「でも離れてるとなかなか会えなくてさー」
「あーそっか、うちなんかクラスまで同じだからねぇ」
仲良しの友達と学校帰りに近くのファミレスに寄ってお得意のパフェを食べる。
ゆっくりとチョコアイスを口に運びながらなっちゃんは彼氏に会えないことの文句を言う。
逆に同じクラスで席も前後な彼氏がいる由宇は美味しそうにカットされているバナナを食べる。
そんな2人の会話を聞きながら自分もティラミスを一口サイズにスプーンできって、もぐもぐと食べる。
すると視線を感じた。
「葉月はどうなのよー?」
「どうって・・・葉月は彼氏も好きな人もいないもん」
「好きな人つくらないの?」
「うーん、なかなかできないんだよねぇ」
どうしてかな、好きって思える人が近くにいないんだ。
一緒にいて楽しいとかはあるけど、ドキドキするとまではいかないんだ。
「葉月ならその甘ーい口調で簡単に男落とせるよ(笑)」
「もー、なっちゃん!」
もちろん今までで恋したことはあるし、彼氏もいたことある。
けどどれも簡単に終わってしまうんだ。
友達止まりだったり、両思いだけど気持ちを伝えなかったりとか。
現在高校2年生で、もうすぐ3年生になる。
もうすぐって、本当にもうすぐなんだよね。
合計あと4日間くらい学校行ったらもう春休みに入って、それが終わったら新学期だ。
新しいクラスももう決まってて、メンバーもわかっちゃってる。
新鮮さがないってこういうことを言うのかなぁ。
彼氏をつくるなら同じ学校がいいんだ。
なっちゃんみたいに遠恋はしたくないし、同じ市内だったら別にいいんだけど、でも葉月基本的にメールや電話はめんどくさくて嫌いだからそんなに彼氏ともしたくないし、学校で会話できれば十分って感じだから、やっぱ同じ学校じゃなきゃ嫌なんだな。
こんな高望み言ってるから彼氏できないのかなぁ。
この調子じゃきっと大学とかに行ってもできないんだろうなぁ。
************************************
今日は終業式。
これが終わったら明日から春休みに入る。
終業式が終わると、みんなぞろぞろと教室へ戻っていく。
なかなか担任が教室に帰ってこないから、みんなトランプをやったりウノをやったり宿題をやったりしている。
「今日で終わりだねぇ」
「なぁ。やぁっと学校終わるわ」
「うれしい?」
「あったりまえじゃん!だって明日から春休みだぜぇ?」
「葉月はうれしくなぁい」
席が前の貴は小・中からずっと一緒のいわゆる幼馴染系統?
3学期はずっと席が前後で、しょっちゅう話をした。
色が白くて年下から人気がある貴は、もちろん彼女も年下が多い。
今は珍しくフリーみたいだけど。
「貴が彼女いない時期があるって珍しいよね。なんで?」
「なんでだろー。なんか今いらないって感じ」
「とかなんとか言ってほんとはいるんでしょぉ?」
「いないって」
「だって貴いっぱい二股してるじゃん」
そう、こいつは天性の二股王なんです。
本命の彼女がいるくせに他の女の子に手を出したり、好きじゃないのに付き合ってて本当に好きな子と浮気してたり。
もうとにかくそういうことが多くて、まったくあきれたもんだよ。
でもこれは葉月と貴の秘密です。(笑)
「お前だってしたことあるだろー?二股の1つや2つ」
「あるわけないでしょっ」
貴の頭をパコッとたたく。
貴は笑いながら、いてぇよ、と言った。
たぶん貴は男友達の中でも一番の仲良し。
でもそんな貴でもドキドキしたりはしないんだ。
一緒にいれば恋心が芽生えるってわけじゃないんだよね。
「あ、そだ。葉月3年も俺と同じクラスだろ?」
「うん」
「じゃあおもしろい奴紹介してやるよ」
「え?」
なんの話?って聞こうとしたけど、ちょうど担任が教室に入ってきてHRをはじめたので聞けなかった。
終わってすぐに部活へ行かなきゃいけなかったから、結局なんだったのか分からずずまいのまま春休みに突入した。
春休みはもう本当に部活、部活、部活の部活三昧。
インターハイが近くなるって理由でどこの運動部もみんな気合が入る。
葉月はバドミントン部で、去年は個人性で県のベスト16に入ったから今年はもっとレベルをあげてベスト4を目指すんだ。
だからこの春休み中に猛練習する。
もう4月にはいって、始業式まであとちょっとになった頃だった。
葉月はいつものように練習をしに体育館へ向かう。
すると私服の人を見つけた。
よくみると、それは貴だったから遠くから声をかけた。
「おーい、貴ー!!」
すると貴はこっちを振り向いて、しばらくじっと見てからまた違う方向へ顔を動かす。
「え?シカト?」
貴が葉月をシカトなんてするわけないのにどうしたんだろう、と思いながらも遅刻をしてしまうので急いで体育館へ向かった。
でもなんで私服きてたんだろう。
まぁいっか。
時間は簡単にすぎていって、ついに始業式の日がきた。
事前に知ってた新しい教室に向かって、座席表を見て席を確認して自分のところへ座った。
葉月の席は真ん中あたりの列で、後ろから3番目の席。
荷物をおろすと、貴が入ってきた。
「あ、貴。おはよ」
「おう。久しぶり」
ほら、やっぱり。
貴だったら葉月をシカトするわけない。
やっぱりあのときの人は見間違いなんだよね。
「貴そこの席なんだ」
葉月のななめ左後ろの席に貴が座る。
他のみんなもぞくぞくと教室に入ってきて、自分の席に座る。
葉月が来てから15分後には、もう教室にみんな入っていた。
「あれ、葉月の隣の席いない」
小声でポツリを言った。
遅刻してるのかな、と思っていると担任が入ってきた。
去年と同じ担任だったから、もう慣れっこ。
いつものようにHRを進めて、先生の長い話をする。
けれど今日はところ変わって先生は突然言い出した。
「今日は転入生を紹介する。入ってこい」
転入生か。
じゃあもしかして葉月の隣の席なのかな?
そこしか席あいてないもんね。
どんな人なのかとワクワクしてドアが開くのを待つ。
ガラッと音をたてて、1人の男の子が入ってきた。
「あー!!」
おもわず叫んでしまった。
けど、叫んだのは葉月だけではなかった。
「えー東雲くんと同じ顔じゃん!」
「兄弟っ?!」
「じゃあ双子ってことかよー?!」
みんなワイワイガヤガヤと騒ぎ出す。
貴のほうを見ると、にっと笑った。
先生がパンパンと手をたたくと、みんな静かになる。
「えー、東雲慧は東雲貴の同じ年の弟だそうだ。東雲兄は4月生まれで、東雲弟は3月生まれだから同じ年だけど双子ではない兄弟ということだ」
担任の淡々とした説明に、みんな唖然としながら聞く。
同じ年の兄弟・・・・って、ありえるんだ。
じゃあやっぱ葉月がみたのは見間違いなんかじゃなくて、この人だったんだ。
「じゃあ東雲は席につきなさい。あそこのあいてる席だ」
「うぃーっす」
貴の弟がこっちに向かって歩いてくる。
そして、荷物を机の上に置いて席についた。
じっと見ていると、弟もこっちの視線に気づいて目をあわせた。
「あ、葉月ね、賀川葉月って言うの。貴の弟なんだってねーよろしく!」
にこっと微笑むと、彼は一言こう言った。
「俺、あんた嫌い」
一瞬時が止まった。
突然のことすぎて、言い返すこともできなかった。
「なっ・・・・」
「その甘ったるい口調、俺一番嫌いなんだよね」
そして東雲弟は前を向いた。
開いた口がふさがらないでいると、HRがいつの間にか終わってみんな始業式のために体育館へと移動し始めた。
なっちゃんと由宇と一緒に移動する。
約30分間の始業式を終え、みんな教室へと戻る。
そして恒例のごとく帰りのHRまでのあいてる時間、みんないろんなことをし始める。
やっぱり葉月は貴と話をするんだ。
「でね、そしたらそのときにねー」
けど、貴と話をするってことはどうしてもそっち側を向かなくちゃいけないわけで・・・
「こっち見んなよ、アホ女」
「なにー!」
やっぱりバカ弟が葉月に文句を言ってくるわけだ。
葉月だって向きたくてそっち側を向いてるわけじゃないんだよ。
ただ貴と話すために仕方なくなのに。
「ちょっと貴、もしかして紹介したい人って・・・」
「うん、こいつ。おもしろいだろ」
「は?!なんだよ兄貴、余計なことをっ」
お互い顔を見合わせた。
するとバカ弟は深くため息をついて言った。
「兄貴ぃ、前に言ったろ!だってこいつ名前っ・・・」
「こいつってなによぉ!失礼なっ」
「まぁ落ち着けって」
貴のバカ!
心の中でそう呟いた。
「ふーんだ、あんたなんか慧って呼び捨てにしてやるんだからっ」
「は?!慣れなれしーんだよっ、このアホ女!」
「いいじゃん別に!貴だって呼び捨てだもんっ」
「だったら兄貴のことを貴様って呼んで、俺のことも慧様って呼べよ!」
「バッカじゃないの!だったら葉月のこともそう呼んでよ!」
クラス中のみんなが葉月たちの大声に振り向く。
なっちゃんたちでさえ、こっちを見ている。
やばい、と思っているのをよそにこのバカ男は他のクラスから見世物見学にきた人たちに愛想よく手を振っている。
「やっほー弟くん」
「あれが同じ年の兄弟かぁ」
「すっげー、そういうのってあるんだな」
気がつけば本当にたくさんの人が見にきていた。
慧はにっこりと微笑んでみんなの呼びかけに応じている。
・・・どうしてこうも性格が変わるんだ。
いや、葉月にだけか?
葉月にだけ態度が悪いっていうのか。
「二重人格」
「は?」
「葉月だってあんたみたいな人嫌い!」
そして、ぷいっとそっぽを向いた。
しばらく違うことをしていると、ようやく担任が帰ってきて話が終わって帰ることができた。
貴は慧と一緒に帰っていく。
慧がいないときに貴に聞いたことには、貴たちの親が元の鞘に戻ったらしい。
もともと貴には母親しかいなくて、葉月も事情までは聞いてなかった。
小さい頃に別居して、父親は遠くの方に行ったらしくて、慧はその父親の方へ付いてったみたい。
で、最近また一緒に生活するようになったんだって。
だから慧もこっちに帰ってきて、この学校に通うようになったんだ。
道理で葉月が慧のことを知らないわけだよ。
だって貴とは小学校から一緒なのに慧のことを知らないってのは変な話だもんね。
でもこれでつじつまがあった。
同じ顔で、同じ髪型。
でも葉月には分かる。
あそこまで性格がひねくれてたら間違えようもないもん。
髪型は葉月の好きなさわやかスポーツマン系なのに、中身があれじゃあ全然だめだよ。
葉月の喋り方が嫌いって言われても、もうずっとこの喋り方なんだからいきなりには直せないし・・・・
でもかといって無視するっていっても、隣の席だし貴の弟だし。
あー、きっとケンカせずにはいられない仲になっちゃうんだろうな、葉月と慧は。
「そーいえば葉月って東雲と仲いいよね」
学校の帰り道、なっちゃんが言った。
「うん、小学校から一緒だからね」
「付き合うとかはないの?」
すると、今度は由宇が笑いながら答えた。
「それはないっしょー、だってあいつ年下好きだもん」
「そうそう。付き合う子はいつも年下なの。だから葉月ともなんともなーし」
由宇の家の近くまできて、由宇は違う道へと入っていく。
葉月となっちゃんはまだまだ先だから、ばいばいと言って再び歩き出す。
今日は割りと日差しが強くて、太陽を見ながら暑いと言うと、なっちゃんは言った。
「今日きた人なんだっけ、東雲慧?」
「そう、慧。びっくりだよね、葉月も知らなかった」
「まじそっくりだよね。見分けつかないわー」
そうかな?って思ったけど、口には出さなかった。
そりゃ貴とずっと一緒なわけだし葉月が見分けつかなかったら変でしょ。
歩くこと15分、ようやく葉月の家に着く。
なっちゃんちはここからまた15分歩いた先にある。
また明日ね、と言って家へ入る。
自分の部屋へ行き、制服を脱いでそこらへんにあるジャージに着替えてベッドの上に寝っころがった。
枕に顔をうずくめて、しばらくそのままでいた。
考えることは、やっぱり今日のこと。
明日からどうなるんだろう、とワクワクしているのが自分でもわかった。
新学期が始まってから、もう2週間は経つ。
いつものように授業を受けて、友達とワイワイやって、部活をやる。
そんな去年と同じ生活に、違った歯車が動き出す。
そう、それはやっぱり慧だった──────。
「慧っ、それ葉月のでしょ!せっかくおやつに持ってきたのにぃ」
「いーじゃん別に。はい兄貴、半分」
「慧〜。ったく、その半分は葉月にやれよ」
「なんでぇ」
葉月のチョコレートをきれいに2つに割って、慧は貴に渡そうとする。
貴はやっぱり優しい。(女の子にだけ)
二股ばっかしてるってのはアレだけど、その元は優しいところが女の子たちにモテるんだろな。
けど、一番気に食わないのは慧だよ。
なんであんな奴がモテるわけ?
「慧ー呼び出しだぞぉ」
「おー今行く」
明るい気質が同年代の女の子たちに人気らしい。
確かに他の女の子たちの前では明るくて面白い役柄だ。
そう、他の女の子たちの前では。
葉月の前では・・・・・
「おい葉月、なにガンくれてんだ。てめぇ」
「・・・やっぱ二重人格だ」
「あ?」
こんな感じなんです。
なんで葉月にだけ冷たいんだろう。
ま、別にいいけどね。
あいつが葉月のこと嫌いだっていうように葉月だってあんな奴好きじゃないもん。
**************************************
「え、休み?」
「うん。珍しく風邪ひいてさ」
5月に入った今日、慧は学校を休んだ。
葉月の隣の席はあいてて、だれも座らない。
慧がいなくて平和になってうれしいはずなのに、どうしてか少しだけ寂しい感じがする。
いつも通り休み時間に貴と話しているけど、どこか物足りない感じ。
去年はずっとこれが当たり前だったのに、なんでだろう。
視線を外にうつして、空をぼーっと眺めた。
今頃慧はなにやってるんだろう。
「心配?」
「えっ」
貴の問いかけに思わず体が反応する。
貴の顔を見た。
「ケンカ友達がいなくてつまんないんだろ」
「そんなことないもん」
「そう意地張るなって」
クックと貴が笑う。
図星を指されて、思わず顔が赤面する。
確かに慧がいなくてつまらない。
けど、ただそれだけ。
「今日見舞い行ってやってよ。俺ちょっと今日夜遅くまで家に帰れないんだ」
「えっ、やだよ!だって葉月が行ってもどうせ・・・」
「まぁそう言わずに。な?」
「うー・・・・」
貴に押され負けて、帰りに行くはめになってしまった。
授業を全部終えて、荷物の整理をする。
そこになっちゃんと由宇がやってきた。
「あーごめん。葉月慧のお見舞い行かなきゃなんないの」
「え、そういう関係?」
「違うのー!貴に頼まれたから仕方なくなのっ」
「はいはい。オッケー、じゃあ先に帰ってるね」
今日は部活がないから、まだ4時くらいだ。
なっちゃんたちは先に帰る。
葉月もしたくを終えて、学校を出た。
もちろん貴の家は知ってるから、迷わずに行けることには行けるんだけど・・・
なんとなくドキドキする。
別に1回や2回ってわけじゃないのに、なぜかちょっとだけ緊張する。
貴の家の前まできて、インターホンを押す。
そうすると貴のお母さんが出てきた。
「あら葉月ちゃん。貴なら・・・」
「あ、いえ。慧のお見舞いです」
「あらそう。今起きてるかしら?でもそんなに高い熱じゃないし大丈夫ね。部屋は貴の隣よ」
「はーい、じゃあおじゃまします」
くつを脱いで、家に入る。
見慣れた家、歩きなれた階段。
なのに、一歩一歩が新鮮に感じる。
2階にあがって、貴の隣の部屋をノックする。
返事がないから、不謹慎だけど勝手に入った。
ベッドの中に慧がいる。
「慧」
そう呼びかけると、ベッドの布団がもぞっと動く。
「ん・・・母さん?」
顔がまだ赤い慧が、ベッドから見えた。
近くによって、顔を近づける。
「慧大丈夫?顔赤いよ」
葉月の右手を慧のおでこにあてる。
お母さんの声と違って驚いたのか、慧はがばっと布団から起き上がった。
「は、葉月っ?!」
「あっ、まだ寝てた方がいいよ。熱あがっちゃうよ」
そう言うと、慧はふーっとため息をついて、自分の手をおでこにあてる。
「・・・お前なー、男の部屋に勝手に入ってくるか?普通」
「でも貴が行けって言うし、おばさんもいいって言ったもん」
慧んちに来る途中で八百屋に寄って買ったフルーツを机の上に置く。
そして、ベッドのそばに座った。
「明日は来れそう?貴もねー慧がいなくって寂しいって(笑)」
「へぇ」
慧に熱があるせいかな。
今日はまるっきしと言っていいほどケンカの言葉が出てこない。
もちろん葉月からケンカをしかけたことはないし、いつも慧から。
でもやっぱり慧が元気ないと変。
「慧うちの学校来てからすごいいっぱい告白されてるでしょー。葉月が知ってる限りだと3人?」
「あーまぁな」
「でも彼女つくらないんだ?」
「・・・好みのタイプの奴がいねぇから」
「じゃあ好みのタイプって?」
聞かなければよかった。
このとき、どうしてこの話題に入ってしまったんだろう。
あとになってそう後悔した。
「お前と逆のタイプ」
葉月から目線をそらして髪をくしゃって手で押さえながら、慧はそう言った。
「な・・・に?じゃあ葉月は嫌いな人ってこと?」
「最初にそう言ったろ」
自分でもわからない。
けど、そう言われて黙ってはいられなかった。
ムカついたんじゃない、ただただ単純にショックだっただけ・・・
「じゃあ・・・なんで葉月と仲良くするの」
泣きそうになるのをぐっとこらえて、震える声で言う。
そんな葉月に気づかず、慧は次のように言う。
「兄貴の友達だから」
もう上を向いていられなかった。
慧の顔を見たら、その顔を殴りたくなるような、泣いてしまいそうになるような、そんな感情に犯されそうになるから。
「お前よく兄貴と一緒にいるじゃん。そーすっと嫌でも俺の視界に入るんだよな」
別に葉月のことを好きなタイプって言ってほしかったわけじゃない。
嫌いなタイプだとしても別にいい。
ただ、葉月と友達でいるのは、葉月と一緒にいるのが楽しいからだって言ってもらいたかった。
ケンカするのも本音をいいあえるのも、それは葉月だからだよって、ただそれだけでよかった。
なのに・・・貴のついでみたいに言われたら、葉月はもうどうしたらいいの。
「・・・1ヶ月間、ずっとそう思ってたの?」
「え?」
「葉月のこと本当は嫌いで、仕方なく一緒にいるんだって・・・・本当にずっとそう思ってたの?!」
違うって言って。
首を横に振って。
そう願ってるのとは裏腹に、慧は布団にもぐりこんでそっぽを向きながらめんどうくさそうに言い放った。
「だからそう言ってるだろ」
目頭が熱くなる。
溢れでる涙を手で抑えて、声がもれないように必死にこらえて部屋から出た。
階段をおりて玄関に向かう途中、おばさんがいたから軽く会釈をしてあいさつをする。
そして、のろのろとゆっくり重たいドアを開けて、外へ出た。
なにも考えたくなくて、ひたすら家まで走って帰った。
自分の部屋にこもって、嫌ってほど泣いた。
今までケンカをしてきたのは、本当に葉月のことが嫌いだからであってじゃれあってたわけじゃない。
隣の席で貴の友達だから、仕方なく話をしていただけ。
そう言われたことが悲しくて、辛くて切なかった。
貴にも感じたことのない、この感情。
いつの間に慧の存在が葉月の中でこんなに大きくなってたの──────・・・
────翌日
教室へ行くと、もう貴と慧は来ていた。
昨日の今日で気まずいから目をあわせずに席につく。
「よーす、葉月」
「おはよー貴」
貴にだけあいさつをする。
そして、由宇たちの方へ駆け寄った。
「あ?なんだ葉月、珍しいな。なぁ慧」
「あー・・・そだな」
「なんだよ、お前まで。もしや昨日なんかあった?」
「・・・」
明らかに2人して変な雰囲気。
なにかあったとしたら昨日の見舞いんときしかない。
「・・・襲ったのか?」
「アホか!」
「だってさー」
すると慧は髪をくしゃっと手でつかみながら、少し困ったような顔をして言った。
「そんなんじゃねぇよ・・・」
そのとき俺は察した。
そして、真剣な顔つきで慧に尋ねる。
「あのさ、お前・・・・」
***********************************
「ふー」
活気のない昼休み。
いつもなら慧と貴と一緒にワイワイやってる時間。
けど今日は一緒にいられるわけもないし、なっちゃんたちのところにいってもなんで慧たちと一緒にいないのかって追求されるのがオチ。
下手な言い訳もできないし、本当のことを話すものいやだから図書室で時間をつぶす。
さいわい漫画が置いてあるから、それを手に取る。
5分くらい経っただろうか、葉月の前に貴が現れた。
「ここにいたのか」
貴は葉月の前の席に座る。
そして、こう口を開いた。
「慧・・・のことなんだけど」
耳がピクッと反応する。
聞きたくない、けど聞きたい。
複雑な思いが心をかけめぐる。
「慧は葉月が嫌いだから、葉月もう近くに行かない」
出会ったばかりの頃、慧は葉月の喋り方が嫌だと言った。
なら、葉月の喋り方を変えれば嫌われずにすむだろうかとか思ったけど、でも葉月がそこまでして慧に気に入られる必要はない。
嫌いっていうなら勝手に嫌いになっていればいい。
だけど、そんなの寂しすぎる・・・・
「違うんだ。違うんだよ、慧は・・・」
「え?」
「慧は・・・葉月が、葉月の言葉遣いが・・・」
意味ありげな貴の言葉。
みけんにしわを寄せて貴は続ける。
「葉月の言葉遣いが、あまりにも元カノに似てるから」
元・・・カノ?
慧の。
「あいつ高1のときに彼女いたんだ。中学校2年からずっと付き合ってた人で・・・将来結婚しようって誓ったらしい。もちろん本気だ」
そして、貴は語り始めた。
慧と元カノの関係、そして慧が葉月を嫌う理由を。
『真奈美ね、絶対絶対ずっと慧のこと好きでいるから』
『俺もだよ』
『ずーっとだよ?』
『もちろん』
慧と父さんが俺んちに再び住むことになったとき、慧はぬけがら状態だった。
春休みにこっちに来たけど、外に出ようともせずに部屋の中にこもりっぱなしだった。
あるとき理由を聞いたら、慧は俺に全てを話した。
ずっと付き合ってる彼女は、自分のことを名前で呼び、甘い感じの口調がポイントだったと。
自分は決してその口調で惹かれたわけではないけれど、彼女はその口調でとてもモテていたと。
けれど彼女には自分だけだと信じていた。
なのに高1の3学期の中旬頃、彼女は慧にこう言った。
『真奈美たち別れようよ』
『え、なんで・・・』
『真奈美成績が格段に落ちちゃって、親に別れろって言われたの。彼氏がいたんじゃ勉強もはかどらないって』
『そんなの俺が教えてやるよ』
『もう決めたの』
『真奈美っ』
本当に一方的だった。
勝手に別れを言い出されて、おかしな理由でこじつけられて。
けど、本当にショックな出来事はそのあとのことだったんだ。
別れてから3週間くらい経った日、慧は見てしまった。
『絶対に結婚しようね、一哉』
『あったりまえだろー』
新しい彼氏と、将来を誓いあってる元カノの姿。
目を丸くして、そして慧はその場で元カノに叫んだらしい。
『お前勉強するんじゃなかったのかよ!』
そしたら元カノはめんどくさそうな顔をして、冷たい目で慧を見た。
『はぁ・・・あのね、見てわかんない?別れる口実だったってこと』
『なっ・・・』
『とにかくもう邪魔しないで』
慧にとっては最高の裏切りだった。
本当に勉強するためだったんなら諦めようとしていた矢先、信じていた愛する人にそう言われたんだ。
それでも慧は頑張った。
こっちに引っ越してくるのは偶然だったけど、それでも向こうの学校にいる残りの期間、一度も学校を休まずに行き、友達に心配させることもなく笑顔で過ごしていたんだと。
俺んちに来てからはもう見ていられないほどのもんだった。
そして、その話を聞いた直後に俺は気晴らしのために慧を俺んちの学校へ連れていった。
『ここが俺んちの学校。あ、そーだ。新学期になったら紹介したい奴いるんだ。俺の友達』
『兄貴の?』
『おー。かわいい奴だぜ』
『女の子か・・・俺は別に』
『小学校から一緒の奴なんだ。そう言わずに。なっ』
俺はジュースを買ってくると言ってその場を離れた。
そして、戻ってくると遠くに葉月の姿が見えた。
俺は慧に言った。
『あ、葉月だ。あいつだよ、紹介したいのって』
『あの人?今声かけられた。貴って』
『まじ?』
このときはっとした。
そういえば葉月も自分のことを名前で呼んでいて、甘い口調をしている。
そう、まるで慧の元カノのように。
『ふーん・・・あの子が兄貴の友達』
慧は葉月を気にかけているようだった。
だから俺も、まぁ大丈夫だろう程度にしか思ってなかった。
その日から慧は元気を少しずつ取り戻した。
葉月とはケンカばっかりしたけど、それはそれでいい関係だと思ったんだ。
だけど、やっぱり来たるべき日は来るんだな・・・・
「・・・慧は葉月自身が嫌いなわけじゃないんだ。たぶんまた同じことを繰り返してしまうのが怖いんだろうな」
「そんなことがあったの・・・」
「慧も本当は毎日が楽しいに違いないんだよ。どうして気づかないんだろうな。葉月はそんな奴じゃないって」
キーンコーンカーン・・・・・
昼休み終了のチャイムが鳴る。
俺たちは教室へと戻った。
***********************************
「・・・なんでだろうなぁ」
葉月は悪くない。
むしろ、葉月のことは嫌いなんかじゃない。
ただ、真奈美みたいな奴にはもう二度と関わらないって決めた俺の決意が、葉月を俺から離そうとする。
『葉月のこと本当は嫌いで、仕方なく一緒にいるんだって・・・・本当にずっとそう思ってたの?!』
『だからそう言ってるだろ』
・・・そんなこと思ってたわけ、ないだろ。
グランドでは体育の授業をやってる。
陸上競技らしくて、ハードル競争のタイムをはかってる。
ここからの眺めは最高だ。
グランドも、学校の周りの家も、海でさえも見える。
今の時間は俺しかいない、静かな場所。
もし雨が降っていたらグランドでは体育をやってなくて、今俺の視界にいる奴はだれ1人としていなくなる。
俺は雨でぬれて、それでもここから眺めるんだろう。
はるか先の俺の元学校を見つけるために。
県外にある、見えるはずのない昔の居場所を探すために。
こっちへ来れたのは本当に偶然だ。
俺としても、裏切られた事実から逃げ出せれてうれしいさ。
けど、関わらないって決めたこの地でも同じような人に関わって、結局今度は俺が傷つけた。
自分が傷つくのをおそれて、俺が傷つけちゃ意味ないよな・・・
葉月は俺が兄貴以外の前ではじめて素でいられる奴。
そんな奴、めったにいないのに俺の勝手な決意とやらが邪魔をして近づけまいとする。
「ここにいたの?」
学校の一番上にある、授業中なら決してだれも来るはずのない場所。
そんなところで俺以外の奴の声がする。
「・・・授業中だろ」
「お互い様でしょ」
見なくてもわかる。
声を聞けば一発でわかる。
「葉月、俺は昨日言っただろ。だからもう俺に近づくなよ」
どうして素直になれないんだろう。
言えばいいじゃないか、怖いんだって。
繰り替えされるのが嫌なんだって。
・・・葉月が好きなんだって。
葉月はそんな奴じゃない。
そう自分に言い聞かせようとしてもだめなんだ。
実際に起こらなきゃ気づかないなんて、本当のバカとしか言いようがないけれど、でもそうじゃないって体でわからない限り俺は一生近づけない。
好きなのに。
「・・・葉月はずっと慧のそばにいる」
たとえ嫌いな奴にでも、うざがられたら普通の人間は傷つくものだろ。
なのにどうしてお前はそうじゃないんだ。
昨日から俺、何回もひどいことを言ってる。
なのになんで離れようとしない?
なんで・・・離れてくれないんだ。
「慧が葉月を嫌いでも、葉月は慧が嫌いじゃない」
その喋り方なんだ。
その喋り方がずっと俺を苦しめる。
「でも、慧がどんなに嫌がっても葉月の喋り方は変えない。だってこれが葉月だから」
後ろを振り向いた。
風で髪がなびいている葉月の顔つきは、はじめてみる真剣な顔。
「慧にとっては辛い毎日だったかもしれないけど、でもっ・・・・・・葉月にとっては、足りなかったものが手に入ったように充実した日々だった!」
訴えるような瞳で俺を見る。
その瞳は大きく、そしてかすかに潤んでいる。
どうして俺なんかのために泣いてくれるんだろう。
どうして俺をほっといてくれないんだろう。
「・・・俺は、元カノと別れてぬけがらのような毎日を送ってた。そんなとき、偶然貴とこの学校にきて葉月を見た」
一目ぼれって言ったら信じるだろうか。
兄貴に、紹介したい奴はあいつだって言われたとき心底うれしかった。
俺を貴って呼んだときのあの笑顔がかわいいと思った。
けど、実際に話してみると、俺が一番近づいてはいけない人。
好きだけど嫌い。
複雑な感情が入り混じって、俺の頭でかけめぐる。
「新しい道、見つけたと思った」
立ち直れると思った。
兄貴と葉月がいれば、きっと俺は大丈夫ってあの日、思った。
「だけど、そんなものはない。ここにも、ない・・・・・」
俺はずっと裏切られる運命にあるんだろうかと心の中で呟いた。
せっかく逃げてきたのに、神様がまるで俺をそこから出さないために再び俺の前にそういう子を送ったんじゃないかって。
日に日に大きくなっていく葉月への思いをもっとはやくに断ち切っていたらこんなに苦しまずにすむんだろうか。
俺は座り込んだ。
そして、髪をくしゃっと握る。
「ここにも、ないんだ・・・」
違う、別にどうであれ本当は真奈美が俺を好きでいてくれた時間は大切なんだ。
一緒にいた時間は、裏切られたあとも捨てられない。
さげすんだっていいんだ。
バカにしたっていいんだ。
ただ、俺を愛してほしい・・・・
それだけなんだ。
永遠の誓いはあんなにもはやく散ってゆくものなのか。
「あるよ」
座り込んでる俺の前に、しゃがみこみ、俺の手をぎゅっと握る。
「慧の居場所、ここにあるよ」
葉月の左手は俺の手を握ったまま、右手で葉月の横を指差した。
かすかな光を求め葉月の顔を見上げると、そこには優しい透明の涙が目から流れていた。
流れる涙はポタッと俺らの手の上に落ちる。
「葉月は慧と一緒にいたいよ」
そんなきれいな涙、俺にはもったいない。
俺は目を深く閉じて、そしてゆっくりと開いた。
「・・・こんな俺なのに」
「慧だからだよ」
「あんなに毛嫌いしたのに・・・」
「それでも」
「・・・いずれお前も俺を好きじゃなくなるかもしれないだろ」
左右の目から落ちる涙は、ゆっくりとゆっくりと葉月の頬を流れる。
そして、微笑んで言うんだ。
「そんな日、来ないよ」
その瞬間、俺の目からぶわっと涙が溢れた。
彼女に裏切られたときでさえ出なかった涙、やっと出た。
まだたったの1ヶ月しか一緒にいないけど、でも俺にはわかる。
俺たちの愛は本物だと。
「ありが・・・っ・・・・・」
言葉にならない。
お礼さえ言えないほどに、溢れる涙。
けど、そんな俺を葉月は泣きながら、そして微笑みながら見守ってくれるんだ。
そういう奴だってわかってたのに、どうして最初から信じられなかったんだろう。
みんながみんな同じじゃないって、どうして気づかなかったんだろう。
俺は、愛されていた。
こんなにも・・・・・・
そして、しばらくして俺も葉月も泣き止んで、一緒にはるか先を眺めた。
新幹線が通っているのが見えるけど、やっぱり昔の学校は見えるはずもない。
見えるわけないよな、と笑って言うと葉月は、海の向こう側にあるんじゃない?と冗談を言った。
見えない俺の道に光をくれたのは君だった。
愛だった。
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「あー!葉月の辞書に落書きしたぁ!」
「いーじゃん別に。減るもんじゃないし」
「見にくくなっちゃうじゃんー!」
いつものようにケンカをする。
そして、いつものように兄貴が止める。
「ったくお前らは毎日毎日・・・よく飽きねぇよなぁ」
昨日までと同じ光景。
同じセリフに同じ行動。
「まぁ葉月がアホなせいで飽きないわな」
「なにー!慧こそっ」
だけど、今日からは昨日と違った景色が見えるんだ。
「あれだよな。ケンカするほど仲がいいって?」
「そんなとこ」
ぎゅっとつながれた手。
顔を見合わせれば、にこっと笑う。
そして、君は言う。
「これからもずーっとケンカしようねっ」
ありがとうは言わない。
言っても言い切れないから。
手に入れられたこと、誇りに思う。
俺の居場所、そして
君という光──────・・・
fin |