果について説明する。
 神命光輝の聖杯を作るために、まずは御神木の根を杯の形に削るという工程があった。削る事が出来る場所は特殊だったが、だからこそミラは、ソウルハウルがそこで作業していただろう証拠である木屑を回収出来た。
 そうしてミラが持ち帰った木屑を専門家達が調べたところ、削られてから五年以上は経過しているという結果が出たそうだ。

「ふむ、五年か。結構な時間じゃな。もう作り終えているという事はないじゃろうか?」

 そう言ってから、ミラはミルクティーの注がれたカップを受け取り一口啜る。
 聖杯作り。それだけに集中していたとなれば、五年は相当な時間である。そして、ソウルハウルが残した資料などからして、彼が聖杯の作製にかける鬼気迫るほどの執念が窺えた。
 きっと間違いなく、ソウルハウルは聖杯作りに注力していたはずだ。一つ決めたら、梃子でも動かないのが彼の特徴でもある。
 一つのアイテムを作るために五年も費やせば、流石に完成しているのでは。そうミラは考えた。しかし、ソロモンは首を横に振って答え「資料の一番後ろを見てごらん」とだけ口にする。

「……なるほど、のぅ」

 そこには、ソウルハウルの手記から読み解かれた、神命光輝の聖杯を作るための手順が羅列されていた。
 その手順の数、百八。それを辿れば、大陸の各地を満遍なく踏破する事となり、アース大陸とアーク大陸を行ったり来たりと忙しない。しかも中には、季節限定の自然現象を条件としたものまであり、時期を逃せば一年待ちぼうけなどという、とんでもない内容だった。
 五年でも足りなそうだ。作製手順を目で追いながら納得したミラは、これを知ってなお作ろうと動いたソウルハウルに、いたく感心する。

「あ奴にとって、あの娘は相当に大切だったのじゃろうな」

 白い城で、仮死状態のまま氷漬けになっていた女性の事を思い出したミラ。
 不死っ子が大好きだったソウルハウルは、随分と変わったようだ。そんな事を思いながら、ミラは資料に記載されている手順の後半に目を通す。
 こういったもののお決まりというべきか、後半に進むにつれて、条件も厳しくなっていく。

「して、ソウルハウルが今、どのあたりに着手しているか。それも計算済みなのじゃろう?」

 手順の難度から見て取れる所要時間と、ソウルハウルが作業を始めた時期。それらの情報を合わせ、今ソウルハウルがどこにいるかを推測するのが、この資料の作成理由である。当然、答えが出たからこそ、この話を始めたのだろう。
 キメラクローゼンとの決着がつき、帰ってきて早々に次の任務の話。若干うんざりしながらも、ミラは早く言えとばかりにソロモンに目を向けた。

「うんうん、積極的で助かるよ。もちろん特定済み」

 笑顔を浮かべたソロモンは、恨みがましいミラの視線を軽く受け流しながらカップを手に取り、優雅に口をつけてから「うちの優秀な学者達がね」と前置きして、導き出された結果を発表した。
 ホールトランド丘陵か、レイズウッド水林、ヘアフォク山地のどこかに、その内向かうだろうと。

「……なにやら、随分と大雑把に聞こえたのじゃが」

 どこかに、その内。ソロモンが曖昧に口にした、その部分を聞き逃さなかったミラは、途端に面倒そうな表情を浮かべた。

「えっとね……。彼の能力と成長なんかも考慮したところ、順調に工程が進んでいれば、八十までは達成しているという見解なんだ。けど、それ以降の近い手順に場所が指定されているのは、今言った三つだけ。他は、ここという場所が決められてなくてさ。優秀な彼等でも、ここまで絞り込むのが限界だったんだよねぇ」

 手順には、場所が指定されているものも多々あった。この場所に行けばいいという、一つの答えを期待していたミラに対して、ソロモンは少し視線を泳がせながら、言い訳めいた事情を口にする。

「ふむ……。最悪、全部回る事になるわけじゃな……」

 雑多な情報から三つにまで絞り込めたのだから上出来といえなくもないが、それぞれの場所が、また遠く離れている事と、その場所自体が問題だった。
 資料で手順を確認してみると、それぞれに行うべき事が書かれている。
 丘陵では、その地下深くに広がる古代都市の廃墟で、未だに稼動し都市を支えている白亜のオーブの『欠片』を入手する事。
 水林では、そこに棲まう蛇の王から、『万死の毒液』を入手する事。
 山地では、極稀に採れる『熔火の石』で呼び寄せる事が出来る炎の巨人から、『焔の心核』を入手する事。
 どれも一見しただけなら簡単そうに思えるが、識る者にとって、それは無謀とも言えるほどの内容であった。
 蛇の王に古代都市のガーディアン、そして炎の巨人。ゲーム時代の頃、これら全てはレイドボス、つまり多人数で挑む事が当然だった敵なのだ。
 一対一となると、九賢者ですら打倒するには難しい相手ばかりである。ミラがうんざりした表情を浮かべるのも、また当然だった。

「でもさ、ほら。いってみれば来たか来てないかの確認をすればいいだけなんだから、やりようは幾らでもありそうじゃない?」

 発破をかけるように、ソロモンは努めて明るく言う。
 確かにソロモンが言う通り、戦う必要はない。痕跡を探せばいいのだ。古代都市の廃墟など、ダンジョンであるため通行証が必要になる。となれば組合の誰かがソウルハウルを覚えているかもしれない。
 水林には、精霊が多く住んでおり、山地には炎の巨人が出現する地点を見渡せる位置に、ドワーフの街があった。
 ソウルハウルは何かと目立つ人物であり、三つの手順も、何かと目立つものだ。目撃した誰かが覚えていても、不思議ではないだろう。
 つまり聞き込みで、動きは大方はつかめるかもしれない。そういった痕跡が見つかれば攻略済み。見つからないなら、待っていればその内本人が来るはずだ。
 ソロモンは、そんな事を捲くし立てた。

「そうかもしれんのぅ」

 容易く説得されたミラは、納得したように頷き、僅かにその表情を緩める。
 そんなミラの顔を、しめしめと確認したソロモンは「これ、周辺の地図ね」と言って、目的地である三箇所の地図を、まるで押し付けるようにミラに手渡す。

「さて、どこから向かったものかのぅ」

 それぞれの地点同士だけでなく、目的地はアルカイト王国からも相当な距離があった。ミラは眉間に皺を寄せつつも、受け取った地図を交互に見比べ、次の行き先を思案する。
 そこでソロモンが、一つの進路を提案した。古代都市の廃墟からがいいと。

「ふーむ。古代都市のぅ……」

 余り乗り気ではないミラ。というより、どこもそれほど乗り気ではないミラ。そんなミラに、ソロモンは言う。それが一番、効率がいいのだと。

「古代都市は、三箇所の中で最初の場所だからね。ここが終わっているなら、いつぐらいに来たかを聞ければ、更に進行度合いを絞り込める。まだなら、もうそこが最初なんだから、そのまま待っていればいいだけ。ね、分かり易いでしょ?」

「なるほどのぅ。確かにそうじゃな」

 簡単に丸め込まれたミラは、納得したように頷くと、次の目的地を古代都市に決定する。

「じゃあ、これ。次の軍資金ね」

 とても順調に話が進むその様を見つめながら、ソロモンは人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、小さな袋を差し出した。

「おお、今回は随分と重いのぅ!」

 いつもよりずしりとくる袋を受け取ったミラは、早速とばかりに中身を確認する。
 袋の中には、金貨が二十枚入っていた。

「百万か! これだけあれば、暫くは持ちそうじゃな!」

 金額を数えたミラは、お年玉を貰った子供のように、ほくほくとした表情で袋を懐に収めた。その頭の中では、次はどんな宿に泊まろうかという妄想が広がっている。どうやら、どのような状況でも、観光を楽しむ腹積もりのようだ。

「あの辺りは、キロリ鳥やポトポテが名物だったから、ついでに楽しんでくるといいよ」

 ソロモンは観光気分に浮かれるミラの様子を少しだけ羨ましそうに見つめながら、今度は自然に微笑む。

「うむ。土産を楽しみにしておるがよい!」

 ミラは手にした地図をアイテムボックスに収納すると、楽しげにそう口にした。
 その直後、ミラは「そういえば、土産があったのじゃった」と思い出したように笑い、セントポリーやローズラインで買って来た品々を、テーブルに並べていった。
 一貫性のない雑多な土産の数々と、それにまつわる土産話を語り始めるミラ。それを、どこか遠い国の出来事のように聞き入るソロモン。
 こうして、二人の会談は雑談に突入し、夜まで続くのだった。
ストリートビューを見ていて、ふと思ったんですが、
舗装された道って凄いですよね。
ノルウェーの外れの方とか、ずーっと続く自然の中に延々と道が続いているんですよ。
舗装されてるって事は、人の手が入っているって事ですよね。
途方もないくらい長い道を作った過去の人達。なんか凄いなと、観光しながら思いました。
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