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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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135 開戦!

健康診断とか行って、ましたー!
百三十五


 決戦の前日。突入隊の三人は、各自で、自由な時間を過ごしていた。
 ミラは、英気を養うという名目で街に繰り出し店舗巡り。ゲーム時代は流通が少なかった希少な素材が一般的な値段に落ち着いていたり、またその逆もあったりと、三十年で様変わりした市場を眺める事が最近のミラの趣味である。
 カグラは各隊と密に連絡を取り合い、作戦を突き詰めている。どうやら五十鈴連盟の一陣と合流した別働隊のエメラ達による、双方の役割についての話し合いが主のようだ。
 セロはというと、荒野の方に出かけていた。新たな武器、白銀滅鬼の剣を満足に使いこなせるようにするため、魔物相手に修練を続けている。一見すれば、その技は実に冴え渡っているように思えるが、本人にしてみればまだまだ足りないという事だ。
 こうして一日が過ぎて日が変わり、決戦当日となった真夜中の事であった。

「おじいちゃん、起きて! ほら、早くー!」

「ぬぅ……。なんじゃ、騒々しい」

 普段通り風呂に入り食事をして、明日も早いと眠りについていたミラ。だが、それから間もなく突然カグラに叩き起こされたのだ。

「開戦したの。今から出陣するよ!」

「なんじゃと……!?」

 カグラの話によると、つい先程、何者か、恐らく空の民と思われる男が急に現れ村を襲撃したという緊急連絡が、第一陣の参謀アリオトより告げられたそうだ。

「私は各隊に指示を出すから、おじいちゃんは急いでこの事をセロさんに伝えてきて」

 言うが早いか、カグラは直ぐに陰陽術を使い連絡を始めた。急かされたミラは「分かった」と一言だけ口にして部屋を飛び出しセロの所へ急ぐ。

「セロー、起きておるかー。わしじゃー」

 スイートクラスの部屋が並び、そこはかとない高級感が漂う廊下。夜遅くにミラは、そこで忙しなく扉をノックしながら呼びかける。

「何かあったようですね。……もしや、始まりましたか?」

 まだ寝てはいなかったのか、直ぐに扉を開き顔を覗かせたセロは、ミラの様子から即座に状況に気付いたようだ。

「うむ、その通りじゃ。向こうで──」

「っと、その前にミラさん。その格好で出歩くのはやめた方が」

 話が早い。そうミラがカグラから聞いた内容を口にしようとした時、セロは手早くマントを取り出してミラの肩に掛ける。

「ぬ……? おおっ! 忘れておったわい」

 改めて見下ろしてみれば、寝起きのミラは下着姿のままであった。だがその事を恥じた様子もなく笑い飛ばすと、その場でミラは空の民の男が動いたようだと状況を説明した。

「分かりました。急ぎましょう」

 セロは既に支度を整えていたようで、ミラの話を聞き終わると同時、そのまま部屋をあとにする。
 ミラ達が戻ると、丁度指示を終えたカグラが振り返る。そして途端に眉根を顰めた。

「……なんて格好してるの」

 カグラは、サイズの合っていないマントを羽織るミラを睨んだ。隙間からは白い肌がちらりと覗き、余計に艶かしいその姿を。

「お主が急かすから……」

「はぁ……。とにかく着替えようか」

 急かされたからといって下着のまま飛び出す馬鹿がどこにいる。そんな言葉を飲み込んで、カグラはベッド脇に転がる衣服を拾い差し出した。
 ミラはしょぼくれた様子で「うむ……」と頷き、いつもの服に袖を通し始める。セロは、いつの間にか扉の外に出ていた。


 ミラの着替えが終わり、セロも部屋に入ったところで、ようやくカグラから詳細が語られる。
 各隊からの報告によれば、予定通り空の民の男の襲撃によって基地は混乱の状態にあるという事だった。そして先程、その混乱に乗じて第一陣に突撃を指示したところだという。

「という事で、私達も出発するよ。ミラちゃん、忘れ物はない?」

「うむ。準備万端じゃ!」

「ならオッケー。じゃあ行こうか」

 そう言って力強く一歩を踏み出していくカグラ。そんなカグラにミラは「セロには訊かぬのか」と声をかける。

「服を忘れるようなミラちゃんじゃあるまいし、セロさんなら訊くまでもないでしょ」

「ぬぅ……」

 ミラは何も言い返せず、不貞腐れたように唇を尖らせる。セロは微笑を浮かべながら、そんな二人のあとに続いた。
 宿を飛び出した三人は疾風の如き速さで、キメラクローゼンの本拠地に続く通路の入り口を見つけた国営の施設に向かう。
 今回は、ワーズランベールの力により警備をすり抜ける必要はない。ミラ達は堂々と正門をくぐり施設内に侵入すると、廊下を駆け抜け、カグラが出会った職員達に片っ端から式符を貼り付け催眠状態にして無力化していく。この後、本拠地制圧部隊がここから侵入する事になっているので、その支援も兼ての処置である。
 そうして奥にまで進み、立ち入り禁止区域に踏み込んだミラ達。
 一番奥にある部屋の中。そこに秘密通路へ繋がる扉があった。鍵は旧式の金庫のようなダイヤル式であり、ミラは即座にメモを取り出し番号を確認しながら開錠する。
 迅速に扉を抜けた先は、まるで洪水対策用に掘られたような巨大なトンネルになっていた。しかも光の精霊の力によるものか、光源が見当たらないにも関わらず、遥か遠くまで明るく照らされている。

「これはまた、随分と明るいですね」

 日中のような光に目を細めるセロ。

「光精霊の力を利用しておるのじゃろう。まったく、このような事に使うとは不届きな奴等じゃな」

 ミラはトンネルの先を、実に忌々しそうに睨む。そんなミラをカグラは、『お前が言うな』とばかりの表情で見据えていた。
 本拠地までは直線で約三十キロメートル。多少のカーブはあるもののトンネル内には障害物もなく全体的に見通しも良いため、ミラ達三人は存分にその機動力を発揮していた。
 三人の猛進は、まさに苛烈であった。
 表の施設と違いトンネル内にキメラクローゼンと無関係な者などいないのだから、手荒な事に躊躇する必要がないのだ。
 実際、途中で遭遇したキメラクローゼンの仕事人らしき者は、数秒、いや、数瞬の内に沈黙し簀巻きにされてトンネルの隅に転がっていた。相当な実力者であるはずの仕事人だが、流石に九賢者二人とトップランクのギルドの団長を相手にしては、手も足も出ないどころか、その姿を見る事すら叶わないようである。


 そうこうして更に二人ほど関係者を簀巻きにした三人は、遂にトンネルの終点、キメラクローゼンの本拠地入り口に到着した。
 そこにはトンネルの大きさに対して、随分と小さな扉があった。というより、一般家庭の扉と同じ程度だろうか。
 一瞬間違えたのだろうかと錯覚してしまう光景だが、大人数が通る必要がないからこそこの扉なのだろうと思われる。接点が小さければ、それだけ閉鎖も容易なのだから。
 そしてこの扉だが、捕虜のジャミルが言うには、特殊な認証機能が施されているかもしれないという事だった。
 かもしれない、そう言ったのは扉を抜けたあと直ぐに忘れ物に気付き引き返し、また戻って来た時、『なぜそのような行動をしたのか』と尋ねられたからだそうだ。
 後日、扉を抜ける時に良く意識してみたところ、何か探られるような僅かな嫌悪感を覚えたという事である。何かが仕掛けられている確率は高いといえた。

「さて、向こうはどうなっておるやら……」

「始まってから、もうすぐ一時間か。連絡がないって事は、可もなく不可もなくってところかなぁ」

「まあ、あちらには頼もしい仲間達が集まっています。ゆっくり待つとしましょう」

 無関係の者が扉を開けると、何があるか分からない。そう結論したミラ達は、扉の前で制御基地の制圧が済むまで待機するのだった。


 セントポリーの東。大きな岩山の麓。岩石地帯が広がる只中に身を潜めたエメラ達は、地下に制御基地があるという村を遠くから監視していた。

「何あれ! 何が起こったの!?」

 日が変わって暫くした時の事、その光景を前にしてエメラは目を見張る。突如としてその村を蒼炎が包み込んだからだ。

「行ってみるしかないだろ」

 ゼフが坂を駆け下りていくと同時、他の面々も素早くそのあとに続いて飛び出す。
 距離にして三百メートルほどを一息に駆け抜け、村の手前にある丘の上に身を隠したエメラ達は、その惨状に息を呑んだ。
 村の至るところから立ち上る炎は、静かに、だが激しく燃え盛り、そこにある全てを灰に変えていく。風が吹けば炎は不気味な音を立てて揺らめき、無差別に周囲を焼き尽くした。

「青い炎にクロスボウの矢か……。奴が動き出したようだな」

 アーロンは灰となっていく男の骸を目にして、それが空の民の男の仕業だと確信する。規模は違うものの、その惨状はかの男と初めて遭遇した時と同じだったからだ。

「こんなのが、その精霊信仰の人の仕業なの?」

 キメラクローゼンに対して、一切の容赦がない。アーロンからそう説明を受けていたエメラであったが、その凄惨な光景を前にして、その男は本当に宗教に携わる者なのか、それ以上に人なのかと表情を曇らせる。

「間違いない。この手腕には見覚えがある」

 幾つも転がる骸を見回しながら、アーロンはそう断言してみせた。そして、「こんな事をする動機がある者も、あの男しかいないだろう」と眉を顰めながら付け加える。

「アーロン。もしやこれは、先日聞いた男の仕業か?」

 別の離れた場所で待機していた五十鈴連盟の戦闘集団ベレロフォン隊を含む兵士達。アーロン達より少し遅れその場に駆けつけた代表のミザールは、青く浮かび上がる村を見据えながら、そう口にする。

「ああ、そうだ。まさか日付が変わって直ぐとは思わなかったが、まあ、問題はない」

「そうだな。ウズメ様の指示通り、準備は万端に整っている」

 アーロンが腰に帯びた白い斧を手にして立ち上がると、ミザールもまた白い剣を抜き放ち、二人は仲間達に向かい振り返った。

「作戦開始だ」

 静かにアーロンがそう言うと、エメラ達は小さく頷き村の脇に向かって移動を開始する。
 対して別働隊、第一陣はといえば。

「さあ、決戦の時だ!」

 ミザールが宣言すると同時、数百からなる五十鈴連盟の精鋭部隊は「応」と一斉に鬨の声をあげた。長年に渡るキメラクローゼンとの因縁が、この戦いで決着する。そこにいる誰もが待ち望んだ決戦である。意気込みは、相当なものだと窺えた。


 アーロン達が遠くから見守る中、空に轟いた声は突撃の合図と共に稲妻の如く村を駆け抜け、どこからともなく次々と溢れ出てくるキメラクローゼンの戦闘員を削っていった。
 一見すると村の人口は百人ほどだ。しかし、参謀アリオトが特別な術を用いて調べたところ、地下の制御基地には千近い戦闘員が詰めている事が判明した。
 その結果を踏まえ、作戦は変更となった。どのような仕掛けがあるか分からない基地内で戦うより、出来る限り外におびき出してしまおうと。
 そのため、本来制御基地に突入するはずだった第一陣は、最前線で目立つように暴れているのだ。そして手薄になった制御基地の制圧は、第二陣であるアーロン達に託された。
 村を大きく迂回したアーロンは、ミザール達が敵を引き付けている激戦地の反対側から、大工房に侵入する。
 見たところ百メートル四方はあるだろうか、工房というには相当広いそこには、一部用途不明なものも含め、千には及ぶ無数の実験器具が置かれていた。

「うそ……何これ」

 その中の一つ、人の腕が入れられた瓶を見てエメラは目を見開く。すると同じものを目にしたフリッカが「精霊の腕、のようですね」と、怒気を孕んだ声で言った。

「精霊の? 精霊って術士でなければ見えないんじゃなかたっけ?」

「それは、瓶に浸された液体が原因だって話だ」

 エメラの疑問に答えたのは、アーロンだ。そしてアーロンは、かつて五十鈴連盟の任務中に同じようなものを見た事があると続け、それを調べた研究員が出した結果を話した。

「精霊を強引に可視化する薬か……。なんていうか、身体に悪そうだな」

 それはいわば自然の摂理を捻じ曲げる事であり、ゼフは思わず一歩後ずさる。だがその隣。フリッカがゼフとは逆に踏み出す。そして瓶を手にして、その蓋を開け放った。瞬間、瓶の中の腕は光の粒子に変わり噴き出す。その光はまるで怒り狂ったかのように飛び回り、工房内を手当たり次第に破壊し始めた。

「うお!あっぶねぇ!」

「これどうするの!?」

 縦横無尽に乱れ飛ぶ光の粒子。頬を掠められ慌てるゼフと即座に身を屈めたエメラは、一斉にフリッカを睨む。

「随分と怒り狂ってんな」

「あんな状態にされていたんだ。当然だろう」

 どこか似たところのあるアスバルとアーロンは幾分冷静で、注意深く光を目で追いながら、先へ進む道を探す。
 だがその時、光は突如方向を変えて、瓶を手にしたフリッカに四方八方から殺到した。

「フリッカ!」

 閃光が迸る中、悲鳴にも似たエメラの声が響く。精霊の力というのは本来、人の手に負える代物ではない。そんな力を浴びればただでは済まないだろう。
 しかし、恐る恐る見てみれば、フリッカにこれといった外傷はなく、それどころか神々しいまでの輝きに包まれていたのだ。

「どういうこった?」

 状況に理解が追いつけなかったゼフは、そう思わず間の抜けた声をあげる。奪われ閉じ込められ怒り狂った精霊にフリッカが襲われた。状況は誰の目にもそう見えるものだった。
 しかし今はまったく違った様子である。フリッカと彼女を包み込む光。それはまるで寄り添い合うような、精霊と人の理想的な関係を体現しているかのようであったのだ。
 皆が息を呑み見守る中、不意に光は淡く解けフリッカの左手に集束していった。

「たとえ怒りに支配されていても、私達に親愛の心があれば精霊達は必ず分かってくれます。それが人類と共に世界を歩んできた精霊の本質だから」

 フリッカは赤い紋様が浮かんだ左手を見つめながら、エメラ達に振り返る。

「これが、私の心を精霊が理解してくれた証。ずっと昔から続く関係」

 その手に刻まれた文様は、精霊の加護だ。それは精霊と強い絆で結ばれた証明でもあるが、もう一つ、『想いを託す』時もまた加護となって人に宿る。
 瓶に閉じ込められていた精霊の怒りが、フリッカの心に触れた結果、再び人を信じるに至ったのだろう。

「それと、精霊が制御基地の中枢の場所を教えてくれました。行きましょう」

 フリッカは左手を胸に抱くと、力強くそう口にする。精霊がフリッカに託したもの。それは同じように囚われている仲間達の解放だった。それが精霊を想うフリッカの目的と共鳴したのである。

「分かった。案内を頼む」

 頷き答えたアーロンは、フリッカを守るよう隣に並び立つ。
 事前調査の結果、制御基地自体はそれほどの規模でない事が判明していた。だがその中枢となる場所は不明のままだった。それが今、精霊から齎される。進むべき一つの道を。
 こうして情報を得た一行は決意新たに、制御基地へ乗り込んでいくのだった。


 石の壁に石の床。照明らしきものは見当たらないが、遠くまで見通せるほど明るい通路を、フリッカの案内に従いアーロン達は突き進んでいく。

「流石っていうか何ていうか、通り名持ちってやっぱ違うな」

「うん、出番ないね」

 ゼフは指示通りに動きながらも、相手の武具ごと粉砕するアーロンの一撃に、ただ笑う。エメラはその隣で白い剣を構えたまま、前衛を完全に任せきりでいいのだろうかと、苦笑いを浮かべていた。
 制御基地を守る敵戦力は、表で盛大に暴れるミザール達の活躍によって、その大半が地上に集中している。しかしその分、基地内には厳選された警備兵が完全武装で残っており、アーロン達の行く手を阻んだ。
 複数の精霊武具と黒霧石の武器を使いこなすその者達は、確かに強敵だった。しかしアーロンの見事な戦技と戦略によって、一人また一人と打ち倒されていく。

「ふむ。ドヴァーリン殿の生み出す武器は、やはり素晴らしいな」

 何人目かの警備兵を戦闘不能にしたアーロンは、持ち手以外全てが白い手斧を見つめ、心底満足そうに笑う。
 鍛冶の神とまで称される事のあるドワーフ族の鍛冶師ドヴァーリン。黒霧石対策用として彼の者が形成した『白銀滅鬼』は、通常の武器としての性能も突出したものだった。

「出番が……出番を……!」

 剣に取り憑かれ気味なエメラは、頼もし過ぎるアーロンの背中を見つめ苦悶する。
 そうして十の警備兵を悉く叩き伏せていったアーロン達は、遂に制御基地の中枢へと辿り着く。そこは、ドーム状の広大なフロアだった。

「あれです。あれが制御装置です」

 フリッカがフロアの中央、いかにもここの要であろうというごてごてした装置を指差す。

「よっしゃ! 早く済ませちまおうぜ」

 低い音と高い音を繰り返し、どこか不気味に蠢く制御装置。周囲には何もない。だがこういう場所にこそ何かあると、ゼフは細心の注意を払い歩を進めた。

「これは……結界か」

 アーロンが眉間に皺を寄せ足を止める。
 結局、罠などは無く制御装置の手前までやってこれた。目的は目の前の装置の停止、または破壊だ。しかしここで、最大の関門が一行を阻む。遠目からでは見辛かったが、そこにはマナで構築された壁が聳えていたのだ。

「こいつでどうだ!」

 一歩前に出たアスバルが、気合と共に力強く白い鎚を振り下ろす。どれだけ強力な結界だろうと、それを上回る力を加えれば物理でも砕く事が出来るものだ。

「揺らぎもしないのか」

 しかし、その結界はただ鈍い音を響かせただけで、一切の影響もみせなかった。その事から、薄く透明だが相当な強度であると判断出来る。

「フリッカ。精霊から貰った知識に、こいつの解除法とかはなかったか?」


 渾身の一撃がまったく通用しなかった事に、アスバルは少し落ち込みながら振り返る。

「この結界に関しての知識はありませんでした」

 フリッカは首を横に振りそう答え、制御装置を睨む。届きそうで届かない、歯痒い距離がそこにある。

「ですが、多分ここの管理者の術か何かだと──」

 そう言葉を続けたフリッカは、制御装置の周囲に視線を向けた。見ればそこには、小さく光る欠片と水滴が無数に散らばっていた。

「これは……。退魔術だと思います」

 床に散らばったもの。それを聖水と聖水瓶の欠片だと判断したフリッカは、そう口にするや否やそこに屈み込んだ。

「どうにか出来そう?」

 エメラはフリッカの隣に顔を覗かせると、難しそうな表情で床に散らばる欠片を睨む。

「一つずつ私の魔力で書き換えていけば、解除は可能、ですが……。どれだけ時間がかかるか」

 そう言いながら、フリッカは早速解除を試み始める。

「退魔術の結界って、こんなに頑丈なもんなのかよ」

 強烈なアスバルの一撃でもびくともしなかった結界である。ゼフは呆れ気味にそう言っては、多少でも強度を削れれば御の字だと、鋭く短剣を結界に突き立てる。

「キメラクローゼンであるという事が答えだろう。奴等は独自の技術で精霊の力を術に上乗せするからな」

 ただじっとはしていられないのだろう、アーロンも出来うる限りの攻撃を結界に炸裂させながら応えた。

「精霊の力か……。そりゃあびくともしないはずだな。まったくよう」

 負けじとアスバルもまた鎚を振り下ろし、まるで彼等を煽るかのようにただただ鈍く響くだけの音に眉根を上げる。
 と、その時であった。

「ここまで入り込んでいやがったのか!」

 奥から警備兵が現れた。そしてその警備兵はアーロン達を見るや否や迷う事無く、何かの球体を地面に叩き付ける。
 直後、天井が大きく開いた。そしてそこから、人の形をした何かが無数に降り注ぐ。

「うっそだろ、勘弁してくれよ」

「やれやれ、随分と無理矢理に出番が来たようじゃねぇか」

 硬質な衝突音と共に降り注ぐそれは、精霊武具で武装した戦闘人形だった。げんなりとした表情を浮かべ短剣を構え直すゼフ。アスバルは、近くに落ちてきたそれを鎚で叩き潰し、ため息をもらす。

「望むところ! いくよ皆!」

「その意気だ。冒険者ならば不利な状況に陥った時こそ、奮い立たないとな」

 ようやく試し斬……前衛としての職務を全う出来る。エメラは、そんな意気込みを全身から滲ませた。アーロンはといえば、方向性はどうあれ気力が高まるならそれが一番だと笑いつつ、斧の一閃で降り注ぐ人形を数体まとめて破壊する。

「フリッカは、そのまま解除お願いね。この場所は、ゼフが死守するから!」

 言うが早いか、エメラは勝手に守りをゼフに押し付け、動き出し始めた人形に斬りかかっていった。

「普通さ、『ここは私が死守する』とか言うもんじゃねぇの?」

 ゼフはそう呟きながらエメラに代わり、フリッカの傍に立ち構える。

「気にしたら負けですよ。そういう事でよろしくね、ゼフさん」

「はいはい、通しませんよっと」

 作業を続けたまま、いつも通りといった様子のフリッカ。その後ろでゼフは襲い掛かってきた戦闘人形に白い短剣を突き立てる。するとその刃はいとも簡単に、精霊武具ごと戦闘人形を貫いた。

「うわっ、何この貫通力」

 ゼフはドヴァーリン作の短剣の鋭さに驚くと同時、同じ作者の白い剣を手に意気揚々と戦闘人形を一刀両断していくエメラの後ろ姿を見つめ、半笑いを浮かべるのだった。
自治体による健康診断? とかいうものがありまして。行ってきました。
実家へ!
色々あって健康診断は、向こうで受けました。
結果はどうなる事か……。

ちなみに実家に二泊三日です。
たんまりご飯を食べました!

しかしあれですよね。帰ってくると不思議な感覚がありますよね。
今日の朝起きたのは向こうだけど、今は元の住処にいるという、なんといいますか、なんともいえない感覚。
そして帰りの電車にある、ふとした寂莫感? のようなもの。
今から12時間前には、まだ向こうで眠りこけていたなぁ。なんて考えると、半日前の事なのに懐かしさすら感じるものです。
あと、それはまた、帰ってきた元の住処にも、ありますよね。
たった二泊三日なのに、住み慣れた部屋が懐かしい、なんて。
+注意+
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