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第10話 そして歯車は動き出す

 ずっとつけっぱなしのテレビから、朝も早くに女性アナウンサーが笑顔でニュースを届けている。

 外は爽快なほどに青く澄んだ空で、いつもの一日が始まると誰もが無意識に感じていた。

 速報の原稿が舞い込むまでは。

「ただいま入ったニュースをお伝えします。大阪府、青森県など各地で相次いで起きている怪奇事件に新たな被害者です。
 本日午前二時前、広島県K市の神社で、近くの書店アルバイト、山川トシユキさん二十八歳が遺体で発見されました。
 山川さんは、体中を鋭利な刃物で切り付けられ、体の一部が持ち去られて――」

 その後、事件現場からの中継が入り、テレビは一気に緊張感が高まった。

「こちら現場です。遺体は境内……で見つかり、被害者のと思われる……が……に置かれ……」
「日保田さん? ……えー、音声が途切れているようですね」

 映像には、暗鬱とした空と立入禁止のテープが張られた神社が映し出される。

 そのテレビの横で、携帯が着信のメッセージを光らせながら震えていた。

 部屋の中は、その主の性格を表すかのように、無造作に脱ぎ捨てられた服やらゲーム機やらが散乱し、そして人の気が全くなかった。

 ぴちょん

 どこかで水音がした。

 誰もが気づかないような細い路地を通り、ビルとビルの隙間を進み、突き当たりの茂みを抜けた先に、今や事件のおかげでマスコミが溢れる神社があった。

 ぴちょん

 水音はその近くで聞こえた。

 遅れてきたリポーターが、鳥居をくぐろうとして、ふと空を仰ぐ。朝の陽が鳥居を眩しく照らす。
 だが、形がおかしい。
 鳥居の頂点から、にょっきりと枝が生えている。

 ぴちょん

 水はそこから落ちていた。
 静かに、鼓動のように水溜りを広げていく。

 ゆっくりと、ねっとりと、赤い雫は落ちていた。

 ■ ■ ■

「いいか、ハル?」

 屋敷に無数ある部屋には、場所のためか薄暗い部屋がいくつかあった。
 窓がなく、照明器具さえついていない部屋はまさに用途不明。
 だが、敷地面積が無限大に近いこの屋敷では、そういう部屋があっても問題はないのだろう。

 ミサギでさえ「へーそんな部屋あったんだ」とたいした興味もない声で感心するほどだった。

 そんなある一室。

 真っ暗な部屋でろうそくを一本立て、それらしい雰囲気を充分に醸し出した中にユウたちはいた。

 もちろん怪談話をするためではない。

 かび臭さを少し漂わせるこの部屋は、暗がりを求めて迷ったハルが見つけ、ここでなら彼も落ち着いて話ができるだろうということで全員集まったのだ。

 ミサギとみっちゃんが見つめる中、ユウはハルをニメートル以上離して座らせ、淡々と質問を繰り返している。

「もう一回訊くぞ。ハルはどこからきたんだ?」
「う……うー……わかん、ない」
 ハルは頭を捻りながら声をしぼり出す。
「じゃ、その体にとり憑く前は何してたんだ?」
「わかんない」
 今度はキッパリと応える。
「……ハルはアヤカシなんだよな?」
「オレ、アヤカシ?」

 その瞬間、ユウの頭部付近でプツンと音がした。

「っだあああ! ダメだこりゃあ!」

 約一時間、ユウはあれこれアヤカシについて尋ねたが、どんなに易しい尋ね方をしてもハルの脳みそは理解してくれなかった。
 ことごとく「わからない」と言われ、揚げ句、最後の質問には逆に質問で返されてしまった。

「……やっぱり」
 ミサギもため息をこぼす。
「ほんの少しでも興味を持った僕が馬鹿だった。こんなことならさっさと封印すればよかったよ」
 もはや一欠片の興味もない彼に向ってミサギは淡々と吐き捨て、ユウは小さくなる。

 しかし、ここまで理解能力に欠けるとはミサギも予想だにしなかったろう。
 さすがのみっちゃんも苦笑していた。

「にしても、質問の意味すらわからんちや、アヤカシの考えとぉことは人間と次元が違うんかのう?」
「もしくは、とり憑いてる人間の脳がすさまじく阿呆という可能性も考えられるな」
「そ、そうなのか?」
 ミサギの阿呆発言に、ユウは思わずハルに尋ねた。

「わかんない」
『……』
 ミサギの言葉が現実味を帯びた。

 そこへ扉を叩く音が全員を振り向かせる。木戸だ。

 外は眩しいほど明るい。ユウは思わず目を細めた。
 廊下から流れ込んだ空気に、ろうそくの火がかき消される。
 木戸は、ミサギに電話がきたことを知らせた。
「ユウ君、この責任はあとできっちりとってもらうからね」
 気が済んだら応接間に戻るように。そう言い残して、ミサギは木戸とともに出ていった。

 扉が閉まり、部屋は元の暗闇に戻る。
「あああああどーしよー! せ、責任て何やらされるんだ!?」
「きっと、世にもおっそろしいミサギ殿のお小言やろなあ」
「ううううう……」

 みっちゃんが優しくポンと肩をたたく。
 ユウは救いを期待して見上げたが、ご愁傷様といわんばかりに深く合掌された。
「う、うわああああん!」
 ユウは走り出した勢いでみっちゃんを突き飛ばし、そのまま部屋を飛び出した。
「ユウ!」
 ハルもそのあとを追って行った。
 部屋には、腹を抱えて悶えるみっちゃんが残る。
「ぐう……ユウどん……みぞおちは、はん……そく」

 ■ ■ ■

 ミサギが執務室に着くと、木戸が「総寮寺様からです」と、電話を差し出す。
「なんともちょうどいいタイミングだな。手間が省けた」
 ミサギが受け取った電話からディスプレイに映像を出す。そこには、身を乗り出してこちらを凝視している中年元帥が映っていた。
「あー無事だ、よかった」
 ミサギの顔を見た総寮寺は、安堵したように大きく息を吐いた。
「何、してるんですか?」
「あ、いやその……」
 総寮寺は表情をかたくして口ごもる。
「――最近さ、テレビ見てる?」
「見ません。話の切り出し方最悪ですね」
 唐突な話題をミサギはスパッと切り捨てた。
「えー? テレビは情報の宝箱だよ。見て損はないよ」
「テレビは思考を鈍らせるから見ません」
 ミサギの言い訳に、総寮寺は口を尖らせた。

「そんなことより、僕はあなたにお願いがあるんですよ」
「な、なんだい?」
 彼の顔が茹でダコのように赤くなる。
 ミサギが笑顔を見せるときは間違いなく、下手をすると今の地位から転がり落ちて職を失いかねない面倒事だ。そうでなかったら、自殺衝動に駆られる愚痴である。
 どちらにしても、ミサギの微笑みはロクなものではない。

 クビか、自殺か。

 どちらかといえばクビの方がマシなんだけど、ああでも妻と娘を食わしていけなくなったら二人に殺されるかも。って、結局選択肢なし? やっぱ死ぬの? 死ぬのか?

 総寮寺が祈っていると、彼の運命――ミサギの声が比較的優しく言った。

「『彼』のデータ、持ってますよね。全部ください」

「え、彼って?」
 声が裏返っている。

 ミサギは、今日も既にたくさんついた溜め息をここでも吐く。

「……白々しいですね。ま、ないならそれでもいいですけど。でも、珍しい。元帥のことだから当然、彼のことを調べていると思ったのに。何せ、あなたのウラのある仕事のせいでこっちはいつもいつも――」
「わー! わかった! わかったから! だからそれ以上攻めないで、言わないで! ただでさえ妻と娘に殺されそうなのに、君に面と向かって言われるとホントに死にそうなんだ! 頼む、言わないでくれ!」
 総寮寺は青ざめながら懇願する。

「……お望みとあらば、いつでも叶えますが」

「やめてっ! ほ、ほら、データ今送ったから!」
「なんだ、あるじゃないですか」
「な、ないなんて言ってないよ……」
 震える総寮寺をよそに、ミサギは送られてきたデータを一つずつ確認する。

 ハルの本名や出生から、親に内緒で魔法士になったこと、家出をした理由、現在はミサギの屋敷にいることまで、細かく記載されていた。

「へー、さすがは元帥。彼の家出の事情まで細かいですね」
「そーなんだよ。近親相姦なんて最近の子は……って、いやそれは言わなくていいんだ。それを見たときにちょっと引っかかったんだけど、スエハ……今はハル君だっけ、彼は魔法士なんだって」

 総寮寺は含みのある口調でミサギを覗き込んだ。対し、ミサギはちらと視線だけを向ける。

「被害者が全員魔法士だから、青森、大阪での怪奇事件と関わりがあるかもしれないと?」

「!!」
 ミサギの突いた質問に、総寮寺は意外だと言いたげに驚いた。
「事件の事……知ってたの?」

 別に、テレビでなくとも情報はいくらでも流れ込んでくる。ミサギは当たり前のように理由を述べた。
「さすがに魔法士であることは公開されてないみたいですけど。
 元帥、民間人はテレビしか見ないとかいう考えはいい加減捨てたらどうです?」
「む……すまん。で、君はどう思う?」
 懲りずに訊いてくる総寮寺に、ミサギは少し考える。

「彼が死亡したのがおおよそ一週間前。最初に青森の事件が報道されたのが……いつでしたっけ?」
 五日前、と総寮寺は別の資料を取り出した。
「じゃ、ハルが仮に事件の被害者だとすると、最初の犠牲者ということになる」

 ミサギが物思いにふけっていると、総寮寺は落ち着かない様子でキーボードをつつき始める。

「なあ東条〜。これ、何気な〜く私の部下が担当なんだ。次の依頼として君にサポートを頼みたいなーなんて……」

「嫌です」

 にべもない返事のミサギ。
「あー……だよねぇ。魔法士が狙われてるんだもの、君も例外じゃないもんね、仕方ないよねえ」

 ミサギの眉がぴくりと動く。

「それ、どういう意味です?」
「え? いや、別に……」
「何ですか、僕が狙われてやられるとでも?」
「い、いやややや、そういうわけじゃ――ただ、君も気をつけなきゃいけないんだなあって」

 しかし、それがミサギの癇に障ったようだ。

「わかりました。犯人が捕まれば問題ないんですね?」
「え、ちょっ……無理して引き受けなくても――」
「無理していません。この依頼、引き受けました」

 ミサギはブチリと通信を切った。

 ■ ■ ■

「っはあ〜、すっきりした〜」

 晴れやかな表情でみっちゃんが戻ってきた。
 ユウたちはミサギに言われたとおり、応接間に移動していた。

 ソファには体育座りをしたユウがおり、ハルも少し離れたところで同じ格好をしていた。
 しかし、どこか様子がおかしい。

 よく見れば、ユウは泣きじゃくっているし、ハルに至っては無表情のまま機能停止したロボットのようにぴくりとも動かない。
「なんや、どないしたん!?」
 ユウは彼が戻ってきたのを認めると、鼻をすすって睨みつけた。

「遅いよみっちゃん!」

「や……す、すまんすまん。最近ベンピ気味だったもんでのう。久々に大モノがドンときたんで時間かかってもうた」
「うっ、下品!」
 ユウの鼻垂れた顔といい勝負である。

「で? ミサギ殿は?」
 聞いた途端、ユウは青ざめて顔を背けた。
「しっし仕事……木戸さんと二人で出かけちゃった……」

 ユウの口ぶりからすると、どうやらおいてけぼりをくらったようだ。

 しかし、それでどうしてこんなに怯えるのだろうか。
 不思議に首を傾げると、ユウがすぐに答えを出した。

「あんな不機嫌なミサギさん初めてだ……みっちゃんがいきなりトイレなんか行っちゃうから……うぅ」

 ユウは再びボロボロと涙を流す。

「ユ、ユウどん……まさか、ひとりであのミサギ殿の毒舌に耐えたんか!?」

「も、もうどんだけ辛いんだよアレいっそ死んだがマシだと何回思ったことか……!」
 一気に弱音を吐き出してから、また鼻をすする。

 ハルもしっかりと被害を受けたらしく、眼前で手を振っても耳元て大声を出しても反応しなくなっていた。

「あ……す、すまん! ほんに悪かってん! よう耐えたのうユウどん、えらいで! ホレ、とにかく鼻拭きい」
 ユウは差し出されたティッシュに手を伸ばしておもいっきり鼻をかむ。

 気のせいか、みっちゃんが声をあげたように聞こえた。

 よく使うティッシュなのに、今日はいつもとかみ心地が違った。
 柔らかな肌触りの中にも丈夫な厚みがあり、なおかつしっとりと香る――。

「……あ」

 ユウの手はティッシュでなく、みっちゃんのワイシャツを掴んでいた。

「ゴメン、みっちゃん」
「いや……ええねん……」

 今度はみっちゃんが悲しげに顔を背けた。

「――ほれ、お前さんもそろそろ復活しい」
 みっちゃんはハルの頭をぽんぽん叩いた。
 すると、今まで無反応だったハルが、急に周りをキョロキョロし、ユウを見つけて背中にひっついた。
「なっ、何すんだよっ!」

 ユウは反射的に離れようとする。

「ユウ、いかないの?」
「行くってどこへ?」
「ミサギ、しぬにおいがする」
「へ?」

 唐突な言葉に、ユウは間抜けな顔で返事をする。ピンとこなかったようだ。

 逆に、みっちゃんの方は驚いていた。
「死ぬ……て、ミサギ殿に何かあったんか!?」

「これからしぬ。ミサギ、つよいやつのまとになった。ころされる」

「け、けど、ミサギさんはめちゃくちゃ強いからさ、逆に返り討ち〜とか……」

「てきはもっとつよい」

 ハルの表情は、さっきまでと比べ真面目だ。

「それ……ヤバいんとちゃう?」
「ミサギさんに知らせた方が……」
 二人に冷たい汗が流れる。

「あ、でもちょい待ちや。ここから出るの木戸はんがいなきゃできへんのやろ?」
「うぇっ!? じゃ、どーすんだ?」

 すると、ハルは黙って壁際に立った。
 右手に巻いた包帯をぶち切り、巨大な爪を出したかと思うと、空を斬った。

 その向こうには虹色の空間が見える。
「ハル、すっげ……」

 ハルは嬉しそうにユウを振り返る。
「ユウがのぞんだ。オレ、かなえるから。いこう。オレ、あんないする」
「うん、頼む」

「ちょい待ちい!」

 またも、引き止めたのはみっちゃんだ。

「何だよ、まだ何か――?」
「相手がミサギ殿より強いのにか、ユウどんが行ってもしょうがないじゃろ。ここはわしがいくけん」
 すると、ユウはムッとする。
「けど、みっちゃんは魔法が使えないじゃんか。つか、アヤカシ見えないんじゃないの?」
「んなことないで。それに、敵と戦った経験ならわしの方が上じゃ」
「ボクだってアヤカシとは今まで何度も戦っ――ぎゃあ!」
 ユウが突然悲鳴をあげた。
 話している途中で、ハルがユウを抱え込んだのだ。
 オタオタするユウをよそに、ハルはユウをぎゅうっと抱きしめる。
「ぐっ首! はな、放じ――っ」
「ユウもいっしょでないとやだ!」
 力んで言った拍子に、ユウはカクンと白目をむいた。
「あ、オチた」
「オレ、ユウといっしょがいい!」
 喚きだすハルを、みっちゃんは慌ててなだめる。
「わっ、わあーったから! とにかく案内頼むで!」
 すると、喚きから一転、嬉しそうな顔をした。
 急かしてみっちゃんに服を掴ませると、気絶したユウを抱えて空間へ飛び込んだ。

 ■ ■ ■

 虹色に揺らぐ空間の中を、ハルは自在に進んだ。

 上下左右の感覚どころか、前進しているのか浮上しているのかもわからないままに進んだかと思うと、ハルが再び巨爪で空間を切り裂いた。

 やっとの思いで抜けた場所は、ビルと人でできたジャングルのような場所だった。

 見上げても頂上の見えないビルが隙間なく建ち、人が波の如く押し寄せてくる。

少し歩いただけで自分の居場所までわからなくなりそうだ。
「ここ、博多やん」
 みっちゃんが、建物に書かれた『博多駅』の文字を見つけた。

「ミサギ、こっちだ」

「つか、降ろせっ!」

「おおう、気ぃついたんかユウどん」
 いつから意識を取り戻したのか、ユウはハルにしっかりと抱かれていて、周囲から注目を浴びまくっていた。
 ハルが腕を緩めると、ユウは真っ赤になって飛び下りる。

 人込みを見回し、思わず、
「うぇ……ぎもぢわどぅい……」
 吐き気を催して座り込んでしまった。
「なんやのん、酔ったんかい?」
「ユウ、だいじょうぶ? オレ、ユウせおう」
「頼むがらやめで……」
「しゃーないなあ。どっか手頃な……おっ!」
 みっちゃんが辺りを見渡すと、ちょうどよいところに車が停められていた。

 数分後、三人は『株式会社みやこ組』と書かれた車で道路を突っ走る。

「みっちゃん……これって泥棒じゃ……?」
「ふぁっははん! 後で返せば問題ぬぁいんじゃよ!」
「大アリだろあれはー!」
 ユウは、後方から十数台もの群れをなして追いかけてくる車を指して叫んだ。

「なんでよりによってヤクザの車なんだよー!」

 しかも、かなり質の悪い組織だったらしい。
 窓から身を乗り出して銃を連発し、罵声、怒声をばらまいている。
「こっ、怖ぇ……ものすげ怖ぇ……」
 青ざめるユウをハルが心配そうに見つめ、やがて、後ろをキッと睨む。
「ユウこわがってる。……あいつら、じゃまだ」
 ハルは窓を割ると、次の瞬間には外へするりと抜け出ていた。
「ちょっ、ハル!?」

 ユウは叫んだが、ハルの姿は既になかった。

 それから三秒もしないうちに、後方が閃光に包まれた。
 爆発と地鳴りと、悲鳴のような音が混ざってユウの耳に届く。

 ハルは、そのあとにゆうゆうと車に追いつき戻ってきた。

 体中から焦げた臭いが漂う。
「ユウ、もうこわくない?」
 おそるおそる後ろを除き見るユウ。
 炎上する車が遠ざかるのを見て、口を開けて絶句せずにはいられなかった。

「……これ、報復ある……絶対ある……」

「ユウ、まだこわい? まってて、いま――」
「行くな! これ以上やるなっ! 頼むからおとなしくしてろ!」

 必死に止めるユウ。

「なあ、この先どっちいくんじゃあ?」
 みっちゃんが聞いてきた。

 前方を見ると、道は二手に分かれていた。しかも、このままだと突き当たりに激突する。

 分かれ道までもうほとんど距離はない。右か左かを言ってくれれば済むものを、ハルは、
「まっすぐ」
 と、一言。

 非常識――いや、人の常識を持たぬアヤカシは恐ろしいことに無邪気に前方を指している。
 だが、スピードを落とさずに迫るみっちゃんはさらに怖い。
「ぬう、まっすぐとはシュールな選択よのう」
「何言ってんだ!? まっすぐは無理だっつの! みっちゃんもスピード落として――って、ぶつかる!」

「おまかせいっ!」

 みっちゃんはをハンドルを右に切った。アクセルをさらに踏み込み、その動作に車は道路をスライドする。タイヤが悲鳴をあげながら、直角に曲がる道を見事に抜けた。

「ぬっふ〜ん、どうじゃワッシの腕前は……ありゃ?」

 ドリフトから生まれた遠心力で、後ろの二人は目を回していた。

「せ、世界が回る……」
 ユウは頭を振って持ち直そうとした。
 その直後。
 ドガンと爆発のような音と共に、車は大きく揺れて停車した。

「なんじゃ!?」

 みっちゃんが車から降りて見ると、屋根が大きくへこみ、そこから影が起き上がった。

「っふ〜、助かったあ〜」

 降りてきたのは、年端もいかない女の子だった。


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