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悪役令嬢もの

こんやくはきのまえのよる(婚約破棄の前の夜)

作者:端野ハトコ
*男爵令嬢ティラ*


 とうとう明日だわ。明日からはもう、わたしは日陰の存在じゃない。王太子が戯れに弄んだ娘でもなければ、辺境から出てきた、田舎者の男爵家の娘でもない。

 いずれこの国の王となられるお方、王太子のマキューズ殿下。
 わたしは明日、その婚約者になるんだから。

 マキューズ殿下の計画だと、わたしたちの婚約は、明日の晩に開かれる舞踏会で発表されるんですって。招待されるのは王宮の主だった人々で、わたしやわたしの両親なんかより、ずっと高位の身分を持つ貴族たちらしいわ。

 中にはわたしと同じように、マキューズ殿下の妃になろうと、虎視眈々と狙っている令嬢たちもいるんじゃないかしら。貴族の令嬢として今までさんざんちやほやされて、可愛がられた幸せなお姫様たちだわ。豪奢なドレスと高価な宝石で身を飾り、王太子の目を引こうと努力している、夢みる女の子たち。

 ふふ、とわたしの唇から笑いがもれた。
 だって選ばれるのは、彼女たちの誰でもないんだから。わたしだわ。

 男爵令嬢ティラ・フラクタ。
 明日発表されるこの名前を、舞踏会に居合わせた誰もが胸に刻むのよ。

 運命の夜が明日に迫ったという今夜。早めにベッドに入ったけれど眠れない。緊張と期待で、胸がどきどきしちゃう。いっそ起きて明日のドレスや髪型なんかと色々試したいけれど、ばれたらお母様にしかられるでしょうね。

 お父様がただの男爵でしかないことを、わたしもお母様もずっと不満に思ってきた。上位の貴族から比べれば、領地も財産も本当にわずかなものだわ。おしゃれだって旅行だって、なんでも我慢しなきゃいけなかった。

 でもそれももう終わり。明日からは違うわ。
 明日のわたしは、王太子の心を手に入れた、幸運な娘になる。

 お母様もきっと喜んでくれるでしょうね。お母様はわたしとマキューズ殿下を近づけるよう、殿下の教育係を篭絡までしてくれたんだから。その期待は裏切れないわ。

 なんて待ち遠しいのかしら。もうすぐわたしは生まれ変われるのね。田舎くさい低位貴族の娘ではなく、誰もが羨む王太子の婚約者だわ。

 明日の晩には、社交界の新しいヒロインが誕生するの。最近の王都は何かと物騒らしく、みんな暗い顔をしているんですって。だからわたしたちの婚約発表は、きっと明るい話題を提供することになるわね。わたしの前ではどんな高貴な生まれの貴族でも、膝を折るようになるんだわ。きっと王妃なればどんな贅沢でも思うがままよ。

 昨日もマキューズ殿下はベッドの中で、わたしに何度も愛を囁いてくれた。将来この国のすべてを手に入れる王太子様にこんなに愛されているんだから、幸せになれないはずなんてない。

 ああ、でも。わたしが幸せになる陰で、不幸になる人がいる。

「ごめんなさいね、ウィンリア様。……でも仕方がないわよね」

 明日発表されるのは、わたしたちの婚約だけじゃない。
 実はマキューズ殿下には、すでに定まった婚約者がいる。 

 ある大公家の娘である、ウィンリア公女。それがマキューズ殿下の今の婚約者の名だ。でも明日の舞踏会で、マキューズ殿下はウィンリア様との婚約を破棄してくれる予定なの。わたしのために。

 彼女を可哀そうだとは思うけれど、仕方ない。だって、殿下が愛しているのはわたしだけなんだから。マキューズ殿下は彼女をたいそう嫌っている。「いつもだらだらと長話をする、まるで魅力のない女」なんですって。わたしも何度か会ったことがあるけれど、あの値踏みするような目が気に入らなかったわ。他の令嬢たちと同じで、わたしを見下しているんでしょうね。

 身分が高くて、美しくて。ウィンリア様については、将来の王妃として申し分ない女性だと、いい評判しか聞こえてこない。

 だけど。そんなの結局、生まれた境遇が恵まれていたからでしょう? 運良く大公家に生まれ、そして愛されて育ったんだわ。最高の教育を受けて育てば、誰だって王妃に相応しい教養ぐらいつくわよね? きっと冷たい言葉をかけられたことなんて、一度もないんだわ。それどころか王太子の婚約者として、今まで散々ちやほやされてきたはず。何の努力もしないで、当たり前のように幸せを手に入れていた。

 一方で、わたしは最悪だった。辺境の男爵領は不便で何もなくて、素敵なドレスなんてひとつも手に入らなかった。王都へ出てきてからも、田舎者と呼ばれて他の令嬢から無視され、馬鹿にされて。とても不幸だった。

 だからウィンリア様なんて、ちっとも可哀そうじゃないわ。ウィンリア様は不当に恵まれていた。その恵まれていた分の、報いを受けるだけだわ。

 そしてこれからは、わたしが取り返す番よ。不当に奪われていた分を、不当に恵まれていた人から取り返す。それでやっと釣り合いが取れるの。

 本当に、明日が待ち遠しい。いつも取り澄ましているウィンリア様が、マキューズ殿下から婚約破棄を言い渡されたら、どんな顔をするのかしら。早く見たくてたまらないわ。

 興奮して眠れない。こんなに楽しみな、幸せな気分は生まれて初めてじゃないかしら。

 だけど――ひとつだけ気になる点があるとすれば、やっぱりわたしの身分が低すぎることだろう。王妃になるには、男爵家の娘では不足だと言われるかもれない。

 でも王太子様は言ってくれた。「ティラがいなければ生きていけない」と。だから。

「王冠か愛か。選べと言われたら、きっとわたしを選んでくれるわよね? マキューズ殿下」




*王太子マキューズ*


 王冠か愛か。選べと言われたら、それは当然決まっている。

「明日か……」

 王宮内の一室。急に入浴がしたくなった僕は、侍従に命じて風呂の用意をさせた。

 さっきまで友人たちと一緒に、賭博と酒で騒いでいた。僕は王太子だけど、たまには羽目を外して楽しみたい時ぐらいある。本当は王宮外の酒場にでも繰り出したかったが、侍従が反対するのでやめるしかなかった。

 明日は大事な日だ。憂鬱というほどではないが、何か他のことで気を紛らわせたかったのに。

「はっ、まさかこんなことまでさせられるとは。ついてない」

 男爵家の娘ティラ。しおらしい顔で近づいて来たから、てっきり己の分を理解しているものと思って愛人にしてやったのに。違ったようだ。
 まさか、ティラを本気で僕の妻になんかできるはずない。そんな低い身分で王妃になれると信じ込むなんて、彼女はちょっとどうかしている。

 だけど、それなりに本気になったのは事実だ。できれば手放したくない。あの粘っこい上昇志向は鬱陶しいが、愛人としてなら目をつぶってやってもいい。

 しかしティラは、愛人では納得できないとベッドの中で訴えてきた。体を盾にねだられて、つい、婚約すると約束してしまった。

 困ったことになった。だが悩むうちに思いついた。

一旦婚約した振りをして、後でなかったことにしようと。

 明日の舞踏会は、実は内輪だけのパーティーだ。呼んであるのは、この魑魅魍魎がうごめく上流社会でも、王太子である僕に忠誠を誓った者たちだけ。僕の命令に逆らわない彼らなら、婚約破棄もその後の不釣り合いな婚約発表も、どちらも口をつぐんでいてくれる。公式な発表にはならない。

 明日の計画は完璧だ。王太子である僕が愛人ひとりにどうしてここまでしないといけないのか、首を傾げるが。

 バスタブに横たわり、力を抜いて、お湯の中で身を浮かべてみる。緊張が解けると、ふと別の女の顔が浮かんだ。

「……いいさ。どうせウィンリアは断らない」

 ウィンリア。僕の今の婚約者で、たぶん、本当に結婚するだろう相手だ。

 身分は申し分ない。ある国の大公だった者の娘で、こちらの王家とも縁続きだ。容姿も悪くないし、小さい頃から王妃となるべく教育を受けてきたせいか、頭もいいと評判だ。

 だけど僕にはそれが気に入らない。女なんて、ちょっと馬鹿で足りないぐらいがちょうどいいのに。自分より頭のいい妻なんて、頭がいいと思い込んでいる女なんて、誰がそばに置きたいだろう? 鬱陶しいに決まっている。

 そう、ウィンリアはいつだってそうだ。こっちの話も聞かず、説教だか意見だか、いつも関係のない話ばかりを持ち出してくる。やめろと言ってもやめないウィンリアが悪いだろう。あんな氷のような女だけで満足しろとか、地獄じゃないか。そうだ、僕が愛人を作らざるを得なかったのは彼女のせいだ。

「ふ……あはははは」

 ウィンリアのことを考えると、笑いがこみ上げてきた。愉快な気分だ。そして明日はもっと愉快な夜になる。

 愛人のために茶番劇をさせられる。面倒なのは本当だが、実は、楽しみもなくはない。何も知らないウィンリアが、とつぜん婚約破棄を言い渡されたらどんな顔をするのか。あの誇り高い女の顔がどう歪むのか、非常に楽しみではある。

 明日の舞踏会が茶番だとは、ウィンリアには秘密だ。そのほうが楽しいし、どうせ彼女は何をされても逃げないだろう。ティラに少しばかり夢をみさせたら、またウィンリアと婚約し直せばいい。

 『私はこの国に殉じる覚悟ですから』。

 こんな、馬鹿としか思えないような言葉が彼女の口癖だ。だったらそうすればいいと思う。殉教者のような顔で、国の、ひいては王になる僕に生涯尽くせばいい。それが彼女の運命だ。

 王太子との結婚を、ウィンリアから拒否するのは不可能なのだから。




*大公女ウィンリア*


 私からマキューズとの結婚を拒否するのは不可能だ。

 愛人の存在くらいは気づいている。私の立場と事情をよく知るマキューズは、何をしても許されると思っているだろう。確かにその通りで、たとえ彼から婚約破棄したのだとしても、マキューズが本当に他の娘と結婚するまでは、私は他の人とは結婚できない約束になっている。

 歳が釣り合い、血筋が良く、王妃としての教養もあり、容姿も悪くなくて。そんな娘は大勢いそうで、実はいない。マキューズはどれだけ他の娘と遊ぼうとも、王妃としてちょうどいい私を手放すつもりはないだろう。

 私の一家はある国を治める大公家だった。だがもう帰れない。政変で追放された私たち一家は亡命し、マキューズの国で暮らしている。さらに祖国は今、存在すらしていない。

 財産を持ち出す余裕のなかった私たちは、この国にお情けで置いてもらっている。縁続きだから、と。そしてマキューズの行状がどれだけひどくても、私は彼との結婚を拒否できない。家族のために。

 賭博はマキューズの悪い癖のひとつだが、それに私の家族が巻き込まれた。私の弟はマキューズや他の貴族の子弟とつるみ、法外な額で賭け事をしていた。そして気の良い弟は他の者の格好のカモだった。借金がかさんだ弟のため、私はどれだけマキューズが憎くとも、彼の妻になるしかない。

 明日の計画もそうだ。あの愛人のため、王太子と彼の悪友たちは、偽の婚約を仕掛けるらしい。

 数日前にマキューズから、「鏡の間で内輪のパーティーをやるからウィンリアも出ろ」と命じられた。その時から何かあるとは思っていたけれど、こういう計画だったとは。口止めされていた弟から、パーティーの真の目的を今夜になってやっと聞き出せたのだ。婚約破棄の前の夜に。

 それを聞いた私は――絶望した。
 そんな下らない茶番を目論むほど馬鹿だなんて知らなかった。知らなかった自分にも、ほとほと呆れた。

「そんな場合じゃないでしょう……!」

 今夜、私は王宮の中でも、最も外側に近い建物に来た。窓からは、王宮の外にある広場が見下ろせる。そこにはいくつもの松明の火がある。最近はああやって毎晩、人々が夜更けまで集まっている。衛兵が何度も蹴散らしても同じだ。

 マキューズの耳は、都合の悪い事実を入れない。彼の目は、見たくないものを見ない。

 私の祖国で起こったのは、社会革命だ。民衆が立ち上がり、専制政治を敷いていた大公家を追放した。

 そして実は、この国でも同じことが起ころうとしている。ひんぱんに起こる暴動や略奪、襲撃や暗殺事件。この国は今にも斃れようとしている。それに気づかない、現実に目を向けようとしないマキューズも彼の悪友も愛人も、みんなどうかしている。不安から目を逸らし、今にも滅び去ろうとしている貴族の遊蕩に耽っている。

 さらに一方では、国際状況も悪化していた。周辺国は主義の違う二つの陣営に真っ二つに分かれて対立しており、今にも戦争が始まろうとしている。勢力は拮抗しており、どちらが優勢とはまだ言えない。そのためこの国も、どちらの陣営に入るか、岐路に立たされていると言っていい。

 文字通りの内憂外患。うちでも外でも、差し迫った問題が存在している。
 マキューズと取り巻きたちは、そんな状況でも愚かな茶番に耽るらしい。絶望的だ。

 彼らが勝手に倒れるのは自業自得だけど、その後をどうするのか。問題はそこだ。

 民衆の代表と話し合うよう何度もマキューズに忠告したけれど、彼は聞こうとしない。「王になったらちゃんとやるさ」と、気のない口調で答えるばかり。外交政策も同様で、まるで展望を持っていない。

 ならば私はどうするのか。よそ者だけれど、王太子の妻になると決めたのは自分自身だ。国に殉じる覚悟がある。だから綿密に計算した。

 窓から一歩下がった。すると同時に部屋の扉が開き、背の高い娘がひとり入ってくる。

「ウィンリアさま。おてがみをもってきました」
「……ユニ」

 侍女のユニは亡命前から私に仕える娘だ。ここまでついて来てくれたこの子とも、もうすぐ別れることになる。話し方こそ舌っ足らずだけれど、ユニはとても賢い子だ。

 ユニが差し出す手紙を受け取った。差出人は、ユニ同様に祖国から私たち一家に仕える武官のひとり。手紙を読み、ずっと緊張していた私は、大きく息を吐く。

 計画の第一段階の成功の知らせを聞いた私は、微笑んでユニを見る。

「成功したそうよ。打ち合わせ通りに」

 綿密に計算した結果、明日の舞踏会会場である鏡の間は、十五か所ほど爆薬を仕掛ければ崩壊する。柱や天井など、仕掛ける位置さえ間違えなければ、他の部屋への影響を最小限に抑えながら、綺麗にそこだけがれきになる。

 明日の夜、婚約破棄の現場を見物するために集められる、マキューズの取り巻きの貴族たち。伯爵に公爵子息、近衛の士官も何人かいるだろう。
 彼らを生かしておいても無駄ならば、役に立ってもらうことにした。明日は彼らにとって最後の夜。舞踏会ごと爆破し、悲劇の死を遂げてもらう。

 何のために? 民衆の側について、革命に協力するため? 王家を倒し、誰もが幸せに暮らせるような理想の国を創るため?

 いいえ、違う。

 自分で言うのもなんだけれど、私は冷徹な女だ。夢などみない。だから現実的に判断した。

「今は変革の時じゃない」

 私の祖国。大公一家を追放し、民衆が創る理想の国家を夢みた。
 でももうその国はない。突如攻め入ってきた隣国によって併合された。組織されたばかりの革命政府は対抗する力を持たず、大国によって蹂躙された。

 この国も同じだ。王家と民衆、内側で対立している場合ではない。だけど積もり積もった民衆の不満を抑えるほどの力が、今の政府にはない。舵取りの難しいこの局面を乗り切るには、世間をあっと言わせる“悲劇”が必要だろう。

 そのための生贄がマキューズたちだ。放蕩に耽る王太子と、高位の貴族の子弟の悲劇の死。国民の怒りを鎮めるのにこれ以上ないくらいの生贄になる。

 一方で、暗躍する革命家たちを抑える方策でもある。「自分たちのうちのいったい誰の仕業だ?」と、彼らはお互いの間で疑心暗鬼になるだろう。勝手に牽制し合っているうちにこちらが態勢を整えれば、しばらくは均衡が保てる。

 とはいえ、一歩間違えれば大戦争のきっかけともなりかねない。慎重を要する。爆破事件の概要や公式発表用の文章すら用意済みだけれど、うまくことが運んでくれるかどうか。私の協力者たちは、身分こそ低いが有能な官吏や、王宮を掌握する女官長や地方連隊の一派だ。手はず通りに動いてくれると信じているが、不測の事態が起こらないとは限らない。

 爆薬が無事に仕掛けられたという報告を受けても、私の緊張は解けることがない。
 明日の夜より先の、この国の将来がかかっているのだから。

 今ひとつだけ心残りがあるとすれば、彼女のことだ。

「ごめんなさいね、フラクタ嬢。……でも仕方がないの」

 巻き添えを食うマキューズの愛人。夢をみただけのティラ・フラクタもまた、明日、爆殺される。浅はかで状況が見えていないという愚かさはあるにはしても、田舎から出てきた彼女が王都の状況を知らないのは、無理もないことだ。

 だけど助けることもできない。変に警告してマキューズに察知されては困る。

(ああでも、この子は。せめてユニだけは)

 手紙を持って来て以降、黙って私の命令を待ち続ける侍女のユニを振り返った。

「ユニ。もういいわ、あなたは王宮を出なさい」
「いいえ、わたしはいきたくありません。ウィンリアさまのおそばにいます」
「だめよ、これは命令よ。……ううん、お願いだわ。ユニ、お願い、逃げて」

 私はこれでも大公の娘だ。使用人相手に「お願い」をするなんて初めてだけど、どうしてもユニには逃げてもらいたい。忠実なこの子を遠ざけておかないと、私の決心が鈍ってしまうかもしれないから。

 婚約破棄の前の夜。明日は私にとっても最後の夜だ。

 悲劇の舞踏会の犠牲となったのは、結婚目前の王太子とその婚約者だったと発表される。幸せの絶頂での死。人が好む『悲劇』として、これほど効果のある二人がいるだろうか? 

 マキューズ。人並みの愛情なんて向け合ったことはないけれど、一度は妻になると決めた相手だ。巻き添えになる者たちへの贖罪の意味を込めて、私は明日、彼らとともに死ぬ。

 だって私は、この国に殉じる覚悟だから。




*侍女ユニ*


 ウィンリアさまは亡命先であるこの国に殉じる覚悟だ。ごじぶんで手にかけるかれらの“悲劇”を利用し、国の危機を救う。その代わりごじぶんも命をさし出すつもりでいる。

 命令通り王宮をでると見せかけて、侍女部屋にさがったわたしは制服をぬぐ。かわりにまとうのはこっそりお借りした、ウィンリアさまのドレス。

「だいじょうぶ。おおきさはちょうどいい」

 祖国からおともした侍女であるわたしは、同時にウィンリアさまの“影”でもある。ご本人は知らないことだけれど。
 わたしとウィンリアさまの背格好はほぼ同じで、髪の色も一緒だ。顔立ちはまったく違うけれど、そんなものは化粧でどうにでもごまかせる。ずっとお仕えしているから、仕草も表情も完璧に真似ができる。だけどしゃべり方だけは違いすぎるので、なるべく声をださないように気をつけよう。

 明日の夜、婚約破棄の現場へいくのはわたしの役目だ。やっとこれがかなう日が来た。ようやくわたしは影として働ける。

 爆破がうまくいったとしても、その後の処理で不測の事態が起こらないとも限らない。その時のためにもウィンリアさまはまだ死んではならない。殉じるほどの覚悟と、情報収集力に、計画性と実行力、そして協力者たち。これだけのものを持つあの方こそが、『悲劇』後の国を導いていくにふさわしい。何より、王家の縁続きであるウィンリア様は、低いながらも王位の請求権をお持ちだ。

「だけど……」

 わたしはずっとウィンリアさまだけをみてきたから、考えていることもわかるつもりでいる。だけどたったひとつだけ、わからないことがある。これだけはわたしにもわからない。

「こんやくはきされたときって、どんなかおをすればいいのかしらね?」

 わたしはあしたまでに、それをかんがえておかないと。こんやくはきのまえのよるに。


悪役というか悪人というか、ぶっちゃけテロリストっていうか……(遠い目)

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