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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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116 尋問開始?

百十六


 予想以上にあっけなく、キメラクローゼンの幹部と思しき女性の捕縛に成功したミラとサソリは、痕跡や諸々を回収してから意気揚々と来た道を戻りセンキの埋葬地をあとにした。
 そして現在は、光精霊の明かりで満ちる長いトンネルを進んでいる。ミラの後ろには再度召喚したワーズランベールがおり、その更に背後にはダークナイトの姿もあった。
 しかもそのダークナイトは、ぐっすりと眠る下着姿の女性を肩に担いでいる。女性とはいえ意識のない者を一人で運ぶのは男でも骨が折れる事だ。このあと警備兵のいる倉庫を通る際、女性に変装したサソリはその姿をしっかりと見せ付けて出ていく必要があるため、その力を借りる事は出来ない。なのでダークナイトの出番であるのだが、鍛え抜かれたその膂力を以ってして女性を軽々と担ぐ姿は、まるで生贄を運ぶ悪魔の化身であった。
 そうして二十分ほどトンネルを進み、更に数百メートルはある階段を上り、何もない倉庫に戻った。サソリが先に顔を出し、そのあとから完全隠蔽で姿を消したミラ達が続く。
 何事もなくこの場から出られれば、作戦の第一段階はクリアである。ミラは、若干緊張した面持ちでサソリの後ろ姿を見つめていた。

「おう、お疲れ。こんな時間まで、あんたも大変だな」

 穴の底から更に階段を上り変装したサソリが顔を見せると、警備兵の一人がそう気軽に声をかける。同時にミラとサソリは、予想とは違う反応に困惑した。目上の者に対する言葉遣いではないと。

「これも仕事ですから」

 キメラクローゼンの幹部とメルヴィル商会の警備兵に、上下関係はないのだろうか。または、重要な場所だけに警備兵といえども上官が配属されているのか。それか、変装もとの女性が幹部の中でも下っ端の方だったのか。そのあたりは考えても分からないが、それでもサソリは即座に状況を整理して無難に返した。

「気をつけて帰りなよ」

 扉脇にいた警備兵は、立ち上がるとそう言って鍵を外し扉を開けた。見事というべきか、サソリの変装は看破されてなさそうだ。

「ええ、ありがとう」

 サソリが立ち止まり、ゆっくりとそう言っている間に、ミラ達は素早く脇を抜けて外に出ていく。サソリはそれを確認してから、扉を抜けた。

「第一関門突破じゃな」

 光精霊の明かりに目が慣れていたからか、一層暗く見える倉庫街を見回しながら、ミラは満足そうに呟く。

「うん。あとは施設のメインゲートを抜ければ完了だね」

 頷き答えたサソリはマスクを整えると、迷いなく入り口の門に向けて踏み出していった。そして巡回兵の前にあえて姿を晒す。しかもその時の距離は、離れすぎず近すぎずで、姿は見えるが挨拶するほどでもないという絶妙な間合いだ。観察する時間が短かったので女性の人間性までは完全に真似する事が出来ない。なので下手に会話してボロが出ないようにである。
 それでいてしっかり帰る途中だと印象付けていた。なるべく人目に触れる事で、姿を消したのは商会には関係のない場所だと思わせるためだ。
 そうして歩いていく事十数分。倉庫街の出入り口に到着したミラ達は、足を止める事無くそのまま魔力感知装置の間を抜ける。
 すると、その時だった。ビー玉程度の大きさの真っ赤に輝く光球が無数に現れ、変装しているサソリを取り囲んだのだ。
 思わず驚き、サソリの足が止まる。そして相も変わらず暇そうにしていた門番の二人がふと振り返った。

「おいおい、あんたなぁ。感知器にかかってるじゃないか」

 光の球に囲まれたサソリの姿を見た門番は、嘆息交じりにそう言いながら表情険しく歩み寄ってきた。どうやら感知装置がサソリに反応したようである。
 門番の一人はサソリの目の前で立ち止まると、不意にその手をサソリの額に伸ばした。
 何をするつもりだろうか。一気に緊張が走る。今はマスクで顔を隠しているが、もし取られてしまえば偽者だとばれてしまうだろう。かといって逃げ出すのも不自然だ。
 サソリは内心で身構え、ミラはいつでも制圧出来るように待機する。
 門番の手がマスクに触れる。と同時に鼻先辺りをぐいっと押し込まれ、サソリは仰け反るように二歩三歩と後ろに下がった。

「感知器の間を通る時は、スイッチを入れておけって言ってるだろ」

 門番は何事もなかったように振り返り、元の立ち位置に戻っていった。

「うん、ありがと」

 どうやら、マスクに魔力感知を無効化する何かがあったようだ。気付けば、ど派手にまとわりついていた赤い光球も消えている。
 ご丁寧にもスイッチを入れてくれた事と、偽者だと気付かなかった事の両方に礼を言って、サソリ達はメインゲートを抜けるのだった。


「これで一先ずは誤魔化せるかな」

 メルヴィル商会とは無関係の路地裏に入り込んだサソリは、人目が無い事を確認してから完全隠蔽の効果範囲に入る。そして黒騎士の肩に担がれた女性の顔を覗き込み、洗いざらい吐かせてやると、獰猛な笑みを浮かべた。

「いつまでかは分からぬがのぅ。取り急ぎ、こ奴をどこに運ぶかじゃが。先程の宿でもよいのか?」

 ミラもまたサソリのように、だがサソリとは違い女性の全身を舐めるように見つめながら表情を緩ませる。下着姿で緊縛された無抵抗の女性。ミラの中で何かが目覚め始めていた。

「うん。高いだけあって警備もしっかりしてるからね。とりあえずは、私達の部屋に監禁しておこうか」

 ミラの怪しい気配に気付く事もなく、サソリはそう口にする。


 時刻が既に零時を越えているにも関わらず街の灯は未だ赤々と輝いており、繁華街の活気はまったく衰えていない。ミラ達は静寂の力をこれでもかと利用して、そんな街を跳び回り、誰にも気づかれないまま宿に戻って来た。
 堂々と玄関口から入り人を避けつつロビーを抜けて階段を上がる。そして最上階の一室前に到着すると、サソリが鍵を開けて扉を開く。
 部屋に入ると、ヘビが帰っていた。ベッドにうつ伏せで寝転んだ彼女は、なにやら書類の整理をしているようだ。完全隠蔽の効果は絶大で、扉が開いた事にも気付いていないようである。
 そんなヘビは、これまでよく見ていたローブ姿と違い、ゆったりとしたタンクトップにショートパンツというかなりラフな格好をしていた。加えて着痩せするタイプだったようで、大きく広がった脇の隙間からは実に柔らかそうな母性の象徴が覗く。だがそれに負けず劣らず、すらりと伸びた白い脚は程よい肉付きで、太ももは無防備に広がっている。
 普段の大人しい雰囲気から一変して随分と守りの緩くなったヘビの姿に、ミラの目は釘付けだった。

「ただいまー!」

 下心満載なミラの視線にも気付いた様子はなく書類整理を続けているヘビに、サソリが元気よく声をかける。だがまだ隠蔽効果の範囲内にいるので、その声は届かない。

「あ、そっか」

 サソリはそう呟くと同時に口元をにやりと歪めた。

「二人とも、ちょっとこっち付いて来て」

 どうやらイタズラを思いついたらしい。怪しいマスクを整えたサソリは、そう言ってミラとワーズランベールの手を引きベッド脇に移動する。そしてヘビの直ぐ隣りにその顔を寄せて、一層笑みを深めた。そして何をする気なのか理解したミラは、堂々とヘビの胸元を覗き込みながら「気付く気配はなさそうじゃな」と、それらしい事を口にする。

「ミラちゃん。隠蔽解除して」

 これでもかと楽しそうに声を弾ませサソリが合図を出すと、それを受けたミラはワーズランベールに指示をして、静寂の力を解いた。

「え?」

 それは余りにも理解不能な状況だったのだろう。寛いでいたとはいえ五十鈴連盟の精鋭であるヘビが、最低限の警戒を怠る事はないはずだ。ゆえに目と鼻の先に来るまで気付かないなどという事は有り得ない。
 だが、それは突然現れた。実際は認識の範囲外から元に戻しただけであるが、急に気配が浮かび、見れば不気味な怪しいマスクがそこにあれば、これに驚かない人間などいないだろう。ヘビもまたその類に漏れず、むしろ感覚が鋭い精鋭である分、サソリの仕掛けたドッキリは効果抜群であった。
 サソリが被ったマスクと向かい合ったヘビは、途端に少女のような悲鳴をあげてベッドから転げ落ちた。同時に、イタズラ成功とサソリがはしゃぐように笑う。
 しかし次の瞬間、部屋中に青白く発光する炎の玉が浮かび上がり、その顔が引き攣った。

(おお!? これは死霊術の《陰火》ではないか?)

 見覚えのある光景を一望したミラは、同時出現した玉の数に感心する。
 死霊術の一つである《陰火》とは、攻防のどちらにも利用出来る応用性の高い術の一つだが、これの真価はまた別にあった。それは、上級死霊術の前準備という点だ。召喚術でいうところの《ロザリオの召喚陣》と同じような性質を持つ術であるのだ。
 瞬間、青白い陰火が赤く輝き始める。準備完了という合図だ。見れば部屋の隅っこで縮こまったヘビが、幾つもの魔法陣を起動していた。
 それを見たサソリは慌ててマスクを外しコートを脱ぎ捨て、謎の振り付けで踊り存在をアピールしながら「私だから! サソリだから!」と必死に繰り返す。
 魔法陣の図形から、かなりの大物が出てきそうだと分かったミラもまた「わしもおるぞ」と名乗りをあげて、サソリと共に踊るのだった。


「ごめんなさい」

「すまんかった」

「申し訳ありません」

 二十畳ほどはあろうワンルームの真ん中で正座したサソリとミラ、ついでにワーズランベールは、そうヘビに謝罪する。踊りの効果だろうか、術は発動直前に中断されたため被害はない。
 だが、普段は無表情なヘビが、今はとてもむくれていた。ついでに頬も赤く染まっている。これは怒っているというより、恥ずかしがっているという面が強いのかもしれない。

「問題ない。それより、状況を説明して」

 とは言うものの特にサソリを見る目付きが鋭いヘビは、ひと睨みしたあとそう言って、三人の後ろに転がされた緊縛女性に目を向けた。ちょっとしたトラブルはあったものの、やはり精鋭、ヘビは明らかに拉致されたのだろう状態の女性に対しては顔色一つ変えずに解説を求めた。

「わしから説明しよう」

 本来この場にいるはずのない自分が適任だろうとミラが説明を買って出る。そして自分がここにいる理由や、静寂の精霊ワーズランベールの力、センキの埋葬地、そこで攫ってきた女性について話して聞かせた。


「状況は、理解した」

 時間が経って落ち着いてきたからだろうか、ヘビは普段と余り変わらない淡々とした表情で頷き答えた。

「それじゃあ、早速聞き出そっか」

 元に戻ったヘビの様子に安堵したサソリは勢いよく立ち上がり、ポーチから得体の知れない白い小さな玉を取り出す。

「じゃじゃーん。これは私の里に伝わる秘伝の気付け薬で──」

「──いいから、早くして」

「はい……」

 サソリがちょっと調子に乗ると、ヘビはその説明は要らないと即刻斬り捨て先を促した。どうにもヘビの機嫌は完全に直ったわけではないようだ。というより実行犯のサソリに対してのみ、まだご立腹のようである。
 肩をしょんぼりさせたサソリは、緊縛した女性の口をそっと開かせて、そこに小さな白玉を放り込んだ。
 それから待つ事暫く、その効果は急に現れる。

「んんんんんんぁーー!」

 緊縛された女性は突如目を見開き、次の瞬間、絶叫した。そしてむせ返りながら悶絶するようにのた打ち回り、言葉にならない叫び声をあげ続ける。それはまるで、劇薬でも盛られたかのような反応であった。

「飲ませたのは本当に気付け薬じゃったのか?」

 その光景を前にミラは数歩距離をとりつつ、サソリに振り向きそう問いかけた。するとサソリは「うん、気付け薬だよ」と、まったく気にした素振りもなく自信満々に答える。

「もうちょっとすれば、話を聞けるようになるから」

 びくびくと痙攣する女性をにこやかに見つめたまま、サソリはそう続けて口にした。見ればヘビも動じた様子はなく、それどころか工具のような、このあと何に使うのか考えたくないと思える代物を黙々と取り出している。
 二人の反応からして、どうやらサソリの里秘伝の気付け薬というのは、この状態が標準なのだろうと分かった。その道に身をおくプロの仕事の真っ黒な闇を垣間見たミラは、そうどうにか理解して呑み込むのだった。


 ようやく薬の効果が切れると、今度は現状に理解が追いついていない女性が呻き始める。センキの埋葬地で採取していたら眠らされ、気付けば劇物の如き薬を飲まされ、落ち着けば誰とも知らない者達が自分を見下ろし、内一人が凶器よりも恐ろしげな器具を手にしている。この状況で落ち着けるとしたら余程肝の据わった大物か、ドが付く被虐癖持ちだろう。
 一先ず話が出来る状態になったところで、ミラは予定通りワーズランベールに指示をして部屋を防音の効果で包み込ませた。

「さて、これでもうどれだけ悲鳴をあげても大丈夫だからね」

 ミラから完了の合図を受けたサソリは、底冷えするような低い声で囁き、女性の猿轡を外した。

「殺さないでーー!」

 直後、その女性は全力で泣き出した。何故、誰、どうしてといった疑問よりもまず、第一声が命乞いである。余程命が惜しいのだろう、恥も外聞もなく怯え震えるその姿は、思わず拍子抜けするほどだった。

「素直に話せば、命だけは助けてあげる」

 短剣を抜き放ったサソリは、その刃の腹を女性の喉元に押し付ける。はたから見れば、明らかにサソリが悪人に映った事だろう。

「言いますー! なんでも言いますー!」

 短剣の切っ先から逃れるように、身体を反らし頭も反らした女性はその直後、涙で頬を濡らすとと共に下着も盛大に濡らしていた。
 その怯えようは尋常ではなく、幹部の威厳が微塵も見られない。そんな不甲斐ない姿を前にして顔を見合わせるサソリとヘビは、これが油断させるための演技なのか、それともこれで素なのかと、首を傾げる。
 ミラはといえば濡れた下着に目が釘付けで、また新たな扉を開きかけていた。
 これから尋問するにしても、流石にこのまま放置しておくわけにはいかないだろうという事で、ミラとサソリは女性を脱衣所へ運ぶ。ヘビは床の処理だ。
 そして脱衣所を過ぎ、そのまま浴室に入った。

「溺死はやだーー! 助けてくださいーー! なんでもしますーー!」

 湯が張られた浴槽を目にした女性は、顔面をぐしゃぐしゃにして泣き喚く。これこそが敵の策略なのだろうか、ここまでくるとむしろ憐れみの感情すら浮かぶほどだ。と、その時、ミラの胸中にある違和感が芽生えた。

「お主は、キメラクローゼンで相違ないな?」

 女性の身体を浴室の床にそっと寝転ばせてから、ミラはその違和感を確認するために改めて女性の目を見つめ、ゆっくりとその言葉を口にした。
 直後、女性は一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、

「ミレーヌですー! 人違いですー!」

 と言って、何度も何度も首を横に振って答えたのだった。
先日購入した窓用クーラー。
ついに起動しました。
クーラーは、人類史上最大の発明だと思いました。
異論は認めます。
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