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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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117 ミレーヌ

百十七


 メルヴィル商会の管理する倉庫街。その倉庫の一つにあったセンキの埋葬地への入り口。そして埋葬地の中にいたミレーヌという女性。状況から考えて、彼女の事をキメラクローゼンの幹部かと思い攫ってきたミラ達。だが、それは違っていたようだ。
 どうやら、ミレーヌはキメラクローゼンの幹部どころか、構成員ですらないらしい。
 下着姿で両手両足を縛られた状態のミレーヌは、ミラ達の問いに何でも答えた。
 まず、ミレーヌは、錬金術師の見習いだという事だ。
 センキの埋葬地で何をやっていたのかと訊けば、師匠に頼まれて錬金術で必要な素材を回収していたのだという。
 あの黒い骨が何なのか知っているのかという問いには、「古代の遺骨に魔力が宿ったもの、と師匠に教えてもらいました!」と答える。
 ミレーヌが羽織っていたコートはかなり強力な精霊武具だが、どこで手に入れたのだと問えば、師匠からプレゼントしてもらったそうだ。
 コートには、どのような力が秘められているのかと問えば、危険を感じた時に身を護ってくれる効果があるらしい。ただ、そう聞いていただけで今日この時までは一度も危険な目に遭っていなかったため、正確には分からないそうだ。と、そう説明したあとミレーヌは「役立たず」と小さく呟いた。
 話を聞く限り、どうにもその師匠とやらが、今度は怪しくなってきた。なので質問は、ミレーヌの師匠に関するものに移行する。
 その師匠が黒霧石を使って何を作っているのかと訊けば、師匠は砂や様々な金属に黒霧石を混ぜていると答えた。黒霧石はかなり特殊な素材で、錬金術でなければ他の物質と結合させる事が出来ないそうだ。
 完成品は、どの素材を基にしていても黒く染まり、もっとも分かり易い特徴である黒い霧を薄っすら纏うという。強力な武具の素材になると師匠から聞いた、そうミレーヌは言う。
 そして完成したその素材はメルヴィル商会に卸し、代わりに高額な手数料を受け取っているらしい。
 それから更に細かな質問を続ける。
 センキの埋葬地に埋葬されているのは何者か知っているかというサソリの問いには、ずっとずっと昔の古代人だと答え、これもまた師匠に聞いた事であるとミレーヌは付け加える。
 ミレーヌは、鬼という存在を知らない。表情をじっくり観察していたサソリは、そう判断した。更にサソリは幹部ならば知っていそうな内容の質問を幾つかして反応を確かめる。その結果、ミレーヌが幹部である確率は限りなく低い、そうサソリは結論した。
 その合間合間にミラもまた、幾つか質問を飛ばす。好きな食べ物は、とか風呂ではどこから洗うか、好きな人はいるのか、スリーサイズは等々、明らかにセクハラな内容も含まれていたが、その全てにミレーヌは嘘をつく様子もなく真面目に返答していた。


「どうやら、キメラについては何も知らぬようじゃな」

 粗方の質問を終えたあと、ミラは顎に指を当てながら返事の全てを統括してそう言った。サソリもまた「そうみたいだね」と同意して頷く。

「あの、先程から口にされている、キメラとはなんでしょうか?」

 質問攻めも終わり、特にそれ以上に手を出してこないミラ達に少し安心したのか、ミレーヌがそう口にする。今の現状は、そのキメラというものの関係者と間違われた結果である。気になるのも当然だろう。

「キメラクローゼンっていう奴等はね──」

 サソリは怒りを押し込めた冷たい瞳でミレーヌを見据えると、キメラクローゼンの悪行を淡々と語った。


「なんですかそれ……酷すぎる! そんな事のために私は……!」

 キメラクローゼンとは、どういった存在なのか。それを聞き終えたミレーヌは憤慨すると同時、その人道に反した行いに加担していたのだとも知ったためか、愕然とした様子で絶句した。
 だが暫くしてミレーヌは独白するかのように、子供の頃精霊に助けられた事があったと話す。そして、なぜ師匠がそんな優しい精霊を害するものを作っていたのか、そう呟き苦悶する。
 ミラやサソリの目からみても、その様子は真に悔やみ、本当に知らなかったと見えるものであった。そして、ほぼ間違いなくその師匠という人物はキメラクローゼンに助力していると想像出来た。

「お主の師匠とやらが、キメラと関わっている恐れがある。どこにおるのか、教えてはくれぬか」

 屈み込んだミラは、座った姿勢のミレーヌに同じ高さで視線を合わせ、ゆっくりと問いかけた。
 師匠とキメラクローゼンが繋がっている。ミレーヌは、考えたくなかった事をミラに言われ僅かに肩を震わせる。だが少しして、覚悟を決めたようにミラの目を真っ直ぐ見つめ返し、口を開く。

「街の北東の郊外にある大きな屋敷です。すごく大きな庭で沢山の種類の植物を栽培しているので、見ればすぐに分かると思います」

 それから続けてミレーヌは、出来る事なら何でも協力したいと申し出る。そんな彼女に、サソリは知っている限りの情報提供を求めた。そして事が済むまでの間、身柄を拘束させてもらうと話す。
 知らなかったとはいえ、キメラの協力者の身内である事に変わりはなく、更にこれまでの反応全てが演技でないとも言い切れないからだ。どれだけ洞察眼が優れていても、それはあくまで判断する材料の一つであり、余程の事がない限りは全幅の信頼を寄せるわけにはいかない。
 それを分かってか、ミレーヌは反論する事無く了承した。


 地図で念入りに目的地を確認したあと、ミレーヌをヘビに任せたミラとサソリは、ミレーヌの師匠がいるという屋敷に向けて飛び出していく。
 時刻は既に深夜であるが、どこにどのような警備網が張られているか分からない。なのでミラ達は完全隠蔽の力を発動したまま屋根から屋根へと飛び移り、郊外の居住地区に向かう。
 壁や天井を走る事の出来るサソリはいわずもがな、仙術士の技能を活用しているミラの足取りも軽い。だが、そんな二人に飄々と付いていくワーズランベールも相当なもので、上級精霊の実力を遺憾なく発揮していた。
 とうに深夜を過ぎた時刻。繁華街とは打って変わり、郊外は静かな夜の闇に塗れている。そして、街の中心部では見えなかった星々の輝きが目に入った。対して正面に広がる居住区は、僅かな街灯により薄ぼんやりと存在を照らされていた。よくよく見れば、その街灯は繁華街にある精霊の火とは違い、普通の術具によるもののようだ。
 時折、小動物らしき鳴き声が、どこからともなく響いてきては、それに応じるかのようにまた遠くで声があがる。
 人通りはほとんどない。ところどころに赤ら顔でぶつぶつと喚く、千鳥足の酔っ払いがいるだけだ。

「あれじゃな」

 閑散とした居住区の更に先。より一層静まり返ったその場所には明かりもなく、夜に黒く染められた木々と草花が鬱蒼と生い茂っていた。周囲に比べ明らかに異質な一角であるその場所の中心こそが、ミレーヌの師匠が住まう屋敷であった。ミレーヌの言うとおり実に分かりやすかったと、ミラとサソリは大いに納得する。
 それからミラ達は街中に広がる林を囲む石垣に沿って進み、ワーズランベールの能力任せに、堂々と正面の門扉を開けて敷地内に足を踏み入れた。
 門扉からの長いアプローチを進んでいくミラとサソリ。そして数分、やはりというべきか屋敷の周りには警備員が配置されていた。だが、ミラ達はその警戒網にかかる事無く、玄関前に到着する。
 その時、ふと二人は、その場で振り返り悠然と周囲の警備員達を見回した。
 何かがおかしかった。そこにいる者達が皆、侵入者を警戒しているようには見えなかったのだ。

「なんだろう。全員が屋敷の方を見ているよね」

「そうじゃな。これでは庭で栽培しておる錬金術素材が盗み放題じゃろうに」

 サソリとミラは、そう思った事を口にする。見た範囲に警備員らしき姿は五人ほど映った。その誰もが外周には目もくれず、屋敷の方にだけ向いている。
 扉門からここまで、二人は他に気配を一切感知してはいなかった。つまり、屋敷のすぐ傍に警備員が集まっている状況だ。ミラが言ったように、これならば警備員の目に触れず、庭の錬金術素材が盗り放題である。
 しかし、仕事を放棄してさぼっているのとはまた違う様子で、警備員達は確かに何かを見張っていた。

「まあ、ここの主に尋ねてみれば分かるじゃろう」

「それもそうだね。早くいっちゃおう」

 ミラとサソリはそれ以上気にする事もなく、屋敷に向き直る。傍で見上げた屋敷は、庭の広大さに対して思いの外小さかった。とはいえ、一般の民家と比べれば充分過ぎるほどに大きく、素材を栽培するための土地を重視したのだとすれば、ここの主の力量も僅かに垣間見える事だろう。
 ミラは完全隠蔽の効果を存分に利用して玄関の扉を開ける。鍵はかかっていなかった。周りの警備員を見れば必要もなさそうだが。
 こうしてミラ達は難なく内部に侵入して扉を閉めると、悠々とした足取りで目的の人物を探し始める。

「足元すら見えぬのぅ」

 屋敷内に光源はなく、小さなエントランスは真っ暗であった。とはいえ明かりを点けるわけにもいかないだろう。

「私なら夜目が利くから先導するよ。手、握ってて」

 暗闇でもなんのそのといった様子で見回しながら、サソリは手を差し出す。

「おお、そうか。すまんのぅ」

 ミラはその申し出をありがたく受け取り、手を伸ばす。そして触れた何かをぎゅっと握った。

「はぅっ! ミラちゃんミラちゃん! それ尻尾ー!」

 暗くて何も見えない中、サソリは背筋をぴんと伸ばし、悶えるような声でそう叫んだ。その瞬間、ミラは怪しく目を細める。そしてすまんすまんと口にしながら手を離し、再び彷徨わせた。
 サソリはといえば既に落ち着いており、屋敷内の確認に余念がない。罠等が仕掛けられていないかどうかと、再び視線を巡らせる。
 ミラはそんなサソリの手を求めるように、という大義名分の下、その引き締まった身体にまんべんなく触れる。そして徐々に身体を伝っていき、二の腕に狙いをつけた時だ。

「ここだよ、ここ」

 と、見兼ねたサソリに手を掻っ攫われ、ミラの大冒険は幕を閉じた。だが、それなりに満足したようで、ミラの表情は朗らかである。


 罠どころか屋敷の中には使用人の姿もない。ミラが《生体感知》で探ったところ、屋敷の二階に一人の反応があるだけだ。きっとその一人こそが、ミレーヌの言っていた師匠だろう。
 火が消えた、というより元から点いていなかったとも思えるほど静かで暗いエントランス。ミラはサソリに手を引かれながらそこを抜け、そのまま階段を上がっていく。
 左右に伸びる二階の廊下。その壁際には窓が並んでおり、そこから僅かな星明りが差し込んでいた。淡く照らし出された廊下は、薄っすらと輪郭が分かる程度の明かるさだ。その光景はまるで、そこに何かが潜んでいるかのような印象を与え、完全な闇よりも余計不気味に映る。

「ミラちゃん。あれ」

 サソリは、そんな廊下のずっと先を睨みながら繋いだ手にきゅっと力を入れ、無意識に身を寄せた。

「なんじゃ。何か見つけたか?」

 求められるまま逆らわずサソリに寄り添ったミラは、暗闇に慣れてきた目で、じっくりと廊下の先を見据えた。
 明かりは頼りなく鮮明には見通せないが、言われてみれば確かに白くぼんやりとした何かがそこにある。
 あれはなんだろうか。そう気になったミラは、早速とばかりに一歩を踏み出す。と、同時に足が止まる。というよりも止められた。サソリが、ミラを掴んだまま動かないのだ。

「もしや、怖いのか?」

 振り向きミラがそう聞けば、サソリは僅かな間を挟みつつも「そんな事ないよ!」と口にして、尻尾をぴんと逆立てたまま胸を張り歩き出した。ミラを前面に押し出しつつ。
 生体反応があった部屋とは逆の廊下をいくミラとサソリ。静まり返った廊下には、ワーズランベールの力により足音さえも響かない。そこには消え入りそうな星の光だけが、薄霧のように漂っていた。

(こういうところには、高価な壷とかが置いてありそうじゃが。見事に何も無いのぅ)

 金持ちの屋敷に多大な偏見のあるミラは、絨毯や花瓶、壷などという定番の調度品が見当たらないという事の方が気になっていた。いうならば、生活感が見えないのだ。この屋敷に住んでいるのは、本当に人間なのだろうか。そう思ってしまうほどに。
 だがそれは、廊下の突き当たりに到着する事で、若干薄れる。

「……うん、罠はないみたい!」

 態度を一転させミラの背中から前に出たサソリは、高さが二メートルはあるだろうそれを見つめ、自信満々にそう言った。
 そこには、立派な甲冑があった。小さな星の光でも輝くほどに磨き上げられているのだろう、遠くから見れば、誰かが立っているように見えたかもしれない。特に夜目が利けば尚更に。
 心底安堵の表情を浮かべたサソリは、そのまま踵を返しミラの手を引いて再び歩き出す。今度は、目標がいるであろう部屋に向けて。

(甲冑も定番じゃのぅ。実に見事な一品じゃ)

 今一度振り返り突き当りの甲冑を眺めると、ミラはそんな感想を持つ。そして前に向き直った直後、ふと違和感を覚える。
 目の前に続く廊下は、むしろ調度品がないという統一性があった。甲冑を見た時こそは金持ちらしいと感じたミラだったが、改めて見直してみれば、むしろそれだけがあるという方がおかしな事に思えてきたのだ。しかも、片側の廊下の端だけである。
 とはいえ他人の家の事だ。そういう一点主義な性格の持ち主なのかもしれない。
 ミラはサソリに手を引かれたまま、ちらりとだけ背後に目を向ける。するとそこに佇む甲冑が、どういう事か存在を確認する前よりもずっと不気味に見えたのだった。
クーラーのおかげで、夏の暑さに煩わされる事なく書く事が出来る。
熱によるPCの負荷も軽減されるはず。
ありがたやありがたや。

しかし、これだけ大活躍しているという事は、電気代もまた……。
おそろしやおそろしや。

最近、Vitaで出た不思議の幻想郷を始めました。
ドグマのサービス開始まで、ずっと遊んでいられそうな気がします。
+注意+
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