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その無限の先へ 作者:二ツ樹五輪(*´∀`*)

第五章「交差する世界」

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第15話「四神練武」

チームメンバーと担当のメモ。(*´∀`*)

チームA(担当:風神ティグレア):
 渡辺綱、空龍、アレクサンダー、ガルデルガルデン、サージェス、リーゼロッテ
チームB(担当:水神エルゼル):
 ユキ、銀龍、ミカエル、水凪、摩耶、ゴブサーティワン
チームC(担当:地神ヴォルダル):
 ラディーネ、玄龍、ククリエール、キメラ、ティリアティエル、ボーグ
チームD(担当:火神ノーグ):
 ディルク、ベレンヴァール、マイケル、セラフィーナ、ガウル、リリカ

-1-



 玄龍企画、四神主催の特殊イベントクラン内チーム対抗戦開始直前。既に全チームの[ 拠点 ]入りは済んでおり、それぞれ最後の準備を整えているのだろう。
 俺たち特攻野郎Aチームの準備も万端。あとは開始を待つだけという状態である。

「さて、準備はいいか」

 俺たち六人の前に仁王立ちするのはチーム担当の風神ティグレア。相変わらずその姿に威厳はなく、胸は平坦だ。
 ここ数日会う機会が多く、その度に情けな……庶民的な姿を見ているので、時々彼女が亜神である事を忘れそうになる。親しみやすくていいんじゃないかな。

「現在、午後十一時三十分。三十分後、日が変わった時点でイベントスタートだ。スタートと同時に北門が開かれるのが合図になる」

 指差すのは三百メートル四方の[ 拠点 ]の北側に設置された門。
 北門がスタート地点だという事だけが事前に公開していい情報らしく、他の三つの門がそれぞれどんな用途で設置されているのかは分からないままだ。
 無理に聞き出そうとすれば減点&他のチームにも即同じ情報が伝わるので、デメリットしかない。自分のチームが不利になる行為はティグレアもしないだろう。

「おれからの要求は、第一に最下位は避ける事。第二にCチームに負けるんじゃねえって事だ。それ以外であれば口出しはしない。お前らの博打染みた作戦も認めよう」
「今からでも、成功確率の高い作戦があるなら考慮するが」
「ねえよ。時々勘違いする奴はいるが、おれはダンジョン攻略に関しては一般的な知識しかない門外漢だ。お前らみたいな奇天烈な連中を指示できる知識や経験はない。イベントが始まっても情報提供がせいぜいで、アドバイス的な事はできないと思っていい。できるとしても、直接冒険者を担当してるエルゼルくらいだろ」

 四神がダンジョン攻略に直接関与していないというのは、ここに来る前にも聞いた話だ。
 亜神なのだから無限回廊一○○層を攻略できるくらいの力を持っていると思っていたのだが、本人たちはダンジョン攻略経験やノウハウのようなもの持たず、そもそも挑戦する権利すら持たないそうだ。彼らはあくまで迷宮都市運営のために創られた管理者であって、冒険者ではない。戦えば強いのだろうがモンスターと同様の扱いなのか、ダンマスが彼らに期待するのは冒険者を育成する為の土台造りという事なのだろう。
 このイベントが始まる前に行った模擬戦でアドバイスをもらおうとしても首を傾げられたくらいだ。

「ちなみに、鉄道についての講習ならいつでも受け付けてるぞ。特におれが組んだ芸術的なダイヤ編成なんかは素人でも一見の価値が……」
「じゃあ、作戦を発表するぞ」

 ティグレアの余談を無視して、俺がメンバーの前に立つ。割り込みされて子供のようにむくれているが、鉄道知識はまったく関係ないからな。
 作戦といっても、詳細含めて事前に告知済みで、ここでは最終的な確認の意味合いが強い。

「俺たちの基本的な作戦は単純明快。とにかく強いモンスターを倒して討伐による得点を稼ぐ事だ」

 だが、単純だからといって、そのまま全員で突き進むだけという作戦にはならない。個々の戦力の違いもあるし、なにより各八時間という時間制限もある。
 全員で八時間攻略して残り十六時間を休息に当てるという手もあるのだろうが、この拠点付近が低レベル者に合わせたものである事は予め分かっているのだから、作戦もそれに合わせたものにする必要がある。ここは少しでも時間を有効活用したい。

「俺たちが高難度エリアに少しでも早く辿り着いて長く狩りを行うために、ロッテとアレクサンダーに露払いをお願いする。まずはロッテ、八時間のソロ活動っていう負担の大きい役割になるが頼むぞ」
「はーい」
「最優先はとにかく遠くまで移動する事。なるべく直線距離をとって高難度エリアまでの道順を確保する」

 というわけで時間をずらして偵察を行う。その先鋒がロッテだ。このメンバーの中で最も移動が早く、飛べて、罠の探知も可能なロッテを先行させて道を切り開く。というか、ウチのチームでこの役目ができるのはロッテだけだ。気の抜けた返事だが、酔っ払ってない限りは信頼していいだろう。冒険者歴こそ短いが、ダンジョンに関して最も熟知しているのも間違いない。

「罠は極力回避。狭い場所、一本道の通路とかそういった場所の探知だけでいい。戦闘も最低限でいいが、こっちは点数の確認がしたいからある程度は仕留めてくれ。一人で倒せそうにない、倒せそうでも時間がかかりそうなモンスターを発見した場合は逃走か迂回。威力偵察程度ならアリだけど、無理をする必要はない。少しでも死ぬ危険性を感じたら残り時間は無視して帰還。減点許容できる作戦じゃないからな。突発的な状況に合わせて自己判断してくれ」
「基本的にこの通信機で指示をもらえばいいんじゃないの?」
「こっちから見えるのはマップ情報だけだからな。通信してる余裕がない可能性だってあるし、使えない場所だってあるかもしれない」

 ロッテが言っているのは自分の頭につけたヘッドセットマイクだ。
 各チームにそれぞれ用意され、壁面マップを閲覧しながらの指示が可能な代物だ。用意されたヘッドセット型の子機は二つで、現在は先行するロッテとアレクサンダーが身に着けている。親機はこの拠点の会議室に固定され、子機間の通信はできず、複数の子機との同時通信もできないというトランシーバーような微妙な不便さがあるが、おそらくは最低限の機能を持たせた救済処置なのだろう。
 このイベントでは外部や各チーム間の通信は完全遮断だが、チーム内での《 念話 》スキルや通信機の持ち込み、ステータスカードの電話やチャット機能は許可されている。これらは誰もが万全に使えるわけではないから、それに依存しない通信手段を用意というわけだ。ウチも、ガルドと空龍、ロッテと半数が《 念話 》を使えるが、距離やMP残量を気にせずに使用できる手段があるというのは助かる。手も塞がらないし、電話するよりはお手軽だ。
 それに、俺自身が発動した事がないから実感が湧かないのだが、《 念話 》は通信距離や人数によっては結構なMPを消費するそうだ。遠征で何気なく使っていた長距離、多人数の《 念話 》も、意外と高度なスキルだったという事だな。地味にホストサーバーのような役割をしていたニンジンさんはすごいらしい。

「ある程度近場の状況が把握できたら第二陣、アレクサンダーの出番だ。ロッテが確認できた範囲で宝箱の回収、罠の解除を進める。優先するのは俺たちが通る事になるだろう経路の罠解除だ。状況によってはサージェスか空龍に護衛としてついて行ってもらう」
「はい。モンスターが予想以上に強かったり、ロッテさんが見つけた宝箱の数によっては護衛をお願いします」

 ロッテが探索した道を地慣らしするのはアレクサンダーの役目だ。
 無限回廊浅層では前に出る事は多いらしいが、さすがに宝箱に群がるモンスター相手に対応しつつ回収するのは厳しい。本職なら集まる前に解錠してアイテム回収まで行えるかもしれないが、アレクサンダーのそれはあくまで予備の技能に過ぎず、どうしても時間がかかる。
 先行したロッテの情報次第だが、配置されているモンスターがアレクサンダー単独で対応するのに少しでも危険を感じるようなレベルだったら護衛をつける。あまり足の早くないガルドは対象外としてそれ以外なら誰でもいいんだか、おそらくはサージェスをつける事になるだろう。

「二人の時間が切れたあとは俺たちの出番だ。時間の許す限り、ロッテの探索した道を辿って高難度エリアに向かう。そこからどれくらい進めるかはガルド次第だな」
「タンク役は期待してくれていいぞ。生半可な攻撃は通さん」

 経路を確保し、俺たちが如何に早く高難度エリアへ移動できるかが鍵になる。
 十分割されている以上、無限回廊を十層ずつに区切った難易度になると想像しがちだが、そんな保障はない。はっきりしているのは、低レベル帯の冒険者でも活躍できるエリアが存在するという事だけだ。境界線を跨いだら極端に難易度が上がるという可能性は十分にある。
 地図上の線で句切られた十のエリア。これを[ 拠点 ]から見て内側から第一~第十エリアと呼ぶらしいのだが、とりあえず難易度のはっきりしている第一エリアくらいはさっさと抜けてしまいたいところだ。

「二日目は……予定通りなら一日目に攻略した道を通って更に先に進む事になるが、多分それはない。状況を見て判断だな」
「まあ……そうだろうね。入り口が四つもあるわけだし」

 ロッテのそれはここにいる全員の代弁だ。明言されてはいないが、門が四つある以上、何らかの形でショートカットができると考えたほうがいいだろう。
 どんな形で開放されるかは分からないが、他にも用意されているであろう追加ルール、モンスターやダンジョンの構造でも作戦は変わる。二日目以降……いや、ひょっとしたら開始後すぐにでも作戦変更する必要があるかもしれない。

「そろそろ時間だが、開始前に担当として何か一言あるか?」
「……あーその、やっぱり一位は博打が過ぎるし、ほどほどに二位狙いとかがいいんじゃないか?」
「よし、ティグレアの言った事は忘れろ。俺たちは特攻野郎Aチームだ。これまでの練習で消費したサクランボが無駄にならないよう、一位目指して気合入れていくぞ」
「なんの練習してんだよっ!?」

 そうして、戦いの火蓋が切られる。



-2-



『こちらリーゼロッテ。聞こえてる?』

 開始直後、俺たちは拠点の会議室に陣取り、一人先行したロッテと会話をしていた。
 部屋に入らなかったガルドも窓から覗いてる状態だ。いや、無理すれば入れない事もないんだが、明らかに窮屈だしな。

「おう、良好良好。聞こえてるし、マップも更新されてる。辺りの様子はどうだ?」

 開始前に事前確認していた事ではあるが、ダンジョン内に入っても通信機の調子は良好。音声がクリアに聞こえてくる。
 マップの端から端でも問題なく通信できるという話なので心配していたわけではなかったが、実際にこうして会話できると安心する。

『ここまでのダンジョン構造は普通の単層型迷宮。だけど、無限回廊浅層と比べて分かれ道が多いかな。あと、オブジェクトが多い』
「オブジェクト?」
『柱とか、壁の出っ張りとか、隠れられそうな場所が多いの。あと、部屋の構造も単純な形じゃなくて、死角になってる部分がある』
「確かに、こっちで確認できる部屋の形はかなり歪だな」

 マップ上に表示されている広間らしき部分はかなり変な形をしている。平面だと分かりづらいが、立体的にみるともっと歪なのかもしれない。
 グネグネと曲がりくねり途中で無数に分岐している通路も、微妙に曲線を描いている通路などは気付かずに方向感覚を狂わされている可能性もあるだろう。

『通路見落とす可能性ありそうだけど、ちゃんと探索する?』
「いや、予定通りひたすら北方面に進んでくれ。柱とかは視認する必要があるみたいだが、部屋自体の構造はこっちで確認できる」
『あ、やっぱり部屋に入った時点で構造は公開されるんだ』

 壁面の地図も、ディルクと下見に来た時に予想した通り、ロッテが足を踏み入れた時点で広間全体がマップに表示された。中の罠やギミック、柱などのオブジェクトは確認しないと表示されないみたいだが、進む分には問題ない。間違って進んでもこちらから指示できる。

「罠はどうだ? マップに表示されてるトラバサミは二つだが、そっちの認識と合ってるか?」
『トラバサミ? うん、それで合ってる。感知スキルは常時発動してるから偽装・隠蔽されてなければ見落とさないと思うんだけど』

 マップ上にはトラバサミのようなマークが表示されている。これが罠を意味しているのだろう。ティグレアに聞いたところ、視認か感知か、とにかくそこにあると認知されれば表示されるらしい。ロッテの探知は自分を中心とした半径十メートルくらいの範囲型なので、その範囲内に入るだけで表示されるという事だ。

『今のところモンスターは見つ……あ、ちょっと待って。接敵した』

 移動中にモンスターが見つかったらしく、会話が途絶える。通信自体が途切れたわけではないので、戦ってるような音は聞こえるが、詳細な状況は分からない。
 モンスターのマーカー表示はされないんだな。

「……ずいぶん時間かかってるな」

 ロッテが戦闘に入り、会議室に沈黙が訪れる。すぐ終わると思ったのだが、妙に長い。あまり沈黙が長いと気まずい空気が流れてしまうんだが。世間話でもしたほうがいいのか?

「こちらの世界の基準は分かりませんが、ロッテさんのレベル帯だと苦戦するモンスターという事でしょうか」
「いくらモンスターやめてレベルが下がったとはいえ、あいつ中級ランクボスの経験者だからな。レベルで見るよりは強いぞ」

 それだけの実績があるから、こうして先行偵察を任せているのだ。あいつが苦戦ってのはちょっと考えにくい

「渡辺さん、画面の端にログが」

 アレクサンダーに言われるまで気付かなかったのだが、視線をずらすと画面の右端に文字が表示されていた。

「これは倒したモンスターの名前と……点数か?」

 表示は[ホブゴブリンLv12:144P]。そしてしばらくすると、[ドッグライダーLv8:64P]が追加で表示された。Pっていうのが得点だろう。
 ホブゴブリンは会った事のないモンスターだが、ドッグライダーは無限回廊浅層でも時々見かけるハウンドドッグに乗ったゴブリンで、二体なのに一体として扱われる。時々、乗る犬がいないのかゴブリンに乗ったゴブリンが出たりもするが、下になったゴブリンはプライドとかないんだろうか。いや、今考える事じゃないが。

「あ、情報公開の許可が出たな。モンスターを倒すとそんな感じで得点が表示される。下に総合得点とか、モンスター撃破個別のポイントも表示されてるだろ」

 本人にしか分からない合図があるのか、黙っていたティグレアが補足の説明を始める。床近くまで視点を下げると、確かに点数の総計と、ロッテ個人の得点も表示されていた。

「これ、得点はモンスターレベルの二乗なのか?」
「そうだな。敵がチーム組んでたりするとこれにボーナスが加わる。基本的にはレベル高い奴を倒したほうが高得点だ」

 ボーナスにもよるが、二乗されるなら高レベルになるほど一体あたりの得点に差が出る事になるな。極端な話、Lv100なら10000Pだ。
 これだと低レベルのモンスターを乱獲しても点数は稼ぎ辛い。だが、レベルによる点数の差は大きいというのはウチにとって好材料である。

『終わった……かな? ポイントとか表示されてる?』
「ああ、ホブゴブリンLv12、ドッグライダーLv8、今増えたポイズンスパイダーLv21。得点は全部レベルの二乗分らしい。……もう、Lv21出てくんの?」
『天井這って現れたからびっくりした。無駄に《 ファイア・アロー 》使っちゃった』

 MP節約よりも安全を優先してもらいたいからそれはいいんだが、そんなレベル帯のモンスターが出てくるのかよ。
 ティグレアを見ると「いや、おれが配置したわけじゃねーし」と返された。……事前情報は低レベル帯でも活躍できるであって、低レベル帯がソロで活躍できるとは言ってないないから間違っちゃいない。ゴブサーティワンやククルにしてみたらほとんど未知の領域だろう。

「お前、まだ十層超えたばっかりだろ? ソロで大丈夫か?」
『無限回廊三十層基準の雑魚なら大量に出てこなければ大丈夫。ホブゴブリンとか、ポイズンスパイダーとか、無限回廊に出ないバリエーションがちょっと気になるけど』

 中ボスとしてのイメージが強いロッテだが、冒険者としては十層こそ超えているものの浅層の踏破には至っていない。レベルもウチのチームの中で最も低い。
 発動条件にレベル制限のないものであればスキルはそのまま使えるものの、弱体化したステータス……特にMPの問題が大きい。こんな作戦をとっているから仕方ない部分もあるが、ソロ、特に長期戦には不向きだろう。罠の探知や飛んだりするのにもMP使うみたいだし。

「危険だと判断したら迷わず撤退しろよ」
『はーい』

 最初の難易度の線よりも手前、第一エリアは予想では無限回廊十層程度の難易度で、線を超えるごとに十層ずつ強化されていくものだと思っていたが、この分だと、どうやら違うんだろうな。まさか第二エリアが第三十一層から第五十層までとかそんな極端な事はないだろうが、低レベル帯のメンバーが安全に戦えるのは第一エリアのみと考えたほうがいい。

「というわけだが、アレクサンダー、ソロで行けるか?」
「浅層ならともかく、三十層付近の雑魚モンスター複数に囲まれると厳しいですね。即座に死ぬ事はないと思いますが、ロッテさんと違って足速くないですし」
「初日だから様子見の意味でも護衛を付けるか。……サージェス、頼んでいいか?」
「了解です」

 ロッテよりレベルの高いアレクサンダーだが、< 荷役 >という非戦闘クラスかつモンスターの集まる宝箱の回収は厳しいだろう。
 無限回廊十層程度ならば単独でもいけるかと思ったが、これはさすがに厳しい。



-3-



 そうして、しばらくの間はロッテとの通信を続けながら第一エリアの情報を収集、確認を続け、アレクサンダーとサージェスが行動を開始したのは午前三時。開始から三時間後の事だ。
 アレクサンダーとサージェスという長身のコンビが消えた事で、部屋が閑散とした気がする。窓の外にはそれ以上のデカブツがいるが。

「そういや、お前ら休憩する順序決めてねーだろ」

 不意にティグレアがそんな事を言い出した。確かに決めてないが、一日目は特に状況の流動性が高いと思ってたから事前に決めても仕方ないと思っていた。

「少なくとも通信役は一人常駐してたほうがいいよな……交代で休憩入っておくか」
「人型をとってから一日数時間は睡眠をとる習慣になってますが、三日くらいの活動なら問題ありませんけど」

 俺もそれくらいなら大丈夫だが、無理に体調を落とす必要もない。

「切羽詰まった状況ならともかく、今はまだ余裕があるから可能な限り寝ておいたほうがいいだろ。……でも、ガルドはどうするか」
「ワシ、基本的に睡眠は必要ないぞ」
「お前、ウチの庭で寝てたじゃねーか」
「あれは暇潰しだな。寝て体調が変わるという事もない。マイクをこちらに向けといてくれれば番はしておく。ここはティグレアとワシに任せてもらってもいいぞ」
「いや、おれは寝るからな。他の仕事も片付けないといけないし、張り付いたりはしないぞ。というか、お前と二人きりは嫌だ」
「またまた、ツンデレだの」
「1ミリもデレてねーよ!」

 ガルドに睡眠が必要ないのは分からないでもないが、重要な判断が必要になる事もあるだろうし、任せっきりというのもどうだろうか。
 という事で、俺と空龍は交代で休憩に入る事にした。他の連中に関しても、戻ってきたらちゃんと決めたほうがいいだろう。
 本格的にローテーションを組むなら食事当番も決めたほうがいいのだろうが、三日間しかないので基本的には個別に用意する方針だ。ただ、得点の発表される二十四時前には全員集まる事になるので、その時には軽食くらい用意してもいいかもしれない。

 少し心配だったが、俺が休憩に入り仮眠をとって再び会議室に来るまで、特に波乱のようなものはなかったらしい。
 野菜スティックとカロリー多めのドリンクを片手に部屋に入っても、休憩に入る前とほとんど変わらない状態だった。

「空龍、交代だ」
「はい。……あ、そういえば何も食べてませんでしたね」
「キッチンには食材もあるし、調理しなくても済む物も置いてあったぞ。……さすがに料理はできないだろ?」
「ええ、覚えようとは思うんですが、まだどんな食べ物があるかもよく分かってない状態なので」

 かつて実施した地獄の無限訓練ではメンバーの半数が料理できたが、ウチのチームで充実した食事は困難かもしれない。三日だから大した問題もないが、あの時のように数ヶ月はちょっと嫌だな。

「ガルドは論外として、アレクサンダーもサージェスも料理は得意じゃないよな。ティグレアは……ごめん」
「何で謝るんだよっ!? ……できねーけど」

 だって、見た目からしてズボラそうだし。練習すればきっとギャップ萌えを狙えるさ。

 空龍はキッチンの食料物色という名の休憩に入り、俺は交代で休憩中にあった報告を確認する。
 内容は基本的に通常のダンジョン攻略と変わりない。画面に表示されたログも過去のものが追えるので、むしろ普段より詳細なくらいだ。
 そんな中で特筆すべき点は二つ。その一つはロッテが遭遇したというダーク・ゾーンだ。

『無限回廊だとあんまり見ないんだけどね。物理的なものも魔術的なものも明かりはほとんど無効化される真っ暗な空間。私が通過したのは単純な部屋だから問題はなかったけど、複雑な構造のエリアだと抜けるだけでも大変。この分だと、この先特殊ゾーンが配置されている可能性は高いと思う』

 直接感想を聞いてみたところ遭遇したダークゾーンは大したものではなかったようだが、今後同様のものが出てくるとなると注意が必要だ。
 攻略している本人だけでなく、マップ上でもその部分だけ黒く塗り潰され構造が分からないようになっている。
 ダークゾーン自体もそうだが、それ以外の特殊なギミックが配置されているだろうというのは問題だ。どんなものがあるかは講習で説明を受けた事があるが、実際に体験した事がないので対応できるかの不安が残る。

 そして、もう一つ。アレクサンダーが宝箱の一つから携帯型のマップボードを取得したらしい。

『拡大縮小機能はありませんし自分を中心とした探索済みの領域しか確認できませんが、攻略中に確認できるのは便利ですね』

 一応会議室のマップとリンクしているらしく、罠や各種オブジェクトの位置も表示されているらしい。
 誰かがマップの前に立って通信ができる今のような状況ならともかく、全員で攻略する場合などは有効だ。
 ティグレアの補足によれば、これは最初の宝箱で必ず手に入るように設定しているらしい。ウチが見つけたという事は他チームも確保済みだろう。
 ちなみに消耗品と同様、得点を支払ってこのボードに拡張機能を追加する事もできるそうだ。通信機と併せて、このイベントの基本アイテム的な存在という位置付けなのだろう。

「あとは何か気になった点はあるか? サージェスの奇行に耐えられないとか」
『それは今更ですけど。……あ、関係あるかどうか分かりませんが、ついさっき変なゴブリンを見かけました。全身黄金タイツの旗持った奴です』
「……なんだそりゃ」

 変ってレベルじゃねーだろ。即通報レベルだ。

「ああ、遭遇したのか。それはボーナスモンスターだ。倒すと得点が貰えるぞ。他のモンスターと違ってひたすら逃げるから少し面倒だが、結構いい得点源だ」

 俺とアレクサンダーの会話を遮るように、後ろからティグレアの補足が入った。どうやら、発見する事が情報公開の鍵だったらしい。
 しかしなるほど。真っ当なダンジョン攻略だけでなく、そういう変化球的な得点も用意しているわけだな。この分だとボーナスアイテムもありそうだ。

『得点入るなら、サージェスさんに追ってもらえば良かったですね』
「いや、分断されるくらいなら別にいい。再度見つけたとしても追うのは無理がない程度でいいぞ」
『了解です』

 ボーナスモンスターが第一エリア限定という事もないだろうし、後半のほうが得点は高いだろう。積極的な狙える態勢が整っているなら探すのもアリだが、ウチには荷が重い。モンスターがマーカー表示できない以上、最も追跡が容易なのは多分Cチーム。ラディーネの蟲なら捕捉し続ける事ができる。
 探索自体は順調なのだ。俺たちはとにかく前へ進む事を主眼に置く。追加のボーナスはその目的に付随するものか、片手間程度で狙えるものでいい。
 さし当たって今気になるのはロッテの探索状況だ。ひたすら北に向かう作戦は変わらないものの、第一エリア半ばを過ぎたあたりから更に道が複雑になり、真っ直ぐ進む事ができない状態が続いている。
 そして、ロッテが第一エリアの北端に到達したのはイベント開始から六時間半後だった。
 罠の感知やマップの把握で時間を取られたのは確かだが、ここまで時間がかかったのはモンスターとの戦闘が大きい。特に見通しの利かない曲がり角や見えていても対策の取りづらい場所に潜んでいる事が多かったようだ。普段のダンジョン探索と違い、明らかにこちらを待ち受け奇襲を狙っている。

『ヴェルナー・ライアットのモンスター配置術ってね。意識の向き辛い場所や位置、色、臭いを駆使して見つかりにくい嫌がらせのような配置をするの。昔、論文を読んで研究したから一応対策は分かるよ』
「お前さんたちは本当に面倒くさい親子だの」

 ガルドの言葉は妙に実感が籠っているのは、これまでヴェルナーの被害に多く遭遇しているが所以である。
 これまで昔話的に聞いた過去のイベントは、聞くだけで嫌になるものばかりだったからな。

『というわけで、はい到着。第一エリアのゴール。……予想通りボスが配置されてる。ウイングドサーベルタイガーLv35。後ろに大きな門があったから、境界線なのは間違いないと思う』

 ロッテが到達した先だけが第二エリアへの道というわけでもないだろうから、どのルートでも同じようにボスが配置、それを倒す事で次のエリアに進めるという仕組みと思われる。これは多分、次以降のエリアも同じなんじゃないだろうか。
 ボスに関しては、レベルだけ見るなら大体グランド・ゴーレムと同等程度のモンスター。やはり第一エリアは無限回廊浅層が基準だったというわけだ。

「一応聞くが、ソロでの攻略は難しいよな?」
『絶対無理とは言わないけど、一人じゃ勝率は五分にも届かないと思う。アレ相手に前衛なしで戦うのは無謀かな』

 名前だけ聞いても機動力のありそうなモンスターである。鈍重なモンスターだったら遠距離から火力を叩き込めるロッテの餌食だが、距離を詰めてくる相手は厳しいだろう。ここは残り時間を探索に当ててもらうか……あるいは第二エリアに向かう別ルートを探すか。無理に攻略するなら、アレクサンダーの護衛に付いてるサージェスを走らせれば合流も可能だろうか。
 ……無理をする場面じゃないな。残り時間、ロッテにはその周辺の探索を続けてもらうのが無難だろう。ひょっとしたら近くにもっと通り易い経路があるかもしれない。俺たちが先に進むにしても通り道なわけだし、多少時間を喰ってもその時に片付けるほうが無難だ。

「ロッテ、そのまま別の……」
「待て」

 ロッテに別経路探索の指示を出そうとしたところ、後ろからストップがかかった。

「なんだ?」
「……どういう事だこりゃ。意味が分からん」

 振り返ってティグレアを見ると、その表情は明らかに困惑していた。
 第一エリアが無限回廊浅層を基準にしているなら、ウイングドサーベルタイガーがイレギュラーという事はないと思うが。モンスターではなく別の要因か?

『……どうしたの?』
「悪い。ちょっと待機で。……何かあったのか?」
「ああいや、おれたちには朗報……なのか? Dチームで情報開示の違反があった」
「は?」

 違反? ……Dチームってディルクチームだよな?
 非公開情報を聞き出そうとしたらペナルティがあるなんて、イベント開始前から分かっていた事だ。四神側も注意してるだろうし、開始前ならともかく、こんなタイミングで違反するなんてまず有り得ない。

「ペナルティとしてDチームに大幅な減点。同情報を他チームすべてに開示する。……しかも三つだ。狙ってるとしか思えないが、メリットが分からん。わざと負けようとしてるとしか思えないぞ」
「……ちなみに、その情報は?」
「北門以外の三つの門の用途と開放条件だ。……表示する」

[ 特殊公開情報 ]
・南門:ダンジョン内に複数設置された門からの帰還専用の門。ダンジョン側からの一方通行。死亡、帰還アイテム使用時とは異なり探索時間は継続する。
・西門:踏破済みの中継ポイント間の移動用の門。使用には、専用に用意された消耗品の鍵< 転送鍵 >を一人につき一つ使用する。
・東門:各エリア境界線に設置された門への移動用の門。門前に配置されたボスモンスターを撃破し開門する事で使用可能となる。拠点側からの一方通行。

 モニターの隅、ログと同じ領域に情報が表示された。それは、俺たちができる限り早く入手したかった情報でもある。

「……なんだそりゃ」

 南と西は別にいい。情報としては有用だが、今はほとんど関係がない。問題は東門だ。想定していた事ではあるが、中継地点の存在が明確になった。
 これはつまり、ロッテが確認したボスを討伐する事で俺たちが第二エリアから開始する事も可能になるという事でもある。
 博打になろうが勝てばそのアドバンテージが確定するのは大きい。強行するとして、その中で安全策をとるなら……ロッテの残り探索時間は一時間強。サージェスの足と、現在位置を考慮するなら……間に合う、か?

「こういった緊急時の対応はチームリーダーの判断だ。まかせる」

 窓の外のガルドに視線を送ると、こちらの意図を読み取ったのかそんな事を言った。
 空龍にも相談したいが、部屋に行って起こして説明してと時間をとるのは今の状況だと厳しい。……リーダー権限で強行するか。

「アレクサンダー。ちょっとサージェスにも聞こえるようにスピーカー設定にしてくれ」
『あ、はい』

 通信機の送信設定をアレクサンダーのものに変更して、指示を伝える。

「サージェス。そこからロッテに合流できるか? 場所は第一エリアの北端外縁部」
『……なにかありましたか?』
「ちょっと時間が惜しいから、移動しながら説明する。……というわけでアレクサンダー、通信機とマップボードをサージェスに渡して、お前はそのまま徒歩で拠点へ帰還してくれ。少しでも危険を感じたり、迷いそうだったら帰還アイテムを使用してもいい」
『はい、来た道を辿るだけなので道順は大丈夫かと』

 サージェスたちにとりあえずの指示を与えた後、再度ロッテに繋ぐ。
 最低限しか説明していないのに、マップ上のサージェスとアレクサンダーの光点はすでに動き出している。いいフットワークだ。

「ロッテ、作戦変更だ。ウイングドサーベルタイガーを仕留めてくれ」
『えっ……どういう方針変更なの? 絶対に無理とはいわないけど』
「そっちにサージェスを向かわせた。時間考えるとギリギリだが間に合うはずだ」

 強行軍になるサージェスと違い、ロッテのほうは時間的余裕があるので状況を説明する。
 Dチームに情報公開違反があった事、各門の用途が確定した事、エリアボスを倒す事で中継地点が使用可能になる事。

『なるほど、見返りが確定してるなら確かに進むべきかも。あの変態と合流できるなら、戦力的には問題ないし』

 グランド・ゴーレムと同格と考えるならサージェス一人でも問題ないだろうが、未知の相手なのだから戦力は少しでも多いほうがいい。
 サージェスを待つ時間、ロッテには討伐の準備と余裕があれば付近を偵察。強行するサージェスには探知済みの罠の位置を教えつつ誘導、最短経路を走ってもらう。ロッテが道中に倒したからモンスターの数がそれほどいないのは僥倖だ。ギリギリかと思っていたが、三十分ほど時間を残してロッテとサージェスが合流した。

『対ウイングドサーベルタイガーは、ワイバーンを参考にすればいいから。違いはブレスの有無と、噛みつきの攻撃力。あと、風を起こしてこちらの足を止めにくる』
『なるほど。《 暴風陣 》クラスでなれけば、《 トルネード・キック 》で突破できそうですが……』
『それだと私が孤立するでしょ。ちゃんと援護するから連携とってよ』
「基本はサージェスを軸に、ロッテは最小限の援護だけでいい。少しでも危険を感じたら帰還しろ。後ろからフレンドリーファイアしてもそいつは喜ぶだろうが、やるんじゃないぞ」
『フリというやつですね、分かります』
『やるわけないでしょ』

 そうして、サージェス&ロッテという異色のコンビによるウイングドサーベルタイガー討伐戦が開始した。
 ……したのだが、こちらからでは状況は分からない。通信が繋がってても解説してもらうわけにはいかないし、聞こえてくるのは主にサージェスの叫び声だ。

「あやつの叫び声はピンチなのか喘ぎ声なのか分かり難いのう」
「あいつはピンチでも喘ぎ声だ」

 それが実際に危険を伴ったものなかどうかのは判断はかなり困難だ。付き合いが長くなってきた俺にはある程度区別がつくが、素人には難しいだろう。
 ……いや、なんでサージェスの喘ぎ声ソムリエみたいになってるのか分からんが。
 今のところ、聞こえてくる声に危機は感じないが……予想以上に戦闘が長引いている。今のサージェスがソロでグランド・ゴーレムと戦ってもこんな時間はかからないはずだ。

『やば、そろそろガス欠。牽制撃って離脱するから!』
『了解しました。ならぱ、最後にとくとご覧あれっ! この新生《 パージ 》をっ!』

 ――――Action Skill《 ピンポイント・パージ 》――

< ナレーション >
 サージェスの《 ピンポイント・パージ 》とは、モラルとともに己の武装を局部一部のみ引き裂く事によって羞恥心を煽り、自己の身体能力を爆発的に向上させる必殺技だ!
 周囲の慣れが進行し昂奮に限界を感じたサージェスはあえて弱点のみを露出させる事で、観客の注意を集中させるという頭の悪い効果を見込んだのだっ!
 パンツを引き裂き、スーツを引き裂き、内側からピンポイントで出現するそれは正に天上に向かってそびえ立つ尖塔! 巨塔! いや、まさかバベルだというのかっ!?
 "肝心の観客はすでに退場済み"だが、究極のマゾヒストは今ここに新たな進化を遂げる!

『うおおおおっ! 何故だあーーーっ!!』

「何故だ、じゃねーだろ」

 誰も知らない内に新たな《 パージ 》を習得していたらしいサージェスだったが、通信機から聞こえてくるナレーションさんの声によればロッテはすでに帰還済みらしい。散々な目に遭わされた経験から、そういう危険には敏感になっていたようだ。
 完璧な肩透かしを喰らってサージェスが弱体化する不安はあるが、まあ大丈夫じゃないだろうか。あいつならきっと放置プレイ的な快感を感じ取っているに違いない。

「ただいまー。MPの運用管理がどうしても大雑把になるね」

 その直後、ロッテは涼しい顔で普通に戻って来た。



-4-



 ロッテの報告によれば、戦力的な余裕はあったものの遮蔽物の多い広間を縦横無尽に飛び回るウイングドサーベルタイガーを捕捉するのは困難だったそうだ。本人に余裕があったわけではないが、その一方でサージェスはそこまで苦戦していたようにも見えなかったという。
 実際、時間はかかったものの、サージェスはある程度制限時間を残してウイングドサーベルタイガーをただのサーベルタイガーにした上で撃破し、第二エリアの入り口付近を探索して帰って来た。わざわざ翼をもぎ取る必要があったかどうかは分からないが、良くある事である。

「それで、サージェスさんは何故落ち込んでいるのでしょうか」

 空龍は事情すら把握していない。休憩から戻って来てサージェスが落ち込んでいるのを見たら、そりゃ困惑するだろう。

「通信越しだったが、状況は我らが風神様が把握しているから解説してもらうといいぞ。ワシにはちょっと分からん」
「ふざけんなっ!! ナチュラルに嫌がらせするんじゃねーよっ!!」
「……なんていうか、サージェスの新必殺技が不発に終わったから意気消沈してるんだ」
「そういう事ですか。こちらに来てから、玄が新技の披露に失敗して事で落ち込んだ事がありますが、それと同じですね」

 戯れてる二人に代わって説明するが、伝わったかどうかは微妙なところだ。間違っているわけではないが、両者には埋めようのない隔たりが存在すると思われる。

「さて、じゃあ俺たちの出番だな。アレクサンダー、続投になるが時間内はよろしく頼む」
「はい」

 アレクサンダーはアイテムを使用する事なく徒歩で無事帰還したため、探索時間が一時間ほど残っている。
 第二エリアからはモンスターも強くなるだろうが、俺、空龍、ガルドと探索・罠関連に著しく難があるメンバーのサポート役として頑張ってもらいたい。
 もちろん危険と判断したら帰還してもらう。一応、サージェスが先行して確認した限りでは、即死亡するような事はないだろう。

 中継用の東門は無事開いた。いつの間にか門の右にダイヤルのようなものが二つ設置されている。現在は『弐』と『A』しかメモリが存在しないが、これで第二エリアのポイントAに移動するようになっているらしい。指定探索を広げるとこれが増えるのだろう。

 門を潜った先は第一エリアと第二エリアの境界に設置された門だった。後ろを見れば、さきほどまでサージェスとロッテが戦っていたボスフロアらしき部屋が覗ける。
 サージェスの偵察報告の通り、第二エリアは立体マップだ。俺たちが立つ入り口の時点で、フロア内に段差や階段が見られる。
 視界にモンスターの姿はないが、おそらくは数匹潜んでこちらを伺っている。

「てやっ!」
 ――Action Skill《 獲物を狩る猛牙 》――

 と、どうしようかと考えているうちに、空龍が鉄扇を飛ばした。追尾機能でもあるのか扇は死角内へと飛んでいき、モンスターの声が上がる。

『ビッグアイ・サーチャーLv27、得点は1458P。……第二エリアからは更に二倍されるんだね』
「あ、ああ、……そうなのか」

 通信機からロッテの報告が上がる。エリアごとに得点が増えるのは有用な情報だな、うん。
 ……あれで仕留めたって事かよ。俺、てっきりモンスターを釣る為の攻撃かと思ってたぞ。

「監視用のモンスターです。放置するとこちらの行動を捕捉され続けるので反射的に倒してしまいましたが、ひょっとして監視を続けさせて他のモンスターを釣ったほうが良かったでしょうか」
「いや、いい。ここで得点稼ぐつもりないしな」

 名前からして偵察特化型のモンスターだから戦闘力は然程でもないんだろうが、それでも一撃かよ。頼もしい事だ。



「渡辺さん、そこの曲がり角、内側の壁にスイッチがあります」
「りょーかい」

 探索役のアレクサンダーを中心に据え、俺たちは慎重に探索を進める。
 解除技能があっても探知技能を持たないアレクサンダーが持つのは第一エリアでアレクサンダーが見つけたマップボードだ。
 [ 拠点 ]で得点を支払い罠感知の拡張機能を追加した事で、間に合わせでも罠を警戒する事ができる。範囲はロッテの三分の一もなく、ボードに表示される極僅かな範囲しか探知できない。しかも、購入の為に使用する得点はかなり割高と、お世辞にも万能とは言えない機能だが、とりあえずでも探知機能を確保できるのは俺たちにとってかなり助かる事だった。というか、これを買うのは俺たちのチームくらいだろう。マイナスにこそなっていないが、第一エリアで獲得した得点のほとんどはこれに消えてしまった。足元見過ぎである。
 一応これ以外にも、使い捨てで周辺の罠を探知してくれるアイテムもあったのだが、さすがに割に合いそうもない。

「うわっ!」

 後ろから突然アレクサンダーの声が上がる。後ろを振り返ると、入り口付近で空龍がアレクサンダーの前に立ち、矢の突き刺さった扇をかざしていた。
 近くにモンスターの気配はない。罠の見落としか?

「パンダさん、大丈夫ですか?」
「すいません。見逃したか、感知できない類のスイッチみたいで」
「いや、すまん。ワシが手をついた天井にスイッチがあったらしい。矢も対物貫通特化の物だし狙い撃ちされとるの」

 ガルドを狙った罠って事か。普通の奴はそんなところに手は置かないし、平面で表示される地図でも確認できないと。

「大丈夫です。あの程度なら叩き落としましょう」
「射出された事にすら気付かなかったんですが……」

 俺も、超高速で飛んできた矢を受け止めるのはちょっと自信ないな。

「その動きはワシにはできんな。……今更だが、嬢ちゃんのそれ、何でできとるんだ。この矢を受けてほとんど刺さってないのは尋常じゃない耐久度だぞ」

 対物貫通特化というからには岩くらい簡単に貫通する代物なんだが、空龍の扇にほとんど傷はない。

「私の鱗をベースにダンジョンマスターに作って頂きました。同じように銀の< 龍双牙 >は牙、玄の< 龍鞭棍 >は骨を使用したものを使ってますね。骨や牙といっても、あの子たちのそれはみなさんの認識するものとは違うでしょうけど」

 自分の体の一部を使ってるようなもんか。やはり相性が良かったりするのだろうか。

「ガルドも体の一部を変形させて戦うわけだから同類じゃないか?」
「それは根本的な部分が違うと思うが、魔力伝導率の関係で自分の体の一部を使って装備を作るのは珍しい話じゃないぞ。ワシも昔、盾を作った事がある。アレはティリアにやっちまったがな」
「渡辺様も何か作ってみては? 人間だと皮膚か、骨か、内臓あたりでしょうか」
「勘弁してくれ」

 しかも、この街だと実現可能そうなのがまた嫌な感じだ。
 単純にグロいし、『Hey、そのバッグイカしてるね、何の革でできてるんだい』『俺の胃だ』『Oh……』なんて狂気染みた会話が発生し兼ねない。



 第二エリアの探索は順調とはいわないまでもそれなりの速度で進んだ。
 宝箱は基本的に無視、罠は探知だけしてそのままスルー、どうしても解除が必要なものは時間をかけてアレクサンダーに対応してもらうが、そこまでの数はない。
 魔力発動型の罠であれば空龍が問答無用で破壊できるのも大きい。スイッチを触っても起動しないのなら、そのまま壊してしまえばいいのだ。通路全体がスイッチだとしても問題なく通過できる。
 また、第二エリアになって立体的な構造になった影響か、ショートカットできるルートがあるのも好材料だ。ガルドに足場になってもらえば簡易の橋や階段になるし、持ち上げてもらう事もできる。自力の昇降台だ。過去のパーティでも当たり前のようにやって来た事らしいので、踏み台にされても本人は気にしていない。
 戦闘に関しては更に問題ない。元々、出現するモンスターは俺一人でも戦える程度のモンスターだ。そこにガルドと空龍がいるのだから歩みを阻む事はできない。
 途中でアレクサンダーの制限時間が切れて、代わりに俺がマップボードを持つ事になってもそこまで効率の差は生まれていない。このエリアの雑魚程度なら二人だろうが三人だろうが殲滅速度に大した差など出ないらしい。
 後ろで見ていて分かった事なのだが、この二人は反則気味な防御能力を持っている。巨体の癖に意外と機敏なガルドは決して後ろに攻撃を通さないし、愛用の盾すら使っていない状態でも体を金属に変換してしまえば物理攻撃は通さない。多少ダメージを喰らってもすぐに再生するというチートっぷりだ。
 一方、魔術攻撃に関しては空龍の独壇場だ。どんな魔術が飛んで来ても、体に触れる事なく消滅する。扇にもその能力があるのか、振っただけでも掻き消える。本人曰く、一定以上の魔力や無効化を貫通してくるものに対しては無力らしいが、少なくともこのエリアの雑魚なら大丈夫だろうとの事。その癖、自分は魔術を使うのだ。
 そんなチート二人に挟まれて、俺が何もしていないかといえばそういうわけでもない。第二エリアも終盤に入るとモンスターの出現数が目に見えて増えてきたので、必然的に俺も戦闘に加わる事になる。というか、俺が加わっても手が足りない。明らかに三人で対応する数じゃなかった。

 探索の途中で、無理やり安全地帯を造り出して休憩に入る。
 ガルドが天井や柱を壊して造った安全地帯なので瓦礫を撤去されればそれまでなのだが、多少は時間が稼げるだろう。

「……さすがにちょっと疲れました」
「物量戦相手はあんまり得意じゃないんだがな」

 と、さすがに二人も疲れを見せ始めた。正直、俺も疲れた。[ 鮮血の城 ]で体験した極限の環境に比べたら遥かにマシだが、アレは比べてはいけない類だろう。

「ここまでの罠の内容を考えると、チマチマ探知せずに全部ぶっ壊して突っ切ったほうが楽だったかもしれんな」
「龍に戻れればあの大きさのモンスターなら全て圧殺できるのに……」

 二人とも、疲れて脳筋化の傾向が見られる。

「龍に戻っちゃいけない決まりでもあるのか? 一時的にとはいえ、銀龍は元に戻っただろ」
「暴走時の備えとして対策は用意してましたけど、本来戻れるはずがないんです。アレに関しては私も何がなんだかという状況で」

 あれ、イレギュラーケースだったのか。いざって時に変身って手段はとれないって事ね。
 そもそも、銀龍と同じくらいの大きさだとしてもここの通路に引っかかるだろうから、変身されても困るんだが。ガルドだって自分の乗騎は呼び出していないし。
 ……アレに関しては、もう少し広くなれば出番もあると思うんだが。

「ロッテ、こっちのボードだとまだ範囲内に入ってこないが、ゴールまでどれくらいだ? いくらなんでもそろそろ第二エリアの端じゃねーか?」
『目と鼻の先。一直線の通路だったらボス確認できそうな距離だよ』
「つっても北に進む通路がないしな……いや、あった」

 広間の天井近く、歪な構造をした壁で死角になりそうな箇所に通路らしき穴がある。

「ガルド」
「おう」

 通常なら壁にいくつもある出っ張りを使っても上れそうにない高さだが、ガルドの巨体を使えば届きそうだ。
 ここまで何度もしてきたように、ガルドの手に乗って持ち上げてもらう。

「よっ……と。空龍、登れるか?」
「はい」

 それでも僅かに足りず穴の縁に手を掛けて登るが、空龍はその横に跳躍してきた。え、結構距離あったよな。……種族的な身体能力差か。
 俺たち二人が穴に入った後はガルドの番だ。移動方法は先ほどの俺と同様、穴の縁に手を掛けて登るだけ。重そうな巨体だが、軽々と穴に入ってきた。
 入り口こそ狭くガルドの巨体が支えそうになったが、少し中に入ってしまえば直立できる程度には広がっている。

 通路を少し進んでもモンスターの姿はない。途中、いくつか分かれ道があったところをみると、本来は迂回するような道だったのだろう。
 結構な距離を直進すると、手元のボードでも第二エリアの端……ボスエリアらしき広間が表示されるようになった。そこに近づくにつれ、気温が上昇しているのがはっきりと分かる。熱気が流れてきているらしい。

「多分、この先に第二エリアのボスがいる……妙に熱い空気が伝わってくるのは熱を放つモンスターなんだろうな」
「ワシゃ、良く分からん」

 ガルドは温度差が体感し辛い体質なのだろう。というか岩だし。
 こうして歩いてる間も、ボスが発してるであろう熱は進むごとにはっきりとしてきている。……ああ、すげえデジャヴを感じる。

『お兄ちゃん、そろそろ端だよ』
「……ああ、第二エリアボスを確認した」

 通路の先は入ってきた時と同様壁に開いた穴で、大きな広間が眼下に広がっている。違うのは、広間の壁沿いに下まで続く通路がちゃんとある事。
 その先には明らかにボスと分かるモンスターが陣取り、こちらを見つめている。溶岩でできた物言わぬ人形。かつて、俺とガウルにトラウマを植え付けた……。

「……ラーヴァ・ゴーレムだ」



-5-



 ラーヴァ・ゴーレムのような相手に対し、物理前衛クラスはどこまでいっても相性が悪い。当然俺も例外ではなく、現時点でも奴に対する対抗手段は持たない状態だ。
 だが、何も対策をしていないという事はない。アレは極端にしても炎熱攻撃を行ってくるモンスターは数多くいるし、むしろスタンダードな部類だろう。
 《 瞬装 》でインナーを含めて耐熱装備へと着替えると多少楽になった。

「渡辺様、それは?」
「耐熱用装備。あいつ、下手な金属だと簡単に溶かして……蒸発させてくるからな」

 盾ならともかく鎧の予備を持ち歩く奴はあまりいないが、《 瞬装 》がある俺の場合は着替える手間が省ける分、そういった選択肢がある。問題は《 アイテム・ボックス 》の容量と装備を買う金だけだ。この火蜥蜴のレザー装備の方も《 溶岩弾 》の直撃には耐えられないが、いつも使っている鎧よりはマシである。耐熱用の盾と併せて使えばある程度は戦えるだろう。

「空龍のその着物は燃えたりしないのか?」
「丈夫なので問題ないかと。そもそも、現象化していない熱のようなので、そこまで暑くもありませんし」
「便利な体質だな」

 空龍が魔術の干渉を受けにくいのは、周囲に常時展開されている魔力無効化の膜がカラクリらしい。
 限度はあるし物質的な干渉は受けるから周りの構造物に移った熱の影響は受けるみたいだが、ラーヴァ・ゴーレムが放つ熱程度は完全に無視できるという事なのだろう。

「ガルド、あいつとの対戦経験はあるか?」
「そりゃああるぞ。危険なのは《 溶岩弾 》の直撃くらいだな。本体は意外と脆い。溶けるから接近戦はあまりやりたくないが、やれと言われれば一人でもなんとかなる」
「では、溶岩の対策は私が。多少近付ければ無効化できます」
「ならスピード勝負だな。ワシを盾にして飛び降りるぞ」

 ……結構気合入れて対策練ろうとしてたのに。むしろ、俺いらないんじゃないかってレベルだな。



 ――Action Skill《 溶岩弾 》――

 俺と空龍を背に乗せ、フロアへと飛び降りたガルドにラーヴァ・ゴーレムの《 溶岩弾 》が放たれる。

「どおおぉっせいっ!!」

 その《 溶岩弾 》を、ガルドは真正面から殴り飛ばした。代償として、手首あたりまでが溶解しているが、それもすでに修復が始まっている。
 《 溶岩弾 》のチャージ時間は長い。いつかのように複数体いるわけでもないラーヴァ・ゴーレムに、ガルドを迎撃する手段はない。

 ――Action Skill《 瞬装:グランド・ゴーレムハンド - ヘヴィ・ブロウ 》――

 落下し切る直前に飛び降りた俺は< グランド・ゴーレムハンド >を装着し、スキル硬直で動けないラーヴァ・ゴーレムに巨大質量を叩きつける。
 その一撃だけで< グランド・ゴーレムハンド >は耐久限界に達したが、ゴーレムの動きを止める事に成功した。耐熱装備とはいえあまり近くにもいられず、俺はその場を離脱する。
 その直後、動けないゴーレムに対し空龍の扇が飛ぶ。溶解する事もなく突き刺さったその数は五つ。

 ――Action Magic《 現壊 》――

 突き刺さった扇子から放射状にゴーレムの黒い地肌が露出する。
 空龍曰く、《 溶岩弾 》や奴の体を覆う溶岩は現象として成立する以前の魔力らしい。完全に現象化する前の段階であれば、空龍は無効化できる。一瞬にして、ラーヴァ・ゴーレムの体から溶岩が消えた。

 ――Action Skill《 瞬装:グレートメイス - 削岩撃 》――
 ――Action Skill《 岩をも砕く鉄拳 》――

 あとは俺とガルドが二方向から攻撃を叩き込んで終了だ。ガルドのスキル名に突っ込みたい気もするが、実際に岩を砕いているから間違いではないのだろう。

[ 第二エリア 境界ボスA撃破 ]
 システムアナウンスが流れる。終わってみれば、あっけないほどの完勝だった。
 前回と違って俺が対策を取れていたのは多少意味あるにしても、これは二人の性能によるところが大きいだろう。

 アナウンスから数秒、扉が開かれ、俺たちはそのまま第三エリアへと突入する。
 残り時間の関係で第三エリアの偵察はあまりできなかったが、それでもある程度の事は判明した。
 まず、モンスターのレベルは無限回廊四十層クラス。相変わらず数はまばらだが、複数で行動している者が多く見られた。
 ダンジョンの構造は完全な立体だ。それも、俺たちがこれまでに体験した事のない規模の複雑さである。立体構造でもマップ表示はあくまで平面。普通に見下ろし型の地図が重なって表示されるだけだった。一応、拡大する事で視点変更は可能らしいが、携帯用のマップボードではそれもできない。
 問題は特殊なギミックやエリアが多いという事だろう。第一エリアでロッテが遭遇したダークゾーンや完全に無音になるサイレントゾーン、部屋全体に数割増しの荷重がかかるグラビティゾーン。その他にもスイッチを押して一定時間しか開かない扉や、浮遊して移動する床、なんかどこかで見た事のある鉄球もあった。
 そして、時間切れ直前に俺たちが遭遇し、探索の継続を断念せざるを得ない状況に追い込んだのは転送用の魔法陣だ。面倒な事に一人ずつしか移動できず、再使用可能になるまでに時間がかかる。それだけなら良かったのだが、ガルドと空龍を先行させて最後に俺が使用すると、転送先には誰もいなかった。慌ててロッテに通信を繋ぐと、俺のマーカーだけが別の位置に移動したらしい。ガルドと空龍のマーカーは同じ位置に移動したようなので、転移先が完全にランダムというわけではないんだろうが、パーティが分断されるというのはそれだけで戦線が崩壊しかねない極悪トラップだ。
 だが、残り時間の少ない状況で確認できたのは幸いだった。知らずにパーティが分断されたら探索時間を無駄にしかねない。それどころか死亡する危険だってあるだろう。
 ガルドたちと連絡ができない状況になってしまったが、向こうもこれ以上の探索は難しいと判断したのか、ほぼ同時に[ 拠点 ]へ帰還した。
 ……俺たちの方針が高レベルモンスターの討伐である以上明日以降はここを探索する事になるのだが、骨の折れそうなエリアである。
 そうして、二日目以降に不安を覚えつつも一日目の攻略は無事終了した。



「良くやった。色々ハンデを抱えているにも関わらず、おれの想像以上の結果になったと思う」

 [ 拠点 ]の会議室で食事を摂りつつ採点を待っていると、ティグレアがそんな事を言い出した。どうやら、彼女にとって一日目の攻略は合格点らしい。
 初期段階で予定のなかった中継地点も活用できたし、死亡者もいない。一日で第三エリアに到達したのも順調と言えるペースだろう。だが、どうしても楽観はできない。

「特に二日目を第三エリアから開始できるのは大きいな。ひょっとしたら、第四エリア到達も見えてくるかもしれないぞ」

 多分、そこら辺が想定される限界点なのだ。マップ全体を見れば壮絶な広さだが、マップ上では最高難度と思われる第十エリアが全体の半分を締め、第九エリアはその半分と徐々に狭くなっているわけだから、実際に使用するのは本当に僅かな領域という事である。というか、一ヶ月かけようがマップを埋められる気がしない。

「一日目は一位取れたかもしれないな。……なんか浮かない顔してる奴がいるが、不安でもあるのか?」

 見渡せば、俺の他にも思案顔を浮かべた奴が数名。ロッテ、それとあまり顔には出ていないがサージェスだ。

「そんな単純な展開になれば楽なんだけどね」
「まあ、今日の採点を見ればはっきりするだろ」

 俺の不安材料は大きく分けて二つ。単純に、他のチームが俺たちと同等、あるいはそれ以上の結果を出していないと判断するのは早計だという事。
 四位はない。その確信はある。Dチームが抱えたペナルティ分の減点は一日で取り返せるようなものじゃない。
 ……そう、ミスと考えるのはどうしても無理があるアレだ。では、ミスではなく狙ってやったとしたらどんな理由があるか。


 [ 特別イベント< 四神練武 >一日目結果発表 ]
 時刻が二十四時を回ると同時に壁面に表示されていたマップが消え、そんな文字が表示された。……このイベント、そんな名前だったのか。

 [ 初回ボーナス ]
 ボーナスモンスター初撃破ボーナス:Cチーム ボーグ
 ボーナスアイテム初獲得ボーナス:Bチーム 摩耶
 第二エリア最速到達ボーナス:Aチーム サージェス
 第三エリア最速到達ボーナス:Dチーム
 エリアボス初討伐ボーナス:Aチーム サージェス
 特殊エリア初制圧ボーナス:Dチーム セラフィーナ
 南門最速発見ボーナス:Cチーム
 西門最速発見ボーナス:Cチーム

 [ MVP ]
 モンスター討伐MVP:Dチーム セラフィーナ
 罠解除MVP:Bチーム 摩耶
 宝箱回収MVP:Bチーム 摩耶
 特殊エリア制圧MVP:Dチーム セラフィーナ
 マップ探索MVP:Bチーム ユキ
 総合MVP:Dチーム セラフィーナ

 [ 死亡者 ]
 なし

 [ ペナルティ ]
 非公開情報開示違反:Dチーム

 [ マップ情報公開 ]
 Aチーム:OK
 Bチーム:OK
 Cチーム:OK
 Dチーム:NG

 [ 得点順位 ]
 一位:Bチーム
 二位:Cチーム
 三位:Aチーム
 四位:Dチーム



「…………え?」

 表示された結果を見て静寂に包まれる会議室にティグレアの声が虚しく響いた。

「ちょ、ちょっと待ておいっ!? どういう事だこりゃ。何がどうなればこうなるんだよ。バグってんのか?」

 それはお前らが用意した物だろう。画面を叩くな。

「なあツナよ、お主、これ想定しとったな?」
「……一部想定以上の結果もあるが、大体は」

 戦闘以外のところで得点を稼ぎまくった摩耶は……まあいい。あいつのスペックなら有り得ない事もないだろう。
 それよりもヤバイのがセラフィーナだ。ディルクの切り札って時点で普通ではないから、ウチの中核……中級ランクのメンツに匹敵するくらいの活躍はすると想定していた。
 ……それくらいなら想定してたんだが、これおかしいだろ。特殊マップ制圧に関してはこの後説明を受けるにしても、モンスター討伐MVPって時点で俺たちよりも得点を稼いだって事だぞ。

「このセラフィーナって子、何したの……」

 事前にある程度予想してたであろうロッテも、この結果には呆然としていた。あいつは多分、[ 鮮血の城 ]で戦った内のここにいないユキ、摩耶、ティリア、ガウルあたりが想定以上の活躍をすると思っていたのだろう。

 ペナルティでDチームが最下位にいる状態だが、それがなければウチが最下位だ。
 まさか、ハンデとでもいういうつもりだろうか。ペナルティがなくたって、総合得点はBチームには及んでないぞ。……なら、何か展開を誘導してる? 分からん。

「玄も銀もエムブイピーいうのに絡んできませんね。もう少し頑張らないと。ああ、情けない」

 答えの出ない疑問に頭を回転させていると、空龍のどこか抜けた感想にホッとさせられた。

「まあ、色んな意味で上方修正かかってるが、概ね予想通りだ。元々俺たちは後半勝負のつもりだったんだ。明日……もう今日か。二日目以降はギア上げていくぞ」
「これが予想通りって……はあ!?」

 とりあえず、地図購入についてどうするか決めようとしているところに、再度ティグレアが変な声を上げた。

「……またDチームの情報公開違反だ。今度はエリアごとのモンスター討伐の補正について」

[ 各エリアのモンスター討伐ポイント補正 ]
 第一エリア:×1
 第二エリア:×2
 第三エリア:×3
 第四エリア:×5
 第五エリア~第十エリア:×10

 表示されたのはモンスター討伐時、得点にかかる倍率の事だろう。最終的に第三、第四エリアあたりが主戦場になる事を想定した設定だというのが一目瞭然だ。
 第五エリア以降は足を踏み入れる事をほとんど考慮していないから、特別に倍率も跳ね上がると。……今、俺たちが攻略している層以上の難易度なんだろうな。

「Dチームは何考えてんだ? というか、ノーグの奴は何で止めようとしねえんだよ。混乱させて場をかき乱すのが目的なのか?」

 一番混乱しているのはティグレアさんですがな。
 ……だがまあ、これであいつが言いたい事は大体分かった。混乱はともかく、場をかき乱すというのは大体当たりだろう。なんか、ニヤニヤしてるあいつの顔が浮かんでるような気さえするし。

「ここは大人しくディルクの提案に乗ってやるか。……というか、その方向性しかウチの勝ち筋がない」

 俺への嫌がらせ目的も疑ったが、違う。あいつは一位を狙っているんだろう。どちらかといえば狙いはウチではなく他の二チームだ。

「……なんとなくだけど、ひょっとしてウチって先のエリアに行けって強制されてる?」
「多分正解。ロッテさんやるね」

 あからさまに嫌な顔をされた。

「……本気? 乗るの? 第三エリアの話聞いて、ここら辺が限界かなって思ってたんだけど」
「乗らないと負ける。このままだとDチームには追いつかれるし、他二チームの得点力にも追いつけない。……癪ではあるが、乗った上であいつの想定以上の得点を叩き出すしかない」

 ヌードモデルは嫌だが、それ以上に負けたくない。ああくそ、こういう心理状況も分かってるんだろうな。……あんにゃろめ。

 あいつの狙いはウチを動かして、B、Cチームの動きを狭め、誘導する事だ。
 おそらく、安全圏で着実に得点を稼がれる事を嫌い、ウチを煽って全チームを博打勝負に持ち込もうとしている。ペナルティだって、回収できると見込んだ上での違反なんだろう。ここに来て追加してくるのがいい証拠だ。一日目の結果を見る限り、セラフィーナだったらそれくらいやりかねない。セラフィーナの警戒度を引き上げる事も計画の内なのかもしれない。
 この流れなら最終的に全チームが第四エリアまで雪崩込む形になる。この上で、あいつの目論見の上を行くなら……手は一つだ。

「俺たちは第五エリアを目指すぞ」



……おかしい。二日目まで終わらせるつもりだったのに。(*´∀`*)

得点関係の詳細がないのは集計が面倒なんで省略しただけです。
ツナたちはちゃんと確認できてる状態です。

追記)何故か15話が投稿されてしまっていたようですが、現在は修正済みです。(*´∀`*)
なんでやねん。
+注意+
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