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賢者の弟子を名乗る賢者 作者:りゅうせんひろつぐ
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114 センキの埋葬地

百十四


 真っ黒な通路を進み続けていると、先の方に揺らぐ僅かな青い灯火が見えた。誰かいるのかと思い無形術の明かりを消したミラは、いざという時に備えながらゆっくりと歩を進める。
 だが近づいてみれば、その灯火はただの照明である事が分かった。光精霊の明かりに比べ圧倒的に光量が乏しいそれは、まるで切れかけの誘導灯のように頼りなく、どこか不気味に映るものだった。加えて等間隔ではなく気まぐれのように燈されており、気味の悪さに拍車をかけている。
 とはいえ、意味のない場所には照明を設置しないだろう。ミラ達は一先ず、その明かりを頼りに進んでいく。
 通路の途中、ところどころにある小部屋を覗いては手掛かりを探すものの、埋葬地というわりに骸や埋葬品の類は見当たらなかった。
 だからだろうか、幸いにも警備兵などが配置されている様子はなく、注意しながら探索する二人は順調に奥へ奥へと向かっていた。

 そうしてセンキの埋葬地に足を踏み入れてから二十分ほど経過した頃だ。ミラとサソリは、より深い地下へと続く階段を見つける。
 長さは百メートル程度だろうか、段差は若干不揃いで、壁にはちらほらと小さな青い火が燈り不気味に揺らめいていた。

「冥府にでも続いていそうじゃのぅ」

「やめてよ、ミラちゃん……」

 見た目の雰囲気をそのままミラが口にすると、サソリは猫耳をぱたりと閉じて不安げな表情を浮かべ、一歩だけミラの傍に寄った。どうやらサソリは、夜の闇は得意だがオカルトの類が苦手という、なんともチグハグな一面があるようだ。
 慎重に階段を下りていくと、二人は上下左右に広がる空間に辿り着いた。

「どうやら、ここからが本番のようじゃな」

 ミラはその広大な空間を前にして、そう呟く。そこはまるで、円形劇場のような構造をしていた。正面には下層部に続く階段があり、左右には空間を巡る回廊が階段状に幾層も重なっている。その回廊には小部屋の入り口が無数に見られ、覗いてみれば、この場こそが埋葬地の本質であると分かった。

「この穴の全てが墓という事か」

 ミラは全体を見回しながら、その途方もない墓所の数にため息を漏らす。いったいどれだけの骸が眠っているのだろうかと。
 周囲に広がる空間は赤々とした光で溢れており、その光源は中心部に聳える塔の中ほどから突き出た柱より齎されていた。

「あそこだけ、特別って感じだね」

 天井にまで届いている塔を見つめ、サソリがそう口にする。そしてサソリの言うとおり、多くの図形や文様がびっしりと刻まれた塔は、この場においても明らかに異質に見えるものだった。

「そうじゃな。手掛かりがないか探ってみるとしよう」

 塔の最下層には、入り口らしき穴が開いている。センキの埋葬地の中心部であろうと思われるそこには、何かしらの重要な手掛かりが眠っている可能性が高いだろう。そう考えた二人は、中央の塔を目指して進んでいった。
 そうして下層の広場に到着し、塔の入り口前まで来た時、ミラは不意に足を止める。

「中に誰かおるようじゃな」

 完全隠蔽が出来ない分、常に《生体感知》で気を張っていたミラ。遮蔽物などの状況によって範囲は変わるものの、ここまでの道中では同行するサソリ以外の反応は感じられなかった。だが今、塔の中にいる何者かの反応を捉える。それはその場から余り動いておらず、塔を幾らか上った位置にあった。

「あ、上の方にいるね」

 耳を澄ませ神経を尖らせていたサソリもまた、その存在を感じたようだ。時間は既に深夜であり、周囲には巡回兵の姿も反応も無い。
 一体誰だろうか。また警備兵が盗掘でもしているのだろうかと、二人は考える。
 だが、誰かがいるという事は、そこに何かがあるという事でもある。

「調べてみる価値は大いにありそうじゃな」

「うん、そうだね」

 重要な手掛かりを見つける事が出来るかもしれない。二人は逸る気持ちを抑え、知覚を総動員しつつ塔の中に踏み込んだ。
 塔の中もまた明るく、螺旋状に上る階段がずっと続いていた。中央部が各階の部屋になっており、階段の途中に入り口があるという構造のようだ。階段が常に弧を描いているので、ばったりと対面してしまう恐れもあるが、二人の感知能力があれば問題はなさそうだ。
 抜き足差し足で二階を通り過ぎ、更に三階も抜けて四階に到達する。
 気配はそこにあった。ミラとサソリは、壁に張り付きそっと部屋の中を覗き込む。そして二人は、怪しげなマスクをした者の姿を目にした。
 四階の部屋には、三つの大きな棺が置かれていた。内二つは蓋が開き、一つは閉まったままである。壁にはその棺が納まっていたのであろう横穴が開いていた。見てみると、どうやら怪しい人物は棺を引きずり出していたようだ。

(ぬ? あれは精霊武具のようじゃな。属性は炎、効果は反射といったところかのぅ。しかも、陰ときたか)

 その者が身に纏うコートを目にしたミラは、直感的にその性能を見抜く。見ただけで精霊武具の特性が分かる。その事にミラは、これもまた精霊王の加護の効果なのだろうと、どこか無意識に実感していた。

「こんな、時間に、取って、こいとか!」

 恨み言めいた掛け声とともに、マスクの人物は棺の蓋を押し開けた。声はか細いソプラノで、その者が女性であると分かる。
 棺を開けたあと、短めな紫髪の女性は、ぶつぶつと愚痴のような言葉を口にしながら、中を漁り始める。
 その様子を暫く見つめていたミラは、そっと身を引いてサソリに『下へ』と合図しその場を離れ、階段を下りていった。
 それから二人は三階にある小部屋に身を潜め、小声で小会議を始める。

「警備兵じゃなさそうだったね」

「うむ。羽織っておったあのコート、かなり強力な陰の精霊武具じゃった。先日やりあった幹部のそれと同じくらいの力はありそうじゃ」

 四階にいた女性は一見しただけでは、それほどの実力者に見えなかった。しかし、その身に纏った装備が只者ではないと告げている。ミラが古代環門で戦った、キメラクローゼンの幹部が身に着けていた鎧と同等にも感じられる精霊力が、女性のコートから発せられていたのだ。

「それだけの装備を持っているなら、最低でも下っ端じゃないって事だよね」

「うむ。しかもここにいる以上、キメラと無関係という事でもなさそうじゃ」

 キメラクローゼンとの関わりが濃厚になったセンキの埋葬地。その中心部で作業をしている怪しいマスクの女性。その身に纏うのは、キメラクローゼンの幹部と同等の陰の精霊武具。これだけの状況証拠が揃えば、一つの可能性が提示される。

「……もしかして幹部? 捕まえるチャンス?」

 そうサソリは、可能性を口にした。そして薄っすらと目を細め、狩人の如く上階の気配に意識を集中させる。女性にその場を動く気配はない。先程蓋を開けた棺をまだ漁っているようだ。

「絶好の機会じゃろうな」

 ミラもまた同じ考えに至っていた。
 前回の任務で果たせなかった、キメラクローゼン幹部の捕縛を成し遂げる好機である。即座にそう判断した二人は、顔を見合わせて薄っすらと笑い合う。そして女性の更なる詳細を調べるべく、慎重に階段を上っていった。


 女性は棺の中から何かを採取しているようだ。ミラとサソリは、またも壁に張り付いたまま片目だけを覗かせて、女性の細部にまで目を走らせた。
 それから少しして顔を引っ込めた二人は、今一度階下の部屋に戻り小会議を再開する。
 今度の話し合いの内容は、どうやって攻めるかである。だが二人は、そこでどうしたものかと唸っていた。女性の事を隈なく観察したものの武器などは所持してなく、彼女のクラスを特定出来るものが一切見当たらなかったからだ。
 元プレイヤーが使える《調べる》という手段も、顔を確認出来なければ使えず、マスクを被っている女性に対しては無力である。
 相手のクラスによって戦法を変え、有利に立ち回るのは当然であり常套手段だ。対人戦は、そういった機転と応用を利かせ攻防を繰り広げるものであり、ミラとサソリも当然そう把握している。
 だが今回、女性が羽織っているコートが厚くて、その下にどのような装備があるのか確認出来ず、見た目では戦士と術士のどちらかすら判別不能であった。

「奴等の装備は侮れぬからのぅ。精霊剣でも隠し持っておったら、この閉所じゃ。被害は甚大じゃろうな」

 ミラはそう言って、幹部が持っていた炎の精霊剣を思い出す。あれと同程度の威力をこの場で放たれれば、逃げ場がない分、非常に厄介であると。
 精霊武具は精霊の力によって性能ががらりと変わる。武器だけでなく、防具にも注意は必要なのだ。特に炎の精霊力が宿ったコートは、生半可な攻撃では傷付けられず手痛い反撃を受ける事になるだろう。ミラは見て得た情報を加えてサソリに説明した。
 相手がどのような得物を使うか分からなくても、ミラとしては問題なく捻じ伏せる自信があった。だが騒ぎとなれば後々、警戒度が増して探りにくくなるだろう。
 幹部を捕らえる事で、確実に有益な情報が得られるとは限らない。今は第二第三の手段が取れるように、慎重な行動が求められる場面でもあるのだ。
 最大火力をもって一撃で決める必要があった。暫しの沈黙が流れる中、そんな方法をミラが考えていた時だ。

「精霊武具でどれだけ変わるか分からないけど。彼女自身は、余り強くないと思う」

 思うと語尾を曖昧にしながらも、サソリは確信めいた表情でそう言った。

「ほう、そうなのか?」

「うん、姿勢とか足運びとか、動きを色々見てたんだけど、身体を鍛えているようには見えなかったの」

 ミラが訊くと、サソリはそう思った根拠を口にする。これまでの経験や隠密の知識などを総合して判断した結果だそうだ。

「なるほどのぅ。ならば付け入る隙はありそうじゃな」

 そういった観察眼という点において、精鋭であるサソリの能力はミラも認めるものであった。納得したミラは指先を顎に添えて戦法を練り始める。そんな時、サソリは小さな球を懐から取り出して、

「私とミラちゃんの瞬発力なら、きっと精霊武具を使われる前に取り押さえる事が出来ると思う。だからその前に、一つ試してみてもいいかな?」

 と言い、口端を吊り上げ怪しい笑みを浮かべた。

「ぬ、それはなんじゃ?」

 ミラは指先で抓める程度の黒い球を見つめ、訝しむように眉根を寄せる。それは、一見すると鹿の糞のようであった。だが顔を近づけてみると、僅に甘い香りを漂わせており、ミラは更に首を傾げる。

「この国、商会長が頭っていうだけあって、ほんとに色んなものが売っててね。で、これは街の店で見つけた珍しい素材を混ぜて作った眠り薬。火をつけると薄い煙が出て、それを吸い込むと、グランドベアーでも丸一日は眠り続ける、はずだよ」

 またも語尾を曖昧にしたサソリだったが、今回はいつものミラのように堂々と胸を張っていた。余程自信があるのだろう。

「はずじゃと? 試した事はないのか?」

「素材が珍しすぎて今まで手に入らなかったから作るのは初めてなの。でも、間違えず文献どおりに調合したから効果はあると思うよ!」

 製法は知っているが実際に作るのは初めてらしい。何か胡散臭いとミラが疑いの眼差しを向けると、サソリは若干頬を引き攣らせたものの、その自信が揺らいだ様子はなかった。
 聞いた限りサソリの自信の源は、どうやら文献の方にあるようだ。そこに記載されている調合薬はどれも効果絶大だそうで、今回の眠り薬も歴史が効果を実証しているものなので完璧だという。

「まあ、だめならだめで、予定通りに抑え込めばよいだけじゃな」

 薬の効果があれば目的が容易になり、効かなくても特に不都合はないだろう。そう結論したミラは、サソリが習得している隠密らしい技能の知識に少し興味も覗かせながら了承した。
 精霊武具には、状態異常に対する耐性を高めるものも存在するが、幸いにも女性の精霊武具にその性能は無い。そう直感していたミラは、眠り薬が効く可能性は大いにあるだろうと考える。たとえ効果がなくても、魔力にものを言わせ魔眼で無理矢理麻痺させてしまえばいいと、次の手も想定済みだ。

「しかし思ったのじゃが、事が上手くいったとして、そのまま連れ出して大丈夫じゃろうか。あの者がここにいる事は入り口にいた警備兵が把握しているはずじゃろう。それがずっと出てこないとなれば、騒ぎになりそうじゃ」

 幹部が入ったまま出てこない。出入り口には警備兵が四人いた。間違いなくその四人は、ミラ達が狙う女性が遺跡に入るところを見ているだろう。当然、長い時間出てこなければ、探しに来るはずである。
 もしこの場に戦闘の痕跡があれば、幹部が拉致されたと感づかれ警戒は更に厳重になると思われた。今はまだ、メルヴィル商会を調べている最中だ。騒ぎになると探りにくくなってしまう。
 とはいえ戦闘の痕跡という点については、ミラ達ならば抵抗する間もなく終わらせられるため問題はないだろう。

「確かに。じゃあ、外に出るのを待つ? 一度外に出てから行方不明なら、数日は稼げるんじゃないかな」

「そうじゃのぅ。出てからも一人のままなら捕獲する機会はあるかもしれぬ。しかし、難易度も増すじゃろうがな」

 この場でいなくなったとなれば、警備兵がすぐに気づき明日にも騒ぎとなる。だが外に出たあと、つまりメルヴィル商会の施設外ならば、いなくなった事をすぐには把握出来ず、なおかつメルヴィル商会との関連性もぼやかす事が出来るはずだ。
 だが、やる事は誘拐である。誰にも見つからずに行う必要があった。そのため誰の目がどこにあるか分からない外よりも、逃げ場を塞ぎやすく閉鎖されており、なおかつ相手が一人でいるという今は、この上ない好機なのだ。
 そして相手は、重要な情報を抱えているであろう幹部と思しき者である。五十鈴連盟にしてみれば、絶対に逃せない情報源だ。実行しないという選択肢は存在しない。

「私にちょっと考えがあるんだけど、いいかな」

 幾らか話し合ったあと、暫く考え込んでいたサソリは、そう言って一つの案を提示したのだった。
台風が過ぎれば、いよいよ暑くなってくるんでしょうねぇ。
夏ですし。
そして夏と言えば、オカルトの季節。
怖いけどつい見ちゃう。
あれってどういう心理状況なんですかね……。
+注意+
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