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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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139 鎧王

百三十九


 三人は岩壁の残骸を乗り越えて、奥の階段を駆け上がっていった。そして辿り着いたのは、幅五メートル、奥行き十メートル程度の部屋だ。

「やや! 随分と早いですな。まったく、時間稼ぎも出来ぬとは!」

 戦場としては狭いその部屋の奥に、超重装の男はいた。男はミラ達に気付くと、巨大な鉄の扉を押す手に更に力をこめて扉を閉める。そしてどこか慌てたような仕草で鍵をかけ、何事も無かったとばかりに振り返り、ハルバードを構えた。

「まあ、仕方がないともいえますな。奴は、我々の中でも最弱ですからな」

 男がそう口にして直ぐの事だ。《縮地》でミラがその懐にまで飛び込んだのである。

「なんと! 入り(・・)が見えませんでしたぞ!」

 一瞬の内で目の前に現れたミラの姿に驚愕した超重装の男は、それでも一時の間も置かずにハルバードを振るった。その一撃は、重鈍そうな見た目とは裏腹に鋭く風を切り裂き、猛烈な嵐を生じさせる。
 部屋中がずしりと震える。相当な威力を窺わせる一撃だったが、それは結局何も捉えられなかった。

「なるほどのぅ。確かにあの若造を最弱というだけはあるようじゃな。予想以上の反応じゃ」

 ほんの僅かな時間で既に元の場所に戻っていたミラは、「しかし、その図体では手元が見え辛いようじゃのぅ」と言いながら、その手にしているものを見せ付けるようにかざす。

「またまた、なんと! いつの間に!」

 ミラが手にしていたもの。それは、鉄の扉の鍵であった。最接近した際に、そのまま奪ってきていたのだ。超重装の男は空いた片手を見ると、心底驚いたとばかりに声をあげる。しかし、どこか抜けた様子も束の間、男は不敵にくつくつと笑い、ハルバードを両手で握り締めた。

「鍵を奪ったからといっても、どの道、この我輩。鎧王(がいおう)がいる限り先には進ませんですぞ。あと少々であれの準備も終わるでしょうし、ここは死守させてもらいますぞ」

 鉄の扉の前に、堂々と仁王立ちする超重装の男、自称鎧王。しかしながら言うだけの事はあり、その鉄の塊のような姿は、それこそ弁慶の如き迫力であった。

「あの鎧も当然、奴等特製の精霊武具じゃろうな。となれば、中級以下は完全無効。上級ですらまともに通じるかどうかじゃのぅ」

 扉を護る事が最優先らしく、鎧王の方からは攻めて来ない。迎え撃つつもりのようだ。そんな相手を見つめながら、ミラはその頑丈さを推測する。古代環門で戦った時より更に分厚い鎧は、もはや絶対防御に近いのではないかというくらいの重装甲だろうと。

「ふーん。あんなもののために、ね……」

 ゲーム時代にあったら完全にチートのレッテルを貼られていただろうそれを作るのに、どれだけの精霊が犠牲になったのだろうか。カグラは、あからさまに剣呑な気配を漂わせ始める。

「その不自然過ぎる強さは、キメラの象徴とでもいえそうですね」

 セロは鎧王を見据えながら呟き、臨戦態勢のカグラの更に前に一歩踏み出した。

「もう鍵はこちらにあるのですから、ミラさんとカグラさんは先に行ってください。彼等が口にする『あれ』というのも気になります。なので是非、ここは私にお任せ下さい」

 幹部達の口ぶりからして、準備している何かに相当な自信があるようだ。場合によっては戦況をひっくり返すだけの切り札が出てくる事も考えられる。それを警戒してか、はたまた冷静さを欠いた、というより余り手加減をしそうにない様子のカグラを心配してか。どちらにしろ周辺に及ぼす被害が尋常ではない事になると考えたセロは、率先して相手を引き受けると口にして、奥の鉄扉を指し示す。
 先程、幹部の一人が受けた惨状を見て、かつての戦場を思い出したセロ。高名なギルド、エカルラートカリヨンの団長でも、全力を出した九賢者の戦闘には巻き込まれたくないようだ。

「ふむ、さっきとは違い、この防御を崩すのは面倒そうじゃ。わしも、『あれ』という言葉が気になっておったしのぅ。急ぐに越した事はないじゃろう」

「まあ、そうね。奴等自体は大した事なくても、使われているその力は精霊のものだし、油断は出来ないわ」

 そう言ってミラとカグラは、セロから離れ部屋の中央を迂回するようにして奥に進んでいく。と、その時。

「おっと、いかせませんぞ!」

 鎧王がハルバードを大きく薙ぎ払った。すると途端に部屋中を暴風が駆け抜け、ミラ達三人を壁際まで吹き飛ばす。

「なるほどのぅ。この部屋の狭さはそういう理由じゃったか」

「一人目とは違い、なかなか考えられていますね」

「ただ、邪魔なだけよ」

 中空を足場に身を翻し体勢を整えたミラ。セロは軽やかな所作で壁に着地したあと、床に足場を移す。対して木の枝で編まれた網の中からすとんと地面に降り立ったカグラは、その顔に冷笑を浮かべていた。
 三人とも表面上は、それこそどこ吹く風といった様子で、細長い部屋の奥に佇む男を見据える。

「これはなんとも。ここまで容易く凌がれると、自信を無くしてしまいますぞ」

 鎧王は、そう口にしながらも一切諦める気配を出さず、構えを変えてみせた。男が手にするのは、風の力を秘めた精霊武具。一振りすれば、嵐のような風を巻き起こす。殺傷力では他の属性に劣りそうだが、その使い方次第で用途は多岐にわたる。こと時間稼ぎともなれば十全に力を発揮するだろう。
 だがそれも、実力に大きな差のない相手ならば、と付け加えよう。

「では、私が彼の武器を封じますので、お二方はその隙に」

 徐に剣を抜き、セロは一歩また一歩と鎧王に向かって歩き出す。

「何をしようと、先には進めませんぞ!」

 一閃するだけで暴風を巻き起こし、部屋中を支配出来るハルバード。鎧王はセロの足が部屋の中央を越えたところで、その柄を強く握り締め振りかざした。
 瞬間、静かな一陣の風が吹き抜けた時、明らかに異質な重々しい金属音が鳴り響く。
 セロであった。疾風の如く男に迫り、振り下ろされんとするハルバードを剣で止めたのだ。
 それは短距離という制限はあるものの、ミラの《縮地》を彷彿とさせる速度でありながら、純粋な走りだというのだから人の力は底が知れない。

「流石はファンタジーとでもいうべきか。何度見ても驚きじゃな」

「だねー。肉体の限界を凌駕しちゃうのもファンタジーならではだよね」

 感心したようにセロの背を見つめていたのも束の間。ミラとカグラは同時に駆け出す。

「では任せたぞ、セロ」

「ここはよろしく!」

 通り抜けざまにそう声をかける二人。

「させませぬぞ!」

 それに気付いた鎧王が、強引にハルバードを振り上げ、ミラ達目掛けて振り下ろす。

「ええ、お任せ下さい」

 だがハルバードは一寸たりとも動かなかった。その柄に触れたセロの剣の切っ先が、そこから先の動きを制していたからだ。

「おのれちょこざいな!」

 鎧王は、気合と共に力を込めた。瞬間、ハルバードは勢い良く振り下ろされ、荒れ狂う暴風が部屋を駆け抜ける。
 しかしそれは、誰もいない場所に向けてだった。セロの剣によっていなされたハルバードは、まったく無意味な場所を一閃したのだ。
 その間にミラ達は鉄の扉の鍵を開け、さっさと奥に向けて走り去っていった。

「ぬぅ、ご高名なギルドの団長ともなると、やはり一筋縄ではいきませんな」

 その重々しい図体に似合わず素早い動きで距離を取った鎧王は、開け放たれた扉を悔しそうに睨みながらも、ため息一つ漏らした後、セロに向き直り不敵に笑う。

「とはいえ、一番の戦力であろうお前さんを足止め出来たとなれば、充分役目は果たしたといえるでしょうな」

 そう続けて口にした鎧王は、揚々とした足取りで扉の前に立ち塞がり、ハルバードを構え直した。
 セロが団長を務めるギルド、エカルラートカリヨン。ある闇の組織を壊滅させたとか、災害級の魔獣を討伐したなどという逸話に事欠かず、その活躍ぶりは大陸中に轟いている。曰く、悪を滅する光だともいわれ、後ろ暗い者達は、出会いたくない相手として必ずその名を挙げる。
 これだけの名を馳せているだけあって、その規模もまた相当であり、大陸のそこかしこにメンバーが散らばっていた。そしてそれらを各地で束ねているのが副団長である。
 エメラもまた副団長であるが、エカルラートカリヨンには、この副団長が複数いるのだ。そして各地を担当している彼等彼女等は、総じて飛び抜けた実力者でもあった。エカルラートカリヨンの活躍として語られる話には、この副団長達の手柄も多く含まれているのだ。
 そして、そんな猛者達をまとめる存在がセロである。周囲から悪だと認定され隠れ潜んでいるキメラクローゼンが、セロを警戒するのは当然の事だろう。

「何か勘違いをしているようですね。私がここに残ったのは、貴方如きは私程度で充分だと判断したからですよ。彼女達の手を煩わせるまでもないとね」

 最大限に注意が必要な、あのエカルラートカリヨンの団長を足止めした。それで充分だ。そんな事を口にした男を見据えて、セロは薄っすらと笑ってみせる。

「むぅ……。どういう意味であるか。まるでお前さんがあの娘二人に劣るとでもいうような言い方であるが」

「どうもこうも、そうだと言っているのですよ。私では、どう頑張ろうともあのお二人には敵いません」

 セロが口にした言葉を聞き疑問を浮かべた鎧王は、少しの間を置いたあと、驚きの気配を滲ませる。

「なんと……本心、のようですな。お前さんのような男に、そこまで言わせるとは……。うーむ。状況を見誤りましたかな。お前さんの動きにばかり注意していた私のミスですぞ」

 セロの言葉に嘘はなかった。どこか羨望すら交じるその口調、そして態度から鎧王はそれが真実だと感じ取ったのだ。
 まずミラの実力は、グレゴリウスを退けたという点で警戒に値するが、話を聞いた限りセロ程ではないと男は想定していた。カグラに至っては一切知らぬまま、ただセロという際立った存在がいたからか、鎧王は無意識のうちにセロを頂点として序列を決めてしまっていたのだ。そのため、ミラとカグラへの対応が遅れた。
 失態だとばかりに鎧王は悔しがる。しかし、そんな彼にセロは言う。

「気にする必要はありませんよ。どの道こうするつもりでしたので、この状況は貴方がどう足掻こうとも不変でしたから」

 たとえミラとカグラに最大の警戒を向けていたとしても、自分と一対一で対峙するという今の状況が覆る事はない。セロは真実を語るかのように淡々とした口調で言い切ると、不敵に微笑み剣を構えた。

「なんとも、言ってくれますな。まあ、こうなったなら早くお前さんを倒して、合流させてもらいますぞ!」

 言うが早いか、鎧王がハルバードを振り抜いた。唸りを上げる矛先は周囲の空気を巻き込み、嵐を生じさせる。
 しかし既に暴風逆巻くそこにセロの姿は無かった。
 直後、一筋の光が男の腕に吸い込まれるように閃き、甲高い音が二度響き渡る。同時に、鎧王がたたらを踏むようにして後ずさった。

「聞いていた通り、相当に頑丈ですね。その精霊武具は」

 剣を振り抜いた体勢から即座に構え直すセロ。装甲が最も薄い腕の関節部を狙ったにもかかわらず、効果があったのは剣の衝撃だけ。しかしそれも、多少怯ます程度のもので、到底傷を与えられるものではなかった。幹部が扱う精霊武具の厄介さをあらかじめ聞いていたセロは、感心したように鎧王の鎧を見つめる。

「なるほどなるほど。やはり桁違いの腕前ですな。この鎧がなければ今ので勝負がついてしまっていたでしょう。しかし、この鎧がある以上、お前さんの剣、いや、全ての攻撃は通用しませんぞ」

「通用しない、ですか。そう言われると試してみたくなりますね」

 相当自信があるのか、鎧王は守りの姿勢を取る事なく、ハルバードを前面に押し出すようにして構える。対するセロもまた、完全に攻勢。
 こうして、エカルラートカリヨンの団長セロと、キメラクローゼン最高幹部の一人の戦いが始まった。
クリスマスも終わり、いよいよ年末の気配が本格的に漂い始めてきましたね。
そんな今日、報告させていただきます!

今年のクリスマス!
ケンタッキーを食す事が出来ました!
それもこれも、書籍版をお買い上げくださった皆様のお陰でございます。
ありがとうございます!

ただ一つ。最初は、クリスマスペアパックを頼んだのですが、まさかのスパイシーチキンが品切れで、クリスマスペアパック終了という事態に。
出鼻をくじかれました。
しかし完全にくじける事無く、クリスマスペアパックから、普通のペアパックに変更。後ろにぞろぞろと列が出来ていく中、どうにかケンタッキーを買って帰れた次第です。
来年は、半額になったクリスマスケーキを狙ってみる予定です。

ペアパック。一人なら充分に満足出来るボリュームですね。
+注意+
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