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VRMMOはウサギマフラーとともに。  作者: 冬原パトラ
第三章:DWO:第三エリア
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■051 湾岸都市フレデリカ

本日二話目の更新です。





 僕たちは第三エリアの【湾岸都市フレデリカ】を歩いていた。

 第二エリアのブルーメンに比べると、かなり大きな町……いや都だった。その都はNPCやプレイヤーたちで溢れ、活気に満ちている。

 僕らは昨日、漁村の【ランブル村】を出て、馬車で揺られること数時間、夕方ごろにこのフレデリカに到着した。

 疲れてもいたし、観光は明日からということにして、手頃な宿屋へと泊まり、すぐログアウトしたのだ。

 そして今日、こうして揃って観光に繰り出したわけだけれども。


「運河が縦横無尽に走っていて、まるでヴェネツィアのようですね」


 レンがそんなことを呟くが、ヴェネツィアに行ったことのない僕にはなんとも答えようがない。運河に浮かぶゴンドラには乗ってみたいとは思うけども。あれがタクシー代わりに運河を行き来しているんだな。

 都の中心には高い時計塔があり、その下に中央広場があった。どうやらここがフレデリカの復活ポイントらしい。死に戻ったとみえるプレイヤーが光と共に出現していた。

 死に戻りかどうかはプレイヤーの行動を見ているとよくわかる。死に戻ったプレイヤーは、大概ベンチなどでうな垂れるからだ。どんな死に方をしたのかはわからないが、やはり気持ちのいいものではないからな。少し落ち着きたい気持ちもわかる。

 広場にはブルーメンと同じようにプレイヤーの露店があちこちに並んでいた。賑わいはブルーメンの方があったように思えるな。まあ、まだ第三エリアに来てないプレイヤーも多いし仕方ないか。


「ポータルエリアはどこにあるのかな?」

「この都には二つあって、一つは西の広場、もう一つは北の橋を渡った先の小島にあるみたいです」


 レンがマップを見ながら教えてくれる。二つあるのか。使いやすい方を使えばいいのかな。


「いろんな店があるね。あ、武器屋だ」

「あっちには釣具店がありますわ。興味深いですね」


 ミウラとシズカもキョロキョロと町並みを見物している。釣具店は僕も興味あるな。あとで来てみよう。


「二人ともそれはあとで。まずは管理センターにギルド設立の届け出を出して、お金を払わなきゃ」

「は〜い」

「わかりましたわ、ギルマス」


 レンがたしなめると、笑いながら素直に返事をする二人。まだ設立してないからギルドマスターじゃないけどな。

 都の中央から少し北寄りに行くと、大きな三階建ての建物が見えてきた。赤レンガで造られた瀟洒な建物だ。ギルドの管理センターというか、歴史ある高級ホテルにも見える。

 中に入るとホールのような場所に机やソファ、観葉植物などが置かれてあって、みんな壁の掲示板を見たり、新聞のような物を読んでいたりした。中までホテルのロビーみたいだ。

 カウンターには何人かの受付嬢がいたが、その中でも空いていた獣人族セリアンスロープの女性のところへレンが向かった。


「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか」


 犬耳の受付さんはレンに向けてにこりとした笑顔を向けた。


「ギルド設立の登録に来ました。手続きをお願いします」

「かしこまりました。ではこちらに必要条項を記入したあと、ご入金をお願い致します」


 レンの前にウィンドウが開く。渡された羽ペンでレンがそこにスラスラと書き込んでいった。

 ギルドマスターは誰、サブマスターは誰とか書き込んでいるのだろう。ウェンディさんとリゼルにも羽ペンを渡しているしな。

 ちなみにギルド設立のお金はすでにレンに渡してある。きっちり六等分だ。

 設立自体のお金はそれほどでもなかった。まあ、まだギルドホームを持ってないし、こんなものなのだろう。

 レンがウィンドウを閉じる。


「はい。ギルド『月見兎つきみうさぎ』登録完了しました。こちらがギルド登録証カードになります」


 ……正直まだそのギルド名にはいささか物言いをしたいところなのだが。

 結局ギルド名は『月見兎』で押し切られてしまった。多数決で僕に勝ち目などなかったよ……。

 すでにエンブレムまで決まっていた。月とそれを見上げる兎の形をしたエンブレムだ。

 まあ、見た目は悪くない。もともと僕のマフラーにも同じようなものが付けられているしな。


「登録終わりました。シロさん、ミウラちゃん、シズカちゃん、こちらからギルド勧誘のメールを送るので、登録お願いします」

「わかった」

「あいよー」

「了解ですわ」


 個別ウィンドウにある、【ギルド】の欄にメールが来ている。

 ────【月見兎】 ギルドランクE か。

 所属しますか? の質問にYESと答えると、すぐに許可されて【所属ギルド】が【月見兎】となった。どうやら無事に登録できたらしい。

 ギルドメンバー欄にミウラとシズカの名前もある。向こうも問題なく所属できたようだ。


「ギルドホームっていつ建てられるのかな?」


 ミウラがレンにそう声をかけた時、知っている別の声がそれに答えた。


本拠地ギルドホームはギルドクエストをこなしてギルドポイントを獲得し、ランクを上げてDにならないと作れないよ。今すぐには無理だね」


 振り向くとそこには白銀の鎧を身にまとった金髪の騎士と、杖を持った夢魔族サキュバスの女性が立っていた。


「アレンさん! ジェシカさんも!」

「やあ、シロ君。第三エリアへようこそ。ギルドに入ったんだね」

「久しぶり。元気だった?」


 【怠惰】のトッププレイヤー、アレンさんとその仲間のジェシカさんだ。アレンさんはちょくちょく会っていたけど、ジェシカさんは久しぶりだな。

 確かレンとウェンディさん以外はアレンさんと初対面だな。ジェシカさんに至ってはみんなか。

 僕はみんなにアレンさんたちを紹介した。【怠惰】のトップギルドである【スターライト】のメンバー、しかもギルマスだと言ったら驚いていたが。

 さっそくレンがアレンさんとギルドカードの情報を交換していた。ギルドマスター同士がこうしてギルドカードを交換しておくと、時に協力してクエストをこなすことができるらしい。


「【月見兎】か。これはやはりシロ君からかな?」

「いや、まあ……。そんなところです」


 なんとも面映ゆい。僕がギルマスでもないのになあ……。

 その当の本人、【月見兎】のギルマスは、同じギルマスとしてアレンさんにいろいろと質問していた。


「アレンさんの【スターライト】は本拠地ギルドホームを持ってるんですか?」

「あるよ。ここに来てすぐに建てた。フレデリカの北区にあるんだ。僕らは先行組だったからね。いい土地を買えたんだよ」


 そうか。いい土地は早い者勝ちって場合もあるのか……。いや、第一、第二エリアに建てるギルドもあるだろうし、この先のエリアで建てるギルドもあるかもしれないから、一概にそうとも言えないか?


「ギルドクエストってのはなんなの?」


 ミウラが初対面にもかかわらず、ジェシカさんに馴れ馴れしい口調で聞いていた。ホント物怖じしない子だよ。


「プレイヤー個人じゃなく、ギルドに依頼されるクエストよ。NPCから出されることもあれば、他のギルドから出されることもあるの。例えば『霊薬草50個を明日までに』とかね」

「へえ。あの掲示板に貼ってあるやつ?」

「そう。もちろんちゃんと成功報酬は出さないとダメだし、違反するとペナルティもあるわ。でも自分たちだけじゃ手の回らない時とか便利よ」


 ギルド同士の相互支援って感じかな。確かに手伝ってもらえたらいろいろと助かるかも。

 だけどこちらから依頼するには、ギルドポイントが必要なんだそうだ。

 ギルドポイントとはギルドクエストをこなした時に手に入るポイントで、このポイントでランクを上げたり、いろんなことができるらしい。

 逆に依頼する場合はこのポイントを基本的に成功報酬として出し、さらに別途でお金とかを上乗せしたりするという。

 僕らは当然0ポイントであるから、他のギルドに依頼を出すことは今はできない、というわけだ。まずはギルドクエストをこなさないと。

 それから僕らはロビーにあったイスに座って、第三エリアのことをいろいろとアレンさんたちに聞いた。

 未だに第三エリアのボスは見つかってはいないらしい。


「集めた情報によると、どうも海のモンスターなのは間違いないと思うんだけどね」

「海……シーサーペントとかでしょうか?」


 ウェンディさんがアレンさんに口を開く。シーサーペント? なんだそりゃ? 沖縄の守り神じゃないよな?

 わからなかったので、こっそりとリゼルに聞いたら大きな海蛇のモンスターだと教えてくれた。大海蛇シーサーペント、か。


大海蛇シーサーペントには何回か船で遭遇している。かなり手強いけど、倒せない相手じゃない。アレが第三エリアのボスとは思えないな」


 船に乗っててこんなのに襲われるのか……。ちょっと遠慮したいところだ。やっぱり【水泳】スキルは必須なのかなあ。溺れたら間違いなく死に戻りだもんな。


「ああ、そう言えばトーラスがこの都に店を持ったのは知ってるかい?」

「え⁉︎ トーラスさん、自分の店を作ったんですか⁉︎」


 アレンさんの唐突な言葉に驚く。っていうか、第三エリアに来てたのかよ、トーラスさん。

 妖精族アールヴの商人(自称だが)、トーラスさんの店……ねえ。インチキ関西弁の店主……怪しさ爆発だな。


「『パラダイス』って雑貨屋よ。アクセサリーとか、いいものも置いてあるけど、中にはネタとしか思えない物もあるから、なんとも評価に困る店だけどね。アレンなんか熊の木彫りを買わされたんだから」

「僕だけじゃないぞ。ガルガドだってペナントとトーテムポールを買わされてた!」


 買わされたのか、ガルガドさん……トーテムポールって……武器なのか? 鬼神族オーガの彼なら持てそうな気もするが。

 やっぱり怪しい店のようだ。まあ、一回くらいは挨拶に行った方がいいかもしれないけど。


「あ、そういえば……」


 僕はインベントリから本屋のバラムさんからもらった『幻獣図鑑』を取り出して開いた。


「やっぱりだ。ほらアレンさん、第三エリアに来てるプレイヤーも増えたから、図鑑に新しいレアモンスターが載ってますよ」

「本当かい⁉︎ ……確かに見たことのないモンスターがいろいろ……これはいい。シロ君、これも前のように確認できたら公表してもいいのかい?」

「ええ。かまいませんよ。まだ情報が少ないのか、出現エリアと少しの解説ぐらいしか載ってませんけど……」

「それでも手がかりにはなるさ。しかし『ポイズンジェリー』の上に『キングポイズンジェリー』なんてモンスターがいるとは……。まだまだ僕らは第三エリアを調べ尽くしてはいないらしい」


 その後、僕らはどんなギルドクエストがいいか、アレンさんたちにアドバイスをもらいながら掲示板を眺めていた。ギルドランクをEからDへ上げるのはそれほど難しくはないみたいだ。

 よし、第三エリアでも頑張るか。















DWOデモンズ ちょこっと解説】


■ギルドについて③

ギルドを設立するとギルド専用のクエストが受けられるようになる。また、手に入れたギルドポイントにより、依頼を出すこともできるようになる。

ポイントによりギルドランクが上がると、パーティの最大数が上がったりもする。また、いろいろな設備の増設が可能になる。

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